
方形よさらば 新たな住宅のあり方を示した
平行四辺形とアーチの家
アーチと奥庭がもたらす、オープンカフェのような寛ぎの空間
施主のAさんからのご要望は「プライバシーを確保しつつも、開放感がある家」とのこと。さらには、「駐車スペース」「庭」がほしいとリクエストが。
依頼を受けた阿蘓さんは、決して広くない土地で、どうやってこの条件をクリアするのかとても悩んだそう。普通に駐車スペースをつくると、庭は小さな坪庭のようなものになってしまう。駐車場を建物の1階に作ると、開放感は出せない…。なかなかこれといった配置が決まらず、Aさん共々試行錯誤。「まるでパズルを解くような感じでした」(阿蘓さん)。そんな中、土地の図面をよく見てみると、正方形だと思っていた土地に僅かなずれがあったことに気づいた。「建物もずらしてみたらどうなるだろうと、2辺を斜めにずらしてみたところ、駐車スペースもできる!庭もできる!これならいけると手応えを感じました」(阿蘓さん)。早速Aさんに提案したところ「おおー!」と笑顔が。「平行四辺形の家」が生み出された瞬間だった。
平行四辺形の家は、敷地を有効活用するためだけではない。「ずれ」があることで、周囲の建物の窓と正対することがなく、プライバシー確保につながると共に、陽の光や風通しも良くなる。そして長辺ができることで、広くとれた三角形の奥庭とリビングが長く接し、開放感を得られるというのだ。
実際、玄関から室内に入ると、白い壁と高い吹き抜け、大開口から光が降り注ぐリビングが広がる。まるで、屋外にいるような雰囲気。訪れた人が「お店みたいで素敵」と言うのも納得だ。奥庭が高い壁で囲まれているにも関わらず、開放感があるのは、アーチ状の開口を半透明のポリカーボネートの板で覆うことで、プライバシーを確保しつつ、光を通しているからなのだろう。
今では、この家の一番のキーポイントとも言える奥庭の壁だが、最初のプランでは、予算の都合から存在しなかったという。「壁がないと、周囲の家からリビングが丸見えになるので大開口は作れず、開放感も得られない。建築家として、この家にはこの外壁が絶対に必要だと訴えご理解をいただきました」(阿蘓さん)
奥庭から覗く空は、誰にも邪魔されない自分たちだけの空のよう。また夜になれば、室内の光が壁に柔らかに反射し、かまくらのようになるという。家族が集いほっこりとした時間を過ごせる至極の空間となっている。
室内に目を移すと、この屋外にいるような感覚は奥庭や大開口だけでなく、アーチが一役買っていることがわかる。この家のドアや窓はすべてアーチ状の開口で統一。アーチをくぐり玄関からリビングへ、リビングからキッチンへもアーチが連なる。このアーチをくぐり次のゾーンに入ってくのが実に楽しい。日本には、かまくらや洞窟、鳥居や門そしてお店の暖簾など、中と外を行き来するには必ず何かをくぐってきた。これがただの方形の開口だったら、くぐる楽しさや次のゾーンへ移るという感覚は味わえなかったのではないかと感じるほど、阿蘓さんのデザインの妙が光っている。
「個」から「共有」へ 家がもたらす新たな暮らし方
「子供たちが大きくなり、それぞれの性格もわかってきて、2人には広い個室を与えるよりも、居心地のよいリビングや使い勝手のよいスタディスペースで家族一緒に過ごすほうが、ウチには合っていると感じたんです」(奥様)
「私は幼い頃、兄弟それぞれに個室があり、それぞれ部屋で過ごすことが多く、実は別の部屋で同じテレビを見ていたなんてことも。自分が家族をもった時には、個室に籠もるということはさせたくないと思っていました」(Aさん)
実際Aさん邸の子供部屋は、それぞれ約3畳と個室としてはやや狭い。しかし、広くて使い勝手のよいスタディスペースや快適なリビング、家族みんなで使う大容量のWIC、SICがあるため、個室はほぼ寝るだけのスペースで十分なのだという。
こうした共用部分の充実という考え方は、収納の分散を防ぎ、ついつい溜め込みがちなモノの量を管理しやすくなるばかりか、子供の成長に伴い家族構成が変わったときには部屋の間仕切りを取り払い、1つの部屋として使うことを可能とする。
「個別」から「共有」へという思想は、今後の家づくりの1つの解かもしれない。建築家として、施主の要望を汲んだ美しいデザインの家というところに留まらず、その家族にとってどんなライフスタイルが望ましいのかという点にまで踏み込んだ提案を行う阿蘓さんの真骨頂を見た気がした。
顧客との対話を重視しながら提案を行う仕事ぶりは、こんなところにも。
屋外にいるようなというイメージに一役買っている床。一見、コンクリートの打ちっぱなしのようだが、実はきっちり床暖房が埋め込まれている。「最初にこの提案を聞いたときには、フローリングじゃないの?寒くないの?と心配でしたが、床暖房の効果を丁寧に説明いただき納得できました。1年住んでみて、冬は床暖だけで2階も温かいですし、夏は足元が涼しくてとても気に入っています」(奥様)
デザイン性と住む人の快適性も両立させるアイデア、そしてそれを丁寧に説明し納得してもらう姿勢。阿蘓さんのこういった人間性も、素敵な建築を生み出す要素の1つといっても過言ではない。
「この家に来てから、暮らし方が変わったような気がします」と奥様。「掃除や家事をすることが楽しくなりました。また今までは、便利だな、安いなと思ったら買っていたものが、これはこの家に合うだろうか?と考え、買うのをやめることも多くなりました」(奥様)
「家は人をあらわす」という言葉がある。家はそこに住む人の内面を映し出してしまうという意味だ。奥様の話を聞き「素敵な家に住むことで、その家に相応しい人になっていく」ということもあるのだと気づかされた。
「家は人を育む」のだ。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 埼玉県朝霞市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 102㎡ |
| 延床面積 | 90㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | A邸 |
撮影:アトリエあふろ(糠澤武敏)
設計者情報
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