築古民家をサスティナブルな人気物件に。
設計の力でTotal winなリノベーション

築古の民家の店舗用リノベーションに協力した、ムービング・アーキ一級建築士事務所の李孝哲さん。どんなテナントがどんな風に使うかわからない中、汎用性の高いサスティナブルな空間を設計。早々に入居が決まる人気物件に生まれ変わらせた手腕とは?

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人気エリアに立つ築古民家を
店舗用にリノベーション

東京・世田谷を走る国道246号線の三宿交差点周辺。このあたりは最寄駅から距離があるにもかかわらず、1990年代から洒落た飲食店などが集まり始め、トレンドスポットとして注目された。以来、休日ともなれば散策を楽しむ人で賑わい、かつてより店舗が並ぶエリアも広がっている。

ムービング・アーキ一級建築士事務所の李孝哲さんが設計したSHIMOUMA-112は、そんな人気エリアの目抜き通り沿いにある。クライアントの不動産会社が計画していたのは、築約30年の民家を買い上げ、店舗用にリノベーションしてテナントを付けてから売却するビジネス。そのリノベーション設計の依頼が李さんに舞い込んだ。

限られた予算で効果的なリノベーションを行うため、また必要以上に廃材を出さないため、李さんは建物の骨格をできるだけ再利用することにした。

一方、店舗としては少々暗い印象だったことから、アースカラーの外壁はシンプルなホワイトに塗り替えて明るく清潔感のある印象に。

加えて、階段は外階段を新設し、1階と2階それぞれにエントランスを設置。

「このエリアの家賃は、安くはありません。1階と2階をまとめて借りるのはテナントの負担が大きいかもしれないと考え、外階段で各フロアを独立させて2つのテナントが使えるように計画しました」と李さん。この配慮は、すっきり広々とした内部空間を生み出すことにもつながった。

リノベーション完了後、早々にテナントが決まったこのSHIMOUMA-112はどのような空間なのか、詳しくご紹介していこう。
  • SHIMOUMA-112が立つのは、洒落た店舗が立ち並ぶ三宿エリアのメイン通り沿い。築古の2階建て民家だったが階段を外階段にしてエントランスを分け、1階、2階と別々のテナントが入ることもできるようにしている

    SHIMOUMA-112が立つのは、洒落た店舗が立ち並ぶ三宿エリアのメイン通り沿い。築古の2階建て民家だったが階段を外階段にしてエントランスを分け、1階、2階と別々のテナントが入ることもできるようにしている

  • スクエアなフォルムと真っ白な外壁が人目を引く、モダンな外観。1階はオープンなガラス張りで中の様子が見え、「何のお店かな?」と覗きたくなる。対して2階は細い窓だけの閉じた印象で、こちらも何の店舗か気になってしまう

    スクエアなフォルムと真っ白な外壁が人目を引く、モダンな外観。1階はオープンなガラス張りで中の様子が見え、「何のお店かな?」と覗きたくなる。対して2階は細い窓だけの閉じた印象で、こちらも何の店舗か気になってしまう

  • 1階。道路側は壁一面を外したようなガラス張りで抜群の開放感。燦々と光が入る空間からは通りの緑や行き交う人々を眺めることができ、外とつながる心地よさを味わえる

    1階。道路側は壁一面を外したようなガラス張りで抜群の開放感。燦々と光が入る空間からは通りの緑や行き交う人々を眺めることができ、外とつながる心地よさを味わえる

明るく開放的な1階、落ち着く2階。
シンプルながら配慮も細やか

道路に面した1階は、通りすがりの人が入ってきやすい開放的なガラス張りに一新。「1階は道路からよく見えるので」と、床は高級感のあるタイル張り。照明も天井埋め込み型のダウンライトやライティングレールを入れ、照度などの調整で雰囲気を変えられるようにしている。

立地的に飲食店が入ることも十分に想定されたため、厨房になりそうな奥のスペースだけは、床を耐水性が高くメンテナンスしやすいシート張りとした。厨房は水が飛び跳ねるし、薬品や掃除器具を使ってガシガシ掃除できたほうがいいからだ。

こうして1階は、明るくすっきりとしたシンプルモダンな空間に。あえて見せた木の柱や筋交いがアクセントになり、洗練と温かみのバランスがちょうどいいオールマイティな空間となった。

対して2階は、1階とはまったく印象が異なる木の空間。こちらも飲食店が入っても対応できるよう、床の一部は水まわりに適したシート張り。ほかはフローリングで、旧家屋の柱や筋交いだけでなく梁などの構造材も表に出ており、とにかく木の存在感がある。また窓は控えめに計画されており、適度なこもり感と木の温もりが心地いい落ち着ける空間となっている。

そんなSHIMOUMA-112にいったいどんな店舗が入るのか。答えは、美術品を扱うギャラリー。しかも1階はオープンギャラリー、2階は商談ルーム兼オフィス兼倉庫と、建物をまるごと使うことが決定した。
  • 1階。通りからよく見えるスペースの床は高級感のあるタイル張り。柱や筋交いは、元の家の構造で使われていたものをメンテナンスして表に出した。木の質感や表情が、白を基調にしたシンプルモダンな空間のアクセントになっている

    1階。通りからよく見えるスペースの床は高級感のあるタイル張り。柱や筋交いは、元の家の構造で使われていたものをメンテナンスして表に出した。木の質感や表情が、白を基調にしたシンプルモダンな空間のアクセントになっている

  • 元は民家で複数の部屋に仕切られていたため、李さんは壁を外し、広々使える開放的な空間をつくり出した。ワンルームの大空間だが、現しになった柱や筋交いによって、開放感を損なうことなくそれとなくスペース分けできる

    元は民家で複数の部屋に仕切られていたため、李さんは壁を外し、広々使える開放的な空間をつくり出した。ワンルームの大空間だが、現しになった柱や筋交いによって、開放感を損なうことなくそれとなくスペース分けできる

  • どんな業種でも使いやすいシンプルな空間だが、飲食店の場合は厨房の使い勝手も重要。そこで奥のスペースは厨房として使うこともできるよう、床を耐水性・メンテナンス性が高いシート張りで仕上げた。他業種の場合も、接客スペースとバックヤードなど、空間の使い分けがしやすい

    どんな業種でも使いやすいシンプルな空間だが、飲食店の場合は厨房の使い勝手も重要。そこで奥のスペースは厨房として使うこともできるよう、床を耐水性・メンテナンス性が高いシート張りで仕上げた。他業種の場合も、接客スペースとバックヤードなど、空間の使い分けがしやすい

汎用性の高さが光る、
洗練されたサスティナブルな建築

どんなテナントが入り、どんな風に使うかわからない事業用の建物を設計するのは、施主が具体的に要望を出す家づくりよりも難しい側面がある。

あらゆる可能性のあらゆる使い勝手に思いをめぐらし、汎用性の高い魅力的な空間をつくり出すには知識、経験、高度な設計スキルの全てが要る。そのうえ「人気物件」になるには、借主や顧客を惹きつけるデザイン力も欠かせない。

飲食店にも対応できるようにと計画した空間が、ギャラリーオーナーの目に留まったという事実。これは、李さんがクライアントと検討を重ねてテナントの業種・業態を細やかにイメージしつつ、どんな業種にとっても使いやすいフレキシブルな空間を計画したことのあかしでもある。

「家だったら年を取れば好みも変わるし、家族構成も変わります。店舗も同じで、テナントさんは変わる可能性がありますし、テナントさんが変われば使い方も変わります。時代とともに顧客の好みも変わるでしょう。ですから、家でも事業用の建物でも、変化に柔軟に対応できる建築をつくることが私の仕事だと思っています」と李さん。

環境問題への意識がより高まっている昨今、建築の世界でも、一度つくった建物を長く使うサスティナブルな考え方がトレンドになっている。その点、飲食店でも、物販でもオフィスでも使い勝手がいいSHIMOUMA-112は、理想的な建築なのではないだろうか。

魅力的な空間はテナントも嬉しいし、訪れる顧客にも楽しい時間をもたらす。また多業種のテナントに対応できれば物件としての資産価値も高まり、オーナーにとっても願ったりかなったり。李さんは築古の民家を、設計の力でTotal winな建築に生まれ変わらせたのだ。
  • 2階は1階とは打って変わり、木の温もりに包まれる空間。上部は構造材を見せる仕上げで天井の高さを出している。窓はあえて控えめに計画し、こもり感を演出。ゆったりくつろげる飲食店や、プライベート感のあるエステサロンなどにぴったり。落ち着いて商談するのにも適している

    2階は1階とは打って変わり、木の温もりに包まれる空間。上部は構造材を見せる仕上げで天井の高さを出している。窓はあえて控えめに計画し、こもり感を演出。ゆったりくつろげる飲食店や、プライベート感のあるエステサロンなどにぴったり。落ち着いて商談するのにも適している

  • 2階。大きなワンルーム空間だが元の民家の造りも活かしているため、スペースのゾーニングがしやすい。写真左の壁は窓が小さくシンプルで、テナントが自由にデコレーションできる。もちろん、物販の商品展示などもしやすい

    2階。大きなワンルーム空間だが元の民家の造りも活かしているため、スペースのゾーニングがしやすい。写真左の壁は窓が小さくシンプルで、テナントが自由にデコレーションできる。もちろん、物販の商品展示などもしやすい

  • 2階。写真左奥は飲食店が入る場合に厨房として使えるよう、メンテナンスしやすいシート張りで床を仕上げている。飲食店以外の場合も、オフィスやバックヤードとして使うのにちょうどいい

    2階。写真左奥は飲食店が入る場合に厨房として使えるよう、メンテナンスしやすいシート張りで床を仕上げている。飲食店以外の場合も、オフィスやバックヤードとして使うのにちょうどいい

基本データ

作品名
SHIMOUMA ‐112
所在地
東京都世田谷区
敷地面積
95.51㎡
延床面積
125.1㎡
予 算
〜2000万円

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