建物を白いシェルで包みプライバシーを確保
中庭から光が届く、里山の暮らしを楽しむ家

緑に囲まれた暮らしを楽しみたいと、里山の眺めが美しいエリアの土地を選ばれたお施主さま。ただ、畑や隣家からの視線を気にせず開口できるのは一方向のみ。建築家の石さんは、家を特徴的な壁で包むことでプライバシーを確保しつつ切り取った景色を満喫できる家を計画。それでいて、中庭のおかげで家はいつも明るい。

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視線を気にせず開放できるのは一方向のみ。
中心に設けた中庭で、家中を明るくする

緑豊かな地域で暮らしたいとお考えだったお施主さま夫妻。自宅を新築するために選んだのは、兵庫県西宮市の中でも里山の景色が美しい、のんびりした雰囲気のエリアだ。自然が存分に感じられる場所でありながら利便性がよく、仕事場までも車で30分程度あれば通えることも決め手だったという。

しかし、家を建てるにはクリアしなければいけない点もあった。設計を担当した株式会社seki.designの石憲明さんによれば「人通りが多いわけではないのですが、畑や家などと隣接しており、完全に里山の自然だけを楽しめるのが北東の里山を望む一方向しかありませんでした」とのこと。

そこで石さんは、里山のみが見える視界をうまく切り取り、その風景を生かした家にしようと考えた。大胆にも大きく開口した里山側以外には、家の外側に向けてほとんど窓を設けなかったのだ。里山を美しく眺められる大きな開口に接してはLDKが配置され、明るく大らかな空間となっている。ただ、明るいのはLDKだけではない。里山に向く窓から離れれば暗くなりそうだが、家全体が明るい光に包まれている。

その秘密は家の中心に設けた中庭にあるという。

犬をのびのび遊ばせたいと、ご夫妻が当初から要望されていた中庭。家の中心にロの字につくった中庭は広さを十分に取り、一日を通してさんさんと日が射し込むように計画。そのうえでLDKに面する部分はもちろん、四方のすべてを開口して家の中心から室内へ光を届けることを可能にした。

プライバシーをしっかり守りながらも開けられる方向は最大限に開口したからこそ、この土地が持つ素晴らしい特性が存分に楽しめるようになった。LDKで過ごしていると視界いっぱいに里山の景色が広がり、周りが家や畑に囲まれていることをすっかり忘れてしまう。そればかりか中庭を通して風が抜けるおかげで、他の三方が閉じられていることも全く気にならない。

お施主さまご夫妻の「緑の中で暮らしたい」という希望を、最良の形で叶えたといえよう。
  • 外観。利便性がよく、風光明媚な場所に建つ「西宮・里山の白い平家」。空の青や里山の緑に白い壁面が映える

    外観。利便性がよく、風光明媚な場所に建つ「西宮・里山の白い平家」。空の青や里山の緑に白い壁面が映える

  • 側道側から見た外観。RC造の四角い躯体を、白いシェルと呼ばれる壁で包み込んだ。シェルは敷地の形状におおよそ沿って計画。幅や高さを調節し、庇の役割も兼ねさせた。一方で、光を取り入れたい場所は天窓をつくり、視線を避けつつ光を室内に届けている

    側道側から見た外観。RC造の四角い躯体を、白いシェルと呼ばれる壁で包み込んだ。シェルは敷地の形状におおよそ沿って計画。幅や高さを調節し、庇の役割も兼ねさせた。一方で、光を取り入れたい場所は天窓をつくり、視線を避けつつ光を室内に届けている

  • エントランス。左の扉はウォークスルーのシューズクローゼット。エントランスをすっきり整えられる

    エントランス。左の扉はウォークスルーのシューズクローゼット。エントランスをすっきり整えられる

  • 大空間のLDK。右は里山に向け、左は中庭に向けて開口。高い天井に合わせてサッシは特注した。縦のラインが少なく、景観を余すことなく楽しめる。両側の大きな窓のおかげで開放感は抜群。ご主人がシンプルなスタイルを好まれることから、天井や壁も極力すっきり整えた

    大空間のLDK。右は里山に向け、左は中庭に向けて開口。高い天井に合わせてサッシは特注した。縦のラインが少なく、景観を余すことなく楽しめる。両側の大きな窓のおかげで開放感は抜群。ご主人がシンプルなスタイルを好まれることから、天井や壁も極力すっきり整えた

日射や視線をコントロールする機能性と
洗練されたデザインを両立した白いシェル

この「西宮・里山の白い平家」はRC造の平屋で、広々とした敷地に建つゆったりした佇まいの家だ。特徴的なのは家を包む、「シェル(殻)」と名付けた白い壁。里山の緑や青空に気持ちがいいほどに映えて美しく、シンプルな中でも有機的なデザインがさらに目を引く。

「ロの字型の中庭を取り入れた家ですから、そのままだと四角いコンクリートの箱のような家になってしまいます。それは、この風光明媚な土地には似合わないと考えました」と石さん。RC造の建物がシェルに包まれるイメージで、白い壁をデザインしたという。

中の躯体がきっちりした長方形であるのに対して白いシェルは敷地の形状に合わせており、コンクリート壁にぴたりと沿う部分もあれば、大きく張り出している個所もある。面白いのは、環境を引き立たせる洗練されたデザインだと感じられるそれが、庇として機能的にも大きな役割を担っていることだ。

例えば駐車場からエントランスへ続く長いアプローチは深く覆われ、ドラマチックに演出されている。同時に、日差しはもちろん、中の躯体から雨汚れからも守ることに役立っているという具合だ。さらに畑や家がある方向に設けた窓にも、白い壁の上部に開口を設けることで外部からの視線を遮りながら光を届けることを実現している。庇を庇と感じさせたくなかった、と石さん。プライバシーを守る部分とそうではない部分を壁の高さや幅で調節し、さらにそれをリズミカルなデザインに反映した。機能とデザインを結びつける石さんらしい設計に、クールでスタイリッシュな外観を希望されたご主人もとても喜ばれたとのこと。

白い壁の奥にRCの躯体が見える構造は複雑そうに感じられるかもしれない。しかし、先述の通り殻のように包み込まれているだけであるため、そう複雑な形状でもないのだと石さんは話す。こんなにもデザイン性の高い家がコストを抑えつつ建てられたことは、お施主さまにとっても嬉しい驚きだったに違いない。
  • ダイニング(手前)、キッチン(奥)左の開口から主寝室までを一直線に繋げ、暮らしやすさを高めた

    ダイニング(手前)、キッチン(奥)左の開口から主寝室までを一直線に繋げ、暮らしやすさを高めた

  • LDKから奥のテラスまでを見る。室内外の床と天井をフラットに繋げ、まるでテラスまでがLDKの一部のような雰囲気。白を基調にした室内に奥さまお好みのボヘミアンテイストの家具が取り入れられ、里山の緑に囲まれての暮らしを一層楽しめるようになった

    LDKから奥のテラスまでを見る。室内外の床と天井をフラットに繋げ、まるでテラスまでがLDKの一部のような雰囲気。白を基調にした室内に奥さまお好みのボヘミアンテイストの家具が取り入れられ、里山の緑に囲まれての暮らしを一層楽しめるようになった

  • 視線が気にならない里山側にはテラスを計画。室内と同じ柄のタイルを採用した。庭にも出やすい

    視線が気にならない里山側にはテラスを計画。室内と同じ柄のタイルを採用した。庭にも出やすい

ライフスタイルを反映し、家事動線も短く
暮らしを楽しむことを第一に考えた家づくり

では、いよいよ室内を見てみよう。エントランスを入ると、正面のスリットを通して中庭からの光が感じられ優しく明るい空間が広がっている。内装は奥さまが石さんとともにこだわりを持って選ばれた部分がたくさんあるということ。白を基調にまとめたところにアクセントとして、素材感の強いタイルを用いて加えたベンチなど、優れたデザインとセンスが合わさり雰囲気がいい。

エントランスから右へ進むとLDKへ、左に向かうとご夫妻それぞれの個室や水回りなどプライベートエリアに続く。廊下を省き、主に部屋を繋いで室内を通って回遊できるようにした。エントランスもウォークスルーのシューズクローゼットが隣接しており便利だ。

主寝室からクローゼット、洗面脱衣室と風呂、LDKへと一直線に繋いだ動線はご夫妻だけの生活だからこそともいえる。必要なときのみ扉を閉めることにし、普段は開け放しておけば必要な場所へするすると進めてとても便利。加えて家事動線が最短にまとめられたことで、効率も上がった。それだけではない。「この動線をコンパクトにまとめたおかげで、生活を楽しむLDKに、より広さをもたらすことができました」と石さん。

そのLDKだが32畳、60㎡近くあり本当に広い。天井高も広さとバランスが取れるよう2,7mと高めに設定しており、より空間の大きさが実感できるという。里山側も中庭側も同じ特注のサッシを用いた大きな窓がまた素晴らしい。「切り取った景色を生かし切りたい」と石さんが意図する通り、視界に余計なものが入ることが極力抑えられ、里山の景色や中庭の明るさを存分に堪能できるようになった。

また室内の床と里山側に設けたテラスを違和感なくフラットに仕上げた上、室内の天井と外部の白い壁も高さを揃えて繋げた。おかげで、テラスもリビングの一部のように感じられ、より開放感が得られる。

望み通りの暮らしができる家が完成し、現在は庭づくりに励むなどより生活を楽しまれているというご夫妻。お施主さまのライフスタイルと、お好みのデザインを的確に読み取り、高い機能性も兼ね備えた家として表現する。石さんの設計だったからこそ、これだけ満足度が高い、未来も楽しくなるような家づくりができたのだろう。



撮影者:福澤 昭嘉
  • LDKから中庭方向を見る。左の開口はエントランスへ。右の引き戸は洗面脱衣室や主寝室に繋がる。室内を抜ける形で家を一周できる。家事動線をコンパクトにまとめ効率を高めたうえ、ゆとりあるLDKの大空間を実現した。広々した寛ぎのスペースのおかげで暮らしがより楽しく

    LDKから中庭方向を見る。左の開口はエントランスへ。右の引き戸は洗面脱衣室や主寝室に繋がる。室内を抜ける形で家を一周できる。家事動線をコンパクトにまとめ効率を高めたうえ、ゆとりあるLDKの大空間を実現した。広々した寛ぎのスペースのおかげで暮らしがより楽しく

  • 洗面脱衣室(手前)、浴室(奥)。ご要望からシンクは2つ設置した。洗面台の下は収納。右の棚の奥を折れるとランドリー、クローゼット、主寝室まで通り抜けられる。行動の流れと家事の流れを反映させた、効率よい動線をつくりあげた

    洗面脱衣室(手前)、浴室(奥)。ご要望からシンクは2つ設置した。洗面台の下は収納。右の棚の奥を折れるとランドリー、クローゼット、主寝室まで通り抜けられる。行動の流れと家事の流れを反映させた、効率よい動線をつくりあげた

  • 浴室は中庭に面しており、窓は全開放できる引き込み戸とした。露天風呂のような気持ちよさを得られる

    浴室は中庭に面しており、窓は全開放できる引き込み戸とした。露天風呂のような気持ちよさを得られる

  • 寝室。ヘリンボーンの床と暗めの色合いの天井が落ち着いた雰囲気を醸し出している。ナチュラルな素材を用いたライティングもリラックスできそう

    寝室。ヘリンボーンの床と暗めの色合いの天井が落ち着いた雰囲気を醸し出している。ナチュラルな素材を用いたライティングもリラックスできそう

  • 中庭はご要望から計画した。十分な広さがあり、日中は存分に光を室内に届ける。それぞれ接する場所に合わせた開口の仕方で、空間を引き立てている。夕暮れには穏やかな雰囲気に。中庭越しに反対側の様子が見えるなど、魅力いっぱいの場所だ

    中庭はご要望から計画した。十分な広さがあり、日中は存分に光を室内に届ける。それぞれ接する場所に合わせた開口の仕方で、空間を引き立てている。夕暮れには穏やかな雰囲気に。中庭越しに反対側の様子が見えるなど、魅力いっぱいの場所だ

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
西宮・里山の白い平家
施主
T邸
所在地
兵庫県西宮市
家族構成
夫婦
敷地面積
597㎡
延床面積
196㎡