この家だけにある「空間×風景」の絶景
武蔵野の自然と調和する上質な住まい

東京・深大寺周辺の住宅街で自邸を建てることにした施主さまは、デザイン性の高いアーティスティックな家を希望。与えられた条件下で自然とつながる上質空間を完成させた、desus(デサス)建築設計事務所の設計ストーリーを紹介する。

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素材と造形の絶妙なバランスで
存在感を放つモダンな外観

東京・調布市の深大寺周辺は、武蔵野のおおらかな自然が色濃く残る住宅街。その一角に立つ「透景の家(とうけいのいえ)」は、ご夫妻とお子さま3人の5人家族が暮らす木造2階建ての住宅だ。

デザインやインテリアに造詣が深い施主さまが自邸に対して望んでいたのはアーティスティックな家。イメージに合う建築家を求めてリサーチを重ねた結果、desus(デサス)建築設計事務所(以下、desus)の稲垣裕行さん・花形将壽さんの洗練された作風に惹かれ、設計を託すことになった。

当サイト「KLASIC」の掲載記事をご覧いただいてもわかるように、desusの建築は端的に言ってかっこいい。研ぎ澄まされたシンプルな意匠だが、通りすがりに目を奪われてしまうオリジナリティと上質感、素材使いの巧みさは、両名の設計の大きな魅力といえるだろう。

それは完成した「透景の家」も同様だ。最初にこの家を目にしたとき、まず印象に残るのが東を向いたきれいな三角形の切妻屋根。深い軒天は温かみのあるチーク材に覆われて、ダークグレーの外壁と美しいコントラストを成している。

歩を進めて正面にたどり着くと、東から見えていた切妻屋根の三角形とは異なる印象のファサードに出合う。この家は東西に棟を通した切妻なので、道路のある南側から見ると三角屋根は姿を消し、2階が手前に突き出た彫刻的なデザインが目に飛びこむ。

まるで宙に浮かぶような2階のボリュームは外観にリズムと奥行きを与え、その真下にはチークの軒天と大きな窓。窓越しの邸内にはシンプルなスケルトン階段が配置され、モダンなアート作品を展示するギャラリーやショールームのような非日常感をまとっている。

この外観だけでもデザイン性の高い家という施主さまの要望に応えているが、大胆にデザインされた邸内も見ごたえ十分。外観で抱く期待を裏切らない、いや、上回る空間となっている。
  • 東西の切妻と、宙に浮くように道路側に張り出した2階のボリュームが立体的なリズムや奥行きを創出。家そのものがアート作品のようで、通りすがりについ目を留めてしまう

    東西の切妻と、宙に浮くように道路側に張り出した2階のボリュームが立体的なリズムや奥行きを創出。家そのものがアート作品のようで、通りすがりについ目を留めてしまう

  • 東の外観。きれいな切妻の内側は全てチーク。チークの上品な褐色と、屋根や外壁のダークグレーが印象的なコントラストを成す。破風(屋根の断面)は少しテーパー(角度)をつけ、厚さを緩和。すっきりと洗練された印象に仕上げている

    東の外観。きれいな切妻の内側は全てチーク。チークの上品な褐色と、屋根や外壁のダークグレーが印象的なコントラストを成す。破風(屋根の断面)は少しテーパー(角度)をつけ、厚さを緩和。すっきりと洗練された印象に仕上げている

  • 水平・垂直ラインが美しいファサード。階段が美しく映え、洗練されたギャラリーやショールームを思わせる

    水平・垂直ラインが美しいファサード。階段が美しく映え、洗練されたギャラリーやショールームを思わせる

唯一無二の景色をつくり出す
圧巻のチーク張り×三角天井

この家のメイン空間である2階のリビング・ダイニングに入ると、圧倒的なインパクトに思わず息をのんでしまう。何しろ、切妻屋根の形を生かした三角天井から壁にかけては全てがチークのパネリング。シックで温かみのあるチークの無垢材と、硬質なダークグレーの床タイルでまとめた空間は良い意味で住宅っぽさがなく、リゾートの高級ヴィラを訪れたような錯覚を起こす。

そのリビング・ダイニングの先には広々としたバルコニー。両名は最初に土地を見たときに、東の隣地が一段低く、視線も抜ける箇所があることに着目。

「東にメインの窓を設ければ外から中が見えにくく、かつ、開放的な眺めを確保できると考えました」との言葉通り、2人は東側に天井まで目いっぱいのガラス窓を入れ、武蔵野らしい豊かな緑と青空を室内に取り込んだ。

天井や壁を覆うチークはシームレスにバルコニーまで続いているので屋外との一体感も高く、リビングでくつろいでいると、チーク張りの空間と武蔵野の自然が1つの風景のように感じられる。これはまぎれもなく、このLDKでなければ見ることができない「空間×景色」の絶景。立地のアドバンテージを最高の形で生かしたdesusのデザインクオリティに拍手を贈りたくなる。

空間デザインの完成度があまりにも高い分、疑問に思うこともあった。それは、「ここまでチークを多用しているのに、なぜ重い印象にならないのか?」だ。一般的に、内装で木を使い過ぎると重々しい印象になりやすい。だが、この家は天井も壁もチークなのに重さは皆無という素晴らしさ。インパクトは強いがすっきりとして無駄がなく、シンプルで洗練されたモダン建築としての魅力にあふれている。

この疑問に対し、「素材の質感、統一感、面としてのシンプルさがカギになると思います」と教えてくれた両名。なるほどと思うものの、そのセオリーを具現化するのは容易ではないはずだ。だからこそこの家のリビング・ダイニングを見ていると、空間デザインのベストバランスをピタリと決めるdesusのレベルの高さを再認識するのである。
  • 玄関を入ると空間を彩るアートのような階段が登場。オリジナリティのあるデザインが邸内への期待を高める

    玄関を入ると空間を彩るアートのような階段が登場。オリジナリティのあるデザインが邸内への期待を高める

  • リビング・ダイニングから東を見る。バルコニーとの仕切りは全てガラスで壁がなく、室内と屋外が一体化。贅沢にチークを張った三角天井の空間と、武蔵野の風景が1つになった眺めは、まさに芸術的。この家の中だけで見ることができる「空間×景色」の絶景だ

    リビング・ダイニングから東を見る。バルコニーとの仕切りは全てガラスで壁がなく、室内と屋外が一体化。贅沢にチークを張った三角天井の空間と、武蔵野の風景が1つになった眺めは、まさに芸術的。この家の中だけで見ることができる「空間×景色」の絶景だ

  • リビング・ダイニングの天井と壁、床はそのまま東のバルコニーに続く。屋内外の境界があいまいになり、室内にいながら外の光や緑を間近に感じ、心地よい開放感を味わえる

    リビング・ダイニングの天井と壁、床はそのまま東のバルコニーに続く。屋内外の境界があいまいになり、室内にいながら外の光や緑を間近に感じ、心地よい開放感を味わえる

  • 2階LDKでキッチンのある西を見る。キッチン側の上部にも、切妻の形を生かしたハイサイドライトを設置。東西どちらを向いても青空が見える気持ちの良い空間となった。写真右側は要望に応えて設けたスタディスペース。写真左側には大容量のパントリーがある

    2階LDKでキッチンのある西を見る。キッチン側の上部にも、切妻の形を生かしたハイサイドライトを設置。東西どちらを向いても青空が見える気持ちの良い空間となった。写真右側は要望に応えて設けたスタディスペース。写真左側には大容量のパントリーがある

造作家具でスペースを有効活用
施主に寄り添い、最適解を提案

家づくりの諸条件に対応する、desusの温かな配慮についてもご紹介したい。

この家は、延床面積約27坪で家族は5人。駐車場スペースを差し引くと、5人家族が住むのに余裕がある広さとは言い難い。それでも施主さまが望むデザイン性の高い家を形にし、主寝室、男女3人のお子さまたちの3つの子ども室など、必要な部屋数を確保する──。

決して簡単ではないこの要件を満たすため、稲垣さんと花形さんは2階にゆったりとしたLDKをつくり、個室は1階に集約する潔いプランを提案。特に、子ども室はミニマムサイズにするメリハリのある間取りをプランニングしている。

ここで注目したいのは、柔軟な発想の造作家具を取り入れた「空間の有効活用テクニック」だ。例えば2階のキッチンの脇には、出窓をカウンターデスクに仕立てた造作家具を計画。出窓として認められる法規制をクリアしながら使いやすいデスクをデザインし、要望の1つだったスタディスペースをつくると同時に、床面積を減らさないという空間の有効活用も成し遂げている。

また1階の子ども室でも、収納を兼ねたオリジナルのベッドを設計・デザイン。省スペースで「寝る」「しまう」ができるこのベッドにより、部屋サイズはミニマムながらも、必要なものが全て揃う子ども室となった。

施主さまは土地を購入する前、予算を少し上げて間取りに余裕が生まれる広い土地を買うべきか、迷っていた時期があるという。そのときdesusの2人は「当初の予算におさめつつ、多少コンパクトでも丁寧につくり込んだ家を計画してはどうでしょう?」とアドバイスし、今の土地を購入したという経緯がある。

その結果、「土地に予算を割いたから材料のコストを削る」といった状況を回避でき、チークやタイルなどの上質素材を贅沢に用いたLDKが実現。施主さまからは「デザインも暮らしやすさも申し分なく、毎日の暮らしが充実しています」と、うれしいメッセージが寄せられているという。

これらのエピソードからわかるのは、要望を尊重しながら諸事情に寄り添い、施主が最も満足できる選択へ導いてくれるdesusの2人のスタンスだ。限られた広さや予算であっても、柔軟なアイデアと確かな知識、突出したセンスを有するdesusとだったらこんなに素敵な住まいができる──。「透景の家」は、私たちにそんな希望を与えてくれる住宅でもある。



撮影者:ヤマベスタジオ 山邊 章史
  • オリジナルで造作したキッチンにも木材をあしらい、高級感のある仕上がりに。一方で背後の収納等はダークグレーのメラミンで仕上げ、耐水などの機能性を高めると共にコストを調整。desusの設計は、予算も踏まえた細やかな配慮とデザイン性の両立が魅力の1つ

    オリジナルで造作したキッチンにも木材をあしらい、高級感のある仕上がりに。一方で背後の収納等はダークグレーのメラミンで仕上げ、耐水などの機能性を高めると共にコストを調整。desusの設計は、予算も踏まえた細やかな配慮とデザイン性の両立が魅力の1つ

  • キッチン脇のスタディスペース。奥行きをたっぷり取った出窓をカウンターデスクに仕立て、空間を有効活用

    キッチン脇のスタディスペース。奥行きをたっぷり取った出窓をカウンターデスクに仕立て、空間を有効活用

  • 主寝室もチークでシックな雰囲気に。下がり天井のコーブ照明の柔らかな光が静けさと安心感をもたらす

    主寝室もチークでシックな雰囲気に。下がり天井のコーブ照明の柔らかな光が静けさと安心感をもたらす

  • 子ども室ではベッドと収納を兼ねたオリジナルの家具をデザインし、スペースを有効活用。空いたスペースも、要望に応えて勉強机やアップライトのピアノが置けるように計画。ミニマムながら必要なものがしっかり揃う子ども室を実現

    子ども室ではベッドと収納を兼ねたオリジナルの家具をデザインし、スペースを有効活用。空いたスペースも、要望に応えて勉強机やアップライトのピアノが置けるように計画。ミニマムながら必要なものがしっかり揃う子ども室を実現

  • 洗面室もオリジナルをデザイン。こちらも木材×ダークグレーで仕上げ、邸内全体の統一感を演出

    洗面室もオリジナルをデザイン。こちらも木材×ダークグレーで仕上げ、邸内全体の統一感を演出

間取り図

  • 1F 平面図

  • 2F 平面図

基本データ

作品名
透景の家
施主
I邸
所在地
東京都調布市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
105.3㎡
延床面積
88.08㎡ / 住宅部分 83.12㎡
予 算
4000万円台