小さな家でも広々と暮らしたい。
中庭を配した、開放感あふれる住まい

栃木県に立つK邸。延べ床面積は86.74㎡と決して広くはないが、両サイドから明るい光が入るLDKは、開放感に満ちている。LDKに廊下の役割を兼ねさせることで効率的に広さを確保するなど、技とアイディアに満ちた、吉田裕一建築事務所の吉田裕一さんの家づくり。その詳細をご紹介しよう。

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敷地に建物を長方形に寄せ
テラスと駐車場を確保

山を切り崩したひな壇造成地に立つK邸。片流れの切妻屋根と白い外観が人目を引く、シンプルながらモダンな家である。今回設計を担当したのは、吉田裕一建築事務所の吉田裕一さん。Kさんとは、大学の先輩後輩の間柄だ。

Kさんと吉田さんの家づくりは、土地探しから始まった。奥様の要望は、住宅地で都市ガスがあるところ。そこで候補に挙がったのが、この土地だった。広さもある程度あり、切り開かれていた土地なので造成のお金も抑えることができる。価格も相場の6割程度だったことが大きな決め手となり、Kさんはこの土地の購入を決意した。

設計当初、Kさんから伝えられた要望は、「収納力が高いウォークインクローゼットとキッチンのパントリーの設置、大きく感じられるLDK、そして、将来子どもが生まれたときに子ども部屋にできるようなロフト」。と、とてもシンプルだったそう。この要望に沿って吉田さんがまず考えたのが、家の配置だった。「周辺の家は斜路となっている前面道路に対してセットバックして南側を開けているところが多かったのですが、そういう一般的な建て方は嫌だったんです」。そう語る吉田さん。この家らしい個性を出したいと何パターンか配置を考えた結果、敷地に対して建物を長方形に西に寄せるという案に決定。そうすることで、前面道路から離れすぎないほど良い距離を保ち、東側にはささやかながら明るいテラスと、駐車場を確保することができた。

K邸の大きな特徴は、LDK(ビッグスペース)と、水回りや寝室などの(スモールスペース)の大きく2つの要素で構成されていることにある。主な動線はすべてLDKとなっており、スモールスペースに行くときは必ずビッグスペースを通るユニークなつくりとなっているのだ。そして、このLDKの梁に掛けられたはしごの先にあるのが、まるで隠れ家のようなロフトスペース。「階段をつけることもできたのですが、あえてはしごにしました」と話す吉田さん。このはしごの左右は、ウォークインクローゼットとなっている。

ちなみにこのLDKの広さはおよそ40㎡だが、室内に入ると実際の広さ以上の開放感を感じさせる。その理由は、天井の高さにあるのだそう。「LDKと脱衣所は4500㎝と高くし、寝室は2300㎝ほどと低めの天井高にするなど、居心地に変化を出しました」。そう吉田さん。広くて高く明るい場所、狭くて低い落ち着く場所、など、空気の量を増やしたり減らしたりしながら、それぞれの空間を演出したのだという。
  • 周辺に切妻や寄棟屋根の住宅が多かったので、あまりモダンになりすぎず、周囲に溶け込むよう偏心した切妻屋根を採用。外観は白とシルバーのみでシンプルに仕上られている

    周辺に切妻や寄棟屋根の住宅が多かったので、あまりモダンになりすぎず、周囲に溶け込むよう偏心した切妻屋根を採用。外観は白とシルバーのみでシンプルに仕上られている

  • ビッグスペースである縦長のLDK。左手に見えているのがテラス。また右側のはしごを上った先には、将来子ども部屋にすることを見据えたロフトスペースがある

    ビッグスペースである縦長のLDK。左手に見えているのがテラス。また右側のはしごを上った先には、将来子ども部屋にすることを見据えたロフトスペースがある

  • LDKと並行する形で夫婦の寝室とウォークインクローゼット、そして水回りといったスモールスペースが配されている。スモールスペースに行くには必ずこのビッグスペースを通る仕組みとなっており、このビッグスペースが廊下の役割も兼ねている

    LDKと並行する形で夫婦の寝室とウォークインクローゼット、そして水回りといったスモールスペースが配されている。スモールスペースに行くには必ずこのビッグスペースを通る仕組みとなっており、このビッグスペースが廊下の役割も兼ねている

  • ロフトから見たLDK。木の風合いを生かした梁が白い壁とマッチして、優しい雰囲気を醸し出す

    ロフトから見たLDK。木の風合いを生かした梁が白い壁とマッチして、優しい雰囲気を醸し出す

中庭を設けることで
住環境にゆとりを確保

この家の開放感に一役買っているのが、中庭の存在である。中庭スペースは部屋にすることもできたが、床を増やすと工事費も上がってしまう。ここをあえて部屋にしなくてもすでに必要なスペースは配置できたということもあり、中庭にしたのだそう。

また、LDKを挟んだ反対側にはテラスも設けられており、左右から明るい光が入るため室内も非常に明るい。建物の中だけでなく、外側のスペースもうまく活用して住環境をより良いものにする。そんな吉田さんの工夫が感じられるデザインだ。

最後に、K邸づくりで吉田さんに最も苦労したことを聞いてみた。返って来た答えは「コスト」である。もともと予算が3000万円と限られていたため、随所でコストダウンの工夫が必要だったと話す吉田さん。「工務店も頑張ってくれました。あと大きかったのは、土地探しを現地の不動産屋ではなく、建築家とのコラボレーションを主に行なっている創造系不動産にお願いしたことですね。創造系不動産がファイナンシャル面も見てくれるので、とても助かりました」と語る。

吉田さんのところに設計を依頼するお施主様の中には、すでに土地を購入している人も少なくない。しかし、なかには設計しづらい土地を購入してしまっているケースも散見されるのだそう。そのため、余分なコストがかかってしまうこともあるのだと吉田さんは話す。
「家づくりをする際は、できれば土地探しから一緒にやらせていただく方がいいですね。コストが結果的に上がるのも避けられますし、最終的にお施主様が得をすることが多いと思います」。

その点K邸は土地探しから始まったということで、懸案だったコストも抑えることができ、予算内で理想の住まいが完成。Kさんも非常に満足されているという。
「家の居心地がいいので、友達を招くことも増えたそうです。前はすぐに出かけていたけれど、家で過ごす時間も増えたと言ってくれて、とても嬉しかったですね」。吉田さんは、そう笑顔で話してくれた。
  • ベンチを設けたテラス。ベンチの左右は物置スペースとなっている。中央には植栽を配置し、LDKからこの植栽を眺められるよう工夫した

    ベンチを設けたテラス。ベンチの左右は物置スペースとなっている。中央には植栽を配置し、LDKからこの植栽を眺められるよう工夫した

  • LDKから直接出られるようになっている中庭。趣味のガーデニングを楽しむこともできる憩いのスペース

    LDKから直接出られるようになっている中庭。趣味のガーデニングを楽しむこともできる憩いのスペース

  • 駐車場から見た夜の外観。テラスの植栽がライトアップされたかのように浮かび上がり、空間のアクセントとなっている

    駐車場から見た夜の外観。テラスの植栽がライトアップされたかのように浮かび上がり、空間のアクセントとなっている

撮影:長谷川健太

基本データ

施主
K邸
所在地
栃木県宇都宮市
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
256.6㎡
延床面積
86.74㎡
予 算
2000万円台