これが敷地13坪?
居心地抜群の2世帯&バリアフリー住宅

13坪の敷地にバリアフリーの2世帯住宅をつくるという難題を、見事にやり遂げた菅家建築計画工房。完成した住まいは、下町情緒漂う街にふさわしいデザインや存在感も魅力。狭小地でも豊かな空間づくりができることを実感させてくれる家だ。

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2世帯&バリアフリーをかなえた、
土間にも部屋にもなる“共用土間”

名所や旧跡が点在し、レトロな下町情緒が漂う東京都台東区・谷中。近年はカフェや雑貨店なども増え、休日ともなれば散策を楽しむ人々で賑う。そんな注目スポットに住まいを建てることにしたIさまご夫妻 。設計を担当したのは、菅家建築計画工房の菅家 幹さん・和子さん夫妻だ。

Iさまは、将来はお母さまとの同居も可能なバリアフリーの2世帯住宅を望んでいた。敷地は約13坪とコンパクトだが「法規内であれば予算と重力以外は何とかする、という気持ちで設計しています」と、ほがらかに話す菅家さん夫妻。I邸でもプロのアイデアとテクニックを駆使し、狭小地の2世帯&バリアフリーを見事に実現させている。

I邸を語る上で外せないのが“共用土間”だ。完成した住まいは玄関を共用するタイプ。1階が親世帯、2~3階が子世帯の3階建てで、玄関を入ったところにはゆったりとした土間が広がる。これが、親世帯・子世帯がともに使う共用土間だ。

共用土間には正面と左手の2カ所に引き戸があり、 正面の引き戸を開けると、バリアフリーでつながる親世帯の和室や水まわり。左手にある引き戸を開けると、子世帯専用の小さな土間と階段が現れる。

「13坪の敷地ですから、車いすで無理なく動ける広さの玄関をつくると1階の和室が狭くなってしまいます」と菅家さん夫妻。そこで、共用土間を設けて車いすでもゆったり動ける動線を確保し、引き戸を開放すれば和室と共用土間が1つの大空間になるように設計。各世帯への入口となる引き戸を閉めれば共用土間がしっかりと独立し、2世帯のほどよい距離感も生まれている。

こうして、「バリアフリーの動線確保」「広々使える空間」「2世帯の距離感」と、3つの目的を一気に果たした共用土間。菅家建築計画工房が素人には思いもよらない合理的なアイデアで、希望をかなえてくれる好例といえるだろう。
  • 手前が1階にある共用土間。奥は子世帯専用の小さな土間。古木を使った引き戸やウサギ入りの窓が印象的

    手前が1階にある共用土間。奥は子世帯専用の小さな土間。古木を使った引き戸やウサギ入りの窓が印象的

  • 1階共用土間から親世帯の和室を見る。床はバリアフリーで、引き戸を開け放すと大きな1室空間として使える

    1階共用土間から親世帯の和室を見る。床はバリアフリーで、引き戸を開け放すと大きな1室空間として使える

のびやかで居心地抜群。
13坪とは思えない豊かな空間

菅家さん夫妻の「広々使える空間」のアイデアとテクニックは、共用土間だけにとどまらない。上階の子世帯にも、のびやかに暮らすためのさまざまな工夫が施されている。

その1つが1階から3階に至る動線の、豊かな空間体験だ。まず、子世帯専用の小さな土間から階段をのぼって2階に上がると、右にDK、左にご主人の寝室が広がる。壁には光や風を通すいくつもの窓もあって視線が抜け、パッと空間がひらける「ヨコの広がり」が気持ちいい。

さらに進んだ3階は、奥さまの寝室と水まわり。半階ほど床が高くなった水まわり周辺にはハイサイド窓や屋上へ向かう階段梯子の出入口があり、空からそそぐ陽光が「タテの広がり」を演出する。

この、「のぼって、空間がひらけて、またのぼると空に抜ける」という変化に富んだ動線は、まさに「建物の大小にかかわらず、家の中の動線にストーリーをつくりたい」と話す菅家さん夫妻の狙い通り。コンパクトでも空間の広がりや楽しさを生む2人の設計力が光っている。

そしてもう1つ、「広々使える空間」のポイントとなっているのがスペースの仕切り方だ。例えば2階のDKとご主人の寝室の間には壁がなく、見通しのきく筋交いと引き戸だけで仕切ってあり、引き戸を開ければ1室空間のように使える。

これらの合わせ技のおかげで、I邸には閉塞感が全くない。どこにいても光と風、空間の広がりを感じる居心地のよさは、「本当に13坪?」と疑いたくなるほどだ。
  • 2階・子世帯DKからご主人の寝室を見る。引き戸を全開すれば2階全体が大きな1室空間に。ハイサイド窓など、効果的な窓計画との相乗効果で通風・採光・開放感は抜群。床はオイルステイン仕上げの無垢のアカシア、キッチン以外の壁は消臭・調湿作用などをもつシラスの塗り壁

    2階・子世帯DKからご主人の寝室を見る。引き戸を全開すれば2階全体が大きな1室空間に。ハイサイド窓など、効果的な窓計画との相乗効果で通風・採光・開放感は抜群。床はオイルステイン仕上げの無垢のアカシア、キッチン以外の壁は消臭・調湿作用などをもつシラスの塗り壁

  • 3階・子世帯の洗面スペースから奥さまの寝室を見る。屋上への出入口やハイサイド窓が、タテの広がりを演出

    3階・子世帯の洗面スペースから奥さまの寝室を見る。屋上への出入口やハイサイド窓が、タテの広がりを演出

谷中に馴染むミックススタイル。
ともにつくり上げた思い出も宝物

谷中というノスタルジックなスポットにつくられたI邸は、佇まいや内装も街並みに溶け込む仕上がりだ。といっても、「下町=古民家風」というわけではない。あえていうなら、多国籍のミックススタイルといったところだろうか。

玄関ドアはエイジング塗装を施したヨーロッパ風のロートアルミ、共用土間の引き戸はレトロな古木、3階の照明はトルコランプと、使われているアイテムは(言葉を選ばずにいえば)バラバラだ。

ところが、これらが1つの建物におさまったI邸には、「個性的で洒落ている」と感じる不思議な魅力がある。もっといえば、バラバラのアイテムがセンスよくまとまっているからこそ、古いものと新しいものが共存する今の谷中の街に、これ以上ないほどしっくり馴染む。施主さまの好みを尊重しつつ、シラスの塗り壁や無垢のアカシアの床など、上質な素材で全体の統一感を出した菅家さん夫妻の手腕だろう。

特筆すべきは、仕上げの多くにIさまがかかわっていることだ。家づくりの際、菅家さん夫妻が大切にしていることの1つに「ともにつくり上げる喜びの共有」がある。I邸でも、Iさまが手に入れた流木を玄関ドアの引き手に使ったり、壁の一部をみんなで塗ったり、一緒にトルコランプをつくったりと、施主さまご自身も家づくりを楽しんだ。

「何かしら自分の手でつくり上げた家は愛着が湧くと思うんです。そうなれば我々もうれしいですし、楽しいなと思っていて」と笑顔で語る菅家さん夫妻。

新築でありながら、できたときからオンリーワンの愛着がある家を手に入れる。そんな機会を与えてくれる菅家建築計画工房との家づくりは、心豊かで幸せな新生活を運んできてくれるだろう。
  • 玄関ドアはエイジング塗装し、アイアンより軽くて扱いやすいロートアルミを取り付け、アンティーク風の味わいをプラス。引き手はIさまが見つけてきた流木。基礎部分にあしらった石はIさまが選んだもの。かわいいブドウの葉に彩られ、存在感のあるファサードとなっている

    玄関ドアはエイジング塗装し、アイアンより軽くて扱いやすいロートアルミを取り付け、アンティーク風の味わいをプラス。引き手はIさまが見つけてきた流木。基礎部分にあしらった石はIさまが選んだもの。かわいいブドウの葉に彩られ、存在感のあるファサードとなっている

  • 3階・子世帯の奥さまの寝室。トルコランプは奥さまと和子さんが一緒に谷中の体験ショップを訪れ、つくり上げたもの。奥の床が高い部分は洗面スペース、その左は浴室。水まわり近辺にはハイサイド窓や屋上の塔屋への出入口があり、空に意識が向いてのびやかな開放感を得られる

    3階・子世帯の奥さまの寝室。トルコランプは奥さまと和子さんが一緒に谷中の体験ショップを訪れ、つくり上げたもの。奥の床が高い部分は洗面スペース、その左は浴室。水まわり近辺にはハイサイド窓や屋上の塔屋への出入口があり、空に意識が向いてのびやかな開放感を得られる

  • バーベキューなどもできる屋上は、ガーデニングを楽しむ場としても大活躍。反対側の景色ではスカイツリーも見える

    バーベキューなどもできる屋上は、ガーデニングを楽しむ場としても大活躍。反対側の景色ではスカイツリーも見える

間取り図

  • 平面図 1F・2F

  • 平面図 3F・RF

基本データ

施主
I邸
所在地
東京都台東区
家族構成
夫婦
敷地面積
43.4㎡
延床面積
87.21㎡
予 算
3000万円台