
縦にも、横にも、上下にも広がる空間使い
敷地の周囲の緑を暮らしに取り入れた家
隣地の緑を生かしながら、
前庭、中庭、後庭と繋がる家に
個人で建築事務所を起ち上げて独立後、最初の依頼だったという塚本さん。「隣地の木々から種子が落ちて、その種子から芽が出て、大きく育ち、家になる」というイメージをテーマとして設計。自生する木々の生命力が、良い意味で敷地内を「侵食する」ということを建物の形や配置計画で表現。自然の壁は、車の通る音や人の視線を遮りながら、風で揺れる木々の触れ合う音が耳に心地よい住まい空間を生み出している。
そんなM様邸には、前庭、中庭、後庭があって緑と繋がり、中央に建屋を配した敷地レイアウト。建物の角度のズレがもたらす、奥行きのある空間、高さの異なる四つの屋根、それぞれ違った役割を持つ3つの庭で構成した。前庭は、敷地周辺との共用部としてとらえて、建物と周辺とを緩やかにつなぐ役割を、中庭は隣地の木々を敷地内に取り込むツールとなり、本来は閉ざされた空間となる中庭が、開かれたプライベート空間として家族の憩いの場となる。また、建物の南側に位置する後庭は、M様の所有地で今後、ほかの建物が建つ計画もなく、光や風を室内にもたらして、居住空間を豊かにしている。
さらに、インナーガレージ、寝室のある建屋、平屋部分、2階建て部分と、それぞれの建屋の屋根の形状や高さもあえて異なるようにした。寝室のある建屋は、他の建屋と比べて斜めに配置し、角度を変えた。植物の芽が伸びるのと同じように、奥行きだけでなく、地面から空へと縦方向の奥行きも出すことを意識した設計だ。
暮らしの中にプラスアルファの楽しみや
遊び心を取り入れた設計を意識
寝室は、LDKと離れた場所に配し、前述のように建屋自体をほかの建屋と並行ではなく、あえて斜めに配置。天井に化粧で垂木を見せた和モダンテイストのインテリアを意識したというLDKは、中庭と後庭に挟まれる場所に。東西方向に空間が広がるだけでなく、南北方向の壁には大きな窓を設けることで、窓からの視線の抜けをつくって、より開放感を感じられる空間に。
リビングからは中庭を望め、隣地の緑までを見通すことができる。同様に、中庭を囲む建屋のコの字形に沿って広いウッドデッキも設けており、家のどこにいても、緑とともに暮らせる空間を実現。中庭に照明計画にもこだわり、昼間とは違う夜の中庭風景を楽しめるように配慮したという。またインナーガレージは、LDKとの間に中庭を介することで、ガレージで音が出るような作業をしても響きにくいよう防音にも配慮した。
建物は北側正面から見ると平屋に見えるが、奥のLDKのある建屋には、2階建て部分もある。そのため、南側から見た外観と変化のあるデザインになっている。この2階建て部分には勝手口のような出入り口を設け、平屋部分の屋根に出られるようになっている。ガルバリウム素材を採用したこの屋根は、全面をバルコニーのように利用できるよう、一寸勾配程度の緩やかな勾配に。「屋根の上に敷物を敷いて寝転がったり、布団を広げて干したりできるように考えました。将来的には中庭から梯子をかけて、屋根へ行き来するのもおもしろいと思いました」と塚本さん。
M様とのコンセプト打ち合わせの際に、「何か、おもしろいことをしたいですね」と話していて、ほかにも和室には夜、室内の灯りが漏れたときに外からはやわらい光が見えるように丸窓を設けたり、屋根からは可愛らしいくさり樋を採用したりと、プラスアルファの遊び心を取り入れている。設計の際には、「その家に住むご家族が、楽しく暮らせる」ことを意識しているという塚本さん。「自然の生命力が侵食する」というコンセプトワークから、暮らしの中での細やかな楽しみまでが、M様邸には存分に生かされている。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 瀬戸の家 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県瀬戸市 |
| 敷地面積 | 398.6㎡ |
| 延床面積 | 181.01㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 4000万円台 |
撮影:佐治秀保
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

明るく広いLDKと多彩な収納で、すっきりシンプルな暮らしを実現
明るく快適なLDK、使い勝手の良いたっぷりの収納、そして無駄のない家事動線。施主のKさん夫妻が、それまで暮らしてきた家で感じた不満を解消すべく、建築家の北川裕記さんとともに家造り。居心地のよい空間、それぞれの用途にあった収納と動線の工夫とは?すべての要望を見事に実現した解答プランを見ていきたい。

自慢したいデザインと心地よさ。空間を洗練させるプロの技!
「家づくりのために貯めた大金を、規格住宅に使いたくない」。それは、唯一無二のわが家を求める施主様がふと漏らした本音。建築家・松岡淳さんはその思いを真摯に受け止め、家中のどこにいても快適で心地よく、それでいて自慢したくなるほど「カッコいい」家を完成させた。制約の中で広さ・快適性・美しさを実現した、松岡さんならではの家づくりとは!?

土間縁側で内と外がゆるやかに繋がる 夫婦の時間も家族の集まりも心地よい家
昭和初期に建てられた農家建築を取り壊し、夫婦2人の住まいを建てることを計画したMさん。依頼を受けたアトリエウィの宇佐美さんが提案したのは、以前の家の面影が感じられるフォルムを持ち、昔の暮らしぶりを、現代にマッチした形で再現できるような、土間縁側をもつ家だった。

庭の景色をセンスよく取り入れた、心安らぐ茶室と癒やしのリゾート空間
高級料亭を思わせる佇まいが印象的なT邸。邸内には風情あふれる茶室と、高原リゾートの別荘のようなLDKが広がるハイエンドな住宅だ。さらには快適に過ごせる熱環境も万全。Tさまの要望に期待以上の形で応えた、建築家・奥野公章さんの設計の魅力に迫る。

地域と共に自然と共に 日本の原風景を感じさせる家
自らが生まれ育ったまちで、ゆったりと暮らしたい。そんな施主の思いを実現したのは、日本人の心の原風景にあるような暮らしを現代の建築で叶える建築家、礒健介さん。自然体の暮らしを実現した、礒さんの家づくりに迫る。

暮らしが広がる土間、吹き抜けリビング…。 こだわり溢れる「住まい手オリジナルの家」
東京の人気住宅地に佇むS邸。お施主様であるSさんのこだわりが細部にまで行き届いた、まさに「住まい手オリジナルの家」である。Sさんの要望をしっかりと受け止め、妥協することなく形にしたのは、Lods一級建築士事務所の幸地俊一さん。二人三脚で実現した理想の家づくり。その詳細をご紹介しよう。

円形シアターを思わせる、緑の庭と住空間。 経年で魅力を増す森林の別荘
伊藤寛さんが設計した『追分の山荘』は、ある経営者一家の軽井沢の別荘だ。魅力は何といっても、庭とLDKが円形シアターのように一体化する独創的で豊かな空間。理屈では語れない、伊藤さんのイマジネーションの奥行きをしみじみ感じる建築だ。

近隣住民が慣れ親しんだ風景を残し、 集落に溶け込むモダンな邸宅のヒミツ(山吹設計工房)
愛知県西尾市に、独創的な邸宅が誕生した。敷地は遠方に茶臼山を望み、河川の堤防に面する、自然豊かな環境に恵まれた立地だ。古い集落の入口に位置し、近隣住民の多くがこの景色や環境に慣れ親しんできた。周辺環境を壊さず、近隣に溶け込みながらも、モダンで熱効率に優れた作品のヒミツをご紹介しよう。

室内を区切るものは壁ではなく、光と影。 美しい景色を、より魅力的に切り取る家
目の前に広がる田園風景と、裏山の間に位置するE邸。ハナトアーキテクツの保科陽介さんと堤理紗さんは、田園と裏山の空気感を繋ぐような家にしたいと考えた。異なる素材を使い分けて両者の特徴を入れ込んだ室内空間には、夏はひんやり冬暖かくと、快適に暮らせる工夫も隠されている。

