広さ、使いやすさ、快適性
リフォームで手に入れた理想の住み心地

幼い頃を過ごし、一時期は賃貸活用していたというマンションに戻り家族と暮らすことに決めたnote architectsの鎌松亮さん。自分たち家族の生活スタイルに合った空間にすべく、リフォームを実施。ただ間取りを変えたのだけではなく、家族誰もが暮らしやすい空間が生まれた秘密は3つのテーマにあった。

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目的を持たない空間がゆとりを生む
リビングとキッチンは家族が集まる場所

建築家の鎌松亮さんが奥様とお子様と暮らす住まいは、鎌松さんが小学校から高校までを過ごした、かつての実家をリフォームしたものだ。土地を新たに購入する、一戸建てをリフォームするといったことも考えたが、父親が同じマンションの別の部屋で暮らしていることもあり、「近くのほうが安心できる」とこの選択をしたのだという。

3LDKだった間取りを1LKへと大胆にチェンジした鎌松さん。リフォームするにあたり、ご自身で考える大きなテーマが3つあった。

第一に「広々とした空間をつくること」。2部屋並んでいた個室の壁を抜き、大きな1部屋の寝室に。無駄な装飾を省き、ベッドを置いてもさらにゆとりがある空間になった。

リビングは、和室と隔てていた壁を取り払い一続きの空間に。もともと壁があった位置には引き戸を配し、来客時などは和室だった一角を独立した部屋としても使用できるようにしている。

余裕を感じる空間づくりの極意は、造作家具のつくりかたにもあるのだという。キッチンからリビングまでの吊り棚、押し入れの扉、引き戸、すべて梁の下までに高さを抑えている。「天井いっぱいまで上げてしまうと、家具ではなくて壁のようになってしまいます。するとすごく圧迫感が出てくるんですよね」と鎌松さん。梁より上はあえて何もない空間に。空いた部分をつくることで、部屋の印象がさらに広々したものに捉えられるという。

詰め込みすぎないことがポイント、と考える鎌松さんらしい空間の使い方が表れているのが以前は和室だったエリアだ。先に述べたように客間として使う以外にも、ソファを壁向きに置いてプロジェクターで映画を見たり、ラグを敷いてお子様のあそび場になったりしている。ここも、つまりは「空間の空き」。はっきりとした目的を持たず、フレキシブルに活用できる空間なのだ。このようにして生まれた空間の余裕が、理屈を知らずとも「広いな」という感覚を伝えるのだろう。

ふたつめは、奥様の「家族が集まるキッチンを」という要望をクリアすること。奥様には、「アメリカに住む妹の家庭のように、ダイニングでお子様が宿題しているのを見ながら料理する」という明確なイメージがあったのだそうだ。

この要望を叶えるため、鎌松さんははじめにキッチンの位置を変更し、部屋の長辺に沿うように設置。そのままキッチントップとシームレスに繋がるデスクを窓際まで延長し、そこが鎌松さんの居場所となった。

さらに、キッチントップと平行に食卓にもなるアイランドカウンターを設置。お子様が大きくなったら、きっとそこで宿題をするようになるだろう。アイランドカウンターは、大人が座っていても背面にある洗面への出入りを邪魔することがなく、また後ろを通って寝室への移動もしやすい位置に配置している。

もちろん使い勝手にもこだわり、キッチントップは熱い鍋が置けるようにステンレスを、またアイランドカウンターは子供と一緒にピザ生地を捏ねたいという奥様の夢をかなえるため、人工大理石を選択。キッチントップを鎌松さんのデスクまで一続きにしたことでデッドスペースがなくなり、必要に応じて調理スペースをより広く取れるようになった。「広いと、材料を出すのも片づけをするのもとにかく楽なんです。私も、この家に引っ越してから料理をするようになったんですよ」と鎌松さんはいう。最初はダイニングテーブルを別に置く予定だったが、今は広々としたリビングと一体になったキッチンで家族皆が食事をしているそうだ。
  • リビングからキッチンを見る。奥の壁面、左から始まるキッチントップと鎌松さんのデスクは継ぎ目なく繋げた。同じように上の棚も繋がっている。吊り棚や、左壁面に見えるパントリーとして使用する棚まで梁下の同じ高さで揃え、抜けをつくったことで広々とした空間が強調される

    リビングからキッチンを見る。奥の壁面、左から始まるキッチントップと鎌松さんのデスクは継ぎ目なく繋げた。同じように上の棚も繋がっている。吊り棚や、左壁面に見えるパントリーとして使用する棚まで梁下の同じ高さで揃え、抜けをつくったことで広々とした空間が強調される

  • リビング。窓がある外壁面は断熱材を入れ、二重サッシにした。寝室の壁面とリビングの壁面に断熱材を詰めたことで、室内の温度を適温に保つことが可能になった。鎌松邸にあるエアコンは、上部にある12畳用のものひとつのみ。夏は寝室まで涼しくなるという

    リビング。窓がある外壁面は断熱材を入れ、二重サッシにした。寝室の壁面とリビングの壁面に断熱材を詰めたことで、室内の温度を適温に保つことが可能になった。鎌松邸にあるエアコンは、上部にある12畳用のものひとつのみ。夏は寝室まで涼しくなるという

  • キッチン。「カウンターの高さやコンセントの位置のほか、調理器具の収納棚の位置まで身長に合わせてつくってもらえたので嬉しい」と奥様。キッチンタイルは目地が濃くクールなものを、椅子の下の床面にはヘキサゴンタイルをアクセントに配置し清潔な印象の中にビンテージ感も漂う

    キッチン。「カウンターの高さやコンセントの位置のほか、調理器具の収納棚の位置まで身長に合わせてつくってもらえたので嬉しい」と奥様。キッチンタイルは目地が濃くクールなものを、椅子の下の床面にはヘキサゴンタイルをアクセントに配置し清潔な印象の中にビンテージ感も漂う

  • リビング、窓側からキッチンを見る。カウンターテーブルの収納に取り付けた取手は、以前ロサンゼルスで買い付けてきたもの。正面のパントリーの扉、キッチン側の吊り棚の扉は取手部分に丸く穴を開けただけのシンプルなシナ合板。「いつかこれらも再利用してほしい」と鎌松さん

    リビング、窓側からキッチンを見る。カウンターテーブルの収納に取り付けた取手は、以前ロサンゼルスで買い付けてきたもの。正面のパントリーの扉、キッチン側の吊り棚の扉は取手部分に丸く穴を開けただけのシンプルなシナ合板。「いつかこれらも再利用してほしい」と鎌松さん

  • 玄関。正面の扉はウォークインクローゼットに続く。正面のパネルは鎌松さんのDIYによるもの

    玄関。正面の扉はウォークインクローゼットに続く。正面のパネルは鎌松さんのDIYによるもの

断熱材と二重サッシで熱が逃げない入らない
エアコンひとつで一年中快適に

最後の大きなテーマは「断熱」だそうだが、断熱の効果を鎌松さんは「暖かいというよりも寒くない家」と語る。

マンションであるため、外壁に面した部分にのみ断熱材を入れた。さらに、アルミサッシの手前にもう一列の建具を重ね、二重サッシに。建具のつくりにもこだわりがある。リビング側の窓には、農業では日除けとして昔からポピュラーな素材である「寒冷紗(かんれいしゃ)」を障子に見立てて貼り、ほどよい遮光性を確保。一方、室外機を設置する場所がない故にエアコンが付けられない寝室側は、断熱性を持つツインカーボを窓の素材として採用した。

高い断熱性のおかげで暖かい空気が外に逃げず、足元が冷えることもないそうだ。「18畳を、12畳用のエアコンひとつで賄っています」とのこと。夏は特に外からの熱気が部屋に入るのを防ぐため、エアコンひとつで過ごせるというのだから驚く。

室内は、シナ合板が多用され明るい雰囲気。シナ合板は「木目が美しい」と、鎌松さんのお気に入りの素材なのだそうだ。「自宅ですから、やりたいことを詰め込みました」という鎌松さん。アクセント的に使用されたヘキサゴンタイルや、鎌松さんのデスクに敷かれたファニチャーリノリウムなど、内装素材の実際の使い勝手や使い心地を確かめる意もあったそう。ドアに使用したレバーハンドルや、照明を操作するアメリカンスイッチなど、自宅のリフォームがきっかけとなり後々鎌松さんのスタンダードになっていったものも多いとのこと。まさに、この家には鎌松さんの原点が詰まっているといえよう。
  • 外壁である窓側の壁面は新たに壁を内側に設け、間に断熱材を詰めた。新たにつくった窓は、表面に断熱性があるポリカーボネート製のツインカーボを採用。正面のシナ合板の壁はホワイトボード塗装が施され、文字や絵が書ける。天井は壁紙を剥がし、そのまま現しとした

    外壁である窓側の壁面は新たに壁を内側に設け、間に断熱材を詰めた。新たにつくった窓は、表面に断熱性があるポリカーボネート製のツインカーボを採用。正面のシナ合板の壁はホワイトボード塗装が施され、文字や絵が書ける。天井は壁紙を剥がし、そのまま現しとした

  • リビングの窓側にあるこのスペースはあえて使い方を固定しない余剰空間。「余白がある空間は便利だし、ゆとりが生まれる」と鎌松さん。画像右上部のガラスと、窓の建具はいただいてきたもの。障子のように見えるのはポリエステル製の寒冷紗。天井や壁は友人たちと皆で白く塗った

    リビングの窓側にあるこのスペースはあえて使い方を固定しない余剰空間。「余白がある空間は便利だし、ゆとりが生まれる」と鎌松さん。画像右上部のガラスと、窓の建具はいただいてきたもの。障子のように見えるのはポリエステル製の寒冷紗。天井や壁は友人たちと皆で白く塗った

使いやすさも人それぞれ
生活スタイルにマッチした機能性を追求する

リフォームにあたり隠れたテーマとして、資材の地域循環を目指したという鎌松さん。実は、リビングに新しく取り付けた窓の建具などは、近所でたまたま取り壊される家を発見し、直談判していただいてきたもの。受け継ぐこと、後に託すことが家族の枠を超えて地域にまで広がることで、残せるものは多くなるだろう。

エコという観点も当然あるが、それ以外にも意味はある。例えば欄間に使用したガラスも壊される家からいただいてきたものだが、現在ではもうつくれない貴重なものなのだそう。そこにあるものを見て判断し、どう転用するかを考えられる。それが建築家の力の1つなのではないかと鎌松さんは言う。

古材を再利用するのは外からもらってきたものだけではない。玄関正面のパネルや寝室の仏間に利用した木材は、リフォーム時に取り払った壁の下地材だったという。また、キッチンのシナ合板など今シンプルな使い方をしている素材は、この家が手放され取り壊されるときに、誰かに再利用してほしいと願っているそうだ。

リフォーム後の鎌松邸はシンプルな中に外国を感じるような雰囲気もあり、どこを切り取っても絵になると感じた。しかし鎌松さんは見栄えはもちろん重要ですが、と前置きしたうえで「作品ではなくて、住まいをつくっているのですから、写真に写らない使いやすさこそが大切です」と話す。住む人が好む雰囲気づくりをしながら、その人の生活スタイルを正しく把握し家の機能に反映させる。見えない部分、写真に写らない使い勝手の部分こそ重要視すべきという。

「生活スタイルは人によって全く違うものです。空間の見栄えと、生活スタイルがきちんとマッチしていることが大事なんですね。表面的な家づくりではなく、お施主様ひとりひとりに合わせて家づくりができるのが、建築士にご依頼していただくメリットであり醍醐味だと思います」
  • 洗面。ヘキサゴンタイルはキッチンのテーブルカウンター下と同じもの。ドアノブはレバーハンドルに変更した

    洗面。ヘキサゴンタイルはキッチンのテーブルカウンター下と同じもの。ドアノブはレバーハンドルに変更した

  • 寝室に隣接していた納戸を大容量のウォークインクローゼットに変更。寝室からも廊下からもアクセスでき便利

    寝室に隣接していた納戸を大容量のウォークインクローゼットに変更。寝室からも廊下からもアクセスでき便利

間取り図

  • 改修前

  • 改修後

基本データ

施主
K邸
所在地
東京都江東区
家族構成
夫婦+子供1人
敷地面積
72㎡
予 算
〜2000万円

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