
大きく窓を開口しても夏涼しく、冬暖か。
高性能の設備で、ますます暮らしやすい家
高断熱・高気密・省エネ
全てがハイレベルの「トップランナー」住宅
札幌市には独自の、高断熱・高気密住宅の基準を定める「札幌版次世代住宅補助制度」がある。T邸はその中でも設計的・施工的に熟練の技術が求められる、最上位の等級「トップランナー」に認定されているのだ。その実力はUA値が0.17[W/㎡・K]!
では、具体的にどんな対策が取られているのだろう。まず、T邸はほぼ全ての窓をトリプルガラスとした。トリプルガラスは、一昔前の断熱材を入れた壁と同程度の断熱性を持つという。さらに一原さんは、トリプルガラスが持つ日射遮蔽と日射透過の機能を建物の方位によって使い分けた。
家の南東と南西に位置する窓には日射を透過するタイプを使用。庇を深くし、日射角度が高い夏は庇によって直射日光が入りすぎるのを防ぐ。逆に角度が低くなる冬は日光を室内に入れ、パッシブ効果で部屋を温かくする。自然エネルギーを上手に使い、省エネも期待できるのだという。
床下には基礎断熱工法を採用。床下も室内と同様に扱う基礎断熱は、床下に複数の温水放熱器を設置して家中を暖める。パネルヒーターを設置している部分の床のみが温まる床暖房とは違い、基礎断熱は温水パネルで床下全体を温めるため、端のほうに行くと床が冷たいということもなく安心だ。また床にガラリを切り、温かな空気を室内に入れることができる。「断熱性の高いトリプルガラスでも、-10℃近くなると若干の冷気を感じます。大きな開口部付近にはガラリを開けて温風を昇らせ、コールドドラフト対策をしました」と一原さん。
換気は、温度差を利用しエネルギーを極力使わないパッシブ換気と、第一種熱交換換気システムを組み合わせたハイブリッド換気としている。第一種熱交換換気システムは換気のために外から取り込む空気を室内の温度と熱交換し給気することで、空調の省エネに貢献する。
これらの設備を備えたトップランナー住宅の、高断熱かつ高気密、そして省エネの効果は絶大だ。「室内が快適な温度になるまでの時間が早く、そしてそれが持続することが特徴です」と一原さん。例えば、朝、エアコンをつけ快適な環境になった後にエアコンを切ってしまっても、その快適さを日中維持できる。さらに、20畳程度の部屋ならば8畳用のエアコンで十分賄えるというのだからすごい。
確かに初期投資はかかるが、北海道の一般的な住宅と比べて電気代や燃料費が半分くらいに抑えられるという検証結果もあるという。一原さんは「今は北海道でも夏は30℃を超えますから、そんなに他の地方と変わらないのですよね。北海道以外の地域でも、高断熱仕様を導入すると夏場の冷房効果が感じられるのではないでしょうか」と語る。
要望を的確に叶えながら
プロの技でより心地よく住みやすい家にする
将来ご高齢になったら1階で暮らしたいとご希望されていたお施主さま。具体的な間取りのプランもご自分たちで考えられていたそうで、一原さんはそれらを整理し家として成立させることに重きを置いてプランニングを開始した。
1階のLDK空間はワンルームを基本としたつくりだ。将来、ご夫妻が寝室として使う計画の和室もその一部にあり、30cm床を上げ小上がりのように使用している。高さを出すことで空間に変化が生まれるほか、高さを利用して腰掛けとしたり、下に収納をつくったりと利点は多い。
キッチンと隣接するワークスペースも気の利いた空間だ。家事を済ませるのはもちろん、テレワークスペースとしても活用できる。キッチンとの境の壁は一部を開口。お子さまがそこで勉強していればキッチンから顔を見ながらコミュニケーションが取れるほか「お子さまが巣立ってご夫婦二人の生活になったら、ここでご飯を食べてもいいですよね」と一原さん。リビングとダイニングを区切る壁面はルーバー形状としたことで、キッチンから和室やリビングまで視線が抜け、広さが感じられるとともに家族の一体感も高まった。
収納に対しても、仕舞うものや量に対しての具体的なご要望に細やかに対応したという。特にクローゼットルームは「家族全員分の着替えを収納したい」というご希望に合わせて収納を検討したほか、洗面脱衣室にはハンガーパイプを豊富に張り巡らせた。「私の子育ての経験も活かして、将来的に増えるであろう洗濯物の量を考え、このくらいは必要だと提案しました」と一原さん。
家事動線を踏まえた部屋の配置もこだわりが感じられる。クローゼットルームは洗濯機がある洗面脱衣室からすぐの場所に計画。さらに、収納や階段の位置の必要性からLDKと水回りが離れてしまったため、キッチンからパントリーを抜け水回りまでを一直線に結ぶ、いわゆる裏動線をつくった。
お施主さまのご要望に細やかに応えながら、プロだからこそのアイデアや技術を組み込み、熱環境の快適さに負けない暮らしやすさの生活空間ができ上がった。
家族の人数や生活スタイルに対応する
フレキシブルな空間づくり
階段を上がりきった正面には、札幌で暮らす皆が慣れ親しんでいるという手稲山を美しく切り取ったピクチャーウインドウがあり、印象的な風景を楽しめる。お施主さまの「LDKとは別に、家族皆で集える場所が欲しい」とのご要望をうけて計画した2階のフリースペース。手稲山を眺めながら、家族が思い出を重ねていくのだろう。
「家族の人数や生活スタイルに合わせて、フレキシブルに空間を使えるようにすることが大切だと思います」と一原さん。例えば子ども部屋。お子さまの人数が増えることを前提に2部屋に仕切れるのはもちろん、再び形態が変わったときにも対応できるよう、元の状態にも戻しやすいようにあらかじめ考えられている。また、1階の和室も小上がりの段差を撤去しフラットにも使えるようにするなど、自由度が高い。
お施主さまが後々DIYできるように、壁材に北海道産トドマツ合板が多用されているのも一原さんの心憎いプランニングのひとつ。「クローゼットルームですとか、棚が欲しいなということになったとき、これなら釘も打ちやすいですよね」と一原さん。家の完成はあくまでスタート、ここからどんどんブラッシュアップしていって欲しいと考えている。
筆者は関東に住む身だが、インタビュー中に一原さんは北海道ならではの住居環境や、関東でも取り入れるとよい対策などを実に的確にわかりやすく解説してくださった。理由のひとつとして、最近では他府県よりの移住を希望される方からの相談を受けることも多いのだという。T邸のような新築のみならず、中古物件のリノベーションの希望も多く細やかに対応しているとのこと。最近は築60年の古民家をゲストハウスに改修する設計も手掛けた。
移住や多拠点生活という選択をはじめ暮らし方が多様化しているからこそ、地域の特性をしっかりと押さえながら、お施主さまの趣味嗜好に合わせた提案をしてくれる一原さんのような建築家は頼りになる存在だ。
基本データ
| 作品名 | 下見天井の家 |
|---|---|
| 所在地 | 北海道札幌市 |
| 敷地面積 | 409.56㎡ |
| 延床面積 | 155.08㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 施主 | T邸 |
設計者情報
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