
公園の借景が育む明るい生活
ほどよい距離感を実現した二世帯住宅
Wさんが設計を依頼したのは、自然と調和し、気持ちの良い暮らしを実現することに定評のある、m+h(エムアンドエイチ)建築設計スタジオの林さん。公園前という絶好の立地を上手に活かし、光と風、緑の借景をふんだんに取り込み、家族の気持ちも明るくなるような住まいを実現した林さんの家づくりに迫る。
きっかけは一目惚れ?
出会った翌日に設計の依頼
建築条件付きの土地とは、「一定期間内に決められた建築会社で家を建てること」が購入条件となる土地のこと。分譲地を買って、自分の好きな建築家やつながりのある施工会社に依頼をする「注文住宅」ほどの自由度はないが、間取りや、外観・内装の仕様に一定の自由さを得られることが人気の土地の販売方法。
そんな建築条件付きの土地を購入したWさんが、たまたま訪れたのが近所で開かれていたm+h建築設計スタジオの見学会。
対応した林さんにWさんは「すでに建築条件付きの土地を購入しているのだが、設計をお願いできないか?」と声をかけたのだという。
それに対し林さんは「先方が許可していただければ、できなくはないですが、難しいかもしれないですね」と答えたのだという。
「そしたら、翌日再びいらっしゃって、『許可をとったからお願いしたい』と言っていただいたんです」と林さん。
実はWさん。前日の見学会を後にしたその足で、土地の販売会社に赴き「設計をお願いしたい建築家がいるんだけど、設計だけ別なところにお願いしてもよいか?」などと交渉し、「設計だけであれば」と許可を取り付けたのだという。
Wさんは、建築条件付きの土地を購入しているのだから、元々の設計やプランにも納得していたはずだ。そんな中、林さんの物件と出会ったことで、さまざまな素敵な部分をしったり「こんな家にしたい」と思ったことだろう。そして普通の人であれば「もう契約してしまっているし」と諦めたり「こんな要素を取り入れてもらおうか」程度で済ませてしまうに違いない。
しかし、Wさんはそうではなかった。すぐさま交渉しにいくほどの衝動にかられた。それは一目惚れといっていいのかもしれない。そこまでしても実現したいと思わせる魅力が林さんのつくる家にはあるのだ。
こうして、Wさんご家族と林さんの家づくりが始まった。
ほどよい距離感の二世帯を
光導く明るい室内
これは、家族とはいえ生活スタイルが違うため、プライバシーも大切にしたいという思いがある一方、家族の気配が感じられたり、行き来しやすい環境にしたいという思いから。実際、お孫さん達が、1階で過ごすことも多いのだという。
この家をひとことで表すなら「明るく柔らかな優しさに包まれた家」。南面に大きく取られた窓からの光はもちろんのこと、東西南北すべての面に大小様々な窓を設置し、陽光を室内に呼び込む。さらには、上からの光を下に導くよう床に採光窓を設置したり、ロフトの階段をスケルトンにするという工夫も。その光が、柔らかな色調の床のフローリング、壁、天井に反射して、室内全体を優しい空間としてくれている。
光の通り道は、明かりを導くだけのものではない。風の通り道にもなり、さらには向かいにある公園の景色という視線の通り道でもあるのだ。実際、様々なポイントから南面の公園の緑を感じることができる。1階では、ダイニングやソファーに座った視線の先に。2階はキッチンに立ってふと顔を上げた先に。さらには、スタディコーナーで顔を上げると、窓の先に公園の景色が目に入る、絶妙な高さとなっている。
光、風、そして景色。その土地の自然環境を上手に家に取り込む林さんの手腕が、いかんなく発揮されている。
現場にも頻繁に顔をだし、
1つひとつの案件にしっかり寄り添う
林さんが、このように満足度の高い家を実現できる理由の1つが、手間暇を惜しまず1つひとつの案件にしっかりと寄り添う姿勢だ。
施主と密なコミュニケーションをとり、その要望を汲み取り、そしてその要望をただ叶えるのではなく、その期待値を上回る提案をする。また、プランの提案だけでなくインテリア・設備機器などに関してもショールームへ同行することも多々あるのだという。
Wさんも「しっかり話を聞いてくれた」「いろいろ提案してくれた」と林さんの姿勢を高く評価する。林さんにお願いしたいと思った時点では、あくまで過去に手掛けた作品をみた印象だったのかもしれないが、実際に仕事をお願いしてみて「あのときの判断は正しかった」「自分の目に狂いはなかった」と思っているに違いない。
このしっかりと寄り添う姿勢は、施主を相手にしたものだけでない。実際に家をつくる作業をする大工さんや工務店、各種工事業者とも密にコミュニケーションをとるのだという。
「他の設計士さんが現場に訪れるのは、おそらく週1程度かなと思うのですが、私は週3くらい現場へ行きます。自分でも、ちょっと現場に行き過ぎかな?と思うことも多々あり、効率が悪いですね(笑)」と林さんが語るほど、現場に赴く。それは、工事に関わる人々を信用していないのではなく、状況を的確に把握すること、しっかりと作業を見守ること、そして何かあったときの判断を素早く行うため。
林さんがこういう姿勢だからこそ、このW邸の案件のように、これまで一緒に仕事をしてきたことのない工務店との仕事であっても、スムーズに家づくりが行えるのだろう。
「現場の様子を写真にとってメールでお送りすることもよくやります」と林さん。
頻繁に現場に通えずとも、日々出来上がっていく家の様子がわかるのは、施主にとってはうれしいことに違いない。
建築家の仕事は、素敵な家を設計することだけではない。家ができあがるまでを、しっかり監理することも仕事の1つ。施主にとって家づくりは、我が子を育てることのように感じることもあるだろう。林さんは、日々成長していくお施主様の大切な我が子を、しっかりと見守り、適切な監理をして、立派に育ててくれる先生でもあるのだ。
基本データ
| 作品名 | 公園前の2世帯の住まい |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県高浜市 |
| 敷地面積 | 181.12㎡ |
| 延床面積 | 166.45㎡ |
| 家族構成 | 両親+夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | W邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

狭小・密集地でこの開放感! 静かな朝の光と緑があふれる家
30代のご夫婦と小さなお子様2人が住む家が建てられたのは、東京都内の約15坪の敷地。コンパクトな敷地ながら家族が憩う空間は明るい陽光と緑に包まれ、驚くほどの開放感にあふれています。都会の住宅密集地に自然を感じるのびやかな空間をつくり出した、建築家・伊藤悠さんの設計とは?

木製ルーバーが暮らしを守る、中庭でつながった二世帯住宅+アトリエ
笹野さんの自邸『猪高台の家』は、親の住まいと完全に機能を分離した二世帯住宅+建築事務所からなっている。制限の多い土地条件に対して、過剰な3つの空間を収めた間取りと、それでいて採光や通風といった快適さを損なわない住空間。難解なプランを明快な答えへと導いた、笹野さんのユニークかつ的確なアイデアや工夫を紹介します。

築36年の住宅をフル・リノベーション クルマ好きの建築家とつくり上げた「ガレージハウス」
ご両親が長年住んでいた一戸建てを活かし、新たな住まいをつくることを決意した40代のO夫妻。思い入れのある家をフル・リノベーションして誕生したのは、使い勝手のいいガレージと明るいLDKを有する現代的な邸宅だった。築36年の邸宅は、果たしてどのように生まれ変わったのか。設計を担当した高橋貴大一級建築士事務所の高橋さんにお話を伺った。

室内を区切るものは壁ではなく、光と影。 美しい景色を、より魅力的に切り取る家
目の前に広がる田園風景と、裏山の間に位置するE邸。ハナトアーキテクツの保科陽介さんと堤理紗さんは、田園と裏山の空気感を繋ぐような家にしたいと考えた。異なる素材を使い分けて両者の特徴を入れ込んだ室内空間には、夏はひんやり冬暖かくと、快適に暮らせる工夫も隠されている。

うなぎの寝床の敷地がこんなにも明るく 家族もペットもそれぞれが心地よい2世帯
家づくりにおける難しさの1つに土地環境がある。裏を返せば、形状や陽当たりなどが厳しい条件下で、どれだけ快適な家に仕上げるかが、建築家の腕の見せ所。これまで数多くの物件を手掛け、施主の想いに応えてきたef設計の木下さんが挑んだのは、いわゆる「うなぎの寝床」を2世帯住宅へ建て替えるというものだった。

築40年の日本家屋の梁や構造材を活用し 古民家然とした和モダンな家にリフォーム
「新築にはない魅力を引き出すこと」それが建築家・森さんのリフォームへのこだわり。今回紹介するN様邸はリフォームコンクールの受賞作品で、そんな森さんの設計思想を体現した実例。もともと使われていた構造材を活用し、N様の快適な暮らしに適した減築や改修を施して、和モダンな平屋に生まれ変わらせている。

水と森のリゾートに立つハイグレード空間 友人と憩い、趣味を楽しむ山中湖の別邸
建築家の奥野公章さんが手がけた『山中湖の家』は、多趣味な施主さまのための高級感あふれるセカンドハウス。清涼な自然を満喫できる邸内はホテルライクな心地よさが魅力。豊かな居心地を生み出すメリハリの効いた空間設計にも注目だ。

まさか室内に水面!?震災に学んだ、住まいと自然の付き合い方
家の中にプール……ではなく、美しい水をたたえた“水盤”がある。一瞬度肝を抜かれるこの家は、建築家が自邸として建てたもの。さすがは斬新!と思いがちだが、決して奇をてらったわけではない。建築家が水盤を設けたのには、本人なりの強い想い入れがあったからだ。

広さ5m×10mの狭小地で実現 運河の街に溶け込むプライベートサロン
名古屋城の西を流れる堀川沿いに、街の景色に溶け込みながらも、ひときわ心惹かれる小さな建物がある。オーナーであるOさんが移転オープンした、ヘアカットやエステを行うプライベートサロンだ。狭小地ながら室内は非常に開放的で、狭さを感じさせない空間となっている。設計を担当した株式会社S.A.S.archiの佐々木司さんは土地の狭さをどのように克服し、理想のサロンをつくりあげたのだろうか。詳しくお話を伺った。


