
85㎡の大空間ワンルーム。二つの文化を
織り交ぜた、光と風が満ちる大らかな住まい
新しく自宅を持つにあたり、お施主さまが選ばれたのはマンションのフルリノベーション。建築家の川井さんは、ご主人の祖国アフリカと日本、二つのルーツを持つお子さまのため両文化を融合させた家にしたいと考えたという。二つを比べてみると接点も多く見えてきた。川井さんはプランにどう落とし込んだのだろう。
アフリカと日本、二つの文化を融合させ
自分のルーツを誇れる住まいをつくる
マンションをフルリノベーションした「Ubuntu/ウブントゥ(home for bicultural children)」は、85㎡というかなり広い面積を持つワンルーム空間の住宅だ。空間を緩やかに仕切るのは壁と梁で、仕切る扉は最低限しか設けられていない。さらに、その壁や梁は赤土を思わせる左官仕上げが施されている。初めて訪れた人は驚くであろう、特徴的な空間構成と室内の雰囲気の理由は、この家の名前を紐解けば理解できる。
「bicultural」は、「二文化の」「二文化の中で育った」という意味。この家で暮らす、施主であるOさま一家のご主人はアフリカ出身。お子さまは「bicultural children」いわゆるハーフであり、二つの文化に触れながら育つ環境にある。
まだアフリカを訪れたことはなく、日本語を中心とした生活を送っているお子さま。しかし、住まいの中でアフリカの文化や空間性を自然に感じながら育つことで、将来初めてアフリカを訪れたときにも、自分のルーツとして親しみや懐かしさを感じられるようにしたい。お施主さまのそんな思いが、この家づくりの根底にはあった。
好みのスタイルの自宅を持ちたいと相談を受けた川井大樹建築設計事務所の川井大樹さんは、もともと奥さまの友人だったことから、ご家族の背景や思いを以前からよく知っていた。だからこそ、デザインや間取りだけを考えるのではなく、ご家族の背景や価値観まで丁寧に理解した住まいを提案したいと考えたという。
そこでまず、アフリカにおける家族の在り方や伝統的な住まい、暮らし方を調べることから始めたそうだ。見えてきたのは、ともに暮らす一族皆が親であり、子であるという大らかな家族の形だ。「そして複数の家族がひとつの集落で暮らしていることを知りました」と語る。さらに、いくつかの小屋が集まっているが、皆がなんとなく外に出てきて食事をつくったり、子どもが遊んだりしているアフリカの集落を見ているうちに、その姿は日本における長屋のコミュニティにも似ていると気が付いた。
そこまできてはじめて、アフリカと日本、両方の距離感や文化を併せ持った空間にしたいと特徴を落とし込んだファーストプランを提案したという。ただ、「実は最初はもっと個室が多かったんですけど」と川井さん。プランニングの意図を共有し、家づくりに対する意識をすり合わせていくうちに、それならばもっと個室を少なく、もっとこうしてみようか、とお施主さまも積極的に取り組んでくださるようになったのだそうだ。
例えば壁や梁の仕上げは、ルーツを感じつつ成長できるのではと川井さんが提案したが、色合いはご夫婦が最後までこだわり実現したという。また、これらは奥さまと同時期にアフリカにいらした左官アーティストのご友人による手仕事によって完成。アフリカをよく知る人だからこその感触が生まれた。
仕切りのない室内を、今は元気に、自由自在に走り回っているというお子さま。いつかアフリカに立ったとき、いつもアフリカの風が自分の回りに吹いていたことをあらためて発見するのではないだろうか。自分の中に二つの文化が確かに存在することを、成長と共に誇りに思える家。それが「Ubuntu」だ。
「bicultural」は、「二文化の」「二文化の中で育った」という意味。この家で暮らす、施主であるOさま一家のご主人はアフリカ出身。お子さまは「bicultural children」いわゆるハーフであり、二つの文化に触れながら育つ環境にある。
まだアフリカを訪れたことはなく、日本語を中心とした生活を送っているお子さま。しかし、住まいの中でアフリカの文化や空間性を自然に感じながら育つことで、将来初めてアフリカを訪れたときにも、自分のルーツとして親しみや懐かしさを感じられるようにしたい。お施主さまのそんな思いが、この家づくりの根底にはあった。
好みのスタイルの自宅を持ちたいと相談を受けた川井大樹建築設計事務所の川井大樹さんは、もともと奥さまの友人だったことから、ご家族の背景や思いを以前からよく知っていた。だからこそ、デザインや間取りだけを考えるのではなく、ご家族の背景や価値観まで丁寧に理解した住まいを提案したいと考えたという。
そこでまず、アフリカにおける家族の在り方や伝統的な住まい、暮らし方を調べることから始めたそうだ。見えてきたのは、ともに暮らす一族皆が親であり、子であるという大らかな家族の形だ。「そして複数の家族がひとつの集落で暮らしていることを知りました」と語る。さらに、いくつかの小屋が集まっているが、皆がなんとなく外に出てきて食事をつくったり、子どもが遊んだりしているアフリカの集落を見ているうちに、その姿は日本における長屋のコミュニティにも似ていると気が付いた。
そこまできてはじめて、アフリカと日本、両方の距離感や文化を併せ持った空間にしたいと特徴を落とし込んだファーストプランを提案したという。ただ、「実は最初はもっと個室が多かったんですけど」と川井さん。プランニングの意図を共有し、家づくりに対する意識をすり合わせていくうちに、それならばもっと個室を少なく、もっとこうしてみようか、とお施主さまも積極的に取り組んでくださるようになったのだそうだ。
例えば壁や梁の仕上げは、ルーツを感じつつ成長できるのではと川井さんが提案したが、色合いはご夫婦が最後までこだわり実現したという。また、これらは奥さまと同時期にアフリカにいらした左官アーティストのご友人による手仕事によって完成。アフリカをよく知る人だからこその感触が生まれた。
仕切りのない室内を、今は元気に、自由自在に走り回っているというお子さま。いつかアフリカに立ったとき、いつもアフリカの風が自分の回りに吹いていたことをあらためて発見するのではないだろうか。自分の中に二つの文化が確かに存在することを、成長と共に誇りに思える家。それが「Ubuntu」だ。
梁を生かし、壁と組み合わせて空間を仕切る
広い空間でも暮らしやすいワンルームを実現
空間構成も趣も個性的なこの住宅。フルリノベーションするうえで苦心したひとつは、やはり85㎡というその広さで行き止まりのないワンルーム空間をつくることだった。
着目したのは大きな梁だ。天井高は2.5mだが、梁が大きく、その下は1.8mに抑えられていた。解放感と圧迫感が共に存在するメリハリある室内に立ってみると、梁によってすでに室内が3つに分節されているように感じられたという。
そこで川井さんは梁に直交する壁を3枚だけ立て、最小限の要素で居室を緩いつながりを持たせながら仕切ることで、さまざまなエリアをつくり出すことを可能にした。そのうえで、「リビングとは別の位置に子どもの勉強スペースをつくりたい」という要望も踏まえながら、スタディースペースを一体化したダイニングキッチンを計画。全体的な室内の広さとバランスを取り、大きめにつくったとのこと。
さらに、ご希望だったサンルームはバルコニーに面した南側壁面いっぱいに実現している。水回りは西側に配置。ボックスにまとめられているが洗面を通り抜けることができ、ここにも回遊性がある。
間取り図を見ると、居室それぞれにリビングや寝室と名付けられてはいるものの、それはあくまで便宜上のものだと川井さんは言う。いくつか並ぶ小屋と外部が一続きになり、小屋と小屋との間のスペースが自然と何かしらの意味を持つようになる集落のように、この家もお施主さま家族が大きなフィールドとして捉え自らレイアウトし、新たな居場所を発見するようになればと考えている。
例えば、寝室はあるが夫妻はリビングで寝起きするのもよいと考え、デイベッドを取り入れる計画もたてているのだとか。サンルームもカーテンの仕切りによってベランダと一体することもあれば、室内に取り込まれることもある。日本における広縁のようなイメージで、洗濯物がカーテンの向こうで揺れる様子を室内から眺めたり、お茶を飲む場に変化したり。使い方だけでなく、存在自体が流動的に変化する。
パーティーを開くことも多いというお施主さま。他人の目が入ることも考慮し、寝室の前や水回りなどには仕切り戸も用意したが、「もともと友人なので遊びに行くのですが、閉じている所を見たことないんですよね」と川井さん。それこそが、ちょうどいい居心地を演出する仕切り方ができたという証拠に他ならないだろう。
着目したのは大きな梁だ。天井高は2.5mだが、梁が大きく、その下は1.8mに抑えられていた。解放感と圧迫感が共に存在するメリハリある室内に立ってみると、梁によってすでに室内が3つに分節されているように感じられたという。
そこで川井さんは梁に直交する壁を3枚だけ立て、最小限の要素で居室を緩いつながりを持たせながら仕切ることで、さまざまなエリアをつくり出すことを可能にした。そのうえで、「リビングとは別の位置に子どもの勉強スペースをつくりたい」という要望も踏まえながら、スタディースペースを一体化したダイニングキッチンを計画。全体的な室内の広さとバランスを取り、大きめにつくったとのこと。
さらに、ご希望だったサンルームはバルコニーに面した南側壁面いっぱいに実現している。水回りは西側に配置。ボックスにまとめられているが洗面を通り抜けることができ、ここにも回遊性がある。
間取り図を見ると、居室それぞれにリビングや寝室と名付けられてはいるものの、それはあくまで便宜上のものだと川井さんは言う。いくつか並ぶ小屋と外部が一続きになり、小屋と小屋との間のスペースが自然と何かしらの意味を持つようになる集落のように、この家もお施主さま家族が大きなフィールドとして捉え自らレイアウトし、新たな居場所を発見するようになればと考えている。
例えば、寝室はあるが夫妻はリビングで寝起きするのもよいと考え、デイベッドを取り入れる計画もたてているのだとか。サンルームもカーテンの仕切りによってベランダと一体することもあれば、室内に取り込まれることもある。日本における広縁のようなイメージで、洗濯物がカーテンの向こうで揺れる様子を室内から眺めたり、お茶を飲む場に変化したり。使い方だけでなく、存在自体が流動的に変化する。
パーティーを開くことも多いというお施主さま。他人の目が入ることも考慮し、寝室の前や水回りなどには仕切り戸も用意したが、「もともと友人なので遊びに行くのですが、閉じている所を見たことないんですよね」と川井さん。それこそが、ちょうどいい居心地を演出する仕切り方ができたという証拠に他ならないだろう。
三方が開けた角部屋という好条件を生かした
五感の全てで光と風を感じられる家
光と風を感じられる家にしたいとお考えだったお施主さま。川井さんといくつかの物件を検討し、選んだのは北・東・南の3方向が開けた3階にある角部屋だ。畑に隣接している方向があったり、隣に立つのが2階建ての家だったりと、視界は良好。約築40年と若干築古ではあるものの、リノベーションで断熱材をしっかり入れ、また2重窓も採用し暮らしやすい家となった。
梁に直交する壁は、実は3方向から入る光や風を余すことなく室内に取り入れる工夫でもある。「どんなに開口があっても、前に壁が立つことでそれが塞がれてしまいますよね」と川井さん。壁を南北に伸ばして立てることで、室内に駆け抜ける風の流れを確保するとともに、家のそこかしこに日だまりのある、明るく温かな家をつくり上げた。
梁によって天井がふさがれた場所は壁がなく、また壁が立つ部分は上部が開いているおかげで、家の中心部まで光や風が届きやすい室内。奥さまの「自然光が入る場所でメイクをしたい」というご要望も、洗面所が家の中央にあるにもかかわらず、建具を開ければ十分な明るさを確保して叶えることができたとのこと。
南北方向の壁を活用し、大容量の収納も計画。この住宅の意図を維持しながらも、妥協なく暮らしやすさも追及した、「Ubuntu」。新築ではなく、マンションのフルリノベーションによってできたという点にもあらためて驚かされる。
「どんなご要望でも、深堀りすることでお施主さまらしい空間へ変貌する可能性があると信じています」と川井さんは語る。それが本当の話であることは、この家を見れば一目瞭然だ。
梁に直交する壁は、実は3方向から入る光や風を余すことなく室内に取り入れる工夫でもある。「どんなに開口があっても、前に壁が立つことでそれが塞がれてしまいますよね」と川井さん。壁を南北に伸ばして立てることで、室内に駆け抜ける風の流れを確保するとともに、家のそこかしこに日だまりのある、明るく温かな家をつくり上げた。
梁によって天井がふさがれた場所は壁がなく、また壁が立つ部分は上部が開いているおかげで、家の中心部まで光や風が届きやすい室内。奥さまの「自然光が入る場所でメイクをしたい」というご要望も、洗面所が家の中央にあるにもかかわらず、建具を開ければ十分な明るさを確保して叶えることができたとのこと。
南北方向の壁を活用し、大容量の収納も計画。この住宅の意図を維持しながらも、妥協なく暮らしやすさも追及した、「Ubuntu」。新築ではなく、マンションのフルリノベーションによってできたという点にもあらためて驚かされる。
「どんなご要望でも、深堀りすることでお施主さまらしい空間へ変貌する可能性があると信じています」と川井さんは語る。それが本当の話であることは、この家を見れば一目瞭然だ。
基本データ
| 作品名 | Ubuntu(home for bicultural children) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市 |
| 延床面積 | 85㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供1人 |
| 予算 | 1000万円台 |
