
重なりとつながりが家族を包む「ラップハウス」
希望を満たす屋根が生んだ、空間が重なる家
とはいえ、三方を塀で囲むと日当たりも損ない閉塞感がある。そこで大川さんは家をコの字型の中庭形式にし、道路に面した中庭のスペースのみルーバーを設けた。これなら、中庭に出る窓を大きく取っても目線が気にならず、お子さんも安心して遊ばせることができる。
また、S邸は屋根の一部を大きく張り出し、実に表情のある家となっている。その形になった発端にはSさんの希望があった。
「ご主人は将来的に太陽光発電を設置したいとお考えでした。それなら、設置しやすく、より効率よく太陽光を受けられる屋根がいいという話になり、屋根の形が決まりました」
効率的な太陽光発電を実現するには、載せる屋根面積の大きさや方角も重要だが、実は、一番大切なのは角度。そこで、大川さんは南に大きく面した最適な勾配の屋根を考え、それをもとに2階を設計。
「屋根が低くなった部分はそれだけ室内の天井の高さも低くなります。そのため、屋根が低い部分に配置されている1階の玄関、浴室水回りと2階の主寝室の床をできるだけ下げ、部屋の高さを調整しました。逆に高さがある屋根の頂点に近い部分にはリビング、中2階を含む階段やロフトのある子供部屋にあて、一部を吹抜けにしています」
その結果、それぞれの空間が少しずつ高さを変えて重なる、ユニークなデザインとなった。重なりは英語でlap(ラップ)。S邸をラップハウスと命名するきっかけのひとつだ。
高さを変えて重なるスキップフロアの家について大川さんはこう語る。
「S邸のように高低差を大きく取れる場合は、このデザインのメリットを多く受けられます。目線がずれて人と適度な距離が保てるし、目線の高さが違うと部屋も広く見えるんです。また、壁がなくてもコーナー分けがしやすいので、家が広々とおおらかな印象になります。1階と2階に隙間ができるのもメリットですね」
隙間ができると冬場は暖かい空気が逃げてしまい寒いのでは? と懸念してしまうが、どのようなメリットがあるのだろうか?
「その点についてはSさんも心配をしていました。しかし、隙間がありつながっているからこそ空気が循環し、小さなエアコンでも家全体が冬暖かく、夏は涼しくなるんです。1階と2階につながりのある立体ワンルームのようなイメージですね」
立体ワンルームとの言葉通り、1階から2階へ続くリビング内階段の途中には、中2階を用意して本棚をしつらえた。おかげでフロア間が分断されず家族が過ごす空間がゆるやかにつながり、一体感が高まる住まいとなっている。
住みやすさは満たしつつ、アレンジで成長し続ける家
物を分散させたくない奥様のために、中2階下には大きなファミリークローゼットを造り付けた。ここに家族みんなの服を収納しておけば、洗濯物の収納が一度で済み、お子さん2人の着替えもまとめてできる。さらに、手洗い場とリビングをつなぐ場所にあり、帰宅した家族の動線もスムーズに。各部屋に衣類収納をおかなくて済むため、個々の部屋がすっきりするという利点もある。
「造り付けの収納を点在させてしまうとアレンジができません。お子さんの成長などで物が増えた場合は、ご自身で気に入った家具を買っていただくことができます。どういうものがいいか悩んだら相談に乗りますし、手作業が必要なら私も一緒にやりますよ!」
お二人のお子さんが小さいこともあり、子供部屋は大きな一部屋に。部屋の中心に太い梁を渡してあり、お子さんの成長に合わせて分けやすい工夫がなされている。
キッチンはオーダーキッチンを取り入れた。手持ちの家具や家の雰囲気、使う人の身長や生活スタイルに合わせて細かく設計できるため、大川さんの手がける家ではおすすめすることが多いとのこと。オーダーキッチン専門店ではなく、家具屋や工務店にオーダーするので良心的な価格で実現できるそうだ。
また、S邸は一部構造材を出した造りになっているが、これも「家族とともに成長する家」を意識してのことだそう。
「バーやフックを取り付けやすいようにと考えました。『木』ですから難しい工具がいりません。新築の家はなるべく傷つけず、キレイに使う方がほとんどではないでしょうか。でも、私は住む人にアレンジをしてほしい。どんどん釘を打って好きな小物を取り付けて、住む人と一緒に家も成長してくれればと思っています」
小物が好きな奥様は早速アレンジして家を育ててくれている、と大川さんは嬉しそうに語った。
「私は家をつくる過程で、その家のタイトルをつけるんですよ。そうすると、施主様も家づくりに乗ってくるというか、楽しんで参加してくれます。S邸は『ラップハウス』。でも正式には、重なり(lap)・包む(wrap)・おしゃべり(rap)の3つの意味を込めた『ラップラップラップハウス』なんです。面倒なのでまとめて一回になっちゃいましたけど(笑)」
重なりのあるスキップフロア、包み込むような温かな空間、1階と2階がつながり家族のおしゃべりがどこでも感じられる家。さらにlapには「育む環境」という意味もある。「ラップハウス」は、まさにSさんご家族とS邸にぴったりなタイトルとなっている。
【建築家 大川三枝子さんコメント】
私たちの理想の家は工事が終了して完結するものではなく、住む人が手を加え育てていけるものです。ご家族に合ったアレンジができるよう、気軽にご相談いただければと思っています。実際、建築後も連絡をくださる施主様が多いです。Sさんは、今でもアドバイスをさせていただく機会があります。その際、ご家族に合わせて成長している家を見ることができるのも喜びのひとつですね。
基本データ
| 所在地 | 神奈川県茅ケ崎市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 122.14㎡㎡ |
| 延床面積 | 101.76㎡㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 施主 | S邸 |
設計者情報
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