2023年上半期、最も注目を集めた建築家が建てた住宅事例TOP10

建築家ポータルサイト「KLASIC」に掲載されている約500件の実例記事の中から、2023年上半期でユーザーの皆様に最も閲覧された建築事例TOP10をこの特集では紹介させていただきます。
デザイン性に富んでいる実例、独創性を感じられる実例、利便性を追求した実例など、たくさんの魅力が詰まった10邸をゆっくりご覧になって、ぜひみなさまの住まい造りの参考にしてください。

“当たって砕けろ”と人気建築家にチャレンジした結果、 理想以上の家が予算内で。

千葉県我孫子市 / N邸

 家を建てることはもちろん、購入するのも初めてという30代初めの夫婦にとって、“建築家に家を建ててもらう”という選択は、よほど住まいや建築に造詣が深い人でない限りハードルが高いもの。ましてや、夫妻はともにマンション育ち。
「一戸建てに憧れがあったのと、結婚を機に自然環境のよいところで暮らしたいという希望もあったので、家を持つなら一戸建てだと思っていました。でも、一戸建ての住まいの知識はないですし、自分で建てるというのはちょっと遠い出来事というか。
建築家どころかハウスメーカーや工務店で建てることも検討していなかった夫妻だが、
「建て売りを買ったあとに“建築家に建ててもらうっていう選択肢もあったよね”と、後悔するのはイヤだな、と。大きな買い物ですから納得して終わりたいという気持ちがあって。だったら、“当たって砕けろ”じゃないですけど、断ってもらって構わないのでとりあえず話を聞いてもらおうという結論になりました」と、松本さんの事務所にコンタクトをとった。

鉄筋コンクリート構造・地上3階建てなのに2000万円台! 「リブハウス」という名の住宅

東京都小金井市 / U邸

上原邸は鉄筋コンクリート構造・地上3階建てという造りだ。袖壁と梁型で構成される構造フレーム(リブ)から"リブハウス"と名付けられた。1階から3階まで吹き抜け構造になっている。さらに各フロアが6つのエリアに区切られており、仕切る壁や扉がないのだ。その結果、驚くほど開放的な空間が広がっている。

「外部から自然の恩恵をどこまで取り込めるかという点を重視しています。室内を吹き抜けにして、上層階から光を取り入れることで、冬場は少しでも多くの日光を取り込めるようにしてあります。その反面、夏場は室内の熱気を3階にあるトップライトから排出できる構造となっており、吹き抜けでありながら、煙突のような役割を果たしているんです」と上原さんは語ります。

わずか6坪に、4人家族の豊かな住まい。 明るく開放的な「都心のオアシス」

東京都 / NANO OASIS TOKYO

東京などの都市部でよくある、狭小地の家づくり。しかしOASisの岡本浩さんが設計した『NANO OASIS TOKYO』のような「超」がつく狭小地の住宅は、かなり珍しいのではないだろうか。
「光が入り、明るく風通しのよい空間」
「吹抜けとシーリングファン」
「リビングから出られるバルコニー」
「豊富な収納」
「バーベキューができる屋上」などなど……。

なかなかモリモリな要望だが、日頃から「ご要望は全て引き受けたいと思っています」と話す岡本さんは、この難題中の難題を見事にクリア。6坪とは思えない、明るく開放的な住空間をつくっている。

眺望も心地よさもかなえる新発想。 「斜めの空間」の魅力とは?

神奈川県横浜市 / K邸

施主のKさまが横浜市内の高台にあるこの土地を選んだ理由は「眺めの良さ」。街を俯瞰するような広がりのある景色が気に入り、購入を決めたという。

土地探しで協力を得た不動産会社の紹介で設計を担当することになったのは、イノウエヨシムラシタジオ(IYs.inc)の井上亮さんと吉村明さん。洗練されたユニークなデザインと暮らしやすさを両立した家づくりに定評のある2人だ。

Kさまの主な要望は、(1)高台からの眺望を活かす (2)開放的な空間だけでなく、こもった感じの床座のリビングもつくる (3)シンプルでありながらオリジナリティも感じられる住まい の3つだった。

まるで森の中にいるよう。 開放的な空間から庭を楽しむ家

愛知県豊橋市 / F邸

施主であるF様は、植物やそれに合わせたインテリアなど、ライフスタイルを提案するお店を経営されている方。F邸は家の三方を木々が囲み、特に東側には緑地公園の木々が生い茂る、まさにグリーンを扱うF様のお仕事にぴったりな環境に建てられた家といえる。「ゲストに自宅の庭を紹介したい」という要望も叶い、お招きしたゲストとともに庭を楽しみ、にぎやかに、またはゆったりと時間を過ごされる機会も多いのだとか。

hm+architects一級建築士事務所の伊原洋光さん、みどりさん夫妻は、建築予定地を初めて見たとき直感的に家のフォルムのイメージが湧いたという。

ポイントとなったのは敷地の形と、隣接する緑地公園。スロープ状の長い通路を抜けると、東西に長いくさび型の敷地が広がる。敷地の東側には深い森のような緑地公園があり、南側は公園の末端が敷地を縁取るように回り込んでいる。この条件からおふたりが導き出した案は、東西に長く、への字に曲がった家。「公園の緑も庭の一部のように楽しめる、のびのびとした平屋をつくるのがいいのでは」との思いからだった。

海外でも注目される建築美。 内と外がシームレスにつながるのびやかな家

愛知県一宮市 / 今伊勢の家

Y邸は、立ち止まってじっくり見てみたくなる家だ。道路から大胆にセットバックした余裕のある佇まい。ダイナミックな滑り台を思わせる大きな屋根。深く張り出した軒には2カ所の開口があり、前庭の樹木の緑がのぞいて屋根から緑が生えているかのようだ。

ご夫妻と小さなお子さま1人の3人家族が住むこの家を設計したのは、東海エリアをメインに活躍する『川本達也建築設計事務所』の川本達也さん。快適な住み心地とアーティスティックな意匠を兼ね備えた住宅を得意とし、海外でも注目される若手建築家である。

「大開口があって、広く感じられる家」「耐震」というYさまの要望を受け、川本さんがまず考えたのは大開口のあるLDKを1階に配することだった。

あえて選んだのは旗竿地。住宅が密集する エリアで手に入れた、明るく心地よい暮らし

熊本県菊池郡 / 武蔵丘の家

明るく、開放的に暮らしを叶えるために
あえて奥まった旗竿地を選択
玄関を入りLDKまで進むと、2階までの吹き抜けがある伸びやかな空間が広がっている。柔らかな光に満ちており、風も抜けてとても心地いい。庭に面して大きな窓が設けられ、お子さまたちが遊ぶ様子が室内からも見られる。驚くのは、この「武蔵丘の家」が住宅密集地のさらに旗竿地にあることだ。
3区画の一番奥の旗竿地だからこそ、通る人も車も限られておりプライバシーをより一層保つことができたと大谷さん。庭に木を1本植えただけで、道路側からの視線もしっかりと遮ることができた。お子さまたちが安全にのびのびと遊べるのはもちろんのこと、今ではご両親などが遊びにきたとき、玄関からではなく庭を突っ切り、直接リビングの窓を介してやりとりすることもあるのだとか。これも、旗竿地だからこその思わぬ利点だといえるだろう。

実家の裏庭に建坪わずか15坪 五感で楽しむいくつもの居場所

富山県高岡市 / 荻布の家

富山県の北西部に位置し、山と海の豊かな自然に恵まれた県第二の都市高岡市。銅器や漆器といった伝統産業をはじめ、アルミや化学製品といったものづくりが盛んなまちに、その家はある。富山県に拠点を置く建築家、狩野一貴さんの自宅兼アトリエだ。
この家の建坪はわずか15坪。都会では珍しくない広さだが、地方都市である高岡ではこのサイズの狭小住宅はそう多くはないだろう。これには理由がある。それはこの家が、狩野さんの実家の裏庭に建てられているから。この家は玄関を実家と共有し、廊下でつながっているものの、増築部分にはキッチンやお風呂場なども備え、世帯間のプライバシーにも配慮された、独立した生活空間の2世帯住宅となっている。
日本全国で発生している核家族の増加や空き家問題。都会に住む人が地方の実家を持て余すというだけでなく、実家の近くに住んでいる人にとっても起きている問題だ。これに対して、多世代同居は、祖父母や地域住民に子育ての一端を担ってもらうことができ、空き家の発生も防ぐことができる。ライフスタイルを見直した末に、狩野さんが選んだこの「増築」は、子育て世代自らの負担を軽減し、育児環境を充実させるための多くの示唆を含んでいる。

高低差のある土地をあえて活かす 設計の力で、ウイークポイントを強みに

神奈川県川崎市 / 生田の家

神奈川県川崎市の住宅地にK邸はあった。土地の上にぽんと箱を置いたかのような陸屋根のシンプルな外観をもつこの家は、その外見とは裏腹に、複雑かつ計算され尽くした構造をもつ家なのだ。

この家をつくったのは、中尾英己建築設計事務所の中尾さんと重盛さん。中尾英己建築設計事務所のモットーは「シンプルにつくりこむ」だというが、この家はまさにそれを具現化した代表例といえるだろう。

「私たちは、それぞれの土地に合った設計をすることを大切にしています。ウイークポイントとも思える高低差も、その土地の個性なのです。弱点があれば、それをいかに設計の力で解決できるかが腕の見せ所です」と中尾さん。

こだわりをさりげなさで包み込む 「静かにデザイン」された家

愛知県犬山市 / Y邸

施主、Y様からの「佇まいは控えめに、でも他にはない建築を」というご要望を受け、このコンパクトな平屋を設計したのはhm+architects一級建築士事務所の伊原洋光さん、みどりさん夫妻だ。「家のフォルムはかなり検討しました。全体的なバランスはもちろん、なるべく田んぼに影が落ちないよう北側はできるだけ低くしたい、とか考えながら」と、みどりさんがスケッチした家のかたちになるべく沿うように、洋光さんが断面図を描いたのだという。

家そのものの機能・性能が高く、一年を通して過ごしやすいとの声もいただいているそうだ。
夏は風通しがよいばかりか、外壁や屋根に施された換気システムによって室内に熱気がこもりにくい。冬は深夜電力を利用し蓄熱する「サーマスラブ」システムを採用。家中に緩やかな床暖房が効いているようで、土間のコンクリートもはだしで歩けるくらいに温かいというのだから驚きだ。さらに断熱等級4を取得。十分な省エネ効果が発揮されている。