こだわりをさりげなさで包み込む
「静かにデザイン」された家
控えめながら目を引く佇まい
内部空間は暮らしやすさを追求
施主、Y様からの「佇まいは控えめに、でも他にはない建築を」というご要望を受け、このコンパクトな平屋を設計したのはhm+architects一級建築士事務所の伊原洋光さん、みどりさん夫妻だ。「家のフォルムはかなり検討しました。全体的なバランスはもちろん、なるべく田んぼに影が落ちないよう北側はできるだけ低くしたい、とか考えながら」と、みどりさんがスケッチした家のかたちになるべく沿うように、洋光さんが断面図を描いたのだという。
内部空間は、切妻の折れ屋根の角度が切り替わる部分で南北に分け、リビングなどお客様にも向けられた軽やかな空間と、浴室や寝室といったプライベートな空間を区別している。
南側、エントランスとその東側に続く個室1はコンクリート床の土間になっている。「ご夫婦ともに自転車がご趣味で、趣味室的なものも欲しいとのことだったので」とお二人から提案したのだという。仕切りは引き戸で床はフラットなため自転車やベビーカーを乗り入れられて、メンテナンスも室内でできる。現在はキャンプ用品などもセンス良く並び、家族皆で趣味の時間を楽しんでいるそうだ。
ダイニングキッチンから見える西側の眺望も、こだわったポイントのひとつだ。Y邸が立つ場所は奥様の地元。西日の強さを日頃から実感しており西の窓は不要とのことだったが、「眺めが良いからもったいない」と考えた伊原さん夫妻は、高い遮熱・断熱効果を持つLow-E複層ガラスの窓と遮熱ブラインドによる西日対策を提案。暑さや強烈な眩しさで不快になることなく、家の中から四季折々の自然をゆったりと満喫できるようになった。日中は時間の移ろいも感じられ、室内の雰囲気を心地よいものにしている。ご夫妻も、今では窓があってよかったと喜んでくださっており、「今の季節、こんな風景が見えているんです」と写真を送ってきてくださったこともあったとのこと。
家の中心を貫く壁面収納「コモンシェルフ」は、この家で生活するうえで「パブリック」と「プライベート」のエリアを明確に分ける役割を担っていると同時に、利便性も高めている。「各部屋からアクセスしやすい動線上に収納を集約することで、スペースをフレキシブルに使えます」と洋光さん。また、各部屋はこの集約により、すっきり広々とした空間に。部屋による収納の過不足がなく、ライフステージごとに使い方を変えられる。圧倒的な収納力があるのは言わずもがなで、Y様の「アイテムはきれいに片づけ、収納したい」という要望も期待以上に応えられることとなった。
家そのものの機能・性能が高く、一年を通して過ごしやすいとの声もいただいているそうだ。
夏は風通しがよいばかりか、外壁や屋根に施された換気システムによって室内に熱気がこもりにくい。冬は深夜電力を利用し蓄熱する「サーマスラブ」システムを採用。家中に緩やかな床暖房が効いているようで、土間のコンクリートもはだしで歩けるくらいに温かいというのだから驚きだ。さらに断熱等級4を取得。十分な省エネ効果が発揮されている。
公共施設の設計経験を活かし
さりげなく、静かにデザインする
当時は2階建ての家を建てるつもりだったY様。雑談レベルでの相談から計画が進むうち洋光さんたちも1案考えることとなり、提出したのは平屋のプランだった。
「土地にゆとりがあり、必要な部屋数などのご要望から考えても、無理に2階建てにしなくてもいいのでは、と。それに2階建てだとY様がお持ちだった本来のイメージ『コンパクトに、ぽつんと建っている感じ』を表現しにくい。高さが出てしまいますから」と、みどりさん。この案を、Y様ご夫妻が「なに?! このかわいいの!」と大層気に入ってくださり、ご提案したその場で決定してしまった。
平屋は2階建てに比べ、基礎や屋根にコストがかかる。見積もりの時点で予算を少々オーバーしていたが、そこで、独立するまでは公共施設など、規模の大きな設計をすることが多かった伊原さん夫妻だからできるコストカットを実現していく。
まずは、玄関部分の幅をいくらかすぱっと切り落とし、家の東西幅をカット。北側部分はバランスを見ながら限界まで低くした。そのぶん、外壁も内装も材料費がかからなくなるからだ。
断熱材や通気など、目に見えないけれども住みやすさ、心地よさに直結する部分は削らないようにしている。その代わり、内訳を細かくチェックして材料を価格が抑えられた同等品に置き換えたり、数量の調節をしたりしながら全体的なコストを下げていくのだ。
「独立する前は大きな建物をずっとつくってきていて、シビアな減額もやってきました。そういう意味では、経験を活かした自分たちならではのノウハウを持っていると思います」と洋光さん。かといって、工務店を泣かせるようなことはしたくない。この家に関係する誰に対しても無理がないように、ひとつひとつ確認しながら削っていくのだという。「これだけ内訳を細かくチェックされる設計者も珍しいですね」と言われることも少なくないそう。「施主様も、つくる人も、最後は皆でハッピーじゃないと」。そんな気持ちで取り組んでいる。
公共施設などを多く手掛けてきた強みはそれだけではない。公共施設は機能的にもデザイン的にも長持ちしなくてはならず、それは設計者の責任と考え向き合ってきたからこそ、その経験がよりよい家づくりにも活かされている。
「あまりトレンドには乗らずに、本当に使う人が納得して価値が長く続くもの。デザイン的にも道具としても長持ちするもの。一生に何度も作るものではないからほかの人と同じではなく、でも、ただ目立てばいいというものでもない。それが家だと思います」と洋光さんは語る。プランを立てるとき、施主様が何を大事に思っているか、そこを外さないようにしているのだ。「私たちは『静かにデザインする』と言っているのですが」とみどりさん。「これ見よがしにデザインしました、という感じではなく、どちらかというとあまり気が付かない、けれど、プロが見たらわかるかな? 程度の。そういう仕事がしたいです」
Y様ご夫妻が即決されたように、「静かにデザイン」されたものは、おだやかに、それでいてすとんと心に落ちてくる魅力があるのだろう。Y様をはじめ、今まで請け負った多くの施主様たちはおふたりが提出した最初のプランでゴーサインを出しているそうだ。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 愛知県犬山市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 498.5㎡ |
| 延床面積 | 100.15㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | Y邸 |
撮影:Shigeo Ogawa
設計者情報
この建築家が建てた家
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