
異なる街並み、テナントと住居、2つの世帯
全てを調和させた、ストレスなく暮らせる家
【特記事項】本作品は、木島千嘉建築設計事務所と共同設計
団地群と住宅街それぞれにアプローチ
住居の下に独立したテナントをつくる
家は角地にあり、北側には幹線道路が、西側には住宅街への道が通っている。幹線道路越しに高層マンションや団地など大きな建物が並ぶ北側と、主に一戸建てが集まる住宅街の南側。この家を設計した平井直樹建築設計事務所の平井直樹さんは「北と南で街並みの雰囲気が全く違いますが、どちら側に対しても協調性がある家をつくりたいと思いました」と語る。
そこで北面は外壁をフラットに立ち上げ、他の建物と見劣りしない、家全体が1つの大きなボリュームに感じられる外観を計画。逆に南面は小さなブロックを組み合わせたようなデザインで、一戸建ての住宅らしさを打ち出した。
施主であるお母さまが、息子さん夫妻と一緒に暮らすために自宅の建て替えを、と始まった光が丘の家づくり。建て替え前の家と同じように、1階にはテナントを入れ、上の階に3人が住む家を建てたいという要望だった。
平井さんはテナントと住居部分の間でプライバシーを守れるよう配慮し、1つの建物のなかにありながら、ほとんど干渉しないつくりとした。テナントは基本的に北面の幹線道路側からのみ出入りするように計画。ご家族の住居へは屋外階段を上り、西側2階の玄関から入る。
また、北面の外壁は、1階は黒、住居である2・3階を白に塗装した。テナントエリアと住居エリアの色をはっきりと切り替え、視覚的にもテナント部分の独立性を高めている。
お母さまと息子夫婦、2つの世帯を1つに。
シェア部分は時間や頻度も考慮
大切なのは、程よい距離感だと平井さんは言う。住居部分のうち、玄関を入ってすぐのキッチンとダイニングはお母さまとご夫妻でシェア。お母さまは2階で暮らしが完結するよう、その奥に寝室、和室、水回りを設けた。これらをまとめて配置したことで、共用部分のキッチン・ダイニングと「お母さまのスペース」がうまく分けられている。また、ご高齢のお母さまの生活動線が最小限となり、暮らしやすさが増した。
寝室の入り口には大きな引き戸を設けている。「昼間は引き戸を開けておけば2階が1つの大きな空間になり、広々ゆったりと過ごせます。逆に夜は引き戸を閉めると、眠るのにふさわしい落ち着きが得られるのです」と平井さん。
また、和室は吹き抜けとした。天井が高くすっきりとした空間は開放感があり、ハイサイドから光が豊かに入るため冬でも暖かいと、お母さまのお気に入りの場所になっているとのこと。また、吹き抜けの3階部分は仕切らずに開いており、2階と3階でお互いの気配が感じられるのも利点の1つだ。
玄関に接する位置にシューズインクローゼットがあるが、将来を見通し1階2階を行き来するエレベーターに変更できるよう、あらかじめ計画している。
ご夫妻の主な生活空間は3階だ。玄関脇に2階と3階を結ぶ階段があり、お母さまが過ごしているエリアを通らずに玄関と行き来できる。お風呂は入るときに行くだけなので2階の浴室を使うが、トイレは3階にも設置した。
それぞれに違う仕事を持っており、また、在宅ワークが重なることもあるというご夫妻。1つの空間に感じられる2階とは違い、床の高さや視線の方向も利用してリビング、書斎、寝室が明確に区切られている。ひとつひとつの居室にカウンターやテーブルを造り付け、より多くの居場所を確保した3階の空間。ヒアリング時の「同じ場所でずっと仕事をするのも飽きる」というご夫妻の話をさりげなくカバーしている。
1つの家で暮らす3人のために、独立した居場所、シェアする場所を明確に分けただけでなく、シェアする時間やタイミングなど全てにおいて考え抜かれた室内空間。程よい距離感を保ちながら、穏やかに楽しく暮らすことができそうだ。
木造のプランを残したRC造で
ハイデザイン、ハイクオリティな家になる
ならばと、耐火効果も高いコンクリートのRC造に変更することとなったが、室内の設計はできるだけ変更せずに続行した。「それまで詰めていた間取りや室内の雰囲気をお施主の皆さまが気に入ってくださっていたので、残したいなと思いました。ですから、この家は柱が立っているように見える箇所など、RC造っぽくない部分がたくさんあるんですよ」と平井さん。
最たる例が3階の天井だ。木造で計画していたときの勾配天井をそのままコンクリートの打ち放しで表現し、ユニークかつクールな印象を与えている。コンクリートのツルツルした表面を生かした照明の反射と影がすこぶる美しく、3階全体にモダンな高級感がある。
クールでモダンな雰囲気の3階とは変わり、お母さまが暮らす2階は木の質感を生かした温かみある空間。しかし、平井さんが大事にした「程よい距離感」と組み合わさって、1つの家としてそれぞれの空間が呼応するように馴染み、調和がとれている。
快適性や暮らしやすさも抜群。お母さまは普段家の中で過ごされることが多く、ご夫妻の滞在率も高いため、RC造で多くみられる内断熱ではなく、外断熱を採用した。内断熱を施した場合よりも外気温に左右されにくく、一度家の中が適温になるとそれを維持しやすいという。
また、2つの世帯が1つになることを踏まえて2階・3階ともに収納を多く作り付けた。2階はキッチンの収納棚や大容量のクローゼットの他に、小上がりのように計画した和室にも床下収納がある。3階には機能的につくられたウォークインクローゼットや廊下部分を利用した収納棚、3階の中心に島のようにつくられたトイレやウォークインクローゼットの天井の上にもロフトのような感覚で物が置けるようになっている。
2つの異なる周辺環境、テナントと住居、お母さまとご夫妻。光が丘の家を見ていると、区別するために単純に分けたのではなく、むしろ尊重し合うために、緻密な計算のもと必要な距離感をとったのだとわかる。大家さんとテナント、また、暮らし方がある程度確立された世代がともに暮らす家として、ひとつの理想を表現したものがこの光が丘の家だといえるだろう。
基本データ
| 作品名 | 光ヶ丘の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都練馬区 |
| 敷地面積 | 115㎡ |
| 延床面積 | 165㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+母 |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | O邸 |
撮影:淺川 敏
設計者情報
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