LDKから庭までが一続きになる大開口
平屋ならではのデザインで隅々まで明るい家

面積の広い敷地を購入されたお施主さまに、平屋を提案した建築家の石さん。広い家にもかかわらず家中に日の光が届くのは、平屋の特性を生かしたからだという。リゾートホテルのような雰囲気も感じられるLDKで過ごしていると、ここが幹線道路にも面した住宅街にあることを忘れてしまうほどだ。

この建築家に
相談する・
わせる
(無料です)

四角い箱を組み合わせて余白をつくる。
平屋の特性を生かした、周囲に馴染む広い家

兵庫県、瀬戸内海に浮かぶ淡路島。自然が豊富で一年を通して気候もよいこのエリアは、長年、国内有数のリゾート地として高い人気を誇っている。加えて最近では、都市部や県外へのアクセスのしやすさなどから移住先としても注目されるようになってきた。この「淡路島・大磯の平屋」の施主、Nさま夫妻も移住先としてこの地を選ばれたという。

土地探しから始めて購入したのは、高速道路の出入り口にも近い、幹線道路沿いの分譲地。隣り合う2区画をひとつにして、家を新築することに決めた。設計依頼を受けた株式会社seki.designの石憲明さんは、469㎡という広大な敷地を存分に生かせるよう平屋を提案。

敷地が広ければなるべく、と、石さんが平屋を勧める理由は複数あるという。まず建物のフォルムや屋根の形を自由にデザインでき、家の見え方に角度ごとの変化を持たせることができるということ。なにより、長く住むということを考えれば、階段を使わずに暮らせるのは大きな利点だ。

この家も機能ごとにエレメントを4つに分け、それぞれが収まった四角い箱が組み合わさった形にデザイン。角や余白が生まれ、屋根も分かれているおかげで大きな家という印象が薄まり、周囲の環境に圧迫感を与えることなく馴染んでいる。

この家のフォルムは、室内の環境づくりにも大きな役割を果たしている。特に大きな家になればなるほど、家の中央に向かって暗くなりやすいという課題がある。それが、余白に小さな中庭をつくったり、開口部を増やしたりすることで家の隅々まで日射を届けられるようになるのだ。さらに、さまざまな場所、方向に窓があるおかげで家中を風が抜け居心地は極上。

自由度が高い平屋を提案し、ハイセンスなデザインを実現しながら、家の機能性向上も叶えた「淡路島・大磯の平屋」。環境の特性を最大限生かすことを常に考える、石さんが手掛けたからこその家ができたといえるだろう。
  • 外観。画像左に走るのが幹線道路。手前の道路は交通量が少なく南にあたるため、庭は高さ2mのウッドフェンスで囲った南東(画像右)に配置した。豊かに光を取り入れながら視線や騒音を遮っている。さらに、庭の西側に建物を置いたことで、西日もコントロールできるようになった

    外観。画像左に走るのが幹線道路。手前の道路は交通量が少なく南にあたるため、庭は高さ2mのウッドフェンスで囲った南東(画像右)に配置した。豊かに光を取り入れながら視線や騒音を遮っている。さらに、庭の西側に建物を置いたことで、西日もコントロールできるようになった

  • 幹線道路側、西面の外観。中央の扉は玄関。左の白い箱はゲストルーム。ゲストルームの裏には小さな中庭を計画、家の内部に光を届けている。中庭をつくる余白を生む表現ができるのも平屋ならではの利点のひとつ、と石さん。庭に面した南側とは建物の見え方が異なるのもおもしろい

    幹線道路側、西面の外観。中央の扉は玄関。左の白い箱はゲストルーム。ゲストルームの裏には小さな中庭を計画、家の内部に光を届けている。中庭をつくる余白を生む表現ができるのも平屋ならではの利点のひとつ、と石さん。庭に面した南側とは建物の見え方が異なるのもおもしろい

  • 家を上空から見る。クローゼット、ゲストルーム、水回り、居住空間とエレメントごとに分け、それぞれを収めた箱を組み合わせたフォルム。それによってできた余白に大小2つの庭を計画した。黒い屋根部分が寛ぎの場。左に走る幹線道路から離し、プライバシーを確保した

    家を上空から見る。クローゼット、ゲストルーム、水回り、居住空間とエレメントごとに分け、それぞれを収めた箱を組み合わせたフォルム。それによってできた余白に大小2つの庭を計画した。黒い屋根部分が寛ぎの場。左に走る幹線道路から離し、プライバシーを確保した

  • 家に合わせ、玄関も広々と計画。家に入った瞬間に前面の開口から中庭が目に入り、贅沢な家だと感じられる

    家に合わせ、玄関も広々と計画。家に入った瞬間に前面の開口から中庭が目に入り、贅沢な家だと感じられる

道路からLDKと庭を離しプライバシー確保
リゾートのような解放感を味わう広々LDK

「淡路島・大磯の平屋」は角地にある。接する2つの道路のうち1つは幹線道路で、交通量も多く騒音とプライバシーに配慮する必要がある。

「視線や音を遮りながら広い庭をつくることを第一に考えました」と石さん。さらに、幹線道路からの見栄えを整えることや、お施主さまや来客用の駐車スペースはゆとりを持って配置することにも重きを置きながら計画を進めた。

完成したのは、幹線道路が走る西から東に向かって長く伸びる家。もう1本の交通量が少ない道路は南側に面していることから、大きな庭を家の奥にあたる南東に計画した。南の道路を挟んだ向かいには家が建っているが、2階に開放的な窓は計画されておらず、庭では上からの視線を気にせず過ごせる。一方、幹線道路からは距離が離れているおかげで、音や視線を遮ることが可能となった。さらに、庭に差し込む夏の厳しい西日も、建物の配置によってカットされているという。

快適に過ごせる広々とした庭は、これまたゆったりとしたL字型のテラスに囲まれている。テラスに面しているのはLDKと主寝室。日々の暮らしの中で一番長く過ごす場所であるこの2つの居室からは、いつでも庭と自分の家が眺められる。LDKは明るく開放的に、主寝室は少し落ち着いた雰囲気にとそれぞれに合わせた居心地をつくり、庭を存分に楽しめる環境を整えた。

庭に向かって一面を大開口したLDKは天井も高く、この家の最も魅力的な場所だ。広さはなんと34帖。窓からはソファやテーブルを置いてもまだ余裕がある幅広のテラスがシームレスに繋がり、さらに庭へと続いていく。窓は全て壁に引き込むことができ、余計なものが目に入ることなく視線がどこまでも伸びる感覚は、まるでリゾートホテルにいるかのよう。

暮らしやすさにこだわり、庭には人工芝を取り入れ、テラスはウッドデッキ風のパネル、LDKの床はタイルを採用。一緒に暮らすワンちゃんが庭を駆け回り、室内にそのまま入って来ても掃除が楽々できるのが嬉しい。パネルはウッドデッキに比べてメンテナンスの必要性や手間が少ない点も、お施主さまに喜ばれたポイントのひとつだ。

「庭越しにお互いの部屋が見えるのもいいですよね」と石さん。せっかくこだわり抜いて建てた家なのだから、落ち着いて眺め、味わってほしいとの思いがある。夫婦2人で、ワンちゃんと一緒に、お客さまをお迎えしたときも、ふと、いい家ができてよかったと実感する。長く暮らせば暮らすほど、この家の魅力は増すばかりだ。
  • ゲストルーム前からLDK方向を見る。右の仕切り戸はシューズクローゼットのもの。シューズクローゼットからは廊下以外に、主寝室やウォークインクローゼットにもアクセスできる。廊下とLDKを仕切る扉はガラス戸としたうえ、天井右側にラインで走る照明を取り入れ奥行きを強調

    ゲストルーム前からLDK方向を見る。右の仕切り戸はシューズクローゼットのもの。シューズクローゼットからは廊下以外に、主寝室やウォークインクローゼットにもアクセスできる。廊下とLDKを仕切る扉はガラス戸としたうえ、天井右側にラインで走る照明を取り入れ奥行きを強調

  • パントリー。撮影位置の左に洗濯機があり洗濯室を兼ねている。来客も使用する洗面脱衣室から生活感を排除

    パントリー。撮影位置の左に洗濯機があり洗濯室を兼ねている。来客も使用する洗面脱衣室から生活感を排除

  • 洗面脱衣室、浴室(右奥)。洗濯機を隣接するパントリーに置き、家事動線を短縮しつつ生活感を排除した

    洗面脱衣室、浴室(右奥)。洗濯機を隣接するパントリーに置き、家事動線を短縮しつつ生活感を排除した

  • トイレ。左奥のスリットから中庭の光が漏れ入る。日射の変化により壁面の表情も変わる、高級感ある仕上がり

    トイレ。左奥のスリットから中庭の光が漏れ入る。日射の変化により壁面の表情も変わる、高級感ある仕上がり

廊下に機能を持たせ、動線そのものも短縮。
広い敷地を生かし切った暮らしやすい家

広い家になればなるほど、移動距離も長くなる。せっかく面積が広くても、長い廊下が増えれば居室はその分面積を削られてしまう。広い面積をきちんと広く生かし切るためには、廊下に何かを兼ねさせることが重要だと石さんは語る。

そこで、玄関から主寝室へ向かう廊下をシューズクローゼットとして活用。それだけではない。仕切り戸は主寝室以外にも水回りへ、またウォークインクローゼット方向へと複数計画し、収納や身支度のための動線そのものを短縮した。旅行やご主人の出張が多いというお施主さま夫妻。必要なものが全部玄関付近に集められているおかげで、支度がとても楽になったと感じられているそうだ。

家事動線もコンパクトにまとめた。特筆すべきなのは、同時に来客が多いこの家ならではの工夫がされている点だ。洗面脱衣室からパントリーを抜け、LDKに抜ける動線を計画したうえで、洗濯機をパントリー側に配置したのだ。来客時にはパントリーとの仕切りを閉じれば生活感が排除できる。

水回りは玄関脇に設けられたゲストルームから、小さな中庭を挟んで計画。水回りは主寝室からも近い場所にあるのだが、配置の妙でお互いが干渉しにくい。また、小さな中庭はゲストルームのほかに玄関や浴室にも面しており、日射を届けている。雰囲気よく植栽が施されている中庭。帰宅時や入浴中など、折々に贅沢な気分が味わえるに違いない。さらに「夜も木々を照らすライトの光が室内に入りますから、一日を通して明るくできます」と石さん。

「淡路島・大磯の平屋」を見ると、デザインや工夫のひとつひとつが周辺環境との調和、暮らしやすさ、心地よさなど全てに繋がっているのがわかる。「この場所に住まう」ことを常に考え、丁寧に敷地と向き合う石さんのプランニング。お施主さまのように、移住し新しい土地で暮らすための家づくりをしたい人にとって、石さんは心強い存在に違いない。



撮影者:福澤 昭嘉
  • 主寝室。床や壁に暗目の色を選び、夜間は高級感あるしっとりした雰囲気を楽しめるようにした。奥へ進むとシューズクローゼットやウォークインクローゼットに直接アクセスできる。背面は広々とした庭があり、LDKまで見通せる。自分の家を眺めくつろぐひとときは贅沢極まりない

    主寝室。床や壁に暗目の色を選び、夜間は高級感あるしっとりした雰囲気を楽しめるようにした。奥へ進むとシューズクローゼットやウォークインクローゼットに直接アクセスできる。背面は広々とした庭があり、LDKまで見通せる。自分の家を眺めくつろぐひとときは贅沢極まりない

  • LDKから庭を見る。柱ひとつない大開口は平屋だからこそ実現した。テラスの幅が広く、リビングの一部としても捉えられるためさらなる広さが実感できる。庭に面した道路は交通量が少なく静か

    LDKから庭を見る。柱ひとつない大開口は平屋だからこそ実現した。テラスの幅が広く、リビングの一部としても捉えられるためさらなる広さが実感できる。庭に面した道路は交通量が少なく静か

  • L字のテラスからLDKや庭を見渡す。正面は主寝室。テラスに張り出した庇は季節ごとの太陽高度を計算したうえで深さを計画。LDKも主寝室も一年を通して過ごしやすい。テラスは木目調パネル、LDKの床はタイルを取り入れたおかげで掃除しやすく、庭との行き来が気軽になった

    L字のテラスからLDKや庭を見渡す。正面は主寝室。テラスに張り出した庇は季節ごとの太陽高度を計算したうえで深さを計画。LDKも主寝室も一年を通して過ごしやすい。テラスは木目調パネル、LDKの床はタイルを取り入れたおかげで掃除しやすく、庭との行き来が気軽になった

  • 庭から建物を見る。住宅地の一角とは信じられない、リゾートホテルのような雰囲気。建物で西日を遮り、さらに深い庇により日射をコントロールしている。おかげでテラス部分も居場所のひとつになった。隣家が迫る奥側にもハイサイドライトを計画、一年を通して全体に明るくなる

    庭から建物を見る。住宅地の一角とは信じられない、リゾートホテルのような雰囲気。建物で西日を遮り、さらに深い庇により日射をコントロールしている。おかげでテラス部分も居場所のひとつになった。隣家が迫る奥側にもハイサイドライトを計画、一年を通して全体に明るくなる

  • LDK(左)、テラス(右)。勾配天井は最高3.7mの天井高があり、開放感抜群。天井に極力照明を設けず、ライン状に配置した間接照明によって明るさの確保とデザイン性を両立させた

    LDK(左)、テラス(右)。勾配天井は最高3.7mの天井高があり、開放感抜群。天井に極力照明を設けず、ライン状に配置した間接照明によって明るさの確保とデザイン性を両立させた

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
淡路島・大磯の平屋
施主
N邸
所在地
兵庫県淡路市
家族構成
夫婦
敷地面積
469㎡
延床面積
151㎡