
「素直な設計」から生まれる個性が魅力。
光と緑に包まれたヘアサロン併用住宅
屋根が斜めにかかった、かわいい外観。
演出効果も機能も備えた共用ホールが魅力的
場所は愛知県日進市の住宅街。木造2階建ての『晴るる』の外観は、どことなく愛嬌があってかわいい。屋根が少し斜めにかかっていて、なんだか、家がベレー帽をかぶったような愛らしさ。シンプルで洗練されているがさりげなくエッジの効いたデザインで、店舗として「目に留まる」役割を十分に果たしている。
玄関は、家もサロンも切り盛りする奥さまの「全体を管理しやすくしたいから、入口は1つに」との要望に応えて1カ所のみ。玄関ドアを開けると土間の共用ホールが広がり、ここからサロン、住宅へと動線が分かれるのだが、このホールがいい。天井の高い吹抜けで上部までガラス窓になっており、上方には爽やかな青い空。坪庭風にコの字で囲われた前庭の緑も見える半戸外空間で、思いがけない開放感になんだかうれしくなってしまう。
この共用ホールに入ってすぐの右手はサロンへの入口で、住宅の入口は、サロンに向かう人からは見えにくい左手の奥まったところにある。心地よい開放感だけでなく、プライバシーを守るための配慮も万全。シンプルでクセがないけれど、演出効果も機能も秀逸な藤岡さんの設計の魅力が端的に表れていて、邸内への期待をいちだんと高めてくれる。
開放感とプライバシーを両立させたサロン。
緑や景色を生かしたLDK、趣味の書斎も
まず、道路側に位置するヘアサロン。「開放的で心地よく、でも、外から丸見えにならないように配慮しました」という藤岡さんの言葉通り、「中の見え方」が絶妙だ。道路側の窓は小さな横長の地窓のみ。足元しか見えないが店舗だと瞬時にわかるし、中の様子も感じられて安心する。それでいて人の顔までは見えず、サロンに訪れたお客さまのプライバシーを守っている。
道路側からの「閉じた印象」をいい意味で裏切る開放的な居心地も、このサロンの魅力だろう。天井は吹抜けで高さがあり、空を望むハイサイドライトも。道路と逆サイドの壁には大窓があって前庭の緑が見え、リラックスして施術を受けられる。
内装は奥さまの要望に沿い、白、グレー、木をバランスよく組み合わせたシックでナチュラルなテイストだ。もちろん藤岡さんのセンスも随所に生きていて、この空間の顔となるグレーの大壁は構造の柱を見せる「現し仕上げ」で木の風合いをプラス。少しマニアックな話だが、こういう大空間の壁は太い柱で支え、柱を壁で覆って隠すのが一般的。しかし藤岡さんは構造計算の専門家とじっくり検討し、細い柱が等間隔に並ぶ美しい構造で壁を支え、それをあえて見せることで空間のデザイン性を高めている。
次に、住宅部分も見てみよう。1階にあるLDKは、眺望がひらけた東側の風景を見渡すパノラマ窓や、吹抜けの高天井が心地よい開放的な大空間。「キッチンの居心地を良くしたい」という奥さまの要望に応えたアイランドキッチンはゆったりと快適で、屋外の光や緑も視界に入り心がホッと癒やされる。
同時に、このキッチンは邸内全体に目が届くように計画されていることも見逃せない。LDKはもちろん、隣の和室で遊ぶお子さまの姿も見えるし、住宅入口の引き戸を開放すれば共用ホールまで見通せて、サロンの様子もわかる。さらには、吹抜けを介して2階にいる家族の気配も伝わってきて、自宅で仕事も家事もこなす人には理想的なキッチンといえる。
2階にあるご主人の書斎も、趣味部屋への憧れを刺激される魅力的な空間だ。ここはスニーカーなどを集めるのがお好きなご主人が自分の時間を過ごしたり、コレクションを並べたりするスペース。ご主人のデスク周りはコンパクトだが1階に面した窓があり、階下の家族と会話も可能。眺めの良い東側にはピクチャーウインドー的な窓も設けられ、こもり感と開放感、そして家族の一体感のさじ加減が絶妙な空間となっている。
素直なデザインこそが、唯一無二を生む。
何十年も愛せる「かざらない空間」
「住宅は何十年も使い続けていくもの。長い年月の間にはライフスタイルや好みも変化するでしょう。その変化に寄り添って生活を豊かにするような、かざらない空間を目指しています」
実際、お話を伺っていると、藤岡さんの口からは「かざらない」「シンプル」「素直」といった言葉がよく出てくる。設計時は施主の要望や周辺環境を丁寧に読み解き、それらに素直に従って各スペースのボリュームや窓配置を決めていくのが藤岡さんのスタイル。そうすると空間ごとの天井の高さや横幅などがチグハグになるが、藤岡さんは、そのチグハグさを生かして魅力的な建築に仕立てるチカラがすごい。
冒頭でご紹介した、この家のかわいい外観などはその好例。各空間への要望を1つずつかなえ、最後にバランスを取った結果だというが、出来栄えが素晴らし過ぎるのは見ての通り。チグハグな空間を並べてできた空きスペースを坪庭に活用し、邸内のどこにいても緑が見えるように計画するなど、藤岡さんの「チグハグ活用法」とでもいうべきアイデアには感服してしまう。
また、素直でかざらないのに不思議と洗練されて人目を引く作風は「住宅っぽくない」「お店みたい」という表現がぴったりで、店舗の設計・デザインを多く手がけてきた藤岡さんのキャリアと無関係とは思えない。だが、「個人的には住宅の設計も大好きです」と藤岡さん。住まいについて思いをめぐらせ、ものごとを決定していく道のりを施主自身が大変と感じない、「楽しい家づくり」を目指しているという。
その一環として力を入れているのが、完成形をリアルにイメージできる模型やCGの活用だ。「イメージが具体的になると施主さまご自身からさらなるアイデアが出てきて、『一緒につくっている』と実感していただけることが多いんです。やりがいや楽しさが増しますし、愛着もいっそう深まるように思います」と藤岡さん。
肩ひじ張らずに話せる雰囲気の藤岡さんに、住まいへのこんな思いやあんな思いを聞いてもらい、提示してくれるアイデアやセンスに感嘆し、模型やGCに心を躍らせて新生活に思いを馳せる──。5年後、10年後に振り返ったとき、完成に向けて一緒に走り抜けた時間さえも懐かしく、愛おしい。藤岡さんとならそんな家づくりができそうだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | I邸『晴るる』 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県日進市 |
| 敷地面積 | 224.85㎡ |
| 延床面積 | 137.89㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
撮影:photo@ToLoLo studio
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

施主と建築家の信頼関係があればこそ実現!2年の歳月を掛け、こだわりが凝縮した住宅
注文住宅の魅力とは、「自分たちのために、世界に1つだけの家が建てられる」ことに尽きるのではないでしょうか?間取り、素材、内外装のデザイン等々…。人が家にあわせるのではなく、自分たちのライフスタイルにあった家を創造できる、まさにフルオーダーメイドの住まいといえます。そして、住む人の理想を具現化していくのが建築家の役割です。今回は、こだわりのある施主と、この家を手掛けた上原和建築研究所代表・上原和さんが築き上げた、お二人のゆるぎない信頼関係があればこそ実現した家づくりをご紹介します。

料理も空間も評判の、居心地満点レストラン 理想の生活と仕事を両立させた店舗併用住宅
開放的な子世帯と、レトロモダンな親世帯。そして、ホッと和める居心地の良いレストラン。異なる3つの世界を備えた店舗併用住宅を設計したのは、コーデザインスタジオの小嶋直さん。公私を共存させつつ世界観はしっかり分けたプランニングの魅力に迫る。

世界的なアーチストの家に学ぶ?!真似したい住みやすさとは
目指したのは、いい絵が描ける仕事場と快適に暮らせる住居の両立。住まい手への丁寧な心遣いが、画家の創作活動を支える上質なアトリエ住宅を生みだしました。

日当たり良好 さまざまな窓が生み出す 「開かれた家」の居心地の良さ
住宅の顔ともいえる窓は。窓の大きさや数、形によってその家の印象はもとより、暮らしやすさにも左右する重要なアイテム。大きな窓をはじめとした、さまざまな窓で、陽当りや開放感を実現し、居心地の良い家を作ったのは、伊藤明良一級建築士事務所の伊藤さん。つい長居したくなる、この家の秘密に迫る。

建てる前に知っておきたい!「本当に快適な家」のつくり方
家を建てるなら、こんな間取りでこんな床。窓はこうして照明は…。多くの場合、インテリアの延長で家への夢を描きがちだが、長く快適に住むには機能性も大事。天井高約5mの開放的なリビングのある住まいを建てたC様ご一家は、建築家・関太一さんとの出会いで「あること」への意識が高まり、想像をはるかに超える住み心地の良さを実現。プロのアドバイスがなければなかなか気づかない、その「あること」とは?

家の価値は広さや部屋数ではない 中庭が生み出した、自然とつながる家
どこか懐かしさを感じさせるけどオシャレ。新築なのにずっと前からそこにあったように感じる。住まう人・訪れる人をほっこりさせ、自然体でいられる家を作ったのは、橋野文設計事務所の橋野さんでした。

360度の大パノラマ!眺望を心ゆくまで楽しめる鎌倉の高台に建つ家
鎌倉の高台にある敷地に住まいを構えるD邸。自然に囲まれたエリアに調和しつつも、斜めに傾斜した1枚屋根の外観が特徴的だ。自然とともに生きるライフスタイルが信条だという、Dさんご夫妻の住まいを手掛けたのは、横山浩介建築設計事務所代表の横山浩介さん。施主であるDさんご夫妻の想いと、立地を活かした横山さんならではのプランニングが見事に結実した住まいをご紹介します。

普段の提案をさらに探求し、実現した自邸 自分の居場所をそれぞれが見つける家
「美住のすまい」は、いのはな建築事務所の鈴木さん夫妻の自邸。普段お施主さまへの提案する事柄をさらに突き詰め、表現した家だ。コスト感にこだわり、メリットとデメリットを見極め適正な土地を選ぶことから、素材選びや間取りなどひとつひとつを吟味して、ライフスタイルに合った家をつくり上げた。

猫たちも大満足の工夫がいっぱい。 お気に入りの家具も似合う家をローコストで
「ユウ建築設計室」の吉田祐介さんが手がけたこの家は、2匹の猫と暮らすOさま一家の住 まい。邸内には、猫と人間が楽しく暮らせる工夫が盛りだくさん。猫の習性に配慮しつつ 内装デザインにもこだわり、風合いのある家具が映える素敵な空間が完成した。
