
施主と建築家の信頼関係があればこそ実現!
2年の歳月を掛け、こだわりが凝縮した住宅
施主様からのご要望とこだわりにとことん向き合い、そしてていねいに整理していく
「このK邸は、ご主人であるKさんが主導して進められました。Kさんはモノに対するこだわりが強く、さらに家をつくるうえで譲れない条件がいくつもありました。私はマジシャンではない(笑)ので、施主様が求めるすべてのご要望をかなえることはできません。そこで思うことがあります。注文住宅をつくるうえで大切なことは、施主の方のご要望をひとつずつきちんと整理していくことだと思うんです」と語るのは、上原和建築研究所代表の上原和さんだ。
自分たちだけのために、フルオーダーメイドで注文住宅をつくる。そんな機会は、一生のうちに何度も訪れるものではないだろう。そうなると、さまざまな要素を盛り込みたくなるのは、施主の立場からすると自然な欲求かもしれない。例えば、大きな部屋がいくつもある家が欲しいとする。しかし実際には、敷地面積や予算、周辺の環境、法的な制約など、あらゆる条件をクリアしたうえで実現することが可能かどうか見極める必要がある。それをひとつずつ整理し、クリアにしていくことも上原さんの仕事のひとつだ。
「Kさんのご要望は、広いLDK、ご夫婦のベッドルーム、3人のお子様の部屋、仕事部屋にあたるワークルーム、体を鍛えるトレーニングルーム、クルマを駐車するビルトインガレージ、そして厳選された素材を用いた家づくり…。さらに法律面をクリアしつつ、予算内に収めたうえで図面に落とし込んでいくことを求められました。今回は、そんなあらゆる要素を整理して形にした代表的な例かもしれません」と上原さん。
「Kさんは、単に最高級・最高峰の材料を選んで家を建てればそれでよいというお考えではなかったのです。そのため、綿密にプランを練りました。その結果、平成27年5月頃から設計をはじめて、図面が完成したのは1年3カ月後の平成28年8月でした。工事期間は1年1カ月を要したので、トータルで2年越えるプロジェクトとなりましたね」と上原さんは語る。
施主様と建築家のゆるぎない信頼関係があればこそ、理想の家づくりは実現する
「例えば、リビングの化粧梁はヒノキの丸太を使っています。また、天井面の梁と梁の間に張っている板ですが、通常はシナを選ぶことが多いんです。しかしK邸では、決して安価ではないメープルの合板を選んでいます。フローリングもナラの無垢材で、厚さが15ミリもあります。お風呂には、私が知る限りではもっとも良いと思われる十和田石を使っています。なかでも外壁のタイルはKさんが本当にこだわりまして、「森鴎外記念館」の外壁をモチーフにつくられた特注の磁器タイルなんです。老舗タイルメーカーさんである国代耐火(株式会社国代耐火工業所)さんにKさんと私が赴き、半畳ぐらいのサンプルを5回くらい製作して、ようやくご納得のいくタイルができあがりました。天候や日の当たり方などで変わるタイルの色合いに至るまで、徹底的にこだわっていらっしゃいました」と上原さん。
K邸の外観の特徴のひとつに、大きな開口部が挙げられる。外からは見えにくくなっているが、ここはウッドデッキなのだ。そして今回、必須要件だったビルトインガレージのシャッターも、建物の外観にマッチするものを選んでいるこだわりようだ。
K邸の1階は、メインベッドルームとベッドルーム、あとはトイレおよび洗面所、玄関、駐車スペースという構成だ。「メインベッドルームはKさんご夫妻の寝室です。もう1つのベッドルームは、3人のお子さまの寝室です。上の2人のお子さまが女の子、末っ子が男の子なんです。3人ともまだ小さいので、今のところは同じ部屋に寝ても平気だと思いますが、大きくなったら部屋を分ける必要があるはずです。そこで将来的には、地下にあるワークルームを改装して子ども部屋にすることを想定しています」と上原さん。
K邸の2階は、26畳を越えるLDK、サービスルーム、ウッドデッキ、そして1.5畳ほどのバルコニーという構成だ。上原さんによると「LDKにあるヒノキの丸太や梁の部分にアクセントを入れてあります。具体的には、丸太の両端の接合部を少し削ることで、建築デザインの大事な要素のひとつである"浮遊感"を演出しています。梁の部分も、実は2本を1本にまとめたように映るかもしれません。しかし、実際には真ん中を削って細くに見えるようにしているんですね。これが"軽快感"を生み出しています」とのことだ。
そしてK邸の地下は14.7畳のワークルーム、11畳のトレーニングルーム、バスルーム、トイレや脱衣所などのユーティリティスペース、屋外は約8畳のドライエリア(ウッドデッキ)という構成だ。「ワークルームにはトップライトを設けてあるので、外光もしっかりと取り込めます。またトレーニングルームは、トライアスロンを楽しむKさんが筋トレをしたり、ボクササイズを行うスペースとしてつくりました。屋外のドライエリアからトライアスロン用のロードレーサーをこの部屋に持ち込むことも可能です」と上原さんは語る。
施主であるKさんの思いが反映されているK邸だが、完成に至るまでのことを改めて上原さんに振り返っていただいた。「最終的な仕様はKさんが決められることはもちろんですが、"どれが一番いいと思いますか?"って聞いてくださるんです。仕上げに関することや建築関連の素材ともなれば、一般の方には分からないことが多々あるはずです。Kさんはこだわりの強い方でありつつも、プロの意見はきちんとくみ取ってくださる方なんです。私もKさんのこだわりから気づいたことや、得られたものがたくさんあります。お互いをリスペクトし、意思を尊重したからこそ、さらに、揺るぎない信頼関係を構築できたからK邸という、唯一無二のお住まいが完成したのだと思います」と上原さんは語ります。
自分たちのためだけの理想の住まいを手に入れたい。しかし、すべての要件をかなえることは難しい場合もあるだろう。そんなときに頼れるのが、上原さんのような建築家の存在だ。施主の方が潜在的に求めているもの、はっきりとイメージできないものを引き出し、整理し、そして形にしてくれる。建築家と施主との間に揺るぎない信頼関係を築き上げることが、理想の住まいづくりの第一歩かもしれない。
共同設計者:野村庸高
間取り図
基本データ
| 所在地 | 東京都 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦+子ども3人 |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | K邸 |
撮影:鳥村鋼一
設計者情報
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