
スケール感あふれる吹抜け空間でかなえた、
光と空がきらめく「緑と戯れる家」
天井に植物と青空を映し出し、
至るところで緑を楽しめる住まいに
かまくらスタジオの福井啓介さんと森川啓介さんが、植物が好きなHさま夫妻のためにつくった家は、そんな想像をはるかに超えるものだった。「直接見る実像の緑」と「鏡面に映る虚像の緑」、この2つの方法で植物を楽しめる住宅なのだ。
とはいえ、「実像の緑」「虚像の緑」とはどういうことか。想像を超えるだけに見当がつかないが、実際に訪れるとその意味がよくわかる。
H邸は、家全体が大きなワンルームのように設計された2階建て。1階は床面積の約半分に和室・寝室・水まわりが並んでおり、残り半分がスケール感あふれる吹抜けのLDK。2階がオープンになった吹抜けなので邸内の一体感が高く、日当たりのよい2階に鉢植え植物を置くと1階からもよく見える。これが、「直接見る実像の緑」だ。
普通ならこれで満足しそうだが、かまくらスタジオの2人は違っていた。2階から1階LDKへゆるやかに下がる勾配天井を鏡面仕上げにし、2階の植物が映り込むようにしたのだ。大空間を覆う天井に映る植物は、当然ながら邸内の至るところで目に入る。これが「鏡面に映る虚像の緑」である。
LDKに入ると吹抜けを介して2階の豊かな緑が見え、真上の天井にもきらめく緑。しかも、この天井には2階テラスの白壁に反射する青空も映り、グリーンとブルーの万華鏡のような華やかさ。不思議な開放感と美しさで、心がすうっと落ち着くミュージアムのような空間となっている。
要望の一歩先を行き、
さまざまな配慮を詰め込んだシンプル空間
H邸の場合は、邸内の温熱環境もその1つだった。当初、Hさまは床暖房を希望。本来なら希望通り床暖房を入れればいい話だが、福井さんと森川さんは「なぜ床暖房を望むのか」もヒアリング。持病があってヒートショックのリスクを低減したいというHさまの思いを知った。
そこで2人は、床暖房だけでなく家そのものの断熱を強化し、吹抜けもつくって家全体を大きなワンルームのようにするシンプルな間取りを提案。どのスペースも同じ温度をキープできる造りにすることで、温度差がご法度のヒートショックを根本解決しようというわけだ。
「冬は暖かく、しっかりとした断熱のおかげで夏も涼しいです。窓の開閉で風もよく通って快適です」とHさま。そういえば、H邸を大きなワンルーム風に設計したのは、いろいろなところで緑を楽しむためだったはず。それが、実はHさまの健康を守る温熱環境という目的もあったとは……。一見すると極めてシンプルな空間は、暮らしの楽しみや機能まで、二重にも三重にも考え尽くした結果なのだと感動する。
人を惹きつける独創性と頼れる知見。
「ダメかも」と思う家づくりの救世主
H邸の立地は、下町情緒漂う東京の住宅街。雪のように白く極限まですっきりとした外観は、法規的に必要だった敷地内の空きスペースのおかげですっきり感が際立ち、密集地のオアシスのような存在となった。さらに、夜はテラスの照明が暗い空に向かってふわんと広がり、かぐや姫でもいるのではないかと思うほど神秘的。「どんなお宅なのですか?」と聞かれることも多く、Hさまも大変気に入ってくださっているという。
「建築家の注文住宅をお考えの施主さまは、ご自分でイメージをもちつつも、それを超える何かを期待する方が多いと感じます。ですから施主さまの想像を超えるものをご提供したいですし、設計する僕ら自身の想像も超えるくらい、心豊かに暮らせる住まいをおつくりしたいと思っています」と森川さん。
福井さんも、「そのためには何でも気兼ねなくお話いただいて一貫するコンセプトを見出し、唯一無二の形に磨き上げることが僕らの役割だと思っています」と話す。とりとめのない希望でも上手に拾って整理し、思ってもみなかったきれいな花を咲かせてくれるのだ。
ちなみにH邸は建て替えでつくられた住宅で、築年数を経た以前の家は現行法に適合しない部分があり、最初に相談した工務店には受けてもらえなかったとの経緯がある。しかし、かまくらスタジオの2人は行政への難解な確認を経て違法性を解消したばかりか、自治体の補助金手配までサポートした。法規やコストなどの現実もつきまとう家づくり。信頼できる知見も備えた建築家の存在は、頼もしい限りだ。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 東京都葛飾区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 152㎡ |
| 延床面積 | 96㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | H邸 |
撮影:Nacasa & Partners
設計者情報
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