
それぞれの生活を大切に
ほどよい距離感でつながる二世帯住宅
ウッドデッキが叶えた
優しい間隔と眺望
二世帯住宅には、玄関やキッチン・水回りを両世帯一緒に使う完全共有型、その一部を共通する部分共有型、そして玄関・キッチンなど全てが世帯別々にある分離型がある。Kさん宅は分離型。Kさんご夫妻が住む母屋とお母様が住む離れが隣り合い、廊下で繋がる構造。
実家の建替で親子3人の二世帯住宅をというこの案件。住む人数が少ないにも関わらず、世帯それぞれに独立した玄関やキッチンなどを設けるのは、少々もったいない気もするが、藤江さんが分離型を提案したのには理由がある。
これまで海外で暮らしてきたKさんご夫妻には、親子であってもプライベートの確保はとても大切。一方のお母様にとっても、これまでご自身で家事をこなしてきたことや、友達を招いたりもしたいというライフスタイルがある。それを尊重し「自分でできるうちは自分でやる」というほうが、生活のハリが生まれ元気でいられるのではないかと藤江さんは考えたのだという。
「ただし、せっかくの二世帯住宅です。完全に独立しバラバラになってしまう関係ではなく、お互いの存在をいつでも身近に感じられる優しい関係性にしたい。そのために2つの建物の間にウッドデッキを設け、ゆるやかな間隔をとる配置を考えました」と藤江さんは語る。
このウッドデッキ、実に素晴らしい役割を果たしている。
リビングからフラットに続くウッドデッキは、木製の扉を開け放つと、リビングと一体となった開放的な大空間となる。夜も、障子から溢れる灯りで、お互いの存在を確認できる。
デッキ中央に植えられた桂の木はお母さんの名前にちなんだもの。互いの部屋が丸見えになるのを優しく隔てるとともに、四季の移ろいを感じさせてくれる。そして将来、お母さんが亡くなられた後も、その存在を毎日のように思い出させてくれるものにもなるのだ。
そしてもう1つ、このウッドデッキのありがたみを大きく感じられる季節が春だ。向かいの洗足流れの先に咲く、桜がとても良く見えるのだ。実はこの家は、道路より90センチほど嵩上げされた上に建てられている。「洗足流れ」の万一の氾濫に備えてのものだが、その分ウッドデッキも高さが出た。これが塀に邪魔されることなく、真正面に桜をとらえることを可能とした。桜が散るころには、風に舞う花びらがウッドデッキまで舞ってくるという、風流この上ない景色が楽しめるのだ。
2世帯住宅における、親子のほどよい関係の構築だけでなく、素敵な眺望まで叶えてしまったウッドデッキ。これらすべて計算しつくした上で提案された藤江さんの力量には驚かされるばかりだ。
あるとき、デッキにいた奥様が「この家に住みたいね」といいながら遊歩道を歩く子供の声を聞いたという。住む人だけでなく、そこを通る人にも素敵だと思われる家が生み出された。
家で人が変わる?
住む人に寄り添う家づくり
「こんな設備がほしい」「部屋数は3つで」「こんなデザインで」といった施主の要望をただ叶えることは、藤江さんにとっては容易なこと。それを超えて「住まう家族がどんな生活を望んでいるのか、この家族にとってどんな暮らしが合っているのかを想像し、形にするのが建築家としての私の仕事です」と藤江さんは語る。
そのため、藤江さんは施主・ご家族と対話を通して、家族の関係性を捉え、問題を汲み取り、将来を見据えたうえで、設計に落とし込んでいくのだという。
こんなエピソードがある。
あるご夫婦が住宅設計の依頼に来たときのこと。ご主人が叶えたいことをどんどん話す一方、奥様は伏目がちで、ただご主人に付き従っているだけという印象をうけた藤江さん。「奥様は何かご要望がありますか?」と藤江さんが水を向けると、何か言いかけた奥様を制するように「さっき私がお願いしたとおりでいい」とご主人。この様子をみて藤江さんは「この家は奥様のことを考えて設計せねば」と直感。そうしてご主人の要望を叶えつつも、奥様が使いやすく気に入ってもらえる家となるよう留意し設計を行ったという。
完成一年後にこの家を訪れたとき、藤江さんは出迎えてくれた奥様の印象に驚いた。以前とは見違えるくらい快活な奥様になっていたのだ。「奥様、雰囲気変わられましたね」と藤江さんがご主人に伝えると「この家に来てから、なんだか明るくなってね。友人を家に招いたりして、楽しくやっているようです」とご主人も笑顔に。
家は、人を変える力を持っているのだ。
「建築には力があります。それが醍醐味でもある。その一方で、お客様に少なからず影響を与えてしまうため、真摯に向き合わねばならないと常に意識しています」と藤江さん。
お客様1人ひとりに真摯に向き合い、将来を見据えたプランを立てる。そして卓越した技術と培ってきた経験で、高いデザイン性まで実現してしまう藤江さん。必然的に藤江さんが作った家は、満足度の高いものとなる。しかも「建物の完成がゴール」ではないのだ。
どんなクライアントでも必ず定期的に連絡をとり、家の状態や暮らしぶりを確かめるのがESPAD流。
「お客様と共に作り上げていくのはもちろん、その家を見守りながら、家族も見守っている感じです。そんなスタイルなので、お客様とのお付き合いが長くなります」と藤江さん。
10年20年お付き合いし続けているクライアントはザラで、新築で建てたお客様が、建替えやリフォームでまたご依頼いただくということもよくあるという。
現在、ESPADは藤江さんのご子息で、一級建築士でもある保高さんが取締役を務め、様々な建築に携わっている。「人々の家に対する考え方やライフスタイルが、父の時代とは変化している部分があると感じています。そういった部分は、時代に応じたアプローチが必要だと思いますが、人に寄り添い、住む人が気持ちよく心安らぐ家をつくるというESPADがこれまで培ってきた本質的な部分は、これからも大切にしていきたい」と保高さん。
そう遠くない将来、ESPADが世代交代を迎えても、クライアントの長い付き合いは続いていくに違いない。
基本データ
| 所在地 | 東京都大田区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 293.72㎡ |
| 延床面積 | 154.54㎡ |
| 家族構成 | 2世帯 |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | K邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

敷地を最大限活用し、空間を使い切る。 質感が感じられるLDKが魅力的な木造住宅
お施主さまは自宅を新築するにあたり、家族が集まる広々としたリビングが欲しいとお望みだった。建築家の鈴木さんは敷地いっぱいに建物を計画したうえ、可能な限り柱や壁を減らした広々空間を技術により実現。重厚な質感の内装が魅力的で、暮らしやすい。コストパフォーマンスにも優れた「これぞ都会の家」ができた。

まるで十徳ナイフ あえて「狭小住宅」という選択
家族で暮らす「狭小住宅」というと、予算や土地といった制約から「やむを得ない選択だった」ということもあるだろう。そんななか、妥協ではなく「この狭小住宅に住みたい!」と思う家族が絶えない建築家がいる。新潟県で狭小住宅に特化した家づくりを行っている、ネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木さんだ。多くの人々から選ばれる狭小住宅とは、どんなものなのだろう。

元に戻すのではない、進化させるのだ 古民家リノベの新機軸
築120年を超える古民家のリノベーションとなると、外観はできるだけそのまま活かし、内装を現代風の間取りや設備で利便性をもたせるというのが定石。そんな古民家リノベに一石を投じるような、大胆なフォルムのリノベを行ったのは、ご夫婦の建築家ユニット可児さんと植さん。 古民家が生まれたときの原点に立ち返り、「本質」はそのままに、現代に生まれ変わらせたリノベーションの新機軸に迫る。

建物が看板の代わりに 歯科医院のイメージが変わる安らぎ空間
皆さんは歯科医院にどんなイメージを持っていますか?「緊張する」「痛そう」「ちょっと怖い」といったネガティブな感情をもつ方も多いことでしょう。そんな歯科医院のイメージを覆す「木の温もりに包まれた空間で、庭の景色を見ながら治療を受ける」歯科医院を作ったのは、関西を中心に様々なジャンルの建物を手掛けるYYAの吉野さんでした。

見せる家!借景もアートもセンスよく調和される空間づくりとは?
更地の状態が長年続いていたWさんの所有地は、ひな壇の斜面地にあり、草木のうっそうと生い茂る公園に隣接するという立地条件。この環境のメリットを最大限に活かした新居を建てるべく、建築家の市川均さんに設計を依頼することに。結果、「明るく、風通しがよく、開放的で、眺望のよい」住まいが完成しました。

1棟4役? 毎週3時間かけて通いたくなる 富士山の見える別荘
あるときは、家族が休日をのんびり過ごす別荘として。あるときは、社員の保養所・研修所として。またあるときは友人や取引先を招く迎賓施設として。さらには一人集中して仕事に没頭できるプライベートオフィスとしての顔をもつ建物。非日常の高級感と使いやすさを兼ね備えたセカンドハウスを作ったのは、建築家の牧野嶋さんでした。

施主、大工、建築家の「共創」から生まれた 北アルプスを望むハーフビルドの“新築古民家”
北は北海道から南は九州まで、移住先を探すため日本各地を訪ねたというクライアントご夫妻。そしてようやく巡り合ったのが、北アルプスを一望する山間の集落の土地だった。その素晴らしいロケーションを活かした「土間の家」を手掛けたのは、建築家の坂利春さん。さて、どんな家となったのか、これから見ていこう。

フレキシブルで、さらなる価値を 築50年のビンテージマンションリノベ
マンションのリノベーションには、新築や戸建てリノベとは違った難しさがある。築50年を経過したビンテージマンションとなれば、その苦労は計り知れない。たくさんの困難を乗り越え、自宅兼事務所として様々な顔を見せる素敵な空間に仕上げた極意に迫る。

【注文住宅の事例集】シンプル_一戸建て_神奈川_秋山怜史さん
建築はそもそも、外部環境から人を守るために発達しました。 暑さ、寒さ、風雨。これらからいかにして人を守るか。 しかし、守るだけでは心地の良い空間は実現できません。 そこには、守りながらも、いかに外に対して空間を開いていくか。ということが求められてきます。建築はいつもそのせめぎ合い。気持ちの良い外部空間をとりいれるための試行錯誤は常に行なわれています。






