
暮らしのリアルに寄り添う開放的な洗練空間
ピロティ&中庭付きのモダンな平屋
理想の暮らしを読み解く
対話から始まる家づくり
「図面に着手するまでの時間はだいたい1~2カ月。その間、何度かお会いして現在のお住まいにも伺い、ヒアリングをさせていただきます。でも、ご要望を整理して伝えていただく必要はありません。とりとめのないバラバラの状態でけっこうですから、住まいや暮らしへの思いを全部聞かせていただきたいと思っています」
ヒアリングでは間取りや設備の希望だけでなく、生活習慣や片付け方、使っている調味料の量にまで話が及ぶこともあるという。
そうやって飾らない日常や価値観、理想とする暮らしを丁寧に読み解き、施主が「もう話すことはない」と感じたら、それが図面着手のゴーサイン。施主自身の理想と現実のギャップを埋めながら、その住まい手が無理なく心地よく暮らせる家を形にしていく。
「一般の個人の方が、人生の中で数千万円を投じて取り組むプロジェクトは住宅くらいだと思うんです。当然ながら責任を感じますし、それだけの価値のあるものをおつくりしたいという思いは強いです」
だから中村さんが手がける住宅は、1つの目的のためだけにつくられた要素が全くない。空間、通路、収納など、いずれの構成要素も一石二鳥ならぬ三鳥、四鳥といえるほど複数のメリットを備え、暮らしやすさや利便性に結びついている。そんな中村さんの家づくりの魅力について、「藤井下組の家」を例にご紹介していきたい。
1つで複数の役割を果たす
緩やかな勾配屋根と、真っ白な外階段
Uさんから寄せられた要望は、「平屋」「中庭」「車庫」「書斎」「和室」「ホテルライクな空間」など。いつものように中村さんはそれらを単純に図面へ落とし込むのではなく、ヒアリングで得た日常や価値観をもとにプランを組み立てていった。
完成した住宅は景色に馴染みながらも人目を引くシンプルモダンな平屋建て。シックで落ち着いた印象を受けるのは、ガルバリウム鋼板の屋根がとても緩やかな勾配で計画され、建物のすっきりとした水平ラインを強調している効果だろう。
しかしこの緩やかな勾配屋根の役割は、横長の平屋の美しさを際立てるデザイン面だけではない。傾斜を抑えることで屋根に上がりやすくし、軽度のサビなどであれば自分でメンテナンスできるようにするという目的があるのだ。プロに依頼すればかなりの高額になる維持管理まで見据えた、実用的な工夫といえる。
その屋根に覆われた建物は、要望だった中庭を囲むコの字型。中庭と、建物南に広がる大きな庭との間には屋根付きの広々としたピロティが設けられ、中央には「藤井下組の家」の外観デザインを象徴する真っ白な外階段もつくられた。
この外階段も意匠的なアクセントのために計画されたように思えるが、実際には屋根のメンテナンス動線、洗濯物を干すルーフテラスへの家事動線、視線を柔らかく遮るプライバシー保護と、デザイン以外にも複数の役割を担う。
このように「1つの要素に複数の目的を持たせる」という中村さんの思想が息づくスポットはまだまだあり、1つの構成要素が担う目的は最低3つ、多いときは7つにもなるそう。施主にとって人生の一大インベトである家づくり、あらゆるパーツで最大の価値を発揮したい──「藤井下組の家」を知れば知るほど、中村さんのそんな思いが伝わってくる。
住んで納得、使って満足
暮らしを見つめた秀逸なアイデア
玄関にはベビーカーなどもしまえる大容量のクロークを設け、日々の買い物動線を快適にするために、クロークから食品庫、キッチンにダイレクトにアクセスできるように計画。また、玄関土間に造作した靴収納には「玄関には鍵などの小物も意外とあるんですよね」と、上部に引き出しを設置する心配りがなされている。
収納では、寝室への通路を兼ねたクロークも見逃せない。普段使いするものが日常的に視界に入って手に取りやすく、床面積の省スペースにもつながる秀逸なアイデアだ。
メインスペースであるLDKは高級感あふれる大谷石の中庭やその先のピロティ、周囲の田園風景にまで視界がひらけた開放空間。窓や引き戸の効果的な配置で視線の抜けをつくり、実際の面積以上にのびやかな居心地を生み出している。同時に、ピロティには開閉可能なオリジナルの建具を設け、外部の視線をコントロール。全て閉めればプライバシーが守られ、安心して中庭の開放感を満喫できる。
LDKの一角、キッチン動線のライン上に設けた書斎にも暮らしを見つめる中村さんらしさが光る。書斎は「本、パソコン、スマートフォンなどの情報源と向き合う家族の図書館」と位置づけ、みんなが集まるLDK内にレイアウト。仕切りも壁で完全に閉じずにガラス窓を入れ、互いの気配を感じつつ集中できる距離感を創出。現代の暮らしにフィットする書斎の在り方を具現化したスペースとなっている。
「こんな風に暮らしたい」を
空間で表現してくれる建築家
「内装検討よりも先にUさまが選んだ宮崎椅子製作所のダイニングチェアがブラックチェリーでしたので、床も同じ材質にして家具と建築の一体感を図っています」と中村さん。造作するか・購入するかといったことも含め計画時から家具も一緒に考え、それに合わせて内装を決めていくことで、希望に沿った完成度の高い空間ができるという。
造作でいうと、帰宅して最初に触れる玄関扉や表札を筆頭に、建具や家具のオリジナルは多数。既製品をなるべく使わずUさんの好みを反映し、愛着の湧く「わが家」をつくり上げている。
こうして「藤井下組の家」を見ていくと、この家は中村さんがUさんと共に考え、解き明かしていった理想の暮らしや価値観を、間取りや動線、内装などの具体的な建築へ落とし込んでいった結果なのだと感じる。そうやってできる住宅は住まい手の暮らしそのものが空間として表現され、最高の住み心地をもたらすことは想像に難くない。
そして特筆すべきは、完成する住宅は決して機能優先の無骨な設備ではなく、中村さんの持ち前のセンスで洗練されたデザインとなって立ち現れるということだ。
「藤井下組の家」は、建築家が暮らしに寄り添うと住宅はここまで豊かになると教えてくれる。どんな家が欲しいかは分からないけれど、どんな暮らしがしたいかなら話せる──そう感じているならきっと、中村さんは心強いパートナーになってくれるだろう。
基本データ
| 作品名 | 藤井下組の家 |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県羽生市 |
| 敷地面積 | 791.1㎡ |
| 延床面積 | 174.03㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供1人 |
設計者情報
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