
デッキテラスを囲う、角度が異なる5枚の壁
プライバシーを守りつつ景観が楽しめる家
日野 佳子
ひの けいこ
ヒノデザインアソシエイツ
北海道 札幌市
学生時代を、歴史的建造物を身近に感じられる環境である函館市にて過ごす。時の流れを経てもなお、そこに凛と佇む歴史的建築物に魅了され、自らも、永い年月を経ても愛される建築を設計したいと思い建築の道を志す。
吹き抜けの高さいっぱいに開口した窓に
内窓を重ね、景観とプライバシー確保を両立
購入されたのは、遊歩道沿いの敷地だ。大きな魅力である緑豊かさは、まさに引っ越し先に求める条件を満たしていた。ただ、接しているのは人通りもそれなりにある遊歩道。設計を依頼されたヒノデザインアソシエイツの日野桂子さんによると、新しい家づくりにあたり「家の中から存分に緑を眺めたいけれど、外からは覗かれたくないという、相反する希望をお持ちでした」とのこと。他に、大人数を招いてバーベキューやパーティーがしたいというご要望もあった。
そこで日野さんはまず、遊歩道に面してデッキテラスを計画。そしてそのテラスを囲うように建物を配置した。家の外側は直角に折れる一般的なラインだが、テラスに接する内側は違う。少しずつ角度の異なる5枚の壁をつなげ、アルファベットの「C」を途中で切ったような形をつくったのだ。
5つの壁には、玄関部分の1枚を除いて窓を設けている。デッキテラスは2階までの吹き抜けが開放的なLDKに接しており、窓も空間に合わせて縦長に大きく開いた。
しかし、それでは外からの視線は避けられない。かといってカーテンを閉じてしまっては大きな窓を計画した意味がないだろう。熟考を重ね、日野さんが出した解決策は「内壁」。室内側に窓の3分の1程度の幅の壁を角度をつけてせり出させることで、視線除けとしたのだ。内壁が人の姿を隠すだけでなく、これがあることで屋外では窓に木々が反射するようになった。「窓に木々が映る姿も美しいです」と日野さん。きっと遊歩道を散歩する人たちのことも楽しませていることだろう。
家の内部からは窓いっぱいに緑が広がるだけでなく、窓がカーブして配置されているおかげで、LDKを移動していると目の前の景色が流れていくのも面白い。もちろん「遊歩道で遊ぶ子どもを家の中から見守りたい」という大切な要望も開放的な視界とともに叶えられた。
この家を「五つの角度の織りなす家」と名付けた日野さん。「角度」を効果的に用いることにより、同時にクリアするのは難しいと思われる課題を暮らしの楽しさとともに実現したのだ。
木々が立ち並ぶ様子を建物で表現
お好みのスタイルを取り入れ家の個性に
家の外観は、5つの角度を持つ壁一つ一つの高さにも変化を持たせ、玄関側から家の奥へと段々に屋根が上がっていくデザイン。低い方の壁が一段高い方へ入り込んだ形とし、縦長の窓もそれに合わせて高さを変え、建物が上へ上へと伸びていく印象も与えた。外壁には北海道の素材である道南杉を取り入れてナチュラルに仕上げている。窓に映る緑のフォルムとともに、家も小さな森のようだ。
デッキのふもとには、ご主人が選ばれた常緑樹のイチイの木を植樹。目隠しの役割を担うだけでなく、シンボルツリーとして外観にアクセントをもたらしている。デザイン性に優れた佇まいだけに、建築中には美術館やカフェ? と、普通の家だと思われないことも多かったとのこと。
屋内に入り、LDKへ進むと、先述の通り2階までの吹き抜けによる開放的な空間が広がる。天井には外から見た屋根の形が反映され、白く広がる空間に凹凸や複数の方向へ伸びるラインが生まれ単調さを感じさせない。また2階が乗っている部分の低い天井には米杉を張り、一方床にはウォルナット材を採用した。白とナチュラルなブラウンの色合いや、さらに素材からもメリハリをプラスしたという。
滝沢眞規子さんのお宅がお好きだという奥さま。お話をお伺いした日野さんが、滝沢さんの自宅をヒントに取り入れた部分もあるそうだ。たとえば大きな吹き抜けに面して2階の廊下を計画したこと。また、シックでシンプルなスタイルを重視し、キッチンにモールテックスを使用したり、玄関土間にコンクリートのような柄の大判タイルを取り入れたりもしている。お好みのエッセンスをこの家に合わせて取り入れることで、家の個性をさらに磨き上げた。
大人数が集まるパーティーを快適に実現する
細やかな配慮が行き届いたキッチン
まずは玄関。靴がたくさん並んでも大丈夫なように、長い玄関土間と廊下を用意した。デッキテラスを高く上げたのにも理由があるという。バーベキューなどで外に人が集まるとき、階段を椅子のようにして座ってもらえるからだ。これなら、どれだけ人数が増えても必ず居場所ができる。もちろん、LDKからそのままデッキテラスに出られるステップも室内に設けている。
広さも設備も申し分ないキッチンも、もちろんパーティーを意識してデザインした。お料理上手な奥さまがつくったものをちょっと仮置きできるよう、カウンターは十分なゆとりがある。それだけではない。パーティーシンクを提案し、来客が自然に手伝える仕掛けをほどこした。
パーティーシンクの脇にある窓は、バーベキューエリアとつながっている。室内側だけでなく、外側にもカウンターがあり、窓を開ければそこで食器や食材をやり取りできるのだという。開放時に窓を壁の中に引き込むことができるため、邪魔にもならない。招くほうも招かれる方も、気兼ねなくパーティーが楽しめそうだ。
もうひとつ、叶えるべき要望があったという。それは「子どもたちと親のパーソナルなエリアを、気配は感じられるようにしつつ、ご主人の書斎のみは集中できるようにしっかり分けたい」ということ。そこで、それぞれの個室を2階に置くことにしたうえで、吹き抜けを挟んで向かい合わせて配置した。吹き抜け分の距離があるが様子は伺えるこの間取りは、この家のフォルムだからこそできたと日野さん。「角度を重ねるのではなくL字にしてしまったら、必ず死角ができます。この家は吹き抜けを中心として周りにさまざまなエリアを設けていますから、書斎以外は見えない場所がないんです」と語る。
夕刻の家の佇まいは、思わずため息が漏れてしまうほど印象的だ。大きな窓から漏れる明かりや、照明に照らされたデッキテラスは、街にあたたかな表情を添えている。
プライバシーを守りつつ緑豊かな環境を生かした家ができたことで、このエリアの雰囲気や環境がよりよいものになる。敷地を読み解くことに力を注ぎ、またお施主さまの要望にも真摯に向き合う日野さんだからこそできたことだろう。
基本データ
| 作品名 | 五つの角度の織りなす家 |
|---|---|
| 所在地 | 北海道札幌市 |
| 敷地面積 | 279.87㎡ |
| 延床面積 | 293.72㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供3人 |
| 予算 | 8000万円台 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

異なる街並み、テナントと住居、2つの世帯 全てを調和させた、ストレスなく暮らせる家
自宅を建て替え、一緒に暮らすことにしたお施主のお母さまと息子さん夫妻。建築家の平井さんは、今までのスタイルを守りながら1つの家で暮らすためには、適切な距離を保つことが大切と語る。平井さんは家族の距離、テナントとの距離、そして街との距離が抜群のバランスで保たれる家をつくりあげた。 【特記事項】本作品は、木島千嘉建築設計事務所と共同設計

家族が集まる空間を最優先。家族の声があふれる家
富山県砺波市のA様宅は、まだ小さなお子さん3人が元気いっぱいに走り回る家です。モダンさと木の質感がほどよくマッチしたお宅は、自然あふれる住宅地の中でもひときわ美しい家となっています。「ここはすごく自然が多いんですよ。私も山で釣りや山菜採りを楽しんでいます。」と建築家の長守さんが語る町にある、素晴らしいお宅をご紹介します。

自然と調和し自然を楽しめる ずっと前からそこにあるかのような家
豊かな自然を感じられる環境で暮らしたいと願う施主のTさん。家づくりをお願いしたのは、気候・風土との調和や伝統的な素材・工法を使い、私達日本人が紡いできたものを大切にした設計を行う建築家、礒健介さんでした。

住宅街にありながら開放感たっぷり 八寸角の米松を大黒柱に据えた住まい
兵庫県・加古川市に建つA邸は、atelier thuの坪井飛鳥さん、細貝貴宏さん、上田 哲史さんの3人が手掛けた住宅である。住宅密集地の家にもかかわらず、室内から視線が抜ける開放感。存在感を放つ大黒柱…。3人の個性とアイディアが随所にちりばめられた、A邸の魅力をご紹介しよう。

日中の生活空間に暗い場所をつくらない 居場所の全てに光が届く「明るい家」
世田谷の住宅街にあったご実家を建て替えることにしたTさまファミリー。望んでいたのはカーテンをパーッと開けて、太陽の光をたっぷり採り込めるような「明るい家」。このリクエストに、柔軟かつ合理的な発想で応えた菅家建築計画工房のプランとは?

洞爺湖の四季折々の景色を楽しむ 自然を取り込み、自然と溶け込む大窓の家
機会があり北海道、洞爺湖の国立公園内の恵まれた敷地に家を新築することにしたお施主さま。依頼を受けた建築家の日野さんは、さまざまな制限がある中、四季折々の景色をそのまま室内に取り込める家を計画。曲線の美しい螺旋階段を移動していると、まるで自然の中を散歩しているような感覚が得られるほどだ。

家族が1つになる、1人にもなれる家 「ズレ」によってできる家族の「新たな間合い」
一見すると周囲の家々と馴染む普遍的な佇まいの家が、中に入ると驚きの空間に仕上がった。「普通であること」と「差異をつくること」を意図し、家族皆が大満足の家となった秘策「ズレ」に迫る。

空間の快適さを高める曲線の壁全ての人にデザインを
リノベーションは現状の住まいが持つ問題を解決するためのもの。SAKAKI Atelierの戸川賢木さんは、住む人の思いにじっくり耳を傾けることが大切だという。住む人が感じている問題の本質を見極め、大胆な提案をすることも。ここで紹介する住まいの施主、S様は提案により気持ちまで明るく変化した。

ストーリーが生まれる家づくり。 国産の木材、自然素材を厳選した心地よい家
新築する自宅には、いつか教室を開くためのピアノ室が欲しいと考えていたお施主さま。建 築家の小野さんは、教室として使わない時も、常に生きたスペースになるよう考慮した。日 ごろからストーリーのある家づくりを提案する小野さん。素材の選択にもこだわり、居心地 がよく、快適に暮らせる家ができた。