
木の温もりと、無数の石州瓦が美しい道の駅
地域の魅力が詰まった「ごいせ仁摩」
世界遺産・石見銀山の玄関口に誕生
地域文化を発信する道の駅
「ごいせ」とは、この地域の言葉で「いらっしゃいませ」の意味。石見銀山の玄関口という立地にふさわしい名を持つ「ごいせ仁摩」の建物は、建築家の安藤大輔さんが代表を務める安藤建築設計室と飴屋工房の共同設計でつくられた。
「ごいせ仁摩」は観光および地域の文化発信の拠点であると同時に、地場の特産品の利用促進・技術活用のモデル事業としての役割も担っていた。そこで発注者の大田市は、プロジェクトに対して主に次の3つの要望を持っていた。
1. 石見銀山のバッファゾーンにおける景観形成
計画地は世界遺産・石見銀山のバッファゾーンに該当。バッファゾーンとは、世界遺産の景観を守るため、開発に一定の制限が課せられるエリアのこと。そのためここに建てる建築は、地域の美観形成に貢献することが望まれた。
2.大田市にゆかりのあるアイテムの活用
具体的には、循環型林業の一環として地元の杉などの木材を用い、石州瓦(大田市のある石見地方の特産品)も使うこと。ほか、前年に市内の三瓶山で実施した植樹祭で製作された御野立所(天皇陛下が野外で使用する休憩所)の再利用もリクエストに含まれた。
3.賑わいの創出
大田市仁摩地区や石見銀山の玄関口として、また、地域の魅力を体感できる場として、人が集まり賑わいを生み出す建築をつくること。
そして2022年1月、安藤さんたちの設計によって、これらの希望に見事に応えた「ごいせ仁摩」が竣工。道の駅としてはもちろん建築に興味がある方も楽しめる建物を、次章からじっくりご紹介したい。
円弧状の建物で生まれた「広場」が
人を包み込み、賑わいを創出
そんな「ごいせ仁摩」に訪れた人は、まず、背後に横たわる山々や豊かな緑にしっくり馴染む佇まい、瓦屋根の精緻な美しさに見入ってしまうに違いない。安藤さんたちは大田市の要望に応え、周囲の自然と調和する建築で、世界遺産のバッファゾーンにふさわしい景観形成を実現。また、外壁は市内の山から切り出した杉材、屋根には地元の石州瓦を使い、御野立所はステージ棟の舞台に再利用。地域の特産品や御野立所を生かすというリクエストにもしっかりと応えている。
注目は、景観形成、特産品活用に続く要望だった「賑わいの創出」に対するアンサーだ。安藤さんたちは東西に伸びて並ぶ3つの棟のうち、物販・管理棟、レストラン棟の2棟を、ほんのりと円弧を描く横長の建物としてデザインしたのだ。
建物を円弧状にした意図について安藤さんはこう話す。
「横長の建物の形状が直線ラインだと、人は、スーッと流れるように建物の前を通り過ぎてしまいがちです。でも、ゆるやかな円弧で少し膨らみをつくれば、建物の前にちょっとしたスペースが生まれます。人の流れを受け止め、かつ、人がとどまってくれる広場のような空間が出現するのです」
人の流れを受け止め、賑わいを創出するための仕掛けはこれだけではない。安藤さんたちは、円弧状の建物によって生まれた広場と駐車場の間に屋根付きの通路を設置。その結果、この道の駅は「建物と駐車場の間に、ちょっと何かができる多目的な広場がある」という懐の深いつくりになった。
人は居場所があればとどまってくれるから、こうした建築的な仕掛けは賑わいを生む上で非常に大きな意味を持つ。今、この広場は「にぎわい広場」と名付けられ、各種イベントやキッチンカーの出店で賑わっているのだそう。安藤さんたちの設計が、狙い通りの好結果をもたらしたといえるだろう。
地域の設計者と職人の技術を結集
建築そのものの鑑賞も楽しい
まず味わっていただきたいのは、建物を正面から見たときのインパクト。背後に横たわる山々とリンクするおおらかな造形美は、「ごいせ仁摩」の魅力の1つ。杉の外壁や瓦屋根の施工も美しく、精巧な芸術品のようで見ていて飽きない。
中でも、約1万6000枚もの石州瓦を葺いた(敷き詰めた)屋根を美しく見せることには心を砕いたという安藤さん。確かに、この建物は円弧状にカーブしているから、素人が想像しても瓦を葺くのが大変そうだ。
しかも、安藤さんはもう1つ、驚くことを教えてくれた。
「建物が円弧状だと、正面から見たときに屋根が少し凹んで見えてしまいます。そこで、屋根にはほんの少しだけ“むくり”(上に向かった膨らみ)をつけて視覚補正しました。こうすることで、屋根がきれいな水平ラインに見えるのです」
つまり、屋根は平面的にカーブしているだけでなく、立体的にも少し膨らんでいることになる。となれば施工の難度が上がることは安藤さんたちも承知していたが、「特注品の瓦ではなく、あくまでも一般的な既製品を使いたかったのです」と安藤さん。標準の瓦でも、使い方を工夫することで、新たな瓦の魅力を発信できるようにしたかったのだそう。地元の職人さんたちにも、「いつもと勝手は違うけれど、ちょっとがんばれば良いものができそう」と思ってもらえるような屋根形状を意識したという。
その甲斐あって、正面から見る屋根は端正で美しい水平ラインを描き、瓦の凹凸の連なりで見えてくる「雁足(がんあし)」と呼ばれるラインは、通常は直線だがこの建物はほんのりとカーブして見える仕上がりとなった。こんな雁足は、ほかの瓦屋根では見られないだけに、訪れたら注目したいポイントだ。
建築的な見どころは建物内部にもある。例えば、物販・管理棟は柱のない大空間で、商品を展示しやすく買い物客も歩きやすいが、実はこれも設計の工夫の賜物。通常は木造で大きな空間をつくると、建物を支える多くの柱が必要になる。しかし安藤さんたちは、RC造と木造のハイブリット構造とし、木造部分は張弦梁(ちょうげんばり)という工法を用いるなどして工夫を凝らし、すっきりとした無柱の大空間を実現。天井は現し仕上げなので、張弦梁の構造の美しさも見どころの1つになっている。
地域で流通している一般的な素材でも、地域の設計者、施工会社、大工職人の知見と技術を結集させれば、芸術的なデザインや、実利的で使いやすい空間をつくることができるのだ──そう考えながら「ごいせ仁摩」を眺めると、なんだか胸が熱くなってくる。訪れた際はぜひ、そんな視点でもこの道の駅を楽しんでいただきたい。
基本データ
| 作品名 | ごいせ仁摩(道の駅) |
|---|---|
| 所在地 | 島根県大田市 |
| 敷地面積 | 24,715㎡ |
| 延床面積 | 1,825.47㎡ |
撮影:淺川 敏
設計者情報
この建築家が建てた家
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