
土地の弱点を建築の力で魅力に変えた
家族一緒も1人も快適ないくつもの居場所
2年かけて出会った土地は
南からの採光が期待できない変形旗竿地
元々、市内中心部に住んでいたという衞藤さんご家族。お子さんが小学校に入るタイミングでの住宅取得を目指し、約2年かけて土地の情報収集を行っていたという。そんな中で、出会ったのが、売りに出されたばかりのこの土地だったのだ。
実はこの土地、約100坪という広さがあり、東側は田んぼのため開けていた。しかし、この土地にはウイークポイントもあったのだ。まず1つ目が、土地形状が変形の旗竿地であること。そして南側が小高い山となっており冬場は南側からの採光が望めないこと。さらにその山が土砂災害特別警戒区域に指定されていることだった。
一般的には、このような土地での住宅取得は敬遠されそうなものだが、衞藤さんはこの土地を見て、すぐに購入を決断したという。
市中心部から約20分の距離で、この広さの土地はなかなか出てこないという。また、奥様も、もともと田舎出身ということもあり、田んぼも山も隣接し、大らかさのあるこの土地を気に入ったのだとか。
さらに衞藤さんは「もともと、新興住宅地のような、真四角の土地に家がぎゅうぎゅうに建ち並ぶところに自邸を建てることが想像できなかった」と語る。新興住宅地のような整った四角い区画の土地は、どうしてもオーソドックスな家づくりになりがちだ。
そんな中出会ったこの土地に、衞藤さんは可能性を感じたという。「この土地であれば『自分の腕を存分に振るえるのではないか?』という思いもありました」と衞藤さん。
ウイークポイントを持つ土地は、価格面でのメリットも大きい。弱点を建築の力で個性へと変えることができれば、可能性はより大きいものとなるのだ。
コの字型に建物を配置
おおらかな中庭で光も距離感も
この家には、叶えるべき要素がいくつかあった。まずは陽当たりの確保。山によって南からの光が入らないことはわかっているが、それでも暗い家にはしたくない。
次に、車のアプローチがスムーズに行えるゾーニングであること。車の2台持ちが当たり前な地方都市での生活。衞藤家も衞藤さん奥さんそれぞれ車をもつ生活だ。
そして、奥様からの「職住分離」できる平屋というリクエスト。衞藤さんは、この家を建てた後、自宅で仕事をする「職住一致」の予定だった。それは理解しつつ、仕事のゾーンと、プライベートゾーンを分けてほしいという要望だったという。
これらの要素を踏まえ、衞藤さんが導き出した答えが、建物を「コ」の字状の形とするプラン。
「まずは駐車スペースと転回動線から考え始めました。次に残ったスペースで、東からの光をより取り込むため、東に壁面が多くなるよう、中庭を取り囲む形を考えたのです」と衞藤さん。
旗竿地の路地に近い部分に駐車スペース。転回スペースをとった上で、建物を少し開いたコの字を左右反転させた形状で配置、中庭を取り囲むというものだ。敷地の一番東には、衞藤さんの事務所スペースと住宅の玄関および水回り。縦棒に当たる南側には和室、角の部分には居間を配置。長辺となる部分に、台所、子供室、夫婦の寝室が並ぶという配置とした。
事務所スペースとなる書斎は、屋根続きであるものの、一度外に出て事務所の扉を開けて入室するというスタイル。いわば離れの扱いだ。こうすることで、奥様の要望であった「職住分離」が可能だし、衞藤さんもONとOFFの切り替えができる。さらには、仕事での来客があっても、住宅部分に入る必要がない。職住がほどよい距離感となった。
土砂災害の危険がある南側には、長時間いることのない水回りや和室とすることで「寝ている間に避難が遅れる」ということのないよう配慮した。
東からの光を取り入れるための中庭は、デッキでぐるりと取り囲まれており、縁側の役割も果たす。訪れた人を受け入れてくれるかのように開かれた中庭だ。とはいえ、駐車している車や、庭の樹々によって中が丸見えにならないのだ。衞藤さんは、この中庭からの光のためにある工夫を凝らす。それは、東側の事務所スペースの高さと、西側のプライベートスペースの建物の高さを変えること。事務所スペースの高さを抑え、日が奥まで差し込むとともに、西側に大きな窓を設けられるようにしたのだ。
衞藤さんが「ここが自邸でなく、他の施主さんだったとしても、このプランに近い提案すると思います」と語るほど、自信のあるプランが出来上がった。
中庭や高天井がもたらす抜群の開放感と
籠れる場で、家族一緒も1人も心地よい
切妻屋根に杉板の壁。日本人がすんなりと受け入れられる普遍性をもつ外観。あえて無塗装の杉板を利用したことに対し、衞藤さんは「木の外壁の経験が多いということや、山や田があるこの場では、板壁が合うと感じました。また、お客様が『木の外壁は、経年劣化は大丈夫か?』と心配されることが多かったので、5年先、10年先にこうなるという見本の意味もあります。」と語る。
アプローチに歩を進めると、右は事務所スペースである書斎、左に住宅用の玄関がある。視線の先には、デッキが続き居間の窓が見える。ここを閉ざすことをせず、オープンにすることで屋内からの抜け感が得られることはもちろん、外から来た親戚・友人などがふらりと立ち寄りやすい。室内に入らず、デッキに腰掛けて話をしていくといった、コミュニケーションもあることだろう。
室内に入り歩を進めると、切妻屋根の形状を活かした、天井の高い大空間が広がる。現しの天井、フローリングの床。木に包まれる心地良さがある。左側は畳敷きの和室スペース。居間の延長としてのスペースでありながら、ごろんと横になったり地べたに座って過ごすことができる。来客時には麻布の建具で仕切ることで、プライバシーを確保しながらも空調を維持することが可能だ。
さらに歩を進めた先、角の部分にあるのが、リビングダイニングの役割を果たす小上がりになった居間。この家を支える力強い大黒柱の脇に半円形のテーブルが置かれている。「座卓で食事をしたい」という奥様の希望を叶えた。
「ただフラットな位置に座卓を置くと、通路脇の地べたでごはんを食べるような感じになります。そこで、小上がりにすることで、別ゾーンであることを演出しました。高くなっている分、台所にいる人との視線が近づくという利点もあります」と衞藤さん。
この家では、和室スペースも、この居間も、さらにその先の台所も元は1つの大空間。その中で、ゾーンが分かれることで「家族みんなが集まり団欒する場」も「1人で籠って好きなことをする場」も生まれた。ゾーニング1つで家族一緒も1人も心地よく過ごせる場をつくりだした衞藤さんの力量には驚かされる。
また、この家の最大の特徴といっても良いのが、中庭がもたらす開放感と、その居心地の良さだ。庭師と共に作った中庭には、アオダモやソヨゴ、ミツバツツジ、モミジが植えられ、程よく視線や日差しをカットしてくれるばかりか、季節に応じて彩が変わり、目を楽しませてくれる。南の山の樹々ともリンクし、春になると山の桜をデッキから楽しめるのだという。
南には山が迫った変形の旗竿地というウイークポイントを持つ土地が、衞藤さんの手によって、家族一緒も1人も心地よい空間へと昇華した。
衞藤さんは、どんな土地であってもその状況を的確に読み取り、その個性を大切にする。そして弱点を克服する腕をもつ建築家だ。
衞藤さんは、「こんな土地に思い描く家が建つだろうか?」「四角い土地じゃないと無理だろう」と思っていたあなたの家づくりの可能性を広げてくれる。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 屋代の住居 |
|---|---|
| 所在地 | 広島県広島市 |
| 敷地面積 | 389.72㎡ |
| 延床面積 | 103.92㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | 本人 |
撮影:野村和慎
設計者情報
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