
風格漂う佇まいと住み心地のよい上質空間。
災害から家族を守る、強く美しい家

齋藤 文子
さいとう ふみこ
3110ARCHITECTS一級建築士事務所
東京都 板橋区
私たち3110ARCHITECTSは、翻訳家であり、デザイナーであり、指揮者であり、技術者の集団であることを自覚し、クライアントの夢や希望に向きあいます。そして建築物はクライアントの財産であるとともに、風景の一部だと考えます。上質な建築を創り街並みに美しさを添えることが、私たち3110ARCHITECTSの役割であり、社会貢献につながると信じています。
この地に根を張って生きていく。
施主さまの思いを表す、堂々たる佇まい
この家に住む施主さまは、地元企業の経営者。奥さまの父親である先代が建てた家を建て替えることになり、経営者仲間の紹介で3110ARCHITECTS一級建築士事務所の齋藤文子さんに設計を依頼した。
新居に対する施主さまの主な要望は「地震・津波対策」「高性能(断熱など)」「温かみのある和のデザイン」の3つだった。この要望を聞いた齋藤さんは地域に対する施主さまの思いを感じ取り、「組む」という言葉を新たな住まいのコンセプトにしたという。
「建築予定地は、海から1kmほどの距離。万が一、大地震や津波といった災害が発生すれば、何らかの影響を受けるかもしれません。でも、施主さまはこの地での建て替えを決意なさいました。そこには、経営陣の1人としてお義父さまの会社と土地を受け継いだ施主さまの、地域とご家族に対する強い思いがあるように感じました」
そこで齋藤さんは、矩形(くけい:角が直角の四角形)を組み合わせたデザインの力強い建物をプランニング。強固な造りで家族を守るとともに、「どっしりとこの地に根を張り、地域と組んで生きていく」という施主さまの思いを表す住まいづくりがスタートした。
震災も水災も視野に入れた
「全てに強い住宅」
まず建物は、耐震・耐水・耐火・耐候の全てにすぐれた壁式鉄筋コンクリート造(WRC造)の3階建てに。間取りはLDK、寝室、水まわりなど生活に必要なスペースを2階と3階に集約し、1階は客間と納戸のみという構成にした。
「生活スペースを2階と3階に集めたのは、1階が水災に遭っても2階と3階で生活を継続できるようにするためです。災害時の垂直避難にも気を配り、3階から屋上への避難ルートも確保しました」と齋藤さん。
耐候・断熱では、外断熱工法を選択した。齋藤さんによると「コンクリートは外気温に影響されやすい性質があります。そのため、コンクリートそのものを外気から守る外断熱は、内断熱より断熱性能が高いんです」とのこと。内断熱よりコストは高くなるものの、性能重視のご主人はすぐに賛同してくださったという。
さらに、コンクリート造の建物の窓はビル用サッシを使うことが多いが、断熱性能が高く結露も防げる住宅用の複合サッシを使用。2階LDKのバルコニー上部は屋根を深く取り、夏場の強い日差しを遮っている。
ほか、庭はできるだけ土を残し、駐車場の仕上げには水を通す透水性アスファルトを採用。「土や透水性アスファルトに雨が浸透することにより、夏場の気温上昇を防げます。豪雨のときも雨水が浸透しますから、水があふれにくくなる効果がありますよ」
生活スペースを上階に集めた設計と、敷地・建物ともにスキのない対策で、耐震・耐水・耐火・耐候においてトップクラスの安心を得る──。災害大国とまでいわれる日本で今求められているのは、こうした「全てに強い住宅」なのかもしれない。
思い出と上質素材が調和。
住み心地も抜群の、中庭のある家
心地よさをもたらしているスペースの1つは、齋藤さんの提案で設けた中庭だ。「建物は中庭を囲むコの字型。空間的な豊かさや緑を眺める楽しさを生みますし、中庭を介して、離れた部屋にいる家族の気配がわかる一体感も得られます」と齋藤さん。
施主さまご一家のライフスタイルも丁寧に反映している。仕事をもち忙しい奥さまのために、リビングから出る広いバルコニーは洗面室近くにも出入口を設けて洗濯動線を良好に。また、気持ちよく家事ができるようキッチンに中庭が見える窓をつくり、来客から贈答品をいただく機会が多いと聞けば玄関に荷物を置けるベンチを造作。齋藤さんはどの家づくりでも、こうした細やかな配慮で使い勝手のよさをカスタマイズしてくれる。
デザイン面は、建て替え前の和風住宅が好きだった奥さまの希望に沿い、和のテイストで統一。外装はスギの木目をつけたコンクリートやレンガタイル、御影石、内装はチーク材や珪藻土など、本物志向の素材を贅沢に使っている。同時に以前の家の座敷の欄間をリビングの内装に取り入れるなど、先代から受け継いだものを大切に再生。上質感と温かみがあふれる美しい住まいとなった。
キリッとした品があり、思い出も息づく空間を施主さまはとても気に入ってくださっているという。さらには齋藤さんと施主さまの共通の知人を通して、「新しい家に住んでから、施主さまご夫妻がますます仲がよくなった」との報告も舞い込んできた。
齋藤さんはいう。「さまざまな思いを込めた家づくりを通してご家族の絆まで深まったのだとしたら、こんなにうれしいことはありません」。そのプロセスにおいて、齋藤さんが欠かせない存在だったことは想像に難くない。施主さまの思いをくみ取り、住空間に活かす齋藤さんの豊かな感性があってこそ、なのだろう。
共同設計:MIWA Atelier
基本データ
| 所在地 | 静岡県焼津市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 601.15㎡ |
| 延床面積 | 235.89㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
撮影:新澤一平
設計者情報
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