
「持続可能な暮らし」を理想とした
「自然と共にある」建築家の自邸
家族が集う「九間」を中心に
程よい距離感でつながる空間
石橋さんは10数年前に中古住宅付きのこの土地を購入。27坪ほどの平屋に住んでいたが、子どもの成長に伴い手狭になってきたことから、建て替えることにしたという。「当初はリノベーションも考えたのですが、何しろ築30年以上の家でしたから夏は暑く、冬は寒い。上の子が中学生になるタイミングということもあり、建て替えることにしました」。
敷地は南北に細長い形状で、北側で接道。道路に面した敷地の間口は約9.3mだったことから、植栽スペースと敷地南側へのアプローチを確保するため、建物間口を三間(約5.5m)とすることからプランニングがスタートした。そして、「家族の生活の中心となる主室(リビングダイニング)を南側に配置しました。主室の形は三間四方の九間(ここのま)。建物の間口を三間としたことでたまたま三間四方の形・九間になったのですが、この九間というのが、生活するうえでちょうどいいサイズなんですね」と石橋さん。
三間四方の九間は古くから日本の寺社や家屋に取り入れられた広さで、蹴鞠をするスペースや能舞台も九間だという。建築評論家、神代雄一郎の「九間論」では、人々が集い会合するには九間が理想的な空間だと位置づけている。広過ぎず狭過ぎず、程よい距離感で暮らせるひとつの基準が、九間であるといえそうだ。
家族がもっとも長い時間を過ごす主室だからこそ、この空間にさまざまな場所を作りたかったと、石橋さん。
「例えば、西側の壁は現代風の床の間をイメージし、ピクチャーレールを仕込んだ幕板を設置。子どもの絵を飾ったり、プロジェクターのスクリーンとして使っています」
東面には天井まで届く大きな本棚を造作。家族の想い出を切り取った写真やオブジェなどが並べられ、いわば家族ギャラリーといったところか。
主室に面したキッチンは、奥様の希望で主室側にシンクやコンロを据えたレイアウトに。ダイニングテーブルで勉強する子どもや、ソファで寛ぐ家族の姿を見ながら、奥様は食事の用意などができる。また、主室は吹き抜けとなっていて、階段を上がった2階ホールと壁を経ずにつながっている。そのことで1階と2階が空間的に一体となり、1階にいても何となく2階の雰囲気が伝わってくる。なるほど、九間の主室を中心にちょうどいい距離感が生まれている。
主寝室と子ども部屋は、1階と2階の北側にそれぞれレイアウト。家族が集う主室からやや距離を置くことで、静かな就寝時間が過ごせるよう考慮されていることにも注目したい。
一本の線でつながる「持続可能な暮らし」と
「自然と共にある生活」
運用時エネルギーをゼロ以下にするためには、太陽光発電はマスト。加えて「外気の影響を受けにくい住宅にするため、外壁・屋根ともに家の内と外のダブル断熱を採用しています。断熱性能の指標であるUA値は0.28W/m²K(*1)となっています。また、建物の気密性能を表すC値(*2)は0.7cm²/m²です」と、石橋さん。
「冷暖房は2階ホールに置いたエアコン1台でまかなっています。夏場はエアコンを24時間稼働。設定温度25℃で家全体を冷やし、もっとも暑い部屋(主寝室と子ども部屋)でも27℃前後をキープ。冬場は昼間は主室の開口部から太陽光が部屋の奥まで差し込み、日中は25℃くらいまで上がります。夜、室温が20℃を下回ってからエアコンを入れ、就寝時には切るようにしています。翌朝、外気温が氷点下以下になっても、室温は17~18℃をキープ。年間を通じて快適に暮らせています」と話す。
「持続可能な暮らし」のほかに、石橋さんがもうひとつ大切にしていたことが「自然と共にある生活」だ。
「自然と共にある生活」というと、屋内と屋外がゆるやかにつながった暮らしや、開放的なウッドデッキのあるシーンをイメージするかも知れないが、果たしてそうだろうか?
「高断熱・高気密の建物は、内と外のつながりを断つようなイメージが持たれます。窓ガラスは2枚だし、壁も分厚く窓を閉め切ると外界とまさに“断絶”されてしまい、『自然と共にある生活』とは矛盾するのでは?と思われがちです。しかし、窓を開ければ風が入ってくるし、冬は太陽光のおかげで温かい。家に入れば快適な温熱環境が保証されているので、暑い日や寒い日に外に出るのが億劫になりません。庭での畑仕事などの時間も以前より増えましたしね」と、石橋さんは話す。
「石橋邸」の周りに、石橋さんは小さな木を何本も植えた。クヌギやコナラ、イロハモミジ、山桜など、まだ1mにも満たない苗木は、時を経て少しずつ大きく育つことだろう。新緑や紅葉など、四季折々に様変わりする木々は、石橋家の「自然と共にある生活」を美しく彩ってくれるはずだ。やがて樹木の下には木陰が生まれ、建物の外壁に当たる日光も程よく遮ってくれるだろう。枝葉が生い茂る夏には、蒸散によって周りの空気が冷やされるだろう。
「建物の周囲に木を植えることも、ささやかではありますが脱炭素に貢献するはずです」。
そう、石橋さんが家を建てる際に大切に考えた「持続可能な暮らし」と「自然と共にある生活」は、矛盾するどころか、一本の線でつながっているのだ。
*1 UA値/外皮平均熱貫流率。屋内の熱が屋根や外壁などの外皮を介して逃げる量を数値化。数値が低いほど断熱性能が高い。ちなみに2025年に義務化される断熱等級4の伊豆の国市のUA値基準は0.87以下
*2 C値/建物全体の容積に対する隙間の総量を数値で表したもの。一般的にC値1.0cm²/m²以下だと高気密と評価される
間取り図
基本データ
| 作品名 | 石橋邸 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県伊豆の国市 |
| 敷地面積 | 319.05㎡ |
| 延床面積 | 112.39㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | 石橋剛 |
撮影:photo@ToLoLo studio
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

子育てと旗竿地の問題に回答を!3階建て×スキップフロアの家
採光や開放感の確保が気になる敷地。でも、駅徒歩圏で子育てや教育を含めた周辺環境は理想的。そんな土地に家を建てることになったSさんは、頼れる専門家を求めて建築家・近江利雄さんに相談する。近江さんの提案は、木造3階建てのスキップフロアの家。採光と共に空間の一体感を大切にした開放的な住まいには、さすがのノウハウが盛りだくさん!

自然とともに、地域とともに、人とともに 現代の力で実現した、日本の家の新しいカタチ
新築なのにずっと前からそこに存在していたように感じる家。これは褒め言葉。その家が周囲の環境と見事に調和し、違和感なく佇んでいるから。自然や地域環境との共存を大切にしながらも、住みよさと美しさを兼ね備えた自邸をつくりあげたのは、建築家のナカタヒロヨさんでした。

職人の手仕事と自然素材で子育て!家族の安心安全を守る家とは?
幼いお子様が安心して暮らせる住環境を求めて、それまでの都会暮らしから、緑の多い郊外への引越しを決意したUさんご夫妻。木や漆喰などの自然素材でつくるローコストの企画住宅「1.5階建て住宅」を新築し、ノビノビ子育てを満喫されています。

異なる街並み、テナントと住居、2つの世帯 全てを調和させた、ストレスなく暮らせる家
自宅を建て替え、一緒に暮らすことにしたお施主のお母さまと息子さん夫妻。建築家の平井さんは、今までのスタイルを守りながら1つの家で暮らすためには、適切な距離を保つことが大切と語る。平井さんは家族の距離、テナントとの距離、そして街との距離が抜群のバランスで保たれる家をつくりあげた。 【特記事項】本作品は、木島千嘉建築設計事務所と共同設計

ホテルのような贅沢さに、毎日感動する。 20年後も、年を取らない家をつくる
建てたい家のイメージはあるのに、実現してくれる施工会社が見つからないという問題に直面する人も多いだろう。T様もその一人だったが、建築家の桑名さんと出会って状況が一変した。 要望の本質を探ることでイメージを的確に形にし、かつ、期待以上の魅力をプラスした桑名さんの家づくりを紹介する。

家の中に木が生えてる 自由な発想で狭小地でも中庭も明るさも
施主一人ひとりの要望をじっくりと汲み取り、オンリーワンの家を実現することに定評のある「NATURE SPACE」。狭小地でありながらも「広さを感じられる」「明るく開放的」「中庭もほしい」という、難題を見事に解決してみせた自由な発想の家づくりに迫る。

築36年の住宅をフル・リノベーション クルマ好きの建築家とつくり上げた「ガレージハウス」
ご両親が長年住んでいた一戸建てを活かし、新たな住まいをつくることを決意した40代のO夫妻。思い入れのある家をフル・リノベーションして誕生したのは、使い勝手のいいガレージと明るいLDKを有する現代的な邸宅だった。築36年の邸宅は、果たしてどのように生まれ変わったのか。設計を担当した高橋貴大一級建築士事務所の高橋さんにお話を伺った。

夫婦2人暮らしにうれしい工夫が満載。 豊かな居心地を楽しめる田園の平屋
ご実家を建て替え、当面はセカンドハウス、いずれは終の住処にしたいと考えていた施主さま夫妻。依頼を受けた建築家の谷山武志さん・裕子さんがつくり上げたのは、心地よい光や緑に包まれながら、いくつになっても安心・快適に暮らせる家だった。

10年経っても自慢の住まい 施主の希望を実現し、長く愛される家
施主と共に「暮らし」をつくり上げることを実践している建築家、Vent計画設計室の遠藤さん。そんな遠藤さんの建築に対する姿勢に惹かれ、2年の歳月を経て建築を依頼することにしたKさんご夫妻。理想の住まいを完成させて約10年が過ぎた現在も自慢の住まいで、当時とほぼ変わらない生活をされているという。
