
将来の店舗利用も見据えた可変性のある住まい
性能と眺望を両立した2階LDKの家
住まいとしても、店舗としても使いやすく。
シンプル空間を魅力的に見せるFIX窓
H邸は、30代のご夫妻とお子さまが暮らすために新築された住まいである。特徴的な外観は、いつか古着店を経営したいとのご要望から、依頼を受けた小菅一也建築設計事務所の小菅一也さんがデザインしたものである。
ただ、いつごろから始めるのかなど現実的な予定はない状態だったため、あくまで「いつか」に対応できるよう内部を計画したと小菅さん。家は2階建てで、店舗は1階に配置することとし、まず広々とした玄関土間を設けて棚を造作。ディスプレイを自由自在に楽しめるゆとりを生み出した。また壁は白で統一、玄関扉も真っ白にすることで存在感を打ち消しシンプルさを際立たせている。道路に面した1階の大きな窓から見えるのも、この土間空間だ。
土間と面しているのは寝室。お店を始めたら接客スペースとして使用するため、建具を省き土間とはカーテンで仕切ることにした。道路側にあるが土間とは違い腰窓を採り入れたおかげで外部の視線を避けつつ明るさは確保している。窓からは植栽や隣家の借景も目に入り、穏やかな光が差し込む空間に。将来店舗として使う場合も想定しながら計画されたこの場所は、住まいとしても店舗としても自然に転用できる余白を備えているという。
1階にはほかにウォークインクローゼットや2つの個室を用意した。寝室と同じように土間との間に扉を設けておらず、全体的に圧迫感がない。視線の抜けを確保しつつ、配置計画によってプライベート空間が直接見えないよう丁寧に調整されている。
現在は、造作の棚などを使いセンスよく暮らしを楽しまれているとのこと。一方で、家の完成とともに場がきっちりと整えられたおかげで、新たな一歩を踏み出そうとしたとき躊躇なくできる。「将来どうなるかは分からない。でも、その可能性を閉じない設計にしたかった」と小菅さん。用途の変化に柔軟に対応できる構成は、住まいの寿命そのものを延ばすことにもつながっている。
パノラマの景色を楽しめる2階LDK。丁寧な
ヒアリングでお施主さまに合わせ空間を提案
このH邸でよい例が2階に設けられたLDKだ。もちろん、1階に店舗用スペースを取ったため十分な面積がなかったという理由もあるが、それだけではない。まずは日当たり。南にあたる道路側にLDKを設け、大きな窓を開口すれば暖かく明るい空間ができるが、先述の通りこの道路は交通量が多く、1階の生活空間での大開口は現実的ではなかった。
2階からは、道路の先に広がる田園風景が一望できる。敷地のもつこのポテンシャルに着目し、「視線の抜け」と「日照条件」を両立させる案として2階LDKを提案したという。道路を挟み反対側は企業の駐車場で多くの車が停まるが、さらに向こうには地平線が見えるくらいに一面の田園風景が広がっている。これは、あえて2階にLDKを上げたからこそ得られたものだ。「より景色を楽しめるよう、掃き出し窓のように床から天井まで大胆に開口しました」と小菅さん。
LDKのほかに、2階には水回りも集めた。2階にLDKの配置は高齢になったときに生活が大変になるのではないかと心配するかもしれないが、LDKの一角を寝室とすれば2階で暮らしが完結する。もちろん、メリットデメリットを説明し了承を受けたうえで実現した間取りである。
暮らしのイメージから、最適解を導き出してくれる小菅さんの家づくり。敷地条件を丁寧に読み解き、生活動線や将来性を重ね合わせて導き出された間取り。派手さではなく、根拠の積み重ねによってカタチづくられた空間である。
高断熱・高気密・意匠全てに手を抜かない
暮らしやすい家は「積み上げ」でつくる
広々とした土間に、大きな開口。さらに、個室と繋がる部分には仕切り戸もない。にもかかわらず一年を通して快適に過ごせるのは、小菅さんが高断熱・高気密の家であることは必須だと考えているからだ。
そのうえでパッシブデザインも積極的に取り入れている。家の配置ひとつをとっても、隣家との関係や冬季の日射取得量を検証するため時間日影図を作成。確実に日射が得られる位置に開口を計画した。その結果、暖房1台・冷房2台で住戸全体の温熱環境を安定させているという。最初から導入する台数が少なければ、それだけランニングコストもメンテナンス代も抑えられる。これはありがたい。
断熱性能と健康の相関については各種研究でも示されている。温度差の少ない住環境は、ヒートショックのリスクやアレルギー症状の低減にもつながるとされる。確かに、家中が快適に保たれていれば、ヒートショックなどの心配も少ないだろう。
必ずこれらのことを確保してから、意匠を考えるという小菅さん。「家の性能とデザインは横並びではなく積み上げるもの」という小菅さんの言葉がわかりやすい。「耐震性も大切です。だいたい皆さん35年ローンを組んで家を建てられますから、35年以上なにも心配なく暮らせなくてはなりません」と語る。どれかひとつでもおろそかにしてはならないのだ。
おぼろげな計画や暮らしのイメージを想像以上の表現で叶えると同時に、暮らしの基盤もがっちりとつくり上げる。本当の意味でお施主さまと向き合い、責任をもって行われる家づくりとは、こういう姿勢をいうのではないだろうか。例えば「多くの方が35年ローンを組んで家を建てられます。その期間以上、安心して住める構造と性能であることは設計者の責任だと思っています」と語る。その言葉から、長期視点での家づくりに対する覚悟が伝わってきた。
基本データ
| 作品名 | H邸 |
|---|---|
| 所在地 | 福井県福井市 |
| 敷地面積 | 162.96㎡ |
| 延床面積 | 97.7㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 3000万円台 |
設計者情報
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