
湘南の緑に包まれた上質リゾート空間
地形を生かし、開放的な景色と奥行きを
湘南・大楠山の緑に抱かれた
用途多彩なギャラリー兼スタジオ
当初の要望はオーナーが事業用にコレクションした車の展示ギャラリーを建てたい、というものだったが、計画地は大楠山の緑を望み湘南の海にも近く、リゾート感たっぷりの好ロケーション。何より、洗練された空間デザインを得意とするdesusとの対話を重ねるうちにオーナーのイメージも膨らんでいったのだろう。「クライアントをもてなせる場所が欲しい」「貸スタジオとしても活用したい」と用途が広がり、複合的な役割を持った建物がつくられることとなった。
だが、計画地は道路が走る北西から南東へ下がっていく細長い斜面地。加えて、湘南国際村周辺は建築物の高さに関する規制が多く、多彩な空間を備えたボリューム感のある建物をつくるには難度が高い条件だった。
しかしdesusの2人は制約を逆手に取り、「斜面地」だからこそできる魅力的な空間を計画。敷地の「細長さ」も生かし、広がりを感じられる贅沢な居心地を実現している。
竣工後は、ギャラリーはもとより貸スタジオとしても好評で、ハイエンド層をターゲットとしたCM撮影などで実績を積んでいる「RIDGE」。日常を離れたひとときを過ごせる上質な空間を、早速ご紹介していきたい。
斜面地だからこそ、景色も居心地も開放的
制約を魅力に変えた着想とは
それもそのはず、desusは最小限の壁や柱で強固な耐震性を確保するSE工法により、木造でも柱や梁が気にならないすっきりとした大空間を実現。2層吹抜けのダイナミックな展示スペースから奥へ進むと、クライアントをもてなすバーコーナー、リビング、ダイニングが次々と登場。最後は清々しい緑が広がるルーフバルコニーに迎えられ、道路からはうかがえない非日常の世界に気持ちが華やいでいく。
この贅沢でドラマチックな空間体験は、まぎれもなくdesusが意図した建築の効果だ。表側のギャラリーからルーフバルコニーまでを直線で並べ、バルコニー越しの緑に向かった視線の抜けをつくる。さらに、全ての空間に溶岩石の大壁を通し、同じ素材の連続性で豊かな奥行きを創出する──。「細長い地形」という制約をメリットに変換した見事なテクニックだ。
道路から下がっていく「斜面地」という制約についても同様のことがいえる。desusはまず、道路より低いとこに1フロア、その上に2フロアという3層の建物をプランニング。斜面という「土地の性格」を上手に生かして高さ規制をかわしつつ、要望された空間をコンプリートするために必要な床面積を確保した。
このとき、「道路より低いところの1フロア」は図面上で地下階になるのだが、実際は斜面地なのでフロアが地面に埋もれることはなく、閉塞感は皆無。窓の外は目線の高さに木々があり、一般的な1階と変わらない眺めが広がる。同じく、その上のフロア(ギャラリーやリビング、ダイニングを有するメインフロア)も図面上は1階だが、高台から緑を見下ろすのびやかな景色を楽しめて、空も間近に感じられる。
これらの開放的な眺望は、まさに「道路から下がっていく斜面地」を生かした設計の賜物。もし普通の平地だったら1階の窓は木々で覆われて空が見えにくく、地下階に至っては、緑はおろか光も望みにくかったに違いない。
そして、こうした自然との調和のクライマックスを引き立てる演出が、ルーフバルコニーにつくられた水盤だ。実は工事中にリクエストがあったというこの水盤、着工後に追加するのはかなりの難度だったはずだが、それでもやるとなったら最大の完成度で応えてくれるのがdesusだ。景色を邪魔しないデザインと水の流れにこだわった水盤は、キラキラ輝く流水がインフィニティプールのように緑に溶け込み、人々を魅了。「森を眺める」のではなく「森の中で過ごす」、そんな感覚を味わえる空間となっている。
こだわりのディテールとオーダー家具
建築がつくる「ここにしかない特別な時間」
例えば、道路側のギャラリーから奥のルーフバルコニーまで続くインドネシア産割肌溶岩石の大壁。先述の通りこの石壁は、同じ素材を連続させることで奥行きを強調する建築的な仕掛けだが、本物志向の高級感を醸し出す意匠面でも欠かせないファクターだ。その豊かな質感に合わせているのは深みのある色合いのチーク材。木々に囲まれたロケーションに馴染み、かといってナチュラルになり過ぎず、洗練されたリゾート感を出すのにこれ以上ない組み合わせだ。
空間をランクアップするオーダーの設備や家具も多く、キッチンや収納はオーナーの好みや用途に合わせてオリジナルをデザイン。冷蔵庫など生活感のあるものを隠したキッチンはウォールナットで仕上げ、細長いダイニングテーブルは贅沢に一枚板で造作。会食にぴったりのおもてなし空間をつくっている。
一方、スタッフが宿泊できる地下階はテイストを少し変え、インダストリアルな雰囲気に。アーティスティックな階段が印象的なロビースペースは無骨で温かみのある照明器具、アメリカ製のスイッチなど、エッジの効いたアイテムで上階とは異なる表情を演出。このほか、2階にもシックでホテルライクなベッドルーム、サウナ付きのバスルームなど、ため息モノの空間がラインアップされている。
自然を取り込むスケール感のある建築と、細部まで美しいインテリア。それらが生み出す世界は都会的で洗練を極めているのに、光や緑の癒やしなど、ヒトがつくり出せない豊かさを享受できる懐の深さがある。この場所に「RIDGE」という建築があって初めて味わえる特別なひとときは、招かれた人たちだけが体験できる特権といえるだろう。
撮影者:ヤマベスタジオ 山邊章史
基本データ
| 作品名 | RIDGE |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県 |
| 敷地面積 | 697.34㎡ |
| 延床面積 | 375.13㎡ |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

ペットと暮らすアンティークな宝箱のあるガレージハウス
閑静な住宅地の中に建つお引き渡しから1ヶ月のS様邸を訪問させていただきました。通りからは駐車場と建物の壁面しか見えず、一体どんなお宅なのか…?アプローチを経て玄関に一歩足を踏み入れると、外観からは想像もつかないようなお住まいに出迎えられました。

狭小地で8つの豊かな住空間。 開放感と快適さを生む「踊り場」の活かし方
敷地は約13坪。しかし、一見、2階建てに見えるこの住宅の内部には8つの層に分かれた住空間があり、青空と緑の爽快な眺めも楽しめる。コンパクトな敷地でここまで豊かな住まいをつくることができたのはなぜなのか? 設計を担当した松浦荘太さんの、空間を自由に操るマジックを紹介しよう。

東京・軽井沢の2拠点生活を満喫。緑に包まれたアウトドアリビングのある別荘
軽井沢に別荘を建て、東京との2拠点生活を計画していたAさま一家。設計を担当した奥野公章さんは、環境を読み解き快適な住まいをプランニング。高原リゾートの非日常感と、テレワークをしながらの日常生活、2つのライフスタイルを包み込む家が完成した。

三角形の変形敷地は、余白を活用。ひとり時間も、大勢での集いも楽しめる家
ひとりで暮らす自宅を新築するため、ほぼ三角形の敷地を購入されたお施主さま。建築家の戸川さんは、三角形の敷地に小さな正方形を配置し、余白も活用しながらゆとりある家をつくりあげた。ご友人たちとパーティーをしたり、ひとり時間を楽しんだり。どんなシーンにもフィットする家はどのように完成したのだろうか。

10年ぶり二度目の家づくりは予算大幅減額 困難を克服し叶えた明るく開放的な住まい
「家は一生に一度の買い物」といわれるなか、同じ建築家に再び依頼をする施主は極めて稀だろう。思いがけない展開で二軒目の家づくりに踏み切ったMさんが選んだのは、10年前に一軒目を手がけたhaの保坂裕信さんだった。しかし順調に進むかと思われたプロジェクトに突如降りかかった予算の大幅削減。一時は実現が危ぶまれながらも、明るく開放的な理想の住まいへと昇華させた保坂さんの真価に迫る。

個性的な住戸が集うコーポラティブハウス。全住戸に庭付き一戸建ての豊かさを
奥野公章さん設計の『荻窪ロウハウス』は、集合住宅でありながら自分好みの住まいをつくることができるコーポラティブハウス。驚くことに全住戸が庭付き一戸建て感覚で住めるという。住戸の事例とともに、工夫を凝らした奥野さんの建築の魅力を紹介しよう。

LDK36.8畳、リビング21.4畳、吹抜け5.5m 大空間と巨大な壁が目を引く、木造住宅
横浜市青葉区に位置する、敷地が広く高級感あふれる住宅街。その中でも、ひときわ目を引く外観の邸宅が誕生した。道路側に設置された巨大な壁が、道行く人の注目を集める。建物の内側にも多くの特徴が秘められている。特筆すべきは、大空間のLDKと大開口のガレージを木造で実現した点だ。本作品の秘密をご紹介しよう。

防火地域の10坪の土地に豊かな空間を 不可能を可能にした「天空の光庭」という発想
家づくりはときに、厳しい現実に直面することがある。土地条件や予算により、ハウスメーカーから「その条件では無理」と言われ、思い描いていた家を諦めたり妥協したという人も多いことだろう。Oさんもそうなりかけた1人。そんなOさんの救世主となったのは、キトキノアーキテクチャの小林玲子さんだった。

まちと調和しながらもランドマークに 自然や家族との距離もほどよい「離れ」
定年後、山間部にある母が住む実家で暮らすことを決めた施主のKさん夫妻。当初は、母屋のリノベーションを検討していた中決断したのは、建築家高橋翔太朗さんが提案した「離れ」の新築。夫婦2人の生活に必要な広さ、家族や目の前の自然との距離感、まちとの調和やデザイン性など、全てにおいて「ほどよい」離れでの暮らしは、2人のセカンドステージを輝かせている。










