
全部屋から庭が見え、室内外で感じる美しさ
家族があたたかな関係を育てる、大邸宅とは
建築に詳しいお施主様からの、複数要望
その本質は、“健康に過ごせる家”だった
その主なものは下記のとおりだ。
①庭を中心にした落ち着いた住まい
②木材(檜材)にこだわった快適な空間
③美しい屋根の建物
④ヒートショックのない全館空調
⑤車が好きなので屋内に3台の駐車場
⑥堂々とした玄関
⑦天井の高いLDK
しかも個人宅の注文住宅としては珍しく、設計事務所はコンペで決定するというこだわりだった。
この作品を手がけたのは、愛知県一宮市にある、梶浦博昭環境建築設計事務所の建築家、梶浦博昭さん。東海地区や関西方面を中心に、個人宅や店舗などを幅広く手がけている。
梶浦さんは通常、住宅のコンペにはほぼ参加しない。住まいづくりは、お施主様との丁寧な対話を重ねて進めるべきだと考えるためだ。しかし今回は特別に、コンペに参加した。その理由を、梶浦さんはこう語った。
「住宅はお施主様とじっくり向き合うプロセスが不可欠で、信頼関係を大切にしているので、通常はコンペをお受けしていません。しかし今回、私をコンペ参加に直接ご指名いただいたのと、敷地が広くて提案も幅広くできるのではないかと感じ、参加させていただきました」。
梶浦さんはこうしてコンペに参加し、審査の結果採用された。
一見するとバラバラに見えるお施主様の数多い要望を、梶浦さんはヒアリングを通じ、以下のように整理した。その点がポイントとなったようだ。
「お施主様は建築関係に詳しいからこそ、家作りを失敗したくないという想いを感じました」。
「また、多くの要望の根本にあるのは“健康に過ごすことができる家”にしたいのではないかと認識しました」。
健康をキーワードに要望を分類すると、
体の健康:
④ヒートショックのない全館空調
② 木材(檜材)に拘った快適な空間
心の健康:
①庭を中心にした落ち着いた住まい
③ 美しい屋根の建物
⑦天井の高いLDK
と整理できる。
こうしてお施主様の要望を深いレベルで理解し、作品を創り上げるプロジェクトがスタートした。
要望を、具体的なカタチにするのが建築家
多くの提案を加え、快適に生活できる家
まずは土地を分筆する場所の検討からスタート。現地を確認した梶浦さんは、他の建築物が視界に入らず、空が広く見える場所を選定することから始めた。
そして、この視界を活かすように庭を配置。その庭を毎日の生活で満喫できるよう、庭を囲むプランを考えたのだ。家屋はL字で、各部屋から庭を眺めることができる設計となった。
また、車3台の駐車場や堂々とした玄関をという要望に応えるため、家屋を挟んで庭の反対側、つまり表側に広大なエリアを確保。スムーズに駐車ができるプランとした。
お施主様の家には訪問客が多く、来客にはおもてなしの意味も込めて表側に気を配った。堂々とした玄関だけでなく、家族用と来客用を同じ玄関でさりげなく分割する設計となっている。
一方で家族が生活するエリアでは、とにかく心が休まる空間を追求している。素材は地元の東濃檜(岐阜県材)を多く使用。目に見えるところだけでなく、構造材においても、ほぼ東濃檜を使用した。
すべての部屋から庭が見えるプランとした原点は、家族がひとつのものを見て生活することが大切という考えからだ。
家族のつながりというあり方は、家庭によって違う。年齢や生活スタイルが違う家族が同じ庭を見ることで、自然な家族のつながりを感じられるのではないかという、梶浦さんの考えから生まれたものだった。
外観の特徴は、むくり屋根だろう。京都などでよく見られる緩やかな曲線を持った屋根は、柔らかな印象を周囲に与える。その軒先には樋がない。晴れた日には柔らかな屋根の曲線美を楽しみ、雨の日にはその軒先から落ちる雨水すらも満喫してほしいという考えからの発想だ。
当然ながら全館空調など、健康への配慮は十分になされている。
実は一点だけ、お施主様と意見の相違があった。高い吹き抜けの天井を希望したお施主様の意向に、梶浦さんが異を唱えたのだ。
この作品のLDKはとても広いため、そのすべてを吹き抜けにすると落ち着かない広大な空間になると梶浦さんは考えた。椅子やソファに座り、低い位置で生活する個人宅では、適切な天井高があるという考えからだ。
そこで梶浦さんは勾配天井や一部の天井を低くすることで、お施主様の希望と快適な毎日の暮らしを実現するプランを提案。結果として、お施主様はこの案にとても満足しているそうだ。
この他にも各所に工夫やアイデアが散りばめられている。ぜひ写真の説明をご参照いただきたい。
お施主様が当初持つ、表面的な要望の真意を理解し、最適なプランを提案できる建築家の存在はとても心強い存在となる。
自分の要望をプロフェッショナルとしての第3意見として、時には異なる提案をしてくれる建築家こそ、注文住宅を依頼する際に頼りになるのではないだろうか。
人が集まり、あたたかな関係を生み出す場所
それを作り出すことこそが、建築家の役割
そこにある“環境建築”には、関わりや関係性といった意味が強く込められている。
その意図を、梶浦さんに聞いた。
「人と人の関わりの間を“人間”といい、空(無)の関わりの間を“空間”といいます。人と人、人と自然、人と時間、人とモノ、すべては関わり(環境)が大切と考えています」。
「あらゆる関わり方・関係性・つながり・コミュニケーションを大切にして、あたたかな<心>と<場>を育てることが大切だと考えています」。
「個人宅と店舗で違いはありません。建築とは、人が集まり、あたたかな関係を持つことができる場をつくることだと考えています」。
確かに、今回の作品も一つの庭を家族が共有し、無意識のうちにつながりを感じられるプランとなっている。この他のすべての作品でも、この考え方は共通しているそうだ。
その一方で、大切なのはお施主様の価値観だという。
お施主様の価値観にあったものを作り上げれば、自然にあたたかな関係が生み出される。だから建築家のエゴを押し通すようなことはしない。とにかくお施主様の希望や考えを、コミュニケーションを通じて知ることを重視しているそうだ。そのうえで、付加価値がある提案を加えたプランを作ることに注力しているという。
興味を持たれた方は、いちどコンタクトしてみてはいかがだろう。
基本データ
| 所在地 | 愛知県稲沢市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 499.38㎡ |
| 延床面積 | 337.65㎡ |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

歴史が刻まれる農家住宅の「和」と若い世帯が居心地のよい「モダン」を融合
「建築は機能や便利さ以外にも、家族とのつながりや自然を前にして感じることなど、楽しさがたくさんあります」と建築家・高瀬さん。そんな家づくりへの思いが十分に伝わってくるリフォーム事例を紹介しよう。暮らしの「実」の部分と、住まいに刻まれてきた「歴史」、その両面を大切に設計されている。

内と外が緩やかにつながった、「空間グラデーション」の妙
施主であるHさんが自邸を建てるために選んだ土地は、住宅街のなかにある角地でした。南北に細長い敷地の南と東に面した道路は、それぞれ幅員4mほど。建築家の植村康平さんは敷地を何度も訪れ、Hさんファミリーが暮らす理想的な住空間をイメージしながらプランニングしたといいます。そうして誕生したのが、道路と庭、室内がゆるやかなグラデーションでつながった「カドニワの家」でした。

窓辺の光が宿る家 100年を経た古民家の再生
推定築100年以上の古民家のリノベーションを手がけた建築家・北村拓也さん。住まいを囲む下屋(げや)に着目し、雪国の知恵を現代の暮らしへとつなぐ魅力的な空間を完成させた。時間を重ねたものへの愛情と敬意を感じる北村さんならではのリノベを紹介。

まるで公園!広い庭とテラスで 内と外がつながる、開放的な住まい
外から見るとまるで公営の公園のように見える、南津軽郡のK邸。「敷地全体を使った地域に開かれた開放的な住まいにしたい」というKさんの要望を叶えたこの住まいは、随所に外部空間と内部空間をつなぐ工夫がされている。家のどこにいても外が感じられるこの開放的な住まいを形にしたのは、Kさんの中・高校時代の同級生であるmizuiro architects 一級建築士事務所、葛西瑞樹さん。その家づくりの詳細について、お話を伺った。

市街化調整区域にある高低差1.4mの変形敷地 土地の制約を特徴として捉え、活かした邸宅
三重県員弁郡のとても制約が多い土地に、個性的な邸宅が誕生した。この土地は市街化調整区域にあり、土地の中に四日市市と員弁郡の行政境界がある。さらに高低差が1.4mもある傾斜地で、変形敷地となっていた。多くの制約を克服して生み出された、この作品をご紹介しよう。土地に制約がある方の参考になれば幸いだ。

洋の家具もしっかり馴染む!上質で快適な”和”空間づくりとは
Mさんご家族は、30代の共働きご夫婦と小さなお子さん2人の4人家族。「四季や自然を感じられる、飾り気のない住まいを」という願いを受け、日本ならではの自然素材を用いた住宅建築を展開する建築家・加藤武志さんがつくりあげたのは、まさに「人、自然、家が一体となる安らぎの空間」だった。

光、風、音を感じながら、自然と共に暮らす森の中の別荘
暑い夏、涼しい場所で過ごしたいとの思いで別荘づくりを決断。 自然に囲まれ、光や風、音を感じながらの生活に魅了され、ついには移住を決断するまでに。 そんな別荘を設計したのは、TAWs DESIGN代表の田辺誠史さん。 田辺さんの自然を上手く取り込んだ家づくりに迫る。

お施主さま、職人、建築家は1つのチーム。 贅沢な環境で趣味を存分に楽しむ家
新築する自宅では、趣味を存分に楽しみたいと考えていたお施主さま。依頼を受けた建築家の武本さんは、敷地から見える富士山を生かしながら同時に暮らしやすさを考慮し、分棟を提案。武本さんによるお施主さまの好みに合った職人選びから生まれた相乗効果で、ディテールにも妥協しない最良の家ができた。

ワンルーム的大空間で居心地よく 家族が繋がり仲間が集う家
住宅を建てるとき、多くの人は「どんな家にしたいか」を考えることが多いだろう。施主の「こんなテイストにしたい」「子供部屋と書斎はほしい」「抜群の収納力や家事動線」といった建物のスペックに眼が行きがちだが、実は一番大切なことは「暮らし」に眼を向けること。 建築家の石井航さんは、常に施主家族が「どんな暮らしをしたいのか?」を問い、施主との対話でそれを捉え、それを実現すべくプランを提案している。
