
家族が集い、ご近所の輪も広がる
新しいコミュニティ型賃貸住宅
三角の土地はワクワクの始まり
コミュニティを育む場を大切に
「きっかけは相続した土地なんです」と話す井村さん。親から相続した土地には子ども時代を過ごした母屋があったが、兄弟は県外に住んでおり自身もこの家には住んでいなかった。これを何とかしたいと考えて行きついたのが、新しいカタチの賃貸住宅を建てることだった。
完成した住まいは、三角形の土地に遊歩道を設けた戸建ての賃貸住宅が4戸。この4棟はあちらこちらを向いており、一見ランダムに配置してあるかのよう。でもこれは同じ敷地内の中でも隣家との程よい距離感を保つためであり、三角形の土地を活かす綿密な計算のもとに成り立っている。
さらにこの4棟、実はそれぞれ隣家との境界線がないのである。目に見える境界は腰壁程度のコンクリートのみ。でもこれが家族だけでなく、入居者同士が打ち解けあっておしゃべりできる絶妙な仕掛けになっている。「入居者同士のコミュニティを育んでもらいたい」という、井村さんの想いの現れである。
全ての住宅に遊歩道に面した土間空間を設けたのもその一つ。「この土間が日常の中で寛げる何気ないオープンな場所になればいいなと思って」と井村さん。掃き出し窓を開ければ屋内と屋外が一体化。屋内からも屋外からも直接行き来ができ、遊歩道からのアプローチもしやすくなる。入居者同士が集まってお茶をしたり、BBQを楽しんだりと、使い方は自由自在だ。
三角形の土地の中心には井戸も設置。この井戸は夏の時期の子どもの水遊びや草花への水やりなど、入居者が自由に利用できるようになっている。遊歩道は透水性のブロックを採用しているので水はけもよく、気兼ねなく使えるところも嬉しい。地震や災害などの緊急時に使えるようにとの思惑もあるそうだ。
もちろん、この4棟はコミュニティにまつわる工夫だけではない。賃貸物件には珍しい備え付けのスロップシンクや、DIY壁など、井村さんが今まで手掛けてきた注文住宅の中で人気のあったアイテムやプランを採用し、住み心地にもこだわっている。
例えばB棟。2階のフリースペースにはテーブルを造作。テーブルの前は1階玄関の吹き抜けになっているので、ここで作業していても家族の誰かが帰宅するとすぐに分かる。また、勾配天井で開放感も抜群。それぞれの住宅には収納もしっかり確保されるなど、細かな気遣いがあちこちに。賃貸住宅だからといって画一的なわけではなく、4棟それぞれの個性や特徴が感じられるのも、住む人のことをしっかり考えた建築士・井村さんならではの配慮だろう。
ライフスタイルは必ず変わる
賃貸で「今」の暮らしに合う家を
「賃貸生活をどこまで豊かに実現できるか、というのがこれからの時代に求められると思うんです。賃貸住宅にも住む面白さ、適度なコミュニティがあってもいいんじゃないかと思って…」
この考えから生まれた「MOB TOWN ミナミシモハラ」それぞれの住まいは、3人の子どもとその両親が住めるようにと設計。外観も白、茶、シルバー、アイボリーと全て色を変え、マイホームを建てる時のように、入居者に選ぶ楽しさを取り入れた。
間取りも4棟で微妙に違っている。吹き抜けがあったり、フリースペースがあったり…。内装のクロスの色も異なり、ここにも選ぶ楽しさがある。
DIYの壁を採用したのも、賃貸住宅では自由にできない壁のディスプレーに幅を持たせるためだという。自由にビスを打っていいので、好きな絵画や棚を設置するのも可能。季節ごとに子どもと一緒に飾りつけをしても楽しい。ちょっとした庭があるのも嬉しいところ。また、窓の位置にもこだわり、普通の賃貸住宅に比べて数も多く、遊歩道がよく見えるように工夫されているのだとか。
「子どもが生まれて子育てが終わるまでは、こういった(MOB TOWN ミナミシモハラのような)コミュニティ住宅に住み、子どもが巣立ったら他の場所に住み替えたらいいと思うんです」
そう井村さんが言うように、家族の人数や状況によって住まいを替えるのは、実は合理的でニーズも多いのかもしれない。
マイホームを建ててしまうと、なかなかその土地から離れられない。これが賃貸だともっと気軽に引っ越して行ける。これまでの賃貸住宅は家賃と広さから消去法的に選択されがちだったが、こういった戸建ての賃貸住宅が増えれば、より自分の生活に合った住まいが見つかり、もっと自由な暮らしができるかもしれない。土地を相続して不動産活用・投資を考える人への可能性も広がりそうだ。
基本データ
| 所在地 | 愛知県春日井市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 600㎡ |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | Z邸 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

敷地に対し斜めの動線で眺望を確保 大胆な発想で実現した美しく暮らしやすい家
新築する自宅では、夜景を楽しみたいと考えられていたお施主さま。候補となる土地が見つかったものの、当時残っていた家ではとても景色がいいとは思えなかった。同行した建築家の石さんにとっては、この場所こそベストだったという。敷地の形にとらわれず、斜めに向かって大開口したことで思い通りの暮らしを叶えた。

モダンと暮らしやすさを両立した、自然と人が集まる家

那須の爽やかな景色と暮らし、冬も快適。 十字に重なるモダン邸宅
住み心地がよく、洗練された住まいを多数生み出している建築家の川久保智康さん。那須に建てたこの家は高原の美術館のような佇まいや、ホテル暮らし気分を味わえる邸内など、魅力は枚挙にいとまがない。「上質な建築に住まう幸せ」を実感できる住宅だ。

「この家がほしい!」から始まる 狭小住宅の完成形
家づくりにおいて、建築家が過去に手掛けた作品を見て「このテイストが好き」「この人にお願いしたい」と思うことは誰しもあることだろう。しかし、「自分もこの家と同じものが欲しい」と思わせる建築家はどれだけいるだろう。ネイティブディメンションズの鈴木さんは、そんな稀有な建築家の1人。狭くても機能が詰まった快適な住宅をつくる匠、鈴木さんの仕事に迫る。

築40年の日本家屋の梁や構造材を活用し 古民家然とした和モダンな家にリフォーム
「新築にはない魅力を引き出すこと」それが建築家・森さんのリフォームへのこだわり。今回紹介するN様邸はリフォームコンクールの受賞作品で、そんな森さんの設計思想を体現した実例。もともと使われていた構造材を活用し、N様の快適な暮らしに適した減築や改修を施して、和モダンな平屋に生まれ変わらせている。

のどかな景色と家族の居場所が1つになる、 通り土間のある家
S邸は、家の中を通り抜けることができる「通り土間のある家」。子どもが駆け回りたくなるような、緑を望むのびやかな空間で家族が憩う──。そんな幸せを生み出した、コーデザインスタジオの小嶋直さんに話を聞いた。

木製ルーバーが暮らしを守る、中庭でつながった二世帯住宅+アトリエ
笹野さんの自邸『猪高台の家』は、親の住まいと完全に機能を分離した二世帯住宅+建築事務所からなっている。制限の多い土地条件に対して、過剰な3つの空間を収めた間取りと、それでいて採光や通風といった快適さを損なわない住空間。難解なプランを明快な答えへと導いた、笹野さんのユニークかつ的確なアイデアや工夫を紹介します。

地域と共に自然と共に 日本の原風景を感じさせる家
自らが生まれ育ったまちで、ゆったりと暮らしたい。そんな施主の思いを実現したのは、日本人の心の原風景にあるような暮らしを現代の建築で叶える建築家、礒健介さん。自然体の暮らしを実現した、礒さんの家づくりに迫る。

4年かけて土地探しするほど施主が惚れた デザイン性と使い勝手と両立させた家
女性目線を大切にしながら「暮らしやすさ」と「デザイン性」を兼ね備えた住宅を生み出している株式会社人と古民家 ヒトコミデザインの牧野嶋さん。施主のTさんご夫妻は、牧野嶋さんに自邸を設計してほしいと、約4年もの間土地を探し続けていたのだという。 Tさん夫妻の理想の住まいを実現した、牧野嶋さんの手腕に迫る。
