古くからの街並みと調和しつつ、独創的な
プランで将来の生活変化にも対応した邸宅
課題1:お施主様の要望は約80個
これを実現するためのプランとは
お施主様の要望が多いケースは、時々ある。しかし、ここまで多いことは珍しい。この作品を作り上げた葛島隆之建築設計事務所の葛島さんは、その時の感想をこう語った。
「平屋であることや部屋の数など、要件的な面での問題は特にありませんでした。驚いたのは、イメージの多様性です。SNSや雑誌などから集めた家具・照明・多種多様な仕上げ・設備機器・収納アイデアにいたるまで、大量の画像がありました」。
「それらが、一貫したものではなかったのです。たとえばコンクリート打ちっぱなしの外観写真や、木材の外壁の写真があり、クールな内観写真に続いて、雑多で楽しそうな内観写真があるといった感じでした」。
この、いわば相反する要望やイメージを、葛島さんは次のように考え、整理した。
・これらのイメージは、お施主様の理想の生活に向かう際の断片ではないか
・そのイメージは、お施主様の置かれた環境や季節によっても変わり、そのいずれもが理想の生活スタイルにつながるものではないか
つまり、このイメージは竣工後も変化するはずだと葛島さんは予測した。そこで、大量のイメージの中からどれか一つの大きな方向性を選ぶのではなく、様々な要素にあふれ、それらがお互いに響きあうようなものにするべきだと考えたのだ。
これはある意味、とても難しいプランニングとなる。しかしこの方向性であれば、将来お施主様の生活スタイルや趣味嗜好が変化しても、対応することが可能だ。
葛島さんは、変化し続けるお施主様の生活イメージに対応できるよう、将来にまで気を配ってプランを考えたのだ。
課題2:平行四辺形の土地と斜交する道路
昔ながらの街並みに溶け込むプランとは
この敷地は、昔ながらの街並みが残る閑静な住宅街にある。近隣の道路は直角に交差しておらず、斜めに交わる交差点が多数存在する。その道路に囲まれた近隣の敷地も、長方形に整地されたものは少ない。この敷地も、平行四辺形となっていた。
葛島さんは当初、土地形状にあわせた平行四辺形や長方形の建物を検討していた。しかし次第に、ある違和感を持つようになったという。それは、周囲の街並みとの整合性が取れないというものだった。
長い時を経て、この敷地をとりまく“まち”が出来上がったはずだ。道路は斜めに交差し、敷地は変形したものが多く、結果として家は道路にあわせてバラバラの方向を向いている。葛島さんは、この街並みが形作られた成り立ちと、家の成り立ちが連続していないように感じたそうだ。
そこで考えられたのが、この作品のプランだ。ポイントは、必要となる7つの部屋を“まち”との境界に建て、敷地の中心部に中庭が設けられている点だ。
各部屋は数珠つなぎのように一周できるようになっており、結果として中庭が作られた。その各部屋の梁は、敷地境界線と平行に設けられている。そのため家の中でどの部屋にいても、敷地境界線の方向がわかる。防犯のために外部に面した窓は、あまり大きく設けていないが、家の中で梁を見れば、周辺環境とのつながりを無意識に感じることができるのだ。
外観も、大きなひと固まりの家ではなく、さまざまな大きさと向きを持つ小さな建物が連続している。そのため近隣の家の成り立ちと近く、新しい建物ではあるが、まるで昔から存在していたかのような印象を受ける。
これが、周囲の街並みと家の成り立ちを連続させ、つながりを持たせるという葛島さんの答えだった。
家の隅々まで計算された、工夫の数々
将来も見据え、毎日を快適に過ごすために
まずは内装から見ていこう。先ほどご紹介した、敷地境界線と平行に設けられ、外とのつながりを感じられる梁の他にも、工夫が散りばめられている。
各部屋の壁仕上げは、1.柱現わし 2.合板OS塗装 3.合板EP塗装 の3種類を混在して使用している。内装で一般的な、“すべての部屋で同じ素材を使用する”、“部屋ごとに統一した素材を使用する”という方法は採用しなかった。
その主な理由は、冒頭にご紹介した、お施主様の将来的な住まい方の変化に対応するためだ。たとえば子供部屋に“子供部屋らしい”壁紙を使用してしまうと、用途を変更したい時に不便だ。あるいは家具の趣味が変わった時に、もとの家具に合わせた壁仕上げではマッチしなくなる。そこで考えられたのが、この3種類の壁材を混在させる方法だ。これであれば、その時点で一番マッチすると思う壁を中心に、家具を配置すれば良い。
またこの手法は、家の中が広く感じられる効果もある。たとえば、中庭を挟んだ向う側にある部屋の、一番奥にある外壁側の壁は自分の部屋と同じ白い壁になっている。すると、遠くにある部屋が、まるで自分のいる部屋と連続しているように感じられるのだ。
敷地の中心にある中庭にも注目したい。各部屋の中庭側には掃き出し窓が設置され、中庭越しに他の部屋が目に入る。各部屋からは自由に中庭へ出ることができ、くつろぐことができる。中庭の形状も、もちろん計算されている。単純な長方形ではなく、変形させることで、視線のカットが必要な場所に対応しているのだ。
秀逸なのは、隣家など外部の視線を絶妙に遮っている点だ。たとえば隣接する2階建ての家の窓からの視線を遮るため、該当する部屋は天井高を高くとっている。
このように考え尽くされた作品に、お施主様はとても満足しているそうだ。毎日、帰宅するのが楽しみでしかたがないという。
いかがだろう。葛島さんは設計の際、常に周辺環境の成り立ちや歴史について考え、調和することを意識しているそうだ。たしかにこの作品も、整地された住宅街にはない周辺の特色をつかみ、それと調和させることで出来上がったものだ。さらにはお施主様の将来的なライフスタイルの変化までをも考えている。
家に対するご自身の考え方が定まっていない方や、周辺環境になじむ家を建てたいと思っている方に、特にお伝えしたい。興味を持たれた方は、いちどコンタクトしてみてはいかがだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 7部屋のコートハウス |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県西尾市 |
| 敷地面積 | 181.85㎡ |
| 延床面積 | 95.63㎡ |
| 予算 | 3000万円台 |
撮影:葛島隆之建築設計事務所
設計者情報
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