
狭小地で8つの豊かな住空間。
開放感と快適さを生む「踊り場」の活かし方
階段の踊り場も活かし、
豊かな住空間を創出
この家を建てるとき、建築家の松浦荘太さんが施主さまご夫妻から受けた要望は、「仕事場を兼ねた住まいを建てたい。家族が増えたときのために、子ども部屋になるスペースも欲しい」というものだった。
仕事場とは、奥さまが主宰されるアクセサリーブランドnezuの企画/制作の場になる。日中、奥さまはスタッフと2人で製作などの業務にあたる。ときにはバイヤーも買い付けにやってくる。つまり仕事場には、「2人が製作するアトリエ」「作品のディスプレースペース」「来訪者と打ち合わせができる場所」という3つの役割が求められる。
しかし、先述のとおり敷地はとてもコンパクト。松浦さんに最初の感想を伺うと、「正直、この敷地で、生活の場以外にそれだけの空間を内包した家を建てるのは厳しいな……と感じました」との答えが返ってきた。
試行錯誤した結果、松浦さんは「建物全体を階段でスキップフロア状にして、生活空間と階段を一体化させる」というアイデアにたどり着く。
完成した住まいは外から見ると2階建てだが、邸内の床レベルはなんと8層にも分かれ、多くの住空間を備えている。空間構成は家の中心に配した構造壁のまわりをぐるりとのぼっていくスキップフロアで、1階は玄関と水まわり。1.5階は将来の子ども部屋にもなる洋室、2階はキッチン、2.5階にリビング。そして半地下が主寝室。
これだけで床は5層になるが、さらに、1階~2.5階までをつなぐ階段には棚やカウンターデスク付きの広い踊り場が設けられており、そこもディスプレースペースや書斎として使えるようになっている。踊り場は1~1.5階、1.5~2階、2~2.5階のそれぞれにあるから合計3つ。先述の5層にプラスして全部で8層というわけだ。
8層の空間の間は建具がなく、邸内全体に光や風を行き渡らせるとともに一体感も創出。それでいて、高さが違うことで各スペースの独立感も十分。製作や打ち合わせなど、目的によって好きなように空間を使い分けることができる。
「横に拡げられないから縦に」は、狭小地でよくある手法だ。しかし上下の移動手段である階段と踊り場をこんなにも活かし切った住まいは、なかなかないのではないだろうか。限られたスペースの敷地でも、建築家の発想次第で空間はここまで豊かになる。
住む人の個性が活きるデザインと
曖昧さが生む自由な暮らし
松浦さんはいう。「施主さまご夫妻のお話を伺うと、奥さまが仕事をする傍らのテーブルで、遅くに帰宅したご主人が食事をするなど、オン・オフの区切りが曖昧な暮らしをされていることがわかりました。そのため空間の用途もあえて曖昧にし、どこにいても、オン・オフのどちらにもシフトできる住まいにしたいと考えました」
例えば2階のキッチンで食事をつくったら2.5階に上がって食べてもいいし、来客時は1.5階に料理を運びゲストをもてなしてもいい。2.5階で奥さまが仕事をし、ご主人は同じフロアのソファで読書にふけってもいい。逆に、2.5階で奥さまがくつろいでいたら、ご主人はすぐ下の踊り場の書斎でパソコン作業をしてもいい──。
床の高さの違いが生んだ8つのスペースのつかず離れずの関係は、暮らし方を無限大にする。と同時に、施主さまご夫妻のライフステージの変化に合わせ、使い方を自由に変えていくこともできる。
住む人の好みのインテリアが映えるシンプルでセンスの良い内装も、こうした可変性の高さに一役を買っている。差し込んだ光の明るさが活きる白を基調に、家の中心となる構造壁に上品なグレーを使用。どんな色彩も受け入れる白とグレーは、アクセサリーのディスプレーに限らず空間の用途の自由度を高める。
施主さまのライフスタイルを細やかにイメージし、階段を住空間の一部ととらえた柔軟で斬新な設計と、「うるさ過ぎず・シンプル過ぎず」なデザインでベストな住まいをつくり上げた松浦さん。そんな家づくりを実現するには、住む人の暮らしを思うヒアリング力と想像力、それを形にしていく設計スキルやデザインセンスが不可欠だ。話を聞けば聞くほど、松浦さんはその全てを備えた建築家なのだと思わずにはいられない。
基本データ
| 所在地 | 東京都世田谷区 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | M邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

友人が集まるレトロポップな洗練空間 思い出が息づく居心地抜群の『キジノイエ』
「友達と楽しく過ごせる空間にリノベーションしたい」。施主さまの要望に応えてフレイム一級建築士事務所が提案したのは、吹抜けの天井にひと工夫したユニークなプラン。レトロ×80’s風の洗練空間を引き立てる内装や家具の情報も要チェックだ。

出入り自由、誰もが使える通り土間。 美しい田園風景になじむ、切妻屋根の家
建築家の林田さんが自邸を建てるため選んだ土地は、一面に田んぼが広がる農村地帯にある。田んぼを眺めつつ生活できる平屋は、切妻屋根も美しくしっくりと風景になじんでいる。それだけではない。出入り自由、誰もが使えるパブリックスペースとして通り土間を設けるなど、本当の意味で地域に根付いているのだ。

シンプルだけどチープじゃない じっくりとつくり込まれた、写真館兼自宅
「シンプル」という言葉の同義語は「単純」「簡素」「簡略」といったところだろう。しかし建築においては、シンプルなデザインだからといって単純なつくりでも、建築家が手間をかけずにつくるわけでもない。大人気の犬専門写真館をつくったのは、施主とじっくりと対話し、手間暇かけた仕事に定評のある建築家、服部さんでした。

室内にいながら屋外のような開放感!料理好きの奥様のために建てた鎌倉の注文住宅
鎌倉の閑静な住宅街に佇むE邸。モダンかつシンプルな外観は、温かみに加えてさりげない存在感があります。ご主人曰く「料理好きの妻のために建てた」というその住まいには、建築家である松岡淳さんの情熱と、細部に至るまでこだわりが凝縮されているようです。

プライバシーと採光を叶える「ずらし」の妙 個の時間も、家族の団欒も楽しい2世帯
住宅密集地での二世帯住宅づくりは、プライバシーの確保、さらには採光・通風など解決すべき課題は多い。その難問を様々な手法で見事に両立させてみせたのは、顧客との「対話」を通じて価値観や家づくりのプロセスを「共有」することを大切にしている建築家、河野有悟さんだった。

シャビーな雰囲気漂う 憧れの「サーファーズハウス」
千葉の住宅地に建つW邸は、シャビ―な雰囲気が魅力のサーファーズハウス。設計を担当したのは、長年外房で活躍してきたtai_tai STUDIOの若林秀和さんである。屋外のシャワーや、濡れたまま上がっても平気な土間の玄関。庭と一体化を感じさせる開放的なLDK…。サーファーであるWさんご夫婦のための工夫が随所にこらされた、若林さんの家づくりに迫る。

外は清らか 中はほっこり 家族を守る、白壁のファサード
周りに工場や商店が建ち並び、交通量も多い商業地に、小さな子供も安心して暮らせる家を建てたい。 施主のOさんが設計を依頼したのは、自らも子育て真っ最中で、チャイルドケアのお仕事もされている建築家、江ヶ崎雅代さんでした。

趣味もフロアも悠々!一人暮らし「ならでは」の暮らしと家づくり
間仕切りがなく、全てがつながった巨大なワンルームのような一軒家。一人暮らしを楽しむK邸だからこその開放的なレイアウトが、この家の特徴的な個性であり魅力となっている。住まい手の希望する暮らし方や使い方にしっかり寄り添い、形にする建築家・久保田鏡湖さんの家造りに迫る

設計は建築家、内装・外装はデザイナー。子どもが元気に遊べる「小さくても広い家」
自邸建築にあたり、内装・外装は自らが手がけることを計画していたインテリアデザイナーのIさま。建築家の菅家 幹さんは空間設計のみを引き受け、床面積の数字以上に広く感じる「小さくても広い家」を実現。Iさまのセンスが光る内装デザインも必見だ。


