
1階は保育園の園庭で2階が住居?
併用住宅に夢と可能性を感じさせる居心地の良い家
自宅1階の賃貸スペースを隣接する保育園の園庭として活用する
「女性単身の家の設計というのは、昨今それほど珍しいことではありません。しかし、一軒家を建て替えるにあたり、費用や労力、独居によるセキュリティなど、一般的な家族住まいとは違う視点で考える必要があると感じていました。母からの希望で、当初は賃貸駐車場の併設や、シェアハウスなども視野に入れて検討しましたが、折角ならば近隣に貸し出し地縁を育む場所にできないかと考えました」と松浦さん。
冒頭にもあるように、松浦邸の隣には保育園がある。ここに着目したのだ。
「隣の保育園は園庭が非常に狭く、ここに通う園児さんや保護者の方たちが、近所の公園まで遊びに出掛ける光景を目にしたんです。保育士さんにとっても、年長クラスならともかく、年少クラスの園児さんは、できるだけ教室から近く、少人数の保育士さんでも目の届きやすい場所で遊ばせたいという思いがあったようです。そこで、母親とも相談して、家の1階の敷地を賃貸にして「保育園の園庭」として使ってもらえないか?というご提案をしました。この提案は、保育園の方たちにとって願ってもない話しだったようで、実現に向けて本格的に話しが進んでいきました」と松浦さん。
こうして、自宅の1階の一部を隣接する保育園の園庭として貸し出すという、レアケースな住まいづくりが本格化していくこととなったのだ。
園児たちが安心して遊べる空間と、居心地の良い居住スペースの両立を実現
「周囲の状況を踏まえ、建物は木造の壁柱による高さが異なる3つのピロティを並べる構造としました。通りに面しているピロティは低く、奥に行くに従って高さを増していく構造となっています。こうすることで、日当たりと風通しの良い空間を生み出そうと考えたのです」と松浦さん。
松浦邸の1階はピロティとして構成され、2階は松浦さんのお母様が暮らすスペースとなっている。通りに面した「土間のピロティ」には、2つの出入口がある。1つは松浦さんのお母様が使う玄関。もう1つは、将来、店舗として使えるスペースへ通ずる出入口であり、現在はお茶を飲むスペースとして使われている。そして「園庭のピロティ」は、文字どおり隣接する保育園の園児たちが遊ぶ空間と、遊具などを保管するスペースとして貸し出されている。園庭のピロティの天井は、もっとも高いところで4.7mあり、開放的な空間が広がる。また、2階の住居部分が屋根の役割を果たし、園児たちは雨の日でも濡れることなく遊ぶことができるのだ。
これまで、隣接する保育園と松浦邸の間はブロック擁壁で仕切られていた。今回、松浦邸の建て替えにあたり、このブロック擁壁の一部が解体・高さが下げられ、代わりに木製の格子状の柵と扉が設けられた。防犯上、柵と扉はあるものの、松浦邸にある「園庭のピロティ」と保育園の裏庭が自由に行き来できるようになった。その結果、園児たちは安心かつ安全に移動できるだけでなく、双方の距離感がグッと縮まったといえるだろう。
「母の住まいの敷地にある園庭および保育園の裏庭は、通りから見てもっとも奥に位置しています。ここをつなぐことでプライバシーとセキュリティの両方をクリアすることができます。母親は、元々小学校の教員や介護の仕事をしていたこともあり、子どもとの関わりを楽しめる人なんです。そこで保育園と話し合いを重ねた結果、このようなつくりとなりました」と松浦さん。
2階の居住は、松浦さんのお母様が暮らすスペースだ。「母からは"部屋はたくさんいらない代わりに、キッチンとダイニングスペースを中心にして暮らしたい"というリクエストがあり、この点を重視することにしました」と松浦さん。そのリクエストに応え、1階の玄関から階段を登って2階はダイニング&キッチンとなっている。そこからさらに階段を登ると寝室という、開放的かつシンプルな構成の空間ができあがった。
松浦邸の2階には、隣接する保育園側、そして園庭側に大きく開けた窓が備えつけられている。この大きな窓があることで、ダイニング&キッチンはもちろん、寝室の窓から園児たちが楽しそうに遊んでいる光景を楽しむことができる。また、室内に高低差があることで煙突効果が生み出され、建物全体が風通しだけでなく、光を効果的に取り込み、日当たりの良さも兼ね備えた空間となっている。
しかし、窓が大きい分、外から室内が良く見えてしまうのではないか?と思われるかもしれない。「道路側は建物の高さを抑えてセットバックしています。保育園のエントランスや歩道など、人の目の高さからは室内が見えにくい設計となっています」と松浦さんは語る。
こうして完成した松浦邸は、お母様はもちろんのこと、保育園のスタッフや園児、その保護者の方にとってなくてはならない場所となったようだ。お母様が在宅の際には、階下で園児たちの遊び声に耳を傾け、日が暮れる頃には保護者の方が送迎に来る様子を眺め、夜になれば静かになった空間でゆっくりと過ごすこともあるようだ。
今、松浦邸のピロティで遊んでいる園児たちがやがて大人になったとき、この場所で遊んだことを懐かしく振り返るのだろう。そして、2階の部屋から園児たちが遊ぶ様子を眺めるお母様は、きっと我が子を見守る母親の眼差しそのものに違いない。
松浦邸竣工後、園児や保護者の方にも声を掛けられる機会が増えたという松浦さんのお母様。近隣との関係が希薄になりつつある現代において、これほど強い絆と信頼関係で結ばれたケースはかなり稀かもしれない。松浦邸を建て替えの取りまとめだけでなく、お母様と保育園側の間に立ち、調整役として奔走した松浦さんの尽力があったからこそ、「皆が幸せになれる住まい」が実現したことは間違いなさそうだ。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 兵庫県 |
|---|---|
| 家族構成 | 一人暮らし |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | M邸 |
設計者情報
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