
その土地を知り尽くした設計!
自然と共存し、暮らしを継ぐ家
工夫で実現! 自然と共存できる宅地計画
Sさんの敷地は約200坪。南北に細長い形だが東西の幅も十分にあり、広さに困ることはなさそうだ。ただ、山腹を切り開いた変形地のため、一見しただけでは分からないさまざまな制約が潜んでいた。
西に下る斜面の中腹に位置するSさんの敷地は、東側のやや高いところを道路が走り、道路と敷地の段差は自然崖となっている。そのため東側は、安全面と法的な理由から、家は崖から離さなければならない。北側も自然浸透式の下水処理システムを設置できるよう、ある程度空けておかなければならなかった。また、北側に車両を乗り入れ可能にしておきたいというSさんの希望により、敷地の入り口となる南から北側へ通じる十分な幅の動線も必要となる。さらに、宅地西側の斜面上端には大きなかしの木がそびえ、その根の張り具合も悩みどころだった。
このように複雑な要因が四方を取り囲んでいたため、結果的には家を建てられる範囲が限られてしまう。条件としては少し不利なようだが、周りの環境に手を加えることは考えなかったのだろうか?
「もちろん、東側の斜面に擁壁を設けて範囲を広げることは可能です。しかし、土地に手を加えると費用が余計にかかるし、せっかくのナチュラルな環境ですからあまり手を入れたくない思いもありました。自然を受け入れ土地をあるがままに読み、敷地ごとの個性を見出して周辺環境を生かす家づくりは僕の好みでもあります」
その結果、かしの木を囲むL字型の家になったという。
「当初、かしの木は土留めの役割をしているのでは? と考えました。だとしたら必要なものですから切れません。また、樹齢50年を優に超える大木だったので、役割に関係なく切るのはもったいないという思いもありました。そこで、諸事情から建物をかしの木に寄せざるをえないのなら、むしろかしの木を囲むように配置し、ランドマークとして特徴づけてはと思うに至りました」
大沼さんはより良い形で施主の希望を叶えるべく、かしの木の特性についても学び、家との距離をぎりぎりまで煮詰めた。
複雑な敷地条件を克服することが大きなポイントとなった家づくりだが、周辺環境との融合や家の外観も考え抜かれている。
ひとつは、かしの木や別棟など、もとからあるものとのバランスを考えた配置計画の妙。Sさんの土地には今回建て替える親世帯の母屋と並んで、息子さんご家族が住んでいた別棟が存在する。こちらは息子さんご夫婦のお子さんのうち、すでに大きい2人の部屋として残すことにしたため、この別棟とのバランスも考えて新居を配置した。
そして外観。山の斜面に立つS邸は、平地の住宅よりも家の全体を眺めることができる。逆にいえば、正面のファサードにだけ凝っても周囲の自然とのバランスが悪くなってしまう。遠目に見て環境となじみながらも個性が光る家をイメージし、四方のどこから見ても違う表情となるようにデザインした。
「暮らし方が人それぞれであるように、家の建つ土地も、自然の中だろうと都会の真ん中だろうとそれぞれ個性を持っています。家づくりに際しては単に住空間としての家をつくるだけにとどまらず、その敷地ならではの“環境“をつくっていくことを心掛けたいと考えています」
自然に囲まれた個性豊かな土地だからこそ、大沼さんの考え方が素晴らしい形でマッチしたのだろう。Sさんご家族は、長年ともに生きてきたかしの木をランドマークとして、今まで以上に意識するようになったという。
TPOに柔軟に対応。自由自在に使える部屋づくり
「縁側という場は家の正面に構え、出入りし、作業し、くつろぎ、茶飲み話をするなど、施主様にとって長く慣れ親しんできたもの。これは外せないと感じました。デザインからではなく、住まいは新しくなっても以前と変わらぬ生活を再現できるようにと、もとの住宅と同じ位置に縁側を設けることを最重要課題としてプランニングに取り組みました」
問題は広間である。宅地の要件を考えると、日常使う部屋とは別に大きな広間を設けるのは難しい。さらに、縁側を確保したぶん部屋として使える空間は狭くなってしまう。となると、広間をつくることが困難になるのでは?
「日常使う茶の間と縁側、座敷の3部屋を合わせて大きく使えるようにしました。もちろん3部屋の段差は無くしてあります。茶の間と座敷の間の欄間も無くしました。さらに、3部屋が大きくつながるよう耐震壁の脇に障子やふすまを引ききれるようにしました」
もともと、床に直接座る床座式が良いという施主の希望もこのアイデアの後押しとなった。板張りの茶の間と縁側+畳敷きの座敷…異素材ではあるが障子やふすまを引ききるとつながりができ、不思議と違和感なく大きなひと部屋になる。
新築祝いにはご親戚やご近所の方をお呼びして、“広間”でお祝いをしたそうだ。茶の間と座敷の2部屋にわたる長机に集うみなさんを見て、大沼さんの喜びもひとしおだったのではないだろうか。
2階の息子さん世帯はお子さんの巣立ち後まで考え、子供部屋の間やリビングと夫婦寝室の間にある仕切りを取り除けるようにした。将来的には夫婦の寝室を隣接するリビングと一体にし、子供部屋を新たな夫婦の寝室へと変えることもできる。
また、リビング・廊下・洗面・キッチンをぐるっと回れるよう動線を確保。廊下はやや幅広にして収納スペースやコート掛を設置し、2階世帯の玄関的な場としてしつらえた。洗面脇にはウォークインクローゼットもあり、家事をこなす奥様から「回遊動線が便利で非常に使いやすい」と喜ばれている。
開放感にも工夫を凝らしている。1階の茶の間は壁の入隅(いりすみ ※壁と壁、壁と窓などを合わせた角の内側部分)に縦長の窓を設置。隅が切れて外が見えると開放感が生まれ、広がりを感じる。これなら縁側の障子を閉めても圧迫感がない。
この窓には輝度対比を緩める効果もある。輝度対比とは簡単にいえば明るさの差から生まれる明暗。明るい部分はより明るく、暗い部分はより暗く感じるということだ。縁側から差し込む強い光は、茶の間の奥をより暗く感じさせてしまう。そこで、茶の間西側隅に窓を設けて柔らかな光を取り入れることで、奥の暗さを和らげているのだ。
一方で、2階は横の広がりを考えて、窓エリアを帯状に濃いブラウン色の仕上げとした。白・茶・白と壁の色を三層に積むことで部屋の重心が下がり、広がりを感じるとともに床座と相性もぐっと良くなった。
さらに、西斜面に立つS邸は西日を強く受ける。施主からも西日除けの要望があり、ひさしだけでなく敷地の環境も利用した。西側に広がる竹林は、寝室の主景に加えその役目を担っている。大きなかしの木も枝が伸びてくれば強い西日を遮ってくれる。ランドマークとしてだけだはなく実利的な働きも担っているのだ。
「いったん更地になるこの機を利用して剪定したため今は葉が少ないが、5年、10年とたって傘のように育ってくると、家とともにより周囲になじんでくるでしょうね」
かしの木に対する大沼さんの言葉にSさんはこう言ったという。
「5年後、10年後のたたずまいまで見越した話を聞くとは思わなかった」
S邸は自然と共存する素晴らしい家として家族に愛されていくことだろう。
【大沼 徹さん コメント】
自然豊かな環境に対し、施主様ならではの暮らしとどう向き合うか求められた案件です。同時に、土地の形や広さ、道との関係、眺望なども考慮しました。住居は、親世帯・子世帯とも生活スタイルの変化に柔軟に対応できるつくりとなっています。ご自身の土地の可能性を再発見し、楽しんでいらっしゃるのが印象的でした。
基本データ
| 所在地 | 東京都 |
|---|---|
| 敷地面積 | 648.72㎡ |
| 延床面積 | 146.01㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+両親 |
| 施主 | S邸 |
設計者情報
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