
安心の伝統工法、
現代の耐震性能の両立は、かくして実現された!
素材の生産地まで自分の目で見て、確かめて生まれる安心感
いくつかの建築事務所を回ったものの、任せてもいいと思える先がなかなか見つからなかった。そんなとき、知人から紹介されたのが、川口孝男建築設計事務所の川口さんだった。川口さんは伝統工法専門ではないが、熱心に話を聞き、親身になって考えてくれるその誠実な人柄に、この人ならと設計を依頼することにした。
「ご夫人は建築のことをよく勉強されていたのですが、新しい素材や現代工法には懐疑的なご意見でした。伝統技術に信頼を寄せていて、すべてにおいて“本物”を大事にしたいというお考えだったので、何よりその思いを最優先すべきだと考えました。ただ、伝統工法には耐震性などの面で弱点もあります。そのため構造の専門家にも相談しながら、時間を惜しまずにお施主様と話し合いを重ね、納得していただける最良の着地点を一緒に探していった感じです」と川口さん。
耐震強度を高めるため、一部の構造に現代工法を代替で用いる方法も提案したが、「新しい技術たけに依存するのはどうしても不安」とご夫人。そこで長い議論の末、伝統工法に則って家を建てたうえで、必要な部分のみ見えないように構造用金具で補強するかたちをとることで落ち着いた。
建築素材選びも、慎重に進めた。じつはこの家には、合板や集成材は一切使われていない。構造材の国産桧や、建具や家具に使う無垢、柱や壁に使う桧、サワラなど、それぞれの生産地にご夫人と川口さんが実際に足を運び、自分たちの目で確認し選定したものだけを使用した。部材の加工も機械で行なうのではなく、職人による手作業が基本。このように「どんな材料を、誰が、どのように加工するのか」を、一つひとつ直接確かめることで、家そのものに対する安心感、信頼感を積み上げていった。
家の設計にあたっては、家族それぞれの生活スタイルを大事にしたいというコンセプトのもと、中庭を囲んだコの字型の建物を採用。ご夫人が日中を主に過ごすリビングの向かいに、離れのようなイメージでご主人が仕事をする書斎を配置し、適度な距離感を保ちながら、中庭越しに互いの気配を感じられるよう工夫した。そのほか、玄関からまっすぐ2階の自室へ行けるよう動線をつくり、年頃の娘さんのプライバシーを考慮。
室内はリビングやダイニングの家具、各部屋の照明、備品の一つひとつにまで、ご夫妻の本物へのこだわりが感じられる。一方で、家族のためだけでなく、地域の景観にも貢献できる家にしたいという思いから、玄関前にはしだれ梅を、さらに家の周囲のわずかなスペースにも、できるだけ植栽を施した。今、竣工から数年が経ち、この家に根付いてきた植栽の緑が、街並みにささやかな潤いと彩りを添え、道行く人々の癒しになっている。
家の中心に設けた機能的な中庭は、光と風の通り道
その中で、道路をはさんだ南側の集合住宅が5階建てになることが判明。道路側からの日照があまり見込めないため、いかにして家の中に光と風を取り込むかが、重要な課題となった。そこで川口さんが考えついたのが、視界の広がる東南側をオープンにして、中庭を囲むように建つコの字型の建物だった。
「小さくても中庭があることで全室が明るくなり、室内にいながら自然や季節を感じられます。また、新しい家は高い塀や立派な玄関でとかく近寄りがたくなりがちですが、ご近所とのつながりを大事にしたいというご夫人のご希望もあり、中庭からすぐ表に出ることのできる裏口を設けました。わざわざ玄関へ寄らなくても、ここで気軽にちょっとした立ち話もできて、近隣に対してもオープンな家になりました」。
【川口 孝男さん コメント】
構造計算だけで、真の安心が得られるわけではありません。建て主自身が“よくわかる家”で暮らすことが大切なのだと今回、改めて感じました。家に対する思いもライフスタイルも、人によって違うはず。だから、それぞれの施主様の考え方やペースに合わせることも、建築家の大切な仕事だと思います。
【夫婦+子ども1人】
ときには打ち合わせが深夜にまで及ぶこともあり、完成までには長い時間がかかりましたが、最後まできちんと向き合ってくれて、川口さんにお願いして本当によかったです。手間ひまを惜しまずにつくり上げた家だからこそ、とても安心、満足して暮らしています。
基本データ
| 所在地 | 非公開 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | B邸 |
設計者情報
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