
日本最北端の厳しさでも快適に、
デザインも諦めない工夫とは?
雪深い港町の住民にオシャレな暮らしを届ける
降り積もった雪と同化するような白い外壁、四角い箱の一部を切り取る正方形の窓。関東近郊では見かけられるような建物ではある。でも、だからこそ、驚くことなのだ。神奈川近県と稚内周辺で設計をしている小池さんにその違いを尋ねると「とにかく雪と寒さですよね」と一言。「たとえば、基礎は凍結深度を考慮しないといけません。神奈川ではゼロなので基本的に土のなかに12cm埋まっていれば建築基準法にかなうのですが、稚内では凍結深度が80cmにもなります。土が凍らないところまで到達しないと基礎が浮いてきてしまうんです」という。そのうえ、コンクリートの品質を保つには基礎の工事を雪が積もらない10月までに終えなくてはならない。雪対策も予想以上に対応が必要で、マニュアルを熟読し、屋根にかかる雪の重みを計算しても職人さんに「乗った感じがやわらかいが大丈夫か」と問われたこともあった。
根本から異なる北海道の住宅設計に苦労しつつも、デザインを捨てることはなかった。メゾネットタイプの住戸は4世帯がジグザグに並ぶ。間にできた小さなスペースは建物の影になって雪もさほど積もらないと考え、芝を張って中庭にした。ずらしたことで隣と接する部分が減り、音やプライバシーの問題も軽減される。まんなかの世帯も四方に窓をつけることができた。稚内で住宅に求められる機能性は充分クリアしつつ、住みやすさやデザインも考えられた賃貸住宅は、誰の目にも違いは明らかですぐに4室とも埋まった。他では見ない印象的な外観を見て、稚内周辺からの問い合わせも相次いでいるという。稚内でもオシャレに住みたい人はいるし、オシャレに暮らせる住宅はつくれるのだということをこの最北のデザイナーズ賃貸は物語っている。
他にも周辺で戸建て住宅や共同住宅を手がけている小池さんは「家具やインテリアを扱うお店も限られていて、選択肢が少ないんです。いずれはインテリアまでコーディネートした賃貸住宅もいいかもしれないと思っています」という。雪深い港町にオシャレな暮らしを提供するためのアイディアは尽きないようだ。
離れた場所での設計監理を可能にする同志
寒さや雪の対策が求められ、住宅設計の考え方が異なるだけでなく、工事の環境も神奈川と稚内とでは異なる。全国をくまなくカバーする大手メーカーならともかく、小さなメーカーのつくる手頃でデザインも良い部材は手に入らなかったり、輸送費が高くついたり。特殊な工事が必要になれば職人を離れたところから呼び寄せる必要があり、これも経費にはね返ってくる。小池さんもそう頻繁には足を運べないため、現場のチェックにも工夫が必要だ。佐々木さんとは定期的にメールやSNSを使って現場の情報を共有している。現場の状況を伝えるにも細かいところまで写真や図面で示す必要があり仕事は増えるが、どちらもそうした手間を惜しもうとは考えない。「後輩の佐々木がいるのもありますが、元々、技術のある会社だから、稚内でも自信を持って良いものがつくれる」と小池さんは言う。
神奈川で設計した小池さんの図面の意図を汲んでくれる佐々木さんがいて、地元でも信頼のあつい会社があったから生まれた最北のデザイナーズ賃貸。関わった塗装屋さんは触発されて、自分の家も小池さんと佐々木さんに依頼してくれたという。「ここでもこんな家が建てられるんだと知って参考にしてもらえるなら嬉しいです。東京で僕たちがやってきたデザインや発想の住宅が稚内の中でもつくれるようになったら良いことですよね」と小池さん。この共同住宅の生みの親は神奈川と稚内、離れたところで活躍する同士たちだった。
【小池 正宏さん コメント】
東京のように土地は高くありませんが、気候に合わせた対策や工事の計画が必要になります。予算のなかでできる工夫はあります。正方形の窓も市内ではほとんど使われていませんでしたが、決して仕入れられないものではありません。稚内でもオシャレに住みたい、快適に暮らしたいと考えている人たちをサポートしていきたいと思います。
基本データ
| 所在地 | 北海道稚内市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 506.73㎡ |
| 延床面積 | 343.27㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | S邸 |
撮影:毛利亜希子(株式会社毛利写真館)
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

大切にしているのは、施主様との「対話」 ささいな一言から潜在的な想いを見つけ出す
大阪市天王寺区にある米田建築アトリエは、新築とリフォームをほぼ同じ割合で手掛けている。代表の建築家、米田さんが特にこだわっているのが、施主様との「対話」だ。その理由は、じっくりと話をすることで、施主様の潜在的な想いや要望が明確になるからだ。一例として、対話から生み出されたプランをご紹介しよう。

家族の距離感、街との距離感が絶妙。ほどよいつながりが心地いい、大人の二世帯
それぞれのライフスタイルが確立された、20代~70代の6人家族が暮らす二世帯住宅を手がけた建築家の熊田康友さん。敷地環境で課題だった採光と、家族のちょうどいい距離感を実現したのは、「吹抜けの中庭風デッキ」という熊田さんのアイデアだった。

広いピロティと雁行する建物で程よい距離感 時を超え住み継いでいける2世帯住宅
これまで離れて暮らしてきた家族が、1つ屋根の下で暮らす2世帯同居。「お互いがどれだけストレスなく暮らせるか」は、もっとも大きな課題といえるでしょう。そんな課題を設計力で解決し、「程よい距離感」の2世帯住宅をつくったのは、建築家の洲崎洋輔さんでした。

まるで公園!広い庭とテラスで 内と外がつながる、開放的な住まい
外から見るとまるで公営の公園のように見える、南津軽郡のK邸。「敷地全体を使った地域に開かれた開放的な住まいにしたい」というKさんの要望を叶えたこの住まいは、随所に外部空間と内部空間をつなぐ工夫がされている。家のどこにいても外が感じられるこの開放的な住まいを形にしたのは、Kさんの中・高校時代の同級生であるmizuiro architects 一級建築士事務所、葛西瑞樹さん。その家づくりの詳細について、お話を伺った。

悠々たる美しい佇まい。 ハイエンドな暮らしを彩るモダン邸宅
シンプルながら、上品でモダンな佇まいが印象的なこの家は、JWA建築・都市設計一級建築士事務所 渡辺純さんが設計したハイエンドな2世帯住宅。グッドデザイン賞受賞歴をもつ、見どころ満載の上質空間の魅力とは?

シンプルだけど単純じゃない 女性のためのこだわりの家
母と娘が2人で住む、白い三角屋根の家。この家を設計したのは、シンプルで飽きのこない家をつくることに定評のある、石川淳さん。明るさと美しさを兼ね備えた大人の女性の住まいの秘密に迫る。

“当たって砕けろ”と人気建築家にチャレンジした結果、理想以上の家が予算内で。
夫婦ともにマンション育ちで、一戸建てライフに憧れがあったNさん夫妻。当初は主に建売住宅を検討していましたが、雑誌で見た建築家・松本直子さんの建てた家に釘付けに。予算的にためらいがあったものの、思い切って松本直子建築設計事務所の扉をたたきました。

オーダーメイドで家族の色に染まってゆく まっさらな麻のシャツのような住まい
「どんな家に住みたいか」は、「どんな服が好きか」と共通点がある。ハイブランドの服が好きな人もいれば、ファストファッションで流行のものを身に着ける人、機能・デザイン・価格のバランス、いわばコスパを重視する人がいるように、住宅に求めることも人それぞれ。市中山居の増木さんがつくる家をひとことで表すならば、「麻のシャツのような住まい」だ。

多趣味を受けとめるナチュラル空間!安心快適も実現した秘密とは
ビルトインガレージ、緑豊かなウッドテラス、パン台のある広々キッチン……。多趣味なNさん夫妻のために建築家の長谷山泰三さんがつくったのは、無垢材を贅沢に使った明るく心地よい住まい。空間の魅力だけでなく、安心・快適な性能も併せ持つ心強い家だ。

