
2邸目の依頼は、真逆の要望
災害時にも動き続ける家
2邸目の依頼は「要望を全て盛り込む」
災害時にも止まらず動き続けられる家に
この島の中央部、周囲に、田んぼや住宅が点在する一角に、黒い壁と切妻屋根の和を感じさせる平屋がある。ef設計木下さんが手掛けたH邸だ。
実は施主のHさんが、木下さんに家づくりを依頼するのは2度目なのだという。もともと別な場所で、木下さんがつくった家で生活をされていたHさん。淡路島の地域医療に携わることとなり、この地での新たな家づくりを再び木下さんに託したのだ。
「前回のご依頼から約6年で、2度目のご依頼をいただいたことに驚きました。しかも、競合ではなくご指名だということで、とても嬉しかったことを覚えています」と木下さん。
「家は一生に一度の買い物」という言葉があるように、個人が何度も家づくりを経験することは少ない。経験するとしても、若い頃に建てた家が老朽化し、終の棲家をというケースが多いことだろう。建築家にとっても、同じ施主から短期間に再度の依頼を受けることは稀だろう。Hさんにリピートしていただけたことは、木下さんにとって「建築家冥利に尽きる」ことだったに違いない。
今回の家づくりにおいてHさんが最も大事にしたかったことが「自邸が止まらず動き続けられること」。万一の災害時に、この家が損壊したり、機能不全に陥らないこと。医療従事者として、地域の人々のための活動ができるよう、例えば停電しても発電が行えたり、高気密・高断熱で冷暖房が止まっても不自由しない家を希望されていた。
「実は前回の家は、使う素材にこだわり、海や庭の眺望を楽しんだり、風を感じるといった『自然と共に暮らす』といった雰囲気でした。今回は真逆で、設備などで『自然環境から家が守られる』というイメージでした」と木下さん。
高気密・高断熱、太陽光発電に蓄電池、さらにはエネファームに温水床暖房などのリクエストについては、導入したいメーカーや製品名までHさんより指定があったという。
前回とはテイストの違う家をつくることとなったHさん。それでも設計はやはり木下さんを選んだ。それは、前回の家づくりを通して感じた木下さんの対応力を評価し、絶大な信頼を寄せていたからに他ならない。
「Hさんの地域医療に対する姿勢に感銘を受けました。これは、要望を全て満たさねばならない。さらには、デザイン性も兼ね備えたものにしなければならないと感じ、設計していきました」と木下さん。
まるで家の中のツリーハウス
ピットリビング&ロフトで驚きの空間に
「もともと平屋にしたいというご希望でしたので、高低差を利用し、立体的な空間づくりを意識しました」と木下さん。
そうして導き出されたのが、ピットリビングというアイデア。
ピットリビングとは、ダウンリビングとも呼ばれ、周囲よりも一段低い位置に設けられたリビングのこと。「壁や仕切りがなくともゾーンを分けられる」「高低差が生まれ、開放感や視線にメリハリが生まれる」というメリットがある。
木下さんは、このピットリビングの上部に、切妻屋根の高い天井を活かしたロフトも計画した。もともと「どこかにスタディコーナーを設けてほしい」というリクエストに応えたもの。
天井高の高いLDKの空間の中に、あえて籠る形のリビングとロフトを設けるという大胆ともいえるアイデアだ。
このプランに対し、Hさんは「自分が伝えていなかった要望も盛り込まれている」と驚かれていたという。Hさんにとってみれば「さすが木下さん、よくわかっていてくれる」と、いう気持ちだったに違いない。
施主の要望をただ叶えるのではなく、真に望んでいることを捉え、そして想像を超える提案をする、木下さんの真骨頂が発揮されたといえるだろう。
そしてこのプランは、大きな変更がなく採用されたという。
出来上がった、H邸を見ていこう。
黒い壁と切妻屋根の和を感じさせるH邸。外壁は1枚1枚の風合いが微妙に違うサイディングSOLIDOを採用。「こういうのがお好みだろうと思って採用しましたが『これをお願いしたかったんですよ!』とおっしゃっていただいて。通じ合っているなと感じました」と木下さん。また、アクセントとして一部に塗装を施した杉板採用し変化をつけた。
室内に入ると広がるのが、切妻屋根の高さを生かした大空間。中庭からの光もふんだんに入り、開放感抜群だ。和モダンのテイストを纏うこの空間はフローリングも天井もオーク材貼られ、まるで木に包まれているかのようだ。
そしてこの空間の中央に鎮座するといってもいいほどの存在感を放つのが、ピットリビングとその上のロフト。まるで家の中にツリーハウスがあるかのようにすら感じさせる。きっとこの家を始めて訪れた人は「おおー」と声を上げるだろう。
木下さんはこのロフトを、畳敷きとしリビングとの境の部分にはデスクも設けスタディコーナーを実現した。あえてキッチンと向かい合う位置にデスクを設けることで、キッチンからもスタディコーナーの様子がわかり、さらには畳に直に座っても足が痛くならないよう、テーブルの下から足を投げ出せるようにするという細やかな配慮もなされている。木下さんは、単なる荷物置き場や、あまり使われないスペースになりがちなロフトを、日常的に勉強や仕事をしたり、時にはごろんと横になることもできる、第二のリビングとしたのだ。
キッチンには、共に訪れたショールームで一目惚れしたというCUCCINAのダイニングテーブル一体型を導入。天井から吊り下げられたリング型の照明もこの上質な空間にマッチしている。キッチン裏には、回遊動線のパントリーもあり、LDKに生活感を出さずに過ごせるという利便性も兼ね備えた。
広々とした中庭は、室内に光を導くだけの場所ではなく、気候の良い時期には、椅子やテーブルを出すことでアウトドアリビングにもなる。タープを掛けられるよう金具も取り付けてある。
災害時にも動き続けられる家というリクエストに対し、動き続けられるための要素は全て詰め込みつつ、生活の利便性や快適性、さらには上質なデザイン性で応えてみせた。
この家の出来栄えに、Hさんも「快適すぎる!思い残すことはない」とコメントを寄せてくれた。
1邸目とは違った要望にも関わらず、施主も大満足の家づくりを成し遂げた木下さん。施主の想いをただ叶えるのではなく、期待を上回る家づくりはこれからも続く。
基本データ
| 作品名 | Taganosato second house |
|---|---|
| 所在地 | 淡路島 |
| 敷地面積 | 194.77㎡ |
| 延床面積 | 116.523㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | H邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

みんなの時間も1人のひとときも楽しい 光と笑顔あふれる大家族の家
施主は、家族6人に猫2匹という仲良し大家族。大家族の家は「リビングに集まる」か「個室にこもる」になりがち。この状況を設計の力で見事に解決してみせたのは、「環境とつながりから想像する場づくり」をコンセプトに活動する建築家、TAWs DESIGNの田辺さん。この家には、にぎやかに過ごすテラス、1人静かに過ごすインナーバルコニー、遊んでいる子供たちの様子を感じながら料理するキッチンといった、いくつもの居場所と家族の程よい距離感が心地よく共存している。

日常の光や緑を楽しむ豊かさ 最後まで自分たちらしく暮らす家
「夫婦の終の住処をつくってほしい」との依頼があったのは、交通量の多い道路に面した三角形の土地。プライバシーを守りながら、どう光を採り込むのかといった課題を解決し、「自分たちらしい暮らし」を実現したのは、Sデザインファームの鹿内さんでした。

廊下、壁、格子が想像以上の奥行きを実現 住宅街でも気持ちよく視線が抜ける家
細長い敷地の特徴を生かし、奥行きが感じられる家にしたいと考えられていたお施主さま。建築家の神谷さんは、ただ見通しをよくするだけでは十分な感覚が得られないという。その先を予感させる壁などの配置により、長い廊下を生かし切って奥行き感だけでなく、暮らしやすさ、豊かさも申し分ない家をつくり上げた。

住宅街にありながら、自分だけの空を確保。 2つの庭に挟まれた、静かな光が入る家
施主のSさまが終の住処をつくるときに望んだのは「何世代ものオーナーや地域に愛され続ける建物にする」ということだった。建築家の小林さんは周辺の環境をよりよくする家の配置や外観、将来を見据えた設備の選択などを通して実現。静かな光に包まれながら、隣家や他者との距離感も適切に保てる家が完成した。

「使う」から「愛でる」。日々の移ろいを 切り取り小さな発見を楽しむ「眺める窓」
建て替えする家の設計を依頼された建築家の樋口さん。「庭と繋がる家にしたい」と要望を受け当初はデッキを計画したが、ヒアリングを重ねるうちに外に出るための動線よりも庭の景色の切り取り方が重要だと考えた。自然素材を多用した心地よさ、快適な動線を持つ家の魅力を高めたのは、大きな「庭を眺める窓」だった。

土地の弱点を建築の力で魅力に変えた 家族一緒も1人も快適ないくつもの居場所
狭小、変形、高低差や日影といった点でウイークポイントをもつ土地での住宅の建築は、とかく敬遠されがち。しかし、あえて弱点をもつ土地で自宅兼事務所を建てたのは、広島県を中心に活動する建築家、衞藤建築設計室の衞藤翔平さん。土地の弱みを建築の力で、個性に昇華させ、家族一緒の団欒も、1人の心地よさも実現した家づくりに迫る。

日本最北端の厳しさでも快適に、デザインも諦めない工夫とは?
毎日、雪かきをしなければ生活できない北海道稚内市の住宅では、雪対策・防寒対策が何よりも重視されます。そうした生活ニーズとデザインの両立は難しいと多くの人が思っていた場所に2014年、機能も充分に満たしたデザイナーズ賃貸が誕生しました。

モダンな佇まいと洗練の空間が人々を魅了。地域に開かれた総合福祉施設
『リバービレッジ杉並』は、特別養護老人ホームやカフェなどが入った総合福祉施設。共同で設計を担当した角倉剛さんは店舗・住宅設計の知見を活かし、「地域に開かれた場」という同施設のコンセプトを具現化。緑豊かな環境も守る洗練された建築を生み出した。

入会希望が殺到する快適空間。 地元愛も深まるスポーツクラブとは?
長野県小諸市で長年愛されているスポーツクラブの移転新築に際し、設計を担当することになった建築家の水間寿明さん。移転オープン後は以前にもまして入会者数が伸び、入会待ちの状態が続くという。人気に拍車をかけた新空間の魅力を探ってみよう。









