
本棚のある階段で、ゆったり自分時間
ほどよい距離感が心地よい住まい
要望と敷地条件をかけ合わせ、
思いもよらないアイデアを生む
設計を担当した片山正樹さんはいう。「お話を伺っていると、リビングを中心に、家族がつかず離れずの距離感で過ごせる住まいをお望みなのだろうな、と思いました。とはいえ、敷地は約20坪で平面的な広さに限界があります。そこでいろいろと試行錯誤した結果、中心に階段を置き、その周囲に広さ・高さの異なる居場所を配した家をご提案しました」
思いもよらなかったアイデアを提案されたMさまは「これいいねえ!」と喜んでくださり、さっそく家づくりが始まった。住まいに対し、「こうしたい」「ああしたい」と浮かんでくるさまざまな施主の希望を、片山さんは全て受け止めてくれる。そしてプロならではの発想で的確に解釈し、具現化してくれるのだ。
完成したM邸は玄関を入ると正面に階段があり、階段で上を見上げると3階天井まで見通せる吹抜けになっている。その階段から2階に上がると、左には外の景色を見ながらパソコン作業などができるワークスペース。右手にはタイルをあしらったかわいいキッチン。さらに右に進むと南の窓からたっぷりと光が入るリビング・ダイニングが広がる。ここで、くるっと後ろを振り返ると、リビング・ダイニングから数段上がった2.5階の畳スペース。その脇には、壁に大容量の本棚がつくられた3階への階段がのびている。
この設計のポイントを片山さんはこう話す。「まず、3階建てにして床面積や採光を確保するとともに、タテの開放感がある畳スペースや吹抜けなどで立体的な豊かさをつくり、広く感じられるようにしました」
そして何より片山さんは、3階建てに欠かせない階段を単なる通路にしなかった。このことが、後述するM邸独自の魅力を生んだのだ。
階段をのぼると次々現れる多彩な居場所。
のびやかな「家族つかず離れず」の空間
2つ目は「空間の広がりと明るさ」だ。吹抜けの階段はのびやかな開放感をもたらし、3階天井のトップライトから入る光を広範囲に届ける役割も果たす。また、3階への階段は2階のリビング・ダイニングと一体感があり、2階全体をより広く感じさせる効果もある。これは、階段室として独立させないことで生活空間を広くする好例といえる。
そして階段が生んだ魅力の3つ目は、何といっても「楽しい居場所の創出」だろう。片山さんは、ゆっくりと本を手に取ったり座り込んだりしやすいよう、本棚に沿った3階への階段をゆるやかな傾斜で設計した。ここに座るとリビングや畳スペースも見渡せて、ステージから家の中を眺めるようなワクワク感もある。本来なら通路であるはずの階段そのものが、家族とほどよい距離感で自分の時間を楽しめる立派な居場所になったのだ。
収納、採光、通風もパーフェクト。
施主に寄り添う設計で大満足の住まいに
生活しやすさという点では、住まいに欠かせない「採光・通風」と、心地よさを生む「視線の抜け」への配慮にも余念がない。住宅街に立つM邸は道路に面した西以外の3方向に隣家がある。しかし南の隣家は平屋のため、片山さんは主な住空間を2階以上に配して南にバルコニーをつくり、そこからたっぷり光が入るように設計した。かつ、隣家の窓と相対しない単独窓もあちこちに設け、3階には吹抜けを介して光を届けるハイサイドの連続窓を設置。それぞれの居場所から屋外を眺められるようにするとともに、光と風がスムーズに行き渡る気持ちのよい空間をつくり上げた。
おそらく、片山さんに初めて相談したときは、Mさまはこのような造りの家を全く想像していなかっただろう。また多くの場合、内装素材や設備・建具の仕様といった細部について、最初から施主が具体的な要望をもっていることは少ない。たいていは家づくりを進める中で知識を得て、コストにも配慮しながら決めていく。
片山さんは設計や施工の過程で対話を重ね、要望とコストのバランスを取りながらしっかりと施主に寄り添ってくれる建築家だ。そして施主の意をくみ取る想像力と設計スキルをかけ合わせ、期待をはるかに超える素敵な住まいを提案してくれる。「工事中の見学も大歓迎ですよ。大切な家づくりですから、プロセスも楽しんでただければ」と片山さん。どこをどう切り取ってもごまかしのない、施主ファーストな片山さんらしい言葉だ。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 東京都三鷹市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 77.13㎡ |
| 延床面積 | 91.44㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | M邸 |
撮影:西川公朗
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

田畑と古民家が立ち並ぶ町に 高級ブランドの要塞
家づくりにおける施主の要望は、時に曖昧だったりするもの。施主の心の中にあるイメージや真意を、いかに汲み取りカタチにするかが、建築家の腕の見せどころでもある。そんな難しい命題に、施主とじっくり対話をすることで上手に汲み取り、想像以上の家に仕上げる建築家がいる。やまぐち建築設計室の山口哲央さん。顧客から絶大な信頼を得る山口さんの仕事の秘訣とは。

海外でも注目される建築美。 内と外がシームレスにつながるのびやかな家
ぽっかりと屋根に穴が開いたモダンでユニークなデザインが印象的なY邸。設計を担当したのは、若手建築家の川本達也さん。独創的なアイデアで屋外の開放感を生活空間に取り込んだY邸は、川本さんの建築の魅力がわかる好例だ。

建物に囲まれた平屋でも、たっぷり採光。 明るく開放的な「光井戸のある家」
施主さまのご要望は、「日当たりの良い明るい平屋」。けれど隣地には3階建ての住宅があり、採光はかなり不利……。それでも、建築家の吉田祐介さんは要望通りの明るく開放的な住空間を実現。どのようにして環境のハードルを乗り越えたのだろうか?

コンクリート壁の中に明るく豊かな住空間。家族が憩える、「使える中庭」のある家
建築家の江ケ崎雅代さんが設計したF邸は、研ぎ澄まされたアートのような外観が印象的。邸内に広がるのは、中庭付きの明るく心地よい住空間。「施主さまご一家が、楽しく快適に暮らせるように──」という、江ケ崎さんの温かな思いが伝わってくる住宅だ。

庭の木々と木製家具に癒される…。 都市の中で実現した、憩いの住まい
「デザイン性だけでなく、機能性にもこだわった住まいをつくりたい」。そんなSさんご夫婦の夢を請け負ったのが、いのはな設計の鈴木宏昌さんである。緑を望む庭に、インテリア性の高い造り付け家具、高い断熱性。Sさんの希望をみごとに叶えた鈴木さんの家づくり。気になるその中身をのぞいてみよう。

正面は「田」の字形のコンクリート外壁。防火地域ながらも、外壁の安心に囲まれて家族の将来を見守り続ける木造の家
20年~30年後、50年後、100年後の未来を見据え、家族構成の変化や、その時々に住まう人のライフスタイル、将来的なリノベーションなども考慮して設計している「裕建築計画」の浅井さん。キーワードは「長く住み継げる」&「ライフスタイルの変化に順応できる」家。今回紹介するK様邸は名古屋の商業地、防火地域にあり、難しい諸条件を斬新な発想で解決して、末永く住み継いでもらえる住まいだ。

祖父が設計した家が新たな形で生まれ変わる メリット多数の「増改築」という選択肢
高校時代からの友人だった施主から、祖父が設計したという旧家の建て替えの相談を受け た建築家の鈴木隆介さん。新築のプランをいくつも作ったにも関わらず、あえて手間もか かり難易度も上がる、既存の建物を活かした「増改築」プランも提案。施主のことを第一 に考えた増改築とは?

常識を疑え! 北?に開いたリビング、屋内?にもなる縁側
"南向き信仰"が根強い日本では、家を建てるとなると、多くの人が当然のように“南向きの大開口”をイメージすると思う。でも、敷地条件や設計の工夫次第では南に大開口を設けなくても、明るさも風通しも申し分のない家が出来る。里山のふもとに佇むU氏邸は、そんな当たり前のことを改めて教えてくれる家でした。

1階は保育園の園庭で2階が住居?併用住宅に夢と可能性を感じさせる居心地の良い家
Mさんは、代々暮らしてきた土地に建つ戸建てでひとり暮らしだという。そんなMさんが、現在の住み慣れた土地に新たな住まいを構えようと考えたとき、単身女性でも安心かつ居心地の良く暮らすにはどうすれば良いのか?結果的に導き出された答えは「1階の一部をお隣の保育園の園庭にする」という斬新なものでした。このプランを見事に実現したのは、「松浦荘太建築設計事務所」代表の松浦荘太さん。ちなみに、依頼主であるMさんとは、実は松浦さんのお母様なのです。母親と息子。親子ならではの、お互いを知り尽くしているからこそ実現できた「皆が幸せになれる住まい」について、松浦荘太さんにお話しを伺いました。









