
複数要望をトータルで考え、将来の使い方の
変化までを視野に入れた独創的な邸宅とは?
複数の要望をトータルで解決
キーワードは“距離感”
2024年のグッドデザイン賞を受賞したこの作品。とても独創的だが、単に建築家が自分の建てたいものをカタチにしたわけではない。お施主様の複数の要望を実現しながら、さらに独自の提案も盛り込んでいる、実に深く考えられた作品なのだ。
通常はまず作品の紹介から始めるのだが、この作品は深く、複雑な思考で作り上げられている。そのため、ひとつの課題にひとつの解決策で対応したという紹介が難しい。
そこでまず、お二人がどのような考えやこだわりを持っているのかをご紹介したい。それを知ると、この作品の特徴をより深く理解できるからだ。
矢野さんたちがどの作品でも常にこだわっているのは、簡単にまとめると
・複数の要望をトータルで考えて解決する
・ “距離感”を大切にする
・将来の住まい方の変化も視野にいれる
と言えるだろう。
要望をトータルで考える とは、たとえば駐車場を駐車場の機能のみとして作り、リビングをリビングのみの利用を前提に作ることを、できる限り避けるということだ。その理由は、場所がその使い方を決めてしまうから。そうではなく、できる限り他の要望や用途を融合することで、自由に場所を使って生活をしてほしいと考えているそうだ。
“距離感”を大切にする とは、街と家の距離感や家の中での距離感、関係性を大切にするという意味だ。街は場所によって、歴史や成り立ちが違う。家は街の中にあり、その一部である。だからこそ、街と適切な距離感で接する家を作り上げたいという。
一方で、“距離感”は人によって異なる。開放的な方が良いのか、一定の距離を置きたいのかは、家族によっても様々だ。そこでお二人は最初の段階で、お施主様ご家族全員の心地よい距離感覚を理解することに注力し、十分な会話を重ねるそうだ。
将来の住まい方の変化を視野にいれる とは、できる限り長く家を使ってほしいと願うからだ。時がたてば、ライフスタイルも変わる。その際、自由に対応できるプランを最初から考えているのだ。実際に、たとえば将来は使わなくなった部屋で教室を開いたり、賃貸に出したり、店舗を開くことを想定したケースも多々あるという。
こうしたお二人の考えとこだわりをご理解いただいたうえで、次章でこの作品の概要をご覧いただきたい。
家でも仕事や打ち合わせができ
内と外が連続した生活をしたい
お施主様は仕事柄、自宅での取引先との打ち合わせや来客が多いそうだ。一般的にはこのような要望に対し、打ち合わせスペースやオフィスを玄関近くに配置することが多い。しかし矢野さんたちは、異なるアプローチで取り組んだ。住む場所と働く場所を完全に分離するのではなく、住む場所と働く場所がグラデーションで混ざり合うプランだ。
具体的にはリビングに隣接したテラスを設け、リビングでもテラスでも打ち合わせができるようにした。テラスには中庭からつながる階段があるため、玄関を通らず直接テラスに向かうこともできる。打ち合わせの内容、相手先、気候などにより、リビングとテラスを使い分けることも可能。テラスとリビングは大開口の窓で接しているため、内と外の連続性も感じられる。
内と外の連続性を実現するために考えられたのが、中庭を中心とした回遊性があるプランだ。一般的な“建物と庭”の配置ではなく、“中庭を囲う建物やテラスとはなれ”とすることで、移動するたびに内と外を感じることができる。また、複数の出入り口と階段、そしてはなれを設けることで、将来的な使い方の幅を広げ、ライフスタイルの変化にも対応している。
もう一点。内と外の連続性、そして街との距離感を保つために不可欠なのが、駐車場を兼ねたホワイエだ。もともとこの敷地は全体が1.6mの盛土で嵩上げされていたが、駐車場を作るためにその部分を削り、コンクリートで覆われたエリアとした。
しかし繰り返しお伝えしているようにただ駐車場にするのではなく、このエリアをホワイエとして多目的に使用できる空間とし、内と外をつなぐ機能を持たせている。駐車場から中庭が見えるようにしたことで、街と家がつながる。多目的に使えるホワイエは、例えば地域に週末開放してコミュニティーを育む場所として使うことも可能だ。
いかがだろう。冒頭から作品の説明をしなかった意味がおわかりいただけたと思う。お二人の“複数の要望をトータルで考え、解決する”という考えはすべての場所に及んでいるため、その設計が複雑で容易に理解できないほど深く考えられているのだ。
この他にも、すべての場所に考え尽くされた工夫が施されている。ぜひ写真と説明文をご参照いただきたい。
周囲に威圧感を与えない外観と
屋内での適度な距離感の両立
確かに敷地も広く、一般的な住宅街にひと塊の大きな家屋を建てると、それだけでも周囲に威圧感を与えてしまう。この課題に対しても、矢野さんたちはトータルで考えることで解決策を見いだした。
前章でお伝えしたとおり、中庭を囲うように各スペースを分けて配置することは、巨大な塊を分散することにもなる。周囲に調和する切妻屋根をその分けられたスペースにのせることで、巨大な塊ではなく、あたかも以前から存在したかのような、違和感のない外観を作り出した。
この切妻屋根は例のごとく、単に外観の違和感を減らすだけではない役割を持っている。内と外の連続性を屋内で感じ、かつ室内で適度な距離感を生むことも計算されているのだ。
家屋は切妻屋根で覆われているが、そのすべてを屋内から吹き抜けで目にすることができる。たとえばリビングの屋根はテラスまで続き、同じ構造の梁が続くことで外との連続性を感じられる。一方で寝室に部屋の天井はなく、玄関を通じてリビングまでの一体感を感じることもできる。
これらは高知の大工職人の技術の高さを資源と捉え、手作業で加工されている。さらに、場所によってコンクリートや鉄を使用するなど、意匠だけでなく構造も十分に考えられていることを付け加えておこう。
最後にお施主様の感想をご紹介したい。道行く子どもがホワイエに入って挨拶をしたり、近隣の人との会話が弾んでいるという。また、商談で訪れたお客様が入口からの導線に驚き、テラスでの会話が弾むなど、とにかく満足しているそうだ。
いかがだろう。多くの要望があるが、それらをトータルで解決する深く考えられたプランを提案してほしい方。周辺地域と、自然な距離感を持つ家を建てたい方。あるいは将来のライフスタイルが変わっても、対応できる家を建てたい方。こうした希望がある方は、一度コンタクトしてみることをお勧めしたい。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 南久万の家 |
|---|---|
| 所在地 | 高知県 高知市 |
| 敷地面積 | 296.34㎡ |
| 延床面積 | 223.87㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
撮影:Kenta Hasegawa
設計者情報
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