
住宅展示場の来場者から高い評価を得ている
モデルハウス。その背景にある理由とは?
住宅展示場のモデルハウスという特殊な立地
目的を明確にし、必要な条件を整理する
冒頭でご紹介した通り、この作品は住宅展示場のモデルハウスという、特殊なものだ。
お施主様は株式会社カネックス。注文住宅専門のカネックスホームを展開し、家具も自社で製作できることが特徴の企業だ。
なぜ自社の一級建築士ではなく、加藤さんに設計の依頼が来たのか? その理由は、過去に同社のリノベーション案件を何度か加藤さんが担当し、その設計力を同社の社長が高く評価したからだという。
同社からの主な要望は、限りなく少なかった。
・自社で施工できるものであること(あまりにも特殊なものではないこと)
・来場者に対して営業が説明しやすいもの
・想定するメインターゲットは若い子育て世代
それ以外は“お任せ”の状態だった。
依頼を受け、現地を確認した時に加藤さんはどう思ったのだろう。
加藤さんはこう説明してくれた。
「似たようなモデルハウスが多いと感じました。各種規制内ではありますが、敷地いっぱいにかなり大きな床面積を持つモデルハウスが並んでいました」。
「土地柄的にひとり1台の車社会なのに駐車場がなく、ほとんど庭もない。一方でものすごく広い床面積を持つ4LDKなど、現実的に疑問が残る展示場が多く見受けられました」。
「決して他社さんを批判しているわけではありません。日本の住宅展示場は、おおむねこのようなプランになっています。自社の特徴を表現するためには、仕方がない面も理解できますから」。
そこで加藤さんは、大きく2つの意図を持ってプランを考えた。
・生活に即したプランとすること(そのまま個人宅にできるもの)
・他社との差別化を明確にすること
冒頭、注文住宅を考えている方や店舗などのリノベーションを考えている方のどちらにも参考になると表記したのは、この考え方にある。個人宅を注文住宅で建てたい人にとって、よりリアルなプランであることはとても重要になる。店舗のリノベーションを考えている方にとって、他社との差別化を図るためのアイデアは最優先となるからだ。
「なぜこうなったのか」、その理由を
すべての場所で説明できる思考法
その意味を、このように説明してくれた。
「すべての場所がなぜそうなっているのか。その理由が具体的に説明できなければならないと考えています。なんとなく私の感性で設計をするのではなく、具体的な理由があることが重要です」。
「営業の方はそれを説明でき、不特定多数の来場者は理由を聞いて気に入る部分があれば採用する。そのような場にしたいと考えました」。
次章以降で、それらの内容についてご紹介しよう。
土地の特徴はすべて異なる
立地を活かしたリアルな設計とは
加藤さんはこの敷地の特徴をふまえ、“この場所に実際の注文住宅を建てる”前提で、ベストなプランを考えた。その概要として、
・南側にアウターリビングとして庭を設け、室内のリビングと一体化して使用できる空間を作る
・外と中の連続性を感じられる土間を設け、趣味にも使えるサンルームとしての役割も持たせる
・明確な子供部屋を設けず、フリースペースとして何年後、何十年後も活用できる空間とする
・外からの視線をカットできる2階のデッキを設ける
などが挙げられる。
また、家具を自社で製造できる特徴を活かし、キッチンをはじめとして各所に造作家具が配された。そのいずれもが、便利であるだけでなくデザイン性や開放感を得るために考えられたものだ。
各所の意図は先述した通り、考え尽くされている。詳細についてはぜひ写真の説明文をご参照いただきたい。
圧巻なのは、子供部屋として当初は使うが、子供が独立した数十年後にも使えるフリールームのアイデアだ。可動式の造作家具を考え、子供が幼いとき、成長して完全な個室として使いたいとき、独立した後に帰省したとき、さらには結婚して家族で帰省したときのことまで考えられている。これであれば子供が独立したあと、使われない部屋になることはない。
来場者から高い評価を得ている理由も、ここにある。なぜこうなっているのか。なぜこの高さの床になっているのか。それらの理由を聞くことで、自分が注文住宅を建てたい敷地でも、ベストな提案をしてもらえるのではないかという期待を持つ方が多いという。
商業施設では差別化が重要
他社と異なるプラン作り
冒頭で触れたとおり、この作品は住宅展示場のモデルハウスとして、他社との差別化を意識した。その概要は、
・敷地いっぱいに建物を建てず、アウターリビングや駐車場を設けるなど、現実的なプランとする
・暖色系の外壁で容積を最大限に稼ぐ立方体の建物ではなく、ガルバリウムの落ち着いた色を採用し、屋根と外壁を一体で仕上げたモノコック構造とする
・壁で区切った部屋数が多い“一般的”なプランではなく、自由に使える開放的なプランとする
という点だ。
住宅展示場にモデルハウスが敷地いっぱいに並ぶ“群”の中、1区画だけ異質なモデルハウスとなっている。
来場者は当然、他社のモデルハウスも見学する。その中で、他社と比べて現実的なプランであることや、違いを実感できる点が好評だそうだ。
加藤さんは、
「来場者が思い思いに自分の好きな場所を見つけだし、コーヒー片手にその日一日をどのように暮らそうかをイメージしやすい場所を提案しました」。
「ベンチに腰かけたと思ったらそこはリビングやデッキの床であったり、半屋外のような土間空間に入ったらいつのまにか内部に入っていたりなど、全体をグラデーションのように構成させることで 0 or 100 の2択の空間ではなく 0~100 のムラを持たせた空間としました」。
と、その意図を語ってくれた。
いかがだろう。その土地が持つ特徴を把握し、論理的に解決策を持ったプランを提案してくれる。あるいは店舗で他社との差別化を、具体的に提案してくれる。当然、お施主様の要望をすべて満たしたうえでの提案だ。これらは、数多くの引き出しを持っている建築家でなければ実現できない。こうした建築家をお探しの方は、ぜひコンタクしてみることをお勧めしたい。
基本データ
| 作品名 | Kanexhome modelhouse |
|---|---|
| 所在地 | 山形県山形市嶋北 |
| 敷地面積 | 335.17㎡ |
| 延床面積 | 174.19㎡ |
撮影:atelierRISE+成田一優
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

小さな要望から本音を引き出す!家族を幸せにした家づくりとは?
Oさんご夫婦の明確な要望は、ふとんを外に干したいという1点のみ。でも、きっと言葉になっていないだけだろうと、建築家の樋口さんは家の話を続けました。Oさんご家族にとって心地よい空間に欠かせないもの、それは「気配」でした。

家族が1つになる、1人にもなれる家 「ズレ」によってできる家族の「新たな間合い」
一見すると周囲の家々と馴染む普遍的な佇まいの家が、中に入ると驚きの空間に仕上がった。「普通であること」と「差異をつくること」を意図し、家族皆が大満足の家となった秘策「ズレ」に迫る。

「こと」をテーマに空間をデザイン それぞれの「世界観」をカタチに
「北方の家」の設計を手掛けたのは、「たてこと空間研究室」の代表を務める佐藤悠馬さん。建築・空間つくりを通して「こと」をテーマに、お施主さまの「世界観」を具現化した設計を得意とする佐藤さんとって、「建築」とは、「家づくり」とは何かをうかがってみました。

住宅街にこんなにも豊かな空間が誕生 緑・光・風を楽しみながら暮らす
新築でありながら、ずっと前からここにあったように周囲に溶け込む家がある。設計を手掛けたのは、遊び心あふれる発想と、自然との調和を大切にするアトリエウィの宇佐美さん。周囲環境にも住む人にとっても馴染む設計によって、心地良い住まいが実現した。

建築家が考えたアイデア家具をDIY。 ローコストリノベで住み心地アップ
楽しみながら住空間を一新できるDIY。しかし、家具をつくるとなると、設計図を描く難しさに心が折れた人も多いのでは? 建築家の久保和樹さんが手がけるサービスを利用すればそんな悩みも一気に解消。手軽なローコストリノベーションも夢じゃない。

大勢の懇親も、家族の団欒も 内外2つのシンメトリーなLDKがある家
大勢のお客様を呼べる広く開放的なリビングを持ちながらも、周りからの視線が気にならないプライベート感もという、両立しにくい施主からの要望。この難題を内外2つのシンメトリーなLDKという秘策で見事に解決してみせたのは、関西を中心に活動する建築家、市井洋右さんでした。

2つの階段がポイント!一世帯にも二世帯にもなる家はこうつくる
すっきりとモダンな空間で快適に暮らすことを一番の希望として、奥様の実家の建て替えを決めたNご夫妻。加えて、状況によっては息子さん夫婦との二世帯住宅にもなるような可変性の高い家ができないかとも考えた。とはいえ二世帯はあくまで可能性の話。玄関にキッチン、水回り…一世帯と二世帯の場合で変化するポイントはたくさんある。設計依頼を受けたアパートメントの滝口聡司さんは、どのようにこの要望に応えたのだろうか?

通り土間で居場所を増やし、家をひとつに。風が気持ちよく抜ける、深い軒がある家
和モダンな雰囲気を持つ家を新築したいと考えていたお施主さま。依頼を決めたのはこれまでも多くの和の家を手掛けた、建築家の湊さんだ。要望を芯から理解し、デザインが洗練されているだけでなく、心地よく風が抜ける光に満ちた家を実現。鍵となったのは通り土間と深い軒、そして吹き抜けだという。

片流れ屋根の下、家族がひとつになりながら プライバシーを保って暮らせる住まい
開放的で、同じ空間に家族皆がいると感じられる家が欲しい。けれど子どもたちのプライバシーは保ちたいと考えられていたお施主さま。購入したのは2方向に見える山の風景が美しい、山裾にある土地だった。建築家の中川さんは、恵まれた環境を生かしつつこれらの希望を全て叶えた家をつくり上げた。
