
既製品を用いてコスパとデザインを両立
空間全体を見渡せる開放的な住まい

鈴木 宏昌
すずき ひろまさ
いのはな建築事務所
東京都 東村山市
当事務所は建築設計・構造設計という2つの柱を業務の軸としており、意匠性に優れた開放的な空間と耐震性を両立させたバランス良い設計が得意です。快適で安全な「建築」をご希望の方は、お気軽にご相談ください。
コストが急騰し難しい時期でも
お施主さまと時間をかけ満足できるものを
宏昌さんが建物のフォルムや構造を、尚子さんがインテリアや内装、外装を主に担当。家づくりは奥さまが中心となって進められた。計画の一番初めに、イメージする家のスケッチを描いてこられたという奥さま。それは明るい色合いを多く使ったかわいらしい絵だったというが、一方でご主人は暗めの濃い色がお好きだったとのこと。「お好きなスタイルもナチュラルとモダンで少々隔たりがありましたので、バランスを取りながらの空間づくりを心掛けました」と尚子さん。
もうひとつ考慮しなくてはならないことがあった。コストだ。この家を建てていた時期はちょうどコロナ禍で、さらにロシアとウクライナの関係悪化による価格高騰も始まりつつあった頃。資材が揃わないといった問題もありながら、納得のいくものを予算内に収めることは非常に厳しかった。しかしそれも、弟夫妻と綿密な打ち合わせをしながら諦めずにじっくりと取り組んだことで、希望の予算内に収めたという。
吹き抜けで上にも伸びる、開放的なL字空間
高い技術力でデザインと暮らしやすさを両立
1階にLDKと和室を集め、2階に寝室と子ども室を配置した「藤原の住まい」。室内に入ると、屋根が低めだとか、凝縮したフォルムだなどの外観から得られる印象が一変する。
LDKは庭から見てリビング、ダイニング、キッチンと長方形に伸び、リビングの脇に和室がある。リビングと和室の仕切りには完全に開放できる引き込み戸を入れた。こうすることで、LDK+和室というL字の空間がワンルームとして繋がる。さらに、リビングは2階までの吹き抜け。天井が高く、開放感も抜群だ。
また、庭に接するリビングと和室は一面に窓を配置。1階は家の南側のほぼ一面が窓という環境をつくり、お望み通りの明るい空間を実現した。吹き抜けの2階部分にも3つのハイサイドライトを設けている。位置にもこだわり、冬、上から差し込む光が、窓から一番遠い奥に位置するキッチンまで確実に届く場所に計画。季節を問わず、常に日射を心地よく感じられる環境をつくりあげた。
逆に暑い時期に光や熱が入りすぎるのではという心配があるかもしれない。宏昌さんは窓の上、2階の庭側の壁面いっぱいにベランダを計画することでそれを払しょくした。ベランダが庇の役割をするのだ。軒のように屋根だけ張り出すのではなく、袖壁も付けることで2階全体が覆いかぶさるように上に乗るので、直線的でシンプルな家のフォルムも崩れることがない。さらに緻密に構造計算し、ベランダから地面に向かっての柱を省くなど、デザイン的には必要ではないラインを出さないことにとことんこだわった。
伸びやかな空間づくりは奥さまの「LDKから庭まで、キッチンから全部を見通したい」という要望を叶えたものだ。キッチンに立つと、ダイニング、リビング、和室、そして庭と隅々まで目が届く。視線がまっすぐに抜けるのではなく、広がりを持って伸びていく。それでいて、道路からは奥まっているゆえに外部からは視線が届きにくい。
吹き抜けに対して、2階からのお子さまの落下を心配されていた奥さま。吹き抜けの2階部分に天井までの壁をきっちり立てることで不安を解消した。3つのFIX窓を吹き抜け側に設けたおかげで、2階の廊下は昼間、照明なしでも明るい。
もうひとつ利点があったという。「壁があるおかげで音が届かないのです。2階は個室が主ですから、よりプライバシーが保たれる環境になりました」と宏昌さん。
開放的な部分と、閉じられた部分。室内からは視線が無限に広がるようなのに、外部からは見えにくい間取りの構成。お施主さまの暮らし方を第一に考えた、メリハリがあって暮らしやすい家がここに完成した。
積極的に既製品を採用、コストを抑えつつ
デザインの妙でハイセンスな家に
また、黒やグレー、石目や木目をアクセントとして、それぞれの空間に少しずつ取り入れた。たとえば3色のダイニングのライト。壁面の白に、玄関とLDKを仕切るグレーの引き戸、テレビ台の黒、なんて組み合わせもある。ライトなどの小物は、実際に皆でいくつかのショールームに出向き選んだという。「小物は特に、実際に見てみないと質感などがわかりませんから」と宏昌さん。高品質の製品を、メーカーやブランドに縛られることなく提案してもらえることも、建築家に家づくりを依頼するメリットといえるだろう。
その提案力がいかんなく発揮されている箇所がキッチンだ。作業台と収納でグレードの異なるシリーズを選択し、統一感を出しながらもコストを調整した。同メーカーならシリーズが異なっても木目の出し方などで共通する部分が多く、それができるという。かけるべき部分にはきちんと予算をかけることで、見た目も使い勝手も妥協ない仕上がりとなる。
また、洗面は既製品の洗面台で使用されている素材と同じものを入手し、棚を造作。空間全体を造作でつくりあげたような設えを実現した。
奥さまがお好きなナチュラルな雰囲気の中で、ところどころポイントとしてモダンさを取り入れたと尚子さん。たとえばキッチンやテレビ台は黒の石目調で重厚感がある。さらに、和室の壁面には濃紺の壁紙を取り入れ、それに合わせ天井もグレーを選択。リビングからぐっと天井が低くなる和室。色味からも和室らしい落ち着きが得られるようになった。
2人で設計を担当することに対し、やはり女性と男性が家づくりに携わることで雰囲気づくりなどにもバリエーションが広がると考えている。LDKの設えなどは、特に奥さまと尚子さんが密度の濃いやり取りをしながら完成させたものだが「自分にはない柔らかさがある」と宏昌さんは語る。しかしそれは、余計な線を技術で省いたシンプルなフォルムといった、土台の部分からしっかりとお施主さまの思いが反映されているからこそより映えるともいえる。相乗効果が生まれるプランニング。それがいのはな建築事務所の家づくりなのだ。
基本データ
| 作品名 | 藤原の住まい |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県 船橋市 |
| 敷地面積 | 165.31㎡ |
| 延床面積 | 106.18㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 3000万円台 |
撮影:澤崎 信孝
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

水と森のリゾートに立つハイグレード空間 友人と憩い、趣味を楽しむ山中湖の別邸
建築家の奥野公章さんが手がけた『山中湖の家』は、多趣味な施主さまのための高級感あふれるセカンドハウス。清涼な自然を満喫できる邸内はホテルライクな心地よさが魅力。豊かな居心地を生み出すメリハリの効いた空間設計にも注目だ。

個性的な住戸が集うコーポラティブハウス。全住戸に庭付き一戸建ての豊かさを
奥野公章さん設計の『荻窪ロウハウス』は、集合住宅でありながら自分好みの住まいをつくることができるコーポラティブハウス。驚くことに全住戸が庭付き一戸建て感覚で住めるという。住戸の事例とともに、工夫を凝らした奥野さんの建築の魅力を紹介しよう。

「開いて閉じる」で光とプライバシーを解決 夫婦の願いを叶えた高性能で明るい平屋の暮らし
底冷えする寒さや、プライバシー保護のために光が差し込まない住環境に悩まされていたMさん夫妻。築40年の自宅を建て替え、理想の平屋暮らしを叶えるためにハウスメーカーや工務店を始めた。しかし、高い住宅性能とデザイン性を両立できる依頼先がなかなか見つからない。そんな中で出会ったのが、建築家、中土居宏紀さんだった。中土居さんは夫妻の抱える難題を、「開いて閉じる」という発想で見事に解決してみせた。

快適と省エネを両立した高性能住宅のポイントは、”窓”にあり!
建築家に家を頼みたいと思っていたものの、断熱性など住宅性能面に不安を持っていたというAさん。高断熱・高気密の家を建ててくれる建築家を長年探していたなか、ようやく出会ったのが建築家の河辺近さんでした。

「狭小」のイメージを覆すのびやかさ。華やぐ都市で、天に向かって踊る家
東京・神宮前にあるこの家を設計したのは、建築家の蘆田暢人さん。建物に囲まれ、建坪は約10坪と難度の高い条件だったが、狭小地とは思えない明るくのびやかな空間が完成。住宅として快適でありながら、街並みに溶け込む店舗のようにも思える洗練された建物をご紹介しよう。

まるでホテルのような高級感と最新設備 釣りやパーティーを楽しむ囲炉裏を備えた家
高級感のある仕上がりを求められ、家づくりの途中からプロジェクトに参加することとなった建築家の田主さん。ヒアリングを進めるうち、お施主さまのライフスタイルに密接した、より具体的な空間づくりをしたいと考えた。家の中心にあるのは、釣った魚をその場で調理できる、囲炉裏を備えたパティオだ。

上質なモダン建築がもたらす極上の時間。 都心に佇む羨望の高級邸宅
住まいは一生の中で多くの時間を過ごす場所。その場所が、いるだけで至福を味わえる空間だったらどんなにいいだろう。そんな施主の思いをかなえたJWA建築・都市設計一級建築士事務所 渡辺純さんの、上質なモダン建築の魅力を紹介する。

居場所が違えば何度でも感動!一面の海と熱海を楽しみ尽くす
JR熱海駅にほど近い伊豆山の中腹に、海を見下ろすように佇むAさん邸。熱海の地をこよなく愛するご夫妻が、都会では味わえない豊かな時間を求めて建てたこの家には、日々の暮らしの喜びとおもてなしの心があふれています。

猫たちも大満足の工夫がいっぱい。 お気に入りの家具も似合う家をローコストで
「ユウ建築設計室」の吉田祐介さんが手がけたこの家は、2匹の猫と暮らすOさま一家の住 まい。邸内には、猫と人間が楽しく暮らせる工夫が盛りだくさん。猫の習性に配慮しつつ 内装デザインにもこだわり、風合いのある家具が映える素敵な空間が完成した。



