
70代での建替えに学ぶ!
素材と採光で心地よい、がやっぱり大切
自然素材の家で「持たない暮らし」を楽しむ
北川さんは、このうちの“快適な住み心地”の実現にあたり、Iさん夫妻の暮らしに対する合理的な考え方と向き合う。「Iさん夫妻が求めていたのはデザインより機能性。目新しさより慣れた家の住みやすさ。そこで、間取りはあまり変えずにこれまでの動線を守りつつ、採光や通風、建材などを工夫して、より快適に暮らせるよう考えました
北川さんの言葉通り、完成したIさん邸は以前の住まいとほとんど同じ間取りと言っていい。大きく異なる点といえば、お子さんたちが独立して夫婦2人暮らしになったため、2階の個室を減らしたことくらいだ。
一方で、内装材や窓の配置は熟考し、快適さをグレードアップ。窓は良好な採光と通風を目指し、すべての部屋に2面以上設けた。おかげで、どの時間帯もどこかしらの窓から光が入り、風も爽やかに室内を通り抜ける。
床は国産スギのむく材、壁は火山灰を利用した自然素材を使った。「スギは適度な柔らかさがあり、素足で踏みしめたときの感触がいいんです。夏はさらりとした肌ざわりで、冬は冷たくならないので床材におすすめです」と北川さん。間取りはほぼ同じとはいえ、真新しいむく材が貼られた室内は心安らぐ木の香りに包まれ、新たな暮らしの始まりを物語る。
収納の少なさも、Iさん邸の特徴だ。「私は京都出身で、部屋数が多く納戸や押入れがあちこちにある昔ながらの日本家屋で育ちました。そこで学んだのは、収納があればあるほどモノが増え、整理がつかなくなるということ。その反動で、いつからか『収納はできるだけ少なく』と考えるようになりました」と語るのは、Iさんの奥さま。「必要なものだけ持っていればいいし、必要なものは目につくところにあればいいと思っています。今で言うミニマリストですね(笑)」
中でも、一般的には大容量収納が人気のはずのキッチンは、吊戸棚もなく実にシンプル。奥さまいわく、「既成のシステムキッチンは設備が多過ぎたので、不要と感じたものをなくしてもらったんです」。確かに夫婦2人暮らしなら、食器や調理器具は最低限揃えるだけで十分豊かな暮らしができるのだろう。
南に位置するリビングの窓越しには、まだ更地のままの庭がある。取材時、1週間後にこの新居への引越しを控えていたIさん夫妻は、「何を植えようか考えているところです」と新生活が楽しみな様子。「以前の庭には夏ミカンの木があって、春になると妻がジャムをつくってくれました。美味しかったですよ。今度も、そんな季節感のある木がいいですね」と、嬉しそうに話してくれた。
人にやさしい家がいい。でも、バリアフリーはどこまで必要?
将来のさまざまな可能性を見据えた“バリアフリー”は、北川さんが夫妻の意図を細やかに確認したことのひとつだ。「ひとくちにバリアフリーといっても、段差をなくす、水まわりや廊下を広くするなどいくつかの段階があります。完全なバリアフリーにすると居住空間の面積が減り、快適さが損なわれる可能性が高い。そうしたことも鑑みて仕様を考えていく方が現実的です。Iさん夫妻には、車椅子に頼らなくてはならないほど体が弱った場合でも、本当にこの家に住み続けるのかをあらためて考えていただきました」と北川さん。
夫妻の答えは、「完全なバリアフリーにはしない」というものだった。結果、段差を極力減らし、トイレなどにゆとりを持たせたものの、廊下は車椅子でスムーズに動ける幅とはせず、必要があれば手すりをつけられる程度の広さとした。
「一説によれば、老後に車椅子生活となる確率はかなり低いとも聞いたので」と、Iさん夫妻。完ぺきに準備を行い漠然とした不安を払しょくするか、適度な安心感を得ながらも現状の快適な暮らしを優先するかは人それぞれだろう。ただ、もしもの場合の選択をリアルにイメージすることは、住まいを通して大切にしたいものをじっくり考える機会になる。北川さんの問いかけを受けてIさん夫妻が出した答えは、これから新居で送る毎日をより充実させてくれるに違いない。
【北川 裕記さんコメント】
自然素材を取り入れ、質感のほか調湿、吸臭面などで快適さをアップ。見た目的にもまったく印象の異なる空間になりました。耐震は構造材や軽量素材の屋根で対応。また、必要以上に窓をつくらず壁を残すことで、より地震に強い家としています。住宅密集地の場合は開口しても思うように光が入らない、外部の視線が気になるなどのハードルがあり、窓が多ければいいとも言えないんです。良好な通風、採光を守りつつ十分な耐震性を得られるよう、開口のバランスはかなり考えました。
基本データ
| 家族構成 | 夫婦 |
|---|---|
| 施主 | I邸 |
撮影:アトリエあふろ(鈴木暁彦)
設計者情報
この建築家が建てた家
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