
この家だけにある「空間×風景」の絶景
武蔵野の自然と調和する上質な住まい
素材と造形の絶妙なバランスで
存在感を放つモダンな外観
デザインやインテリアに造詣が深い施主さまが自邸に対して望んでいたのはアーティスティックな家。イメージに合う建築家を求めてリサーチを重ねた結果、desus(デサス)建築設計事務所(以下、desus)の稲垣裕行さん・花形将壽さんの洗練された作風に惹かれ、設計を託すことになった。
当サイト「KLASIC」の掲載記事をご覧いただいてもわかるように、desusの建築は端的に言ってかっこいい。研ぎ澄まされたシンプルな意匠だが、通りすがりに目を奪われてしまうオリジナリティと上質感、素材使いの巧みさは、両名の設計の大きな魅力といえるだろう。
それは完成した「透景の家」も同様だ。最初にこの家を目にしたとき、まず印象に残るのが東を向いたきれいな三角形の切妻屋根。深い軒天は温かみのあるチーク材に覆われて、ダークグレーの外壁と美しいコントラストを成している。
歩を進めて正面にたどり着くと、東から見えていた切妻屋根の三角形とは異なる印象のファサードに出合う。この家は東西に棟を通した切妻なので、道路のある南側から見ると三角屋根は姿を消し、2階が手前に突き出た彫刻的なデザインが目に飛びこむ。
まるで宙に浮かぶような2階のボリュームは外観にリズムと奥行きを与え、その真下にはチークの軒天と大きな窓。窓越しの邸内にはシンプルなスケルトン階段が配置され、モダンなアート作品を展示するギャラリーやショールームのような非日常感をまとっている。
この外観だけでもデザイン性の高い家という施主さまの要望に応えているが、大胆にデザインされた邸内も見ごたえ十分。外観で抱く期待を裏切らない、いや、上回る空間となっている。
唯一無二の景色をつくり出す
圧巻のチーク張り×三角天井
そのリビング・ダイニングの先には広々としたバルコニー。両名は最初に土地を見たときに、東の隣地が一段低く、視線も抜ける箇所があることに着目。
「東にメインの窓を設ければ外から中が見えにくく、かつ、開放的な眺めを確保できると考えました」との言葉通り、2人は東側に天井まで目いっぱいのガラス窓を入れ、武蔵野らしい豊かな緑と青空を室内に取り込んだ。
天井や壁を覆うチークはシームレスにバルコニーまで続いているので屋外との一体感も高く、リビングでくつろいでいると、チーク張りの空間と武蔵野の自然が1つの風景のように感じられる。これはまぎれもなく、このLDKでなければ見ることができない「空間×景色」の絶景。立地のアドバンテージを最高の形で生かしたdesusのデザインクオリティに拍手を贈りたくなる。
空間デザインの完成度があまりにも高い分、疑問に思うこともあった。それは、「ここまでチークを多用しているのに、なぜ重い印象にならないのか?」だ。一般的に、内装で木を使い過ぎると重々しい印象になりやすい。だが、この家は天井も壁もチークなのに重さは皆無という素晴らしさ。インパクトは強いがすっきりとして無駄がなく、シンプルで洗練されたモダン建築としての魅力にあふれている。
この疑問に対し、「素材の質感、統一感、面としてのシンプルさがカギになると思います」と教えてくれた両名。なるほどと思うものの、そのセオリーを具現化するのは容易ではないはずだ。だからこそこの家のリビング・ダイニングを見ていると、空間デザインのベストバランスをピタリと決めるdesusのレベルの高さを再認識するのである。
造作家具でスペースを有効活用
施主に寄り添い、最適解を提案
この家は、延床面積約27坪で家族は5人。駐車場スペースを差し引くと、5人家族が住むのに余裕がある広さとは言い難い。それでも施主さまが望むデザイン性の高い家を形にし、主寝室、男女3人のお子さまたちの3つの子ども室など、必要な部屋数を確保する──。
決して簡単ではないこの要件を満たすため、稲垣さんと花形さんは2階にゆったりとしたLDKをつくり、個室は1階に集約する潔いプランを提案。特に、子ども室はミニマムサイズにするメリハリのある間取りをプランニングしている。
ここで注目したいのは、柔軟な発想の造作家具を取り入れた「空間の有効活用テクニック」だ。例えば2階のキッチンの脇には、出窓をカウンターデスクに仕立てた造作家具を計画。出窓として認められる法規制をクリアしながら使いやすいデスクをデザインし、要望の1つだったスタディスペースをつくると同時に、床面積を減らさないという空間の有効活用も成し遂げている。
また1階の子ども室でも、収納を兼ねたオリジナルのベッドを設計・デザイン。省スペースで「寝る」「しまう」ができるこのベッドにより、部屋サイズはミニマムながらも、必要なものが全て揃う子ども室となった。
施主さまは土地を購入する前、予算を少し上げて間取りに余裕が生まれる広い土地を買うべきか、迷っていた時期があるという。そのときdesusの2人は「当初の予算におさめつつ、多少コンパクトでも丁寧につくり込んだ家を計画してはどうでしょう?」とアドバイスし、今の土地を購入したという経緯がある。
その結果、「土地に予算を割いたから材料のコストを削る」といった状況を回避でき、チークやタイルなどの上質素材を贅沢に用いたLDKが実現。施主さまからは「デザインも暮らしやすさも申し分なく、毎日の暮らしが充実しています」と、うれしいメッセージが寄せられているという。
これらのエピソードからわかるのは、要望を尊重しながら諸事情に寄り添い、施主が最も満足できる選択へ導いてくれるdesusの2人のスタンスだ。限られた広さや予算であっても、柔軟なアイデアと確かな知識、突出したセンスを有するdesusとだったらこんなに素敵な住まいができる──。「透景の家」は、私たちにそんな希望を与えてくれる住宅でもある。
撮影者:ヤマベスタジオ 山邊 章史
間取り図
基本データ
| 作品名 | 透景の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都調布市 |
| 敷地面積 | 105.3㎡ |
| 延床面積 | 88.08㎡ / 住宅部分 83.12㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供3人 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | I邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

故郷に似た気候の札幌へ、東京から移住 2人の英国人が堪能する、坪庭のある家
札幌市の手稲区に、独創的な邸宅が誕生した。母国の気候に近い北海道へ、東京からの移住を決意した2人の英国人女性のための家だ。この地を選んだ決め手は、金山の雄大な眺望だった。一方で住宅街にあるため、隣家からの視線カットも必要となる。眺望とプライバシー確保の両立に成功した、この作品をご紹介しよう。

既存建物の奥に増築。ネガティブ要素を魅力に変えて実現した、光あふれる住まい
息子さま一家が暮らしている家に、ご自身の終の住処を増築する計画を立てていたお施主さま。建ぺい率などは問題なかったが他にクリアすべき点が多く、請負業者が見つからず困っていたときに知り合ったのが建築家の村上さんだ。高台の住宅地の奥、整形ではない敷地という条件をものともせず明るく暖かな家が完成した。

“スープの冷めない”程よい距離感。 二世帯住宅における、ひとつの最適解。
県道から坂道を上った小高い住宅地に佇む、落ち着いた雰囲気のL字型の住宅。ここは、みのわ建築設計工房の箕輪裕一郎さんが設計した自邸「大泉寺の家」だ。「二世帯の距離感」をテーマに、自身が生まれ育った家を建て替え二世帯住宅としてプランニング。さて、箕輪さんが導き出したその「距離感」とは。そして、家を設計する際にいつも心がけていることとは──。

庭の木々に遠くの山並み、籠れる離れまで いくつもの景色や居場所がある家
訪れた建物のフォルムや内装、居心地の良さに「素敵だな」と感じることは誰しもあるに違いない。そして「自邸をこの建築家にお願いしたいな」と漠然とした思いをもったことがある人もいるかもしれない。しかし実際にその建築家に連絡をとり依頼をするという行動を起こした人はほんの一握りだろう。施主のUさんご夫妻にそう思わせた店舗を手掛けたのは、京都を中心に活動する建築家田中郁恵さん。運命的な出会いから、どんな家をつくりあげたかに迫る。

《ビルの事例》光るらせん!吉祥寺のランドマークはどう出来た?
東京・吉祥寺に住むNさんは、地域活性化に向けた一つのミッションとして、テナントビル経営に着手。駅前の一等地に土地を購入し、3階建て鉄骨造ビルの建設を企画。建築家の金田崇さんに設計を依頼したことで、期待以上のビルが完成しました。

元に戻すのではない、進化させるのだ 古民家リノベの新機軸
築120年を超える古民家のリノベーションとなると、外観はできるだけそのまま活かし、内装を現代風の間取りや設備で利便性をもたせるというのが定石。そんな古民家リノベに一石を投じるような、大胆なフォルムのリノベを行ったのは、ご夫婦の建築家ユニット可児さんと植さん。 古民家が生まれたときの原点に立ち返り、「本質」はそのままに、現代に生まれ変わらせたリノベーションの新機軸に迫る。

日当たり良好 さまざまな窓が生み出す 「開かれた家」の居心地の良さ
住宅の顔ともいえる窓は。窓の大きさや数、形によってその家の印象はもとより、暮らしやすさにも左右する重要なアイテム。大きな窓をはじめとした、さまざまな窓で、陽当りや開放感を実現し、居心地の良い家を作ったのは、伊藤明良一級建築士事務所の伊藤さん。つい長居したくなる、この家の秘密に迫る。

「45度回転」はメリット満載。多様な居場所と、のびやかな広がりを
家をつくるならぜひ欲しい、「広々としたLDK」。だがワンルームの大空間をどんなLDKにするかは、設計者のセンスやスキルで大きく変わる。では、建築家の片山正樹さんの場合はどうだったのだろう? 「大田区の家」から片山さんの設計の魅力を探る。

限られたスペースを有効活用!築40年、37平米のマンションを素敵にリノベーション
都心にほど近い街で暮らす、kurachiffon 瀧内未来一級建築士事務所代表の瀧内未来さん。築40年ほどのマンションをリノベーションしたという物件は、自宅兼仕事場として、日々の生活を送りつつも、使い勝手や生活導線を考えながら設計をしていったそうです。以前は、日当たりや風通しがよいとはいえない部屋に住んでいたという瀧内さん。今回は、切望していた日当たり、そして風通しのよい新たな住居を造り上げていった過程や、リノベーションの魅力についてお話しを伺いました。










