
故郷に似た気候の札幌へ、東京から移住
2人の英国人が堪能する、坪庭のある家
眺望を享受しプライバシーも確保する
すべてを同時に実現するプラン作り
本作品の最大の特徴は、“住宅密集地で眺望を最大限に得つつプライバシーも確保”した点にあると言えるだろう。
お施主様は2名の英国人女性。母国と気候が似ている北海道へ、東京から移住することを検討していた。
木戸脇さんは土地探しから関与し、ようやく巡り合ったのが閑静な住宅街にあるこの敷地だ。決め手は、金山の雄大な眺望だった。一方で、四方を家に囲まれているため、プライバシーを確保する必要もある。
また、お施主様からはフルリモートで仕事ができるようにしたいという要望も出されていた。
そこで考えられた基本プランは、
・眺望を確保するためにLDKなど生活の場を2階に集約する
・1階に仕事部屋や客間などを集中させ、上下階で仕事と暮らしのメリハリをつける
・プライバシー確保のため坪庭を設け、眺望を楽しむ以外の窓を坪庭に集中させる
というものだった。
最初に、もっとも重要なポイントとなる坪庭についてご紹介しよう。
北海道で坪庭を設けるのは、稀なケースだ。積雪の影響などもあり、木戸脇さんも北海道で坪庭を設計に組み込んだことはそれまでなかったという。
しかしこの作品では、どうしても坪庭が必要だと感じたそうだ。その理由を、こう語ってくれた。
「眺望を楽しむため以外の窓を外側に設けず、坪庭側に集中させました。外部からのプライバシーを確保しつつ、上下階で気配を感じられるようにしたかったからです。片方が下で仕事をしている時に、上にいる人が何となく気配を感じられる空間が必要だと考えました」。
坪庭にはヤマモミジを植樹した。1階の書斎、2階のLDKや主寝室から望むその姿は、夏は涼やかな緑、秋は紅葉、冬は雪化粧と、四季を感じることができる。
木戸脇さんは“庭”を重視しており、他の作品でも外構を同時に手掛けている。
たとえば木漏れ日が揺らぐような現象は、どの時代であっても、どの場所でも、どんな人でも心地よく感じる。このように普遍的なものを、建築へ丁寧に取り入れたいという考えから“庭”にこだわっているそうだ。
この作品には、坪庭以外にも数多くの特徴がある。次章以降でその詳細をご紹介しよう。
1階よりも2階が張り出し、屋根は寄棟
北海道では珍しい、ダイナミックな構造
最初に気がつくのが、2階が張り出していることだ。これは単なるデザイン面から生まれたものではない。
この作品は、先述の通り1階をオフィス空間、2階を生活空間と切り分けられている。当然ながら2階で過ごす時間が長くなるので、2階をより快適な空間にできないかと木戸脇さんは考えた。
2階には水回りを集中させ、生活動線の効率化も追求している。そのため、少しでも2階の床面積を広げたいという考えからこのプランはスタートした。
2階の4方向すべてに床を広げれば良さそうなものだが、それでは構造面での補強などが必要となり、コストが高くなる。そこで考えたのが、一部の床を広げ、その他の部分は断熱材を厚くする案だった。
1階の断熱は、札幌では標準的で十分なものだ。生活する時間が長い2階の断熱をさらに厚くすると、より快適な空間が生まれることになる。断熱材を厚くするのであれば、重量の面でも問題がないためコストへの影響も少ない。
こうして特徴的な張り出す2階のプランが出来上がった。
もう一点、目に留まるのは屋根形状だろう。
この作品では四方に傾斜する寄棟屋根が採用されている。本州では一般的なものだが、北海道、特に札幌では珍しい。主流は屋根が平らに見える陸屋根で、落雪への影響を少なくする長所がある。
寄棟屋根は、北側斜線規制への対策で採用された。雪止め金具など落雪への影響を十分に考慮しているので、問題はない。それどころか、傾斜した屋根を活かして室内を吹き抜けにするなど、2階の空間を広げることが出来た。一石二鳥のアイデアだと言えるだろう。
本棚の隠し扉など、各所に造作家具を配置
遊び心にあふれ、美しさも追求した室内
この作品には、造作家具が随所に設けられている。
木戸脇さんは造作家具への対応を得意としており、その範囲は幅広い。
キッチンや寝室の収納は、同じデザインの美しいものとなっている。リビングのソファも造作で、いずれもジャストフィットするものだ。
極めつけは、趣味の部屋の扉が本棚の隠し扉となっていることだろう。当然ながら市販品でサイズが合うものはなく、これも造作だ。
木戸脇さんは造作家具についての考え方を、こう語った。
「常に造作を前提にしている訳ではありません。“サイズや素材など、造作でしか作れない場合”と、“造作の方がコストメリットがある場合”のみ、造作を選択します」。
「逆に既製品でもお施主様の要望が叶えられるのであれば、積極的に既製品を採用します」。
室内の各所に秘められた美しさにも触れておきたい。
リビングは寄棟屋根の形状を活かした勾配天井となっている。そこには表しで2本の梁が配置され、内庇が設けられた。内庇には間接照明が組み込まれ、そこにぴったり収まるキッチン収納が造作で取り付けられている。
本作品に秘められたアイデアや特徴は、他にもたくさんある。ぜひ写真の説明文をご参照いただきたい。
お施主様の要望に応えるのはもちろん、美しさや構造もさりげなく追求し、提案してくれる。そのような建築家をお探しの方は、いちどコンタクトしてみることをお勧めしたい。
写真:木戸脇匡志
基本データ
| 作品名 | 金山の家 |
|---|---|
| 所在地 | 札幌市手稲区金山 |
| 敷地面積 | 165.36㎡ |
| 延床面積 | 114.6㎡ |
施工:カベヤ建設株式会社
家具・ソファ造作:株式会社匠工芸
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

融通無碍な発想と専門知識で難条件を克服 「室内の通り」がある大ワンルーム住宅
氾濫リスクがあり、交通量の多い国道に面した難条件の土地を、土木知識と建築の力量で見事に解決したのは、愛知県豊橋市在住の建築家・伊藤啓輔さん。鍵となったのは「室内の通り」という独創的なアイデアだった。そうして生まれたのが、建物に生活が縛られない、可変性と自由度に満ちた大きなワンルームの家。融通無碍な発想が生んだ住まいの秘密に迫る。

街並みに寄り添い、よい距離感を保つ。 暮らしも人間関係も良好にする家づくり
能古島へ移住を決めたHさま夫妻。島での2年間の借家暮らしを通じ、よりよい環境で暮らすためには、地域の人たちと交流しながらプライバシーを確保することが大切だと考えた。建築家の水谷さんは、それらに重きをおいて家を設計。景観に馴染むと同時に地域に新しい風を吹き込む家をつくった。

19坪の変形敷地を「螺旋状のスキップフロア」で解いた 2階建て30坪を実現した建築家の知恵と工夫
重機すら入れない19坪の変形密集地において、2階建てで延床面積30坪ほしいという難題。この難問に対し、建築家・若林秀典さんが導き出した最適解は、家全体を大きな立体的ワンルームとしてとらえ、螺旋状にフロアを繋ぐ独自のスキップフロア構造だった。

玄関に入った瞬間に広がる大空間。 シンプルだからこその豊かさが感じられる家
家族で暮らす家を新築するにあたり、造作家具を生かせる空間にしたいとお考えだったお施主さま夫妻。設計を担当した建築家の三輪さんが要望を受けて実現したのは、シンプルを極めたかのような開放的な大空間。驚くのは、シンプルに整えたからこそ、暮らしやすさや家の使いやすさも極まっていることだ。

倉庫&大きなワンフロアがイメージ! スキップフロアを活用した「住み手が完成させる住まい」
今回の施主であるⅯさんは、まだ20代と若いご夫婦である。もともと建築好きということもあり、家を建てることが決まった際にも頭の中には理想の住まいのイメージがあったという。土地を購入した不動産会社の紹介でハウスメーカーの家などを見て回ったが、どうもピンと来なかったというⅯさん。悩んだ末に最終的に設計を依頼したのが、中山秀樹さんだった。

趣味もフロアも悠々!一人暮らし「ならでは」の暮らしと家づくり
間仕切りがなく、全てがつながった巨大なワンルームのような一軒家。一人暮らしを楽しむK邸だからこその開放的なレイアウトが、この家の特徴的な個性であり魅力となっている。住まい手の希望する暮らし方や使い方にしっかり寄り添い、形にする建築家・久保田鏡湖さんの家造りに迫る

小さな要望から本音を引き出す!家族を幸せにした家づくりとは?
Oさんご夫婦の明確な要望は、ふとんを外に干したいという1点のみ。でも、きっと言葉になっていないだけだろうと、建築家の樋口さんは家の話を続けました。Oさんご家族にとって心地よい空間に欠かせないもの、それは「気配」でした。

未来を見据え、生活空間は1階に。余剰空間が真の豊かさをもたらす家
家族で住む家をつくるとき重要視されることはさまざまだが、建築家の平山教博さんがH邸で大切にしたのは「永続性」だ。余剰空間があるからこその豊かさ、家族としての一体感と個人のバランス、老後について…… 全てが考えつくされたH邸を知ると、理想の住まいが見えてくる。

落ち着いた佇まいの平屋に隠された 開放的なLDKと心地よく過ごせるデッキテラス
広々とした庭との一体感が感じられる平屋をつくりたいと考えたUさま夫妻。設計した建築家の丸澤さんは、同じ敷地に立つ母屋と外観の雰囲気を合わせ、寄り添う距離感で建物を計画。外部から見ると和風な家の中は、モダンで開放的だ。
