
「45度回転」はメリット満載。
多様な居場所と、のびやかな広がりを
絵本から抜け出たような家の中に、
「斜め」を多用したスキップフロアのLDK
家を建てると決めたとき、最初はハウスメーカーに足を運んだFさま。しかし要望に対して「できない」といわれることが多く、建築家の片山正樹さんに相談。するとハウスメーカーではNOといわれたことも、「できますよ」との答えが次々と返ってきて、片山さんへの依頼を決めたという。
かくして完成したのが、冒頭でご紹介したかわいい佇まいの「大田区の家」だ。けれど、この家の真の魅力は内部にある。中でも力を入れてご紹介したいのは、「インナーテラス」「開放的なリビング」といったFさまの要望を形にしたLDK。片山さんいわく「LDKの平面は45度回転させて斜めの線を多く使い、スキップフロアも取り入れました」とのこと。
正直、そう聞いたときは、何がどうなっているのかすぐには想像がつかなかった。でもよくよく話を伺うと、片山さんのこのアイデアは、住まいにうれしいメリットが盛りだくさんだったのだ。
設計の力で空間の広がりと居場所を創出。
朝日~夕日まで、1日の光を感じる住まい
一方、床は、キッチン→リビング・ダイニング→バルコニーや小上がりにかけて徐々に高くなるスキップフロア。天井は構造を見せる現し仕上げで切妻屋根の形を生かしており、リビング・ダイニングの上が最も高い勾配天井となっている。
この「45度回転」「スキップフロア」「勾配天井」をかけ合わせた空間を実際に体感すると、大きなメリットがあることに気づかされる。
メリットの1つは、空間を広く感じる効果だ。階段をのぼって2階に入ると、そこから対角線上に広がるリビング・ダイニング、その先のバルコニーや外の景色まで視線が通り、実にのびやか。天井の高さも相まって、「開放的なリビング」という要望へのパーフェクトなアンサーになっている。しかも、バルコニーは少し斜めに室内に入り込んだような半戸外空間で、「インナーテラス」との要望もクリアしているところがすごい。
もう1つのメリットは、LDKという大きなワンルーム空間に多様な居場所ができること。45度斜めに振り、4隅もフル活用した平面は視線の向きのバリエーションを豊富にし、高低差を生むスキップフロアや勾配天井は空間の体感バリエーションを豊富にする。その結果、「天井が高く、外まで見渡せる開放的なリビング」「少しこもり感があって落ち着く小上がり」など、居場所ごとに異なる居心地を楽しめて、暮らしの満足度がいっそう高まる。
こうしてできた豊かな空間を、さらにグレードアップさせているのが「起伏が美しい天井デザイン」と「時間帯ごとの自然光」だ。
この家は切妻屋根だが、片山さんは屋根の一部(道路からは見えない)を90度回転させて、LDKの天井に起伏の変化をつけた。LDKは現し天井なので、異なる方向から垂木が延びて合わさる複雑な美しさが生まれ、LDK全体がアートのよう。屋根の回転による隙間を利用した三角形のハイサイドライトなど、外部の視線が入らない窓も多数あり、道路側以外の3面は隣家があるにもかかわらず採光は抜群。、東西南北全てからの光が届き、時間帯ごとに日差しや空の変化を感じる気持ちの良い住まいとなっている。
特注の「への字」型キッチンの狙いとは?
個性的なのに、なぜか落ち着く理想の空間
Fさまは木がお好きで、木工家具の作家さんがつくったダイニングテーブル、ソファなどの木製家具や無垢のクルミ板などを所有しており、内装はそれらと相性の良いテイストにすることを望んでいた。先述の垂木を見せた現し天井も、この要望へのアンサーの1つ。ほか、片山さんは、壁は漆喰系、床はオークの無垢材と内装素材を厳選し、木材とその他の素材のバランスも丁寧にチューニング。重々しい山小屋化を防ぎ、木の温かみがちょうどいい洗練された空間をつくり上げた。
LDKの印象を左右する、オープンキッチンにも力を入れた。キッチンは既製品ではなくオーダーメイドで、面白いことにカウンターが「への字」型。これは、「横一直線のカウンターを置くよりは、への字に曲げたカウンターを隅に配置するほうが空間を広く使える」という片山さんのアイデアによるもの。側面はFさま所有のクルミの無垢板、天板はツヤのないバイブレーション仕上げのステンレス。水栓もマットな質感にこだわり、空間の木の雰囲気に溶け込ませている。
「昨今の住宅では、大きなワンルームのLDKがスタンダード化しています。だからこそ、広い1室空間の中に、どのようにして多様な居場所をつくるか、どのようにして豊かな居心地を生み出すか、毎回ものすごく熟考します」と片山さん。
「大田区の家」のLDKは、そんな片山さんの熟考が大きく花開いた空間の1つだ。単調さとは無縁で、光や風を感じる多様な居場所があってワクワクする。何より注目すべきは、個性的なのに奇をてらった印象はなく、ナチュラルにくつろげる「個性のさじ加減」の素晴らしさだ。ありきたりではないオリジナリティと、心落ち着く居心地の良さを両立させる──。多くの施主が注文住宅で最も期待するであろうことを、片山さんは見事にやってのけている。
基本データ
| 作品名 | 大田区の家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都大田区 |
| 敷地面積 | 75.06㎡ |
| 延床面積 | 71.25㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | F邸 |
撮影:西川公朗
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

シンプルだけどチープじゃない じっくりとつくり込まれた、写真館兼自宅
「シンプル」という言葉の同義語は「単純」「簡素」「簡略」といったところだろう。しかし建築においては、シンプルなデザインだからといって単純なつくりでも、建築家が手間をかけずにつくるわけでもない。大人気の犬専門写真館をつくったのは、施主とじっくりと対話し、手間暇かけた仕事に定評のある建築家、服部さんでした。

繊細なピアノに優しい!軽井沢でいつでも音楽溢れる別荘づくり
もしも別荘があったらと空想を繰り広げたことはあるでしょうか。Kさんには更にその先まで、その別荘では何をして過ごしたいかをイメージ出来ていました。雰囲気の良い空間でホームコンサートを開きたいと考えていたのです。

土間が心地よい距離感をつくる二世帯住宅。 多忙でもすっきり片付くスキップフロアの家
ご両親と同居するための家を新築することに決めたお施主さま。依頼を受けた建築家の加藤さんはヒアリングを重ね、間に土間を挟んで2棟とするほうが望む暮らしができると考えた。忙しく働くお施主さまが家でゆったりと過ごせる秘訣は、散らかりが気にならず、片付けやすいスキップフロアのおかげだという。

実家の裏庭に建坪わずか15坪 五感で楽しむいくつもの居場所
元は実家の裏庭という限られたスペースに、自宅兼アトリエを建てた建築家の狩野一貴さん。その家は、1つの空間の中に、光や風、見える景色がそれぞれ違ういくつもの居場所を設けた五感で楽しむ家。地方都市において、子育て世代の育児環境を充実させる、家づくりに迫る。

リノベvs新築!悩み抜いた結論が、住んでからの毎日を変えた
これから、どこでどう生きていくのか。住まいを定めるということは人生を考えることにもつながります。家を買った経験がある長谷川さんご夫婦にとっても、終の住処を考えることは、悩みや迷いと無縁ではありませんでした。

狭小でも明るくほっこり 1階と2階が緩やかにつながる家
深い庇に切り取られた豊かな緑が美しい広々バルコニー。木のぬくもりを感じる開放感抜群のリビング。狭小地であることを感じさせない、居心地の良い住宅を設計したのは、ESPAD環境建築研究所の藤江保高さん。狭小・ローコストという難題をクリアし、家族4人が快適に暮らせる住まいの秘密に迫る。

土間付き空間で周辺物件と差別化 収益×住み心地を両立させた洗練の集合住宅
東京都内を中心に、人気の集合住宅を多数設計している松浦荘太さん。築年数を経ても入居者に選ばれ、安定収益を期待できる賃貸物件はどんな魅力を備えているのだろうか? 東京・目黒で手がけた住宅を例に見ていこう。

どんな季節でも、雨の日でも。 閉塞感なく暮らせる、通り土間がある家
雪国と呼ばれる地域では、一年の中でも雪深い冬をどう過ごすかが重要だという。建築家の堀井博さんが新潟に建てた自邸は、雪国で生まれ育ったからこそといえる工夫がたくさんある。それだけではない。開放的な通り土間がある家は、毎日の暮らしを快適に過ごすためのヒントにあふれている。

三角屋根が印象的!シンプルモダンを極めた二世帯住宅
お子様がいるご夫婦とお母様が住むS邸は、シンプルモダンをテーマにした二世帯住宅。限られた空間の中で2世帯+2匹の猫が心地よく暮らせる住まいをつくり上げた建築家の石川淳さんに、こだわりの家づくりについて伺いました。









