
近隣と調和し、土地の魅力を最大限に活かす
あえて平屋とした、田園風景を満喫できる家
眼前の田園風景を満喫でき、
近隣と良好な関係を築ける家
また、この土地は集落の端に位置する。周囲はなだらかな高台。この土地は田園に面するもっとも低い場所にあるが、近隣には狭い道路や坂を挟んで多くの家が立ち並んでいる。
この作品を手がけたのは、岡崎市にある山吹設計工房の代表、岩崎孝史さん。東海エリアを中心に活動している。
岩崎さんは、最初にこの土地を確認した時の印象をこう語ってくれた。
「眼の前に広がる田園風景の素晴らしさを活かすことは、大前提であると感じました。ただ、その実現には課題があったのです」。
どういうことか。
この土地の眼前に広がる田園は、西側に位置していた。つまり、西日の影響をできる限り受けずに、この景観を満喫できるプランを創り上げる必要があったのだ。
また、近隣への十分な配慮も必要だと感じたという。
「古くからある集落で家が密集し、この土地のすぐ後ろにも家がありました。お施主様はこの土地に関わりがない方です。近隣住民の皆さんと居住後も良好な関係を保つことができる家を作ることは、とても重要な要素でした」。
こうして本作品のプロジェクトが始動した。
お施主様の要望を実現しつつ、その土地の魅力や特徴を活かし、近隣との良好な関係を保つこともできる家を建てる。その意味や難しさを知り抜いている建築家の存在は、とても頼りになるのではないだろうか。
西日対策は、植栽と長い軒の採用で対応
近隣への配慮は、平屋とすることで解決
眼前の田園風景を満喫できることは大前提として、その他に下記のような要望が挙げられた。
1:キャンプが好きなので、キャンプギアのテスト使用ができる半屋外空間が欲しい。休日に仲間と集まって試したい。
2:貴重なデザイン家具のコレクションが多数ある。それらの家具が馴染む空間を提案して欲しい。
こうしたお施主様の上記要望を実現しつつ、前述の課題を同時に解決するプロジェクトが始まった。
岩崎さんが考えたプランは、下記の通り。課題を解決し、お施主様の要望を同時に実現できるプランだ。
まず、西側の田園風景を満喫できるよう、家屋は西側に開くプランとした。また近隣への配慮として、平屋で高さを抑えることを選択した。
一般的に、現代の建築では西日をできる限り避けようとする。強い日差しによる影響を抑えたいからだ。しかし今回の作品は、前提とする田園の眺望が西側にある。そこで岩崎さんは、西日の影響を抑えるために植栽と長い庇を組み合わせることで解決をはかった。
植栽は、今後生育することで日差しを遮ることができる。また長い庇は、お施主様のキャンプギアを試す空間にもなる。
平屋を選択した背景には、2つの意図があった。
1点目は、背後にある住居からの眺望を阻害しないということだった。平屋であれば、すぐ後ろの家から今後も景観を楽しむことができる。近隣との共生を意識した配慮だ。
2点目の意図は、将来のライフスタイルが変わった時にも対応できるという考えだ。岩崎さんはその理由を、こう語ってくれた。
「基本的に平屋は合理性が高く、可能であれば平屋を選択することが多いです。家を建てるのは、若い人が多い。しかし年月が経つと、2階へのアクセスが負担となり、子供部屋などを活用できないケースも出てきます」。
「その点、平屋はライフステージの変化に対応しやすいと考えています。家は長く住まうもの。だからこそ、住まい方が変わっても対応できる家を考える必要があると思っています」。
お施主様がこだわる、“貴重なデザイン家具のコレクションが活かされる室内空間”には、地元の木材を多用した内装で対応した。
岡崎には林業が盛んなエリアがある。そこで岩崎さんは、できる限り地元の高品質な木材を素材としたデザインを取り込むことを心がけているそうだ。地域の産業を起点に、経済や文化が循環する家造りを目指しているという。
土地を有効に使い切るのも、岩崎さんの特徴だ。今回の土地は不整形であったため、どうしても小さなスペースが余ってしまう。その場所をキャンプギアの収納場所にしたり、子供が安全に遊ぶことができるプライベートガーデンにしたり、トイレや浴室から眺めることができる坪庭を配置したりすることで有効に使い切ったのだ。
本作品の細かな工夫や特徴は、ぜひ写真の説明文でご確認いただきたい。お施主様の要望に応えるだけでなく、近隣にも配慮したプランの詳細をおわかりいただけるだろう。
意識しているのは“「ふつう」であること”
重要なのは、建物が完成した後の日常生活
岩崎さんがお施主様から受け取った手紙には、
“何の悔いもないくらい自分の思い通りで、完璧な家ができたと大変喜んでおります“
という言葉が記されていた。毎日の生活を満喫していることが、目に浮かぶ。
このようにお施主様から高い評価を受けている岩崎さん。設計をするにあたり、常に心がけていることを聞いた。
「お施主様の価値観をもとに、その場所(その地域)で、人生をより豊かにするために住宅建築はあって欲しいと考えています」。
「建物の中に入ってしまえばそこは家族の空間ですが、地域の中に建つ住宅は地域の中の一つでもあります。自分らしくありながらその地域に根付いていくために、あらゆる角度から丁寧に作り上げることが大切だと思っています」。
「また、住まい造りは建ってからが本当の始まりだと思っています。住まい手自身の自由な生活が空間に彩りを与えるものと考え、建築自体はどこか「ふつう」でありたいと考えています。脚端なデザインやプランだと、たとえば趣味や嗜好が変わった時に使いづらくなることもありますから」。
この作品は、グッドデザイン賞を受賞している。
地元で愛された土地をどのように活用するかという企画の段階から、お施主様とのマッチング、地元木材の活用、環境を活かしたプランニング、木の素材感を感じる空間性などが評価された。
こうした岩崎さんの考えに共感された方は、いちどコンタクトしてみてはいかがだろう。
基本データ
| 作品名 | 田園を望む家 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県岡崎市 |
| 敷地面積 | 294.51㎡ |
| 延床面積 | 106.01㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供1人 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

二世帯、つかず離れず快適に。ジグザグ曲がった大きな平屋
広大な敷地に建つK邸は大きな平屋の二世帯住宅。中庭をぐるりと囲む建物は曲がりくねった独特のラインを描き、民家とは思えないほど洗練されたアーティスティックなデザインが特徴だ。だが設計した清正 崇さんによると、この形は二世帯だからこそ頭に浮かんだものだそう。 “長く、心地よく暮らせる二世帯住宅”は、なぜこの形になったのだろう。

「持続可能な暮らし」を理想とした 「自然と共にある」建築家の自邸
建築家自身がプランニングした「自邸」には、建築家の思想が詰まっている。「持続可能な暮らし」をテーマに、太陽光発電&高断熱・高気密な住宅での「自然と共にある生活」を実現した「石橋邸」の家づくりを紐解いていこう。

歴史ある土地建物を驚きのバランスで守る!?セカンドハウス作り
先祖から受け継いだ300坪以上の敷地に建つ家を、セカンドハウスとして建て替えたい。そんな要望を受けて建築家の北園徹さんがつくった住居は、伝統的な日本家屋でありながらエキゾチックで前衛的。遠い過去と現在が、不思議なバランスで邂逅する空間だ。

木や漆喰など、ナチュラルな素材を 生かした空間で、家族の自律も促せる家
「家づくりはお子様の教育にもつながるチャンス」と言う富田さん。家は住む人がどう使うかが大事と、家族全員を巻き込んでの家づくりを理想としている。暮らしやすさはもちろん、立地を生かしたデザインなど、設計士としてのこだわりを盛り込みながら、住む人の暮らしの将来設計まで考え抜かれた実例を紹介しよう。

完成してからがはじまり 時間をかけてつくりこむ家
家が完成するとはどういう状態だろう。工事が終わったとき? 引っ越しを終えたとき? それとも、住む人が思い描いた暮らしができるようになったとき? もしかしたら、家には完成という言葉はそぐわないのかもしれない。そう思わせる建築家が、N.A.O代表の加藤直樹さん。加藤さんが設計したHOUSE Kに迫ります。

和と洋の融合で自然と調和 人生の最終章を豊かにする夫婦の住まい
子供たちが巣立ち、夫婦2人だけの生活となったとき「新たな住まい方を、長く住み慣れたこの地で」と思う方も多いことだろう。そんな施主の思いを汲み、暮らしやすさとデザイン的な美しさも兼ね備えた家を設計したのは、KATIS建築設計事務所の石川厚志さん。人生の最終章を豊かにする夫婦の終の棲家に迫る。

土間が心地よい距離感をつくる二世帯住宅。 多忙でもすっきり片付くスキップフロアの家
ご両親と同居するための家を新築することに決めたお施主さま。依頼を受けた建築家の加藤さんはヒアリングを重ね、間に土間を挟んで2棟とするほうが望む暮らしができると考えた。忙しく働くお施主さまが家でゆったりと過ごせる秘訣は、散らかりが気にならず、片付けやすいスキップフロアのおかげだという。

庭の木々に遠くの山並み、籠れる離れまで いくつもの景色や居場所がある家
訪れた建物のフォルムや内装、居心地の良さに「素敵だな」と感じることは誰しもあるに違いない。そして「自邸をこの建築家にお願いしたいな」と漠然とした思いをもったことがある人もいるかもしれない。しかし実際にその建築家に連絡をとり依頼をするという行動を起こした人はほんの一握りだろう。施主のUさんご夫妻にそう思わせた店舗を手掛けたのは、京都を中心に活動する建築家田中郁恵さん。運命的な出会いから、どんな家をつくりあげたかに迫る。

縦にも、横にも、上下にも広がる空間使い 敷地の周囲の緑を暮らしに取り入れた家
「どういう家なら楽しく住めるか」を考え、住むプラスアルファの要素を加え、他人に自慢できる家をと、常に住む人の暮らしのことや家づくりの満足度を意識しているという建築家の塚本さん。そんな塚本さんが設計事務所を起ち上げて最初の顧客となるM様邸は、敷地条件を生かしたコンセプトワークにも注目してほしい。
