
「内」と「外」が心地よく溶け合う
「通り土間」がもたらす豊かな暮らし
施主の本質的な希望を掬い取り
そのすべてを予算内で具現化
ただ、昨今の土地価格の上昇により、当初建築費に回す予定だった予算が圧迫されることに。細谷さんは予算の制約をネガティブに捉えず、「空間の本質を研ぎ澄ますチャンス」へと変えてみせた。
細谷さんが最初に提案した3つのプランに通底していたのは、「土地と根付き、地面と近い位置で暮らすこと」や「空間の拡張性、外部への広がりや開放性」というお施主様の本質的な希望の具現化だ。「わかりやすいキーワードとしては『土間』や『平屋』でしたが、ヒアリングを重ねるうちに、お施主様が望んでいる“暮らし方”が見えてきました」と細谷さん。
ひとつのスペースとして希望されていた「土間」は、「通り土間」とすることで屋内外が緩やかに連続する要素に拡張。その空間を建物の軸として、西側にリビング棟、東側に寝室・水回り棟として分けることで、「寝室の独立性」と「高さのあるリビング」を同時に叶えた。
「予算の制約があるなか、工務店さんとも相談・連携して予算内に収めることができました。形が変わったものもありますが、お施主様と丁寧に話し合いを重ね、求められた要望にしっかりと応えることができました」と。
「お施主様は設計中も信頼してくださり、設計終盤の仕上げ材を選ぶ際には『細谷さんが良いと思う材にしていただければ大丈夫です』という感じでした。竣工の際もとても喜んでくださいました。その後も交流は続いており、最近も『見た目も良いし、すごく住みやすく感謝しかありません!』とメッセージをもらいました」と、細谷さんは振り返る。
周辺環境の未来まで読み解く
機能美とプロポーションの丁寧な設計
外観は、内部の様子がわからないよう、端正なシンメトリーに構成。外壁はコストを抑える意味からも窯業系サイディングを採用し、通り土間の壁面も同素材を使用することで、外と内が連続した一体感を生み出している。
サイディングは規格材のため、西棟の高さを1枚でカバーするには長さが足りない。そのため材と材の境に見切りが必ずできてしまう。細谷さんはその見切り材の位置をどこに据えるかを何度も検討したという。さらに、1枚で済む東棟にもあえて見切りを入れ、東棟と西棟の見切りの位置を合わせることで、建物全体に統一感をもたらした。
完成した住まいに一歩足を踏み入れると、数字以上の圧倒的な広がりと美しさに目を奪われる。
お施主様が希望する『高さのあるリビング』は、天井高を約3.5mに。シーリングファンなどがなくても空調が効き、例えば、天井に取り付けられたダウンライトの交換なども頑張ったら自分たちでできる。開放的でありながら、快適な住環境とメンテナンスまで考えられた“絶妙な高さ”なのだ。
かつてポルトガルで、名建築家アルヴァロ・シザが手掛けた建物に住むおばあさんが、楽しそうに自分で壁を塗ってメンテナンスしている姿を細谷さんは見たという。「それを見たとき、住んでいる人がその家を理解して、必要であれば居住者自身がメンテナンスしながら長い期間使っていくことってとても大事なことだな、という当たり前のことを再認識させられました。その重要性は、学生時代に茅葺民家のプロジェクトに参加した経験やDIYブームなどからわかってはいたのですが、ヨーロッパではシザという名建築家の建物にさえも住まい手は当たり前に手を加えるのか!と目からうろこでした」と、細谷さんは話す。
さらに細谷さんは、敷地の現在と未来の環境を緻密に読み解いていた。前面道路は車の通過が少なく落ち着いており、背後には線路沿いの美しい緑が借景として広がっている。一方、駅近の好立地ゆえ、将来両隣に3階建てアパートが立つ可能性も想定したという。
それゆえ「隣地側である東西側には大きな開口部は設けず、南北に開く計画としました。南北のまったく同じ位置にサッシを配置。コストを抑えるためにサッシの数を制限しつつ、窓の位置を揃えることで視線が広がり、数字以上の空間的な広がりも感じられるようになっています」。また、通り土間と各棟の動線を真っ直ぐ通すことで、東西・南北の動線が交わる中心に立つと、建物の最大幅の広がりを感じられるよう設えられている。通り土間は通風・採光の環境装置としての役割も担っている。
一見すると「収納が少ないのでは?」と思われる空間だが、よく見ると寝室棟天井にはカーテンレールが。カーテンで仕切ると大容量の収納スペースとなるため、フレキシブルな使い方もできるだろう。
寝室の窓の前にはあえて袖壁を配置。ベッドの枕元から窓が直接目に入らない一方、「夜が明け、足元の白い壁がゆっくりと照らされていくことで、朝の光が優しく感じられるように設計しました。窓の手前の小さなスペースは、今は猫たちがのんびりと外を眺めてくつろぐお気に入りの場になっています」と細谷さん。
最後に、細谷さんに「丁寧な設計」とは何かをうかがってみた。
しばらく考えたのち、細谷さんはこう口を開いた。「考え尽くす、ってことじゃないでしょうか」。
「建物の美しいプロポーションというのは数値化できるものではなく、感覚的な部分が大きいと思っています。“良い悪い”ではなく“好き嫌い”。だからこそ、さまざまな制約があるなか、その感覚的な部分を形にするためにとことん考え尽くす。それが『丁寧な設計』なのではないでしょうか」と──。
撮影:佐藤亮介
基本データ
| 作品名 | 通り土間のある家 |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県八千代市 |
| 敷地面積 | 153.11㎡ |
| 延床面積 | 71.07㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
設計者情報
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