
豊かに光を落とす大きな天窓が叶えた
家の中に中庭があるような、開放的な家

戸川 賢木
とがわ さかき
一級建築士事務所サカキアトリエ
静岡県 静岡市
読書が好き。ミステリー小説とかで1頁1頁、1字1字、ドキドキしながらゆっくり読むのが好き。ポジティブになれる本が好き。でもあまり難しい本は読みません。 ジョギングが好き。でも気ままなので頻度は疎ら。 休日はバルコニーでBBQ。お酒?飲みますよ。 基本ポジティブ。 良いと思ったものは使い続ける、食べ続ける、眺め続ける。 良い出会いを大切にしています。
開放的に、自由に暮らしたい。
お施主さまのイメージを叶えた大きな天窓
以前の家で暮らしているうちに、住みたい家のイメージや希望が固まってきたのだというCさま。実現するために建築家と一緒に家づくりをしよう、とネットでリサーチを始め、出会ったのが一級建築士事務所サカキアトリエの戸川賢木さんだったという。
思い描いていたのは、中心に中庭がある「ロの字型」の家。しかし、中庭を家が囲うため自ずと外周が大きくなってしまい、実現するには敷地の広さが足りなかった。加えて、南側に立つ3階建ての家から長時間庭や家に影が落ちることも予想できたことから、戸川さんは難しいと判断。そこで、ロの字型の家でどんな暮らしがしたいのかにフォーカスし、丁寧にヒアリングを重ねたのだそうだ。
そうして出てきた具体的なイメージや要望は、「明るい空間」「外部空間と一体に感じられる室内」「窓を開け放して開放的に暮らしたい」など。「ならば、2階にLDKを配置し、天窓を家の中心に設けることで、中庭のイメージも含めて全て要望が叶えられるのではと考えました」と戸川さんは語る。
戸川さんの見立ての通り、完成した家は天井の中心に設けられた大きな天窓からさんさんと光が降り注ぎ、2階全体が明るく気持ちがいい。秘密はほかにもある。2階は一般的な住宅よりも1mほど天井を高くし、開放的な雰囲気を際立たせた。
家は住宅街の中にあるが、東側は寺と接している。将来も大きな建物が建つことはないと予想でき、そちらには大きな窓を設けた。さらに、隣家が迫る北側も視線がぶつからない位置を検討して開口。おかげで外部に視線が抜けるうえ、風も通るようになった。
こうして戸川さんは、細かなヒアリングと確かな設計力により、家の中心に庭をつくらずとも、Cさまが望む「外部空間と一体に感じられる、開放的な暮らし」を実現したのだ。
天井が高く、壁がほぼない開放的な空間は
高さ違いの梁で感覚的に仕切る
また壁や扉はいらないとの要望から、可能な限りこれらを排除し、全体を1つの大きな空間とした。どこからでもぱっと空間全体を見渡すことができるが、天井にかかる梁を利用してエリアを区切り、メリハリをつけた。梁は縦と横で高さが異なり、視線の向きによって空間の区切られ方の感覚も変わるという。この工夫によってワンルームのような空間なのに居場所がたくさんでき、Cさまたちは「気分に合わせて移動しながら過ごすのがとても楽しい」と喜ばれているそうだ。
LDKは、キッチンのシンクや作業台とダイニングテーブルが途切れることなく続く。シンクはダイニングテーブルのほうへ向いており、両側からアクセスできて使いやすい。「家庭科の調理室のようなイメージをお持ちでした」と戸川さん。Cさまご夫妻はともに忙しく、食事の片付けなど3人のお子さまも一緒に、家族全員で同時に使えるようにしたかった、とのこと。
リビングエリアまで続くダイニングテーブルは、圧倒的な大きさゆえにフレキシビリティーが生まれた。同じテーブルで、食事と勉強など違うことをしていても気にならず、心地よい距離感を保つことができる。また、リビングの一角には小上がりスペースを設けた。ソファ代わりとして、またちょっと寝転がったりもできるなど活用の幅が広く、居心地よさの更なる向上に繋がった。
階段を挟んだ反対側にある子どもスペースは、階段側の壁面に向かって勉強机が並び図書館のよう。壁面は腰の高さで、LDKからは子どもスペースの様子が伺えるが、勉強しているお子さまたちは目線の高さが壁面のため視線が気にならず、集中できるという。
机の背面には簡単な壁で仕切られたそれぞれのスペースがある。ひとつひとつは3畳ほどの広さだが、勉強机のほうまで空間が拡張されるため狭い印象は受けない。また、上部にはネットを張り、梯子も設置した。収納として使うのはもちろん、お子さまたちの居場所の1つにもなっている。将来お子さまたちが成長し、もう少しプライバシー確保が必要な時期になったら、それぞれのスペースに引き戸をつけることもできるので安心だ。
2階をより引き立たせる設えの1階。
落ちる光を美しく印象付けるシンプルさ
Cさまお好みの無機質な印象が際立つサブリビングと、温もりも感じられる寝室。それぞれ床の素材もモルタルとフローリングと異なるものを選んだが、開けたまま暮らすことが基本のため、2つの居室を分断したくないと考えた戸川さん。そこで、モルタルの部分を引き戸のラインを超えて寝室まで若干侵食させた。おかげで境界線があいまいになり、2階と同じく緩やかに繋がった大きな空間ができたという。
1階は天井を低く、トーンもグレーで統一したことには理由がある。主な生活の場は2階であり、「明るく開放的に暮らす」という要望をできる限り叶えるためだ。1階を敢えて閉塞的に計画したことで、より一層2階の明るさや天井の高さが強調される。
しかし、暗すぎるというわけではない。天窓からの光は、階段を通って1階まで降りてくる。トーンが抑えられているからこそ光がうまく壁面に映り込み、陰影は見とれてしまうほど美しい。
ほかにも、便利な家事動線や見せる収納など、可能な限り要望に応えた戸川さん。時にストレートに、時に本質を見抜いた提案で、理想の暮らしを実現した。
実は、問い合わせ時に一番感じがよかったから、ということもCさまが依頼を決めた理由の1つなのだとか。戸川さんはこれからも、真摯にひたむきに、お施主さまが思い描く暮らしを叶えることを一番に考えた家づくりをするのだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 回遊の天窓 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県静岡市 |
| 敷地面積 | 207.66㎡ |
| 延床面積 | 135.79㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども3人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | C邸 |
撮影:橘 薫
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

1階は保育園の園庭で2階が住居?併用住宅に夢と可能性を感じさせる居心地の良い家
Mさんは、代々暮らしてきた土地に建つ戸建てでひとり暮らしだという。そんなMさんが、現在の住み慣れた土地に新たな住まいを構えようと考えたとき、単身女性でも安心かつ居心地の良く暮らすにはどうすれば良いのか?結果的に導き出された答えは「1階の一部をお隣の保育園の園庭にする」という斬新なものでした。このプランを見事に実現したのは、「松浦荘太建築設計事務所」代表の松浦荘太さん。ちなみに、依頼主であるMさんとは、実は松浦さんのお母様なのです。母親と息子。親子ならではの、お互いを知り尽くしているからこそ実現できた「皆が幸せになれる住まい」について、松浦荘太さんにお話しを伺いました。

憧れだったあのグレードが叶う 建築家と共につくる「ちょうどいい家」
新築の一軒家を購入する際に迷うのが、「建売住宅」「注文住宅」の選択。「自分たちに合った間取りや設備にしたいけど、費用は予算内で、できれば安く抑えたい」と思う人も多いはず。そんな施主の要望に応える建築家がいる。AndM建築工房の溝上さん。施主と向き合いハイグレードな住宅を施主の予算内で実現する、溝上さんの家づくりに迫る。

ピアノを楽しみ、お昼寝も。家族をつなぐ吹抜けの広い土間
ハウスメーカーとの打ち合わせで「ピアノの部屋が欲しい」と要望したら、ピアノがぎりぎり入る小さな部屋を提示され、しっくりこなかったSさん。新たに相談を受けた建築家の松岡淳さんが提案したのは、なんとピアノを土間で楽しむという斬新なアイデアだった。しかもこの土間には、ほかにもさまざまな役割があるという。S邸の象徴的な空間となった大きな土間の魅力とは?

日本最北端の厳しさでも快適に、デザインも諦めない工夫とは?
毎日、雪かきをしなければ生活できない北海道稚内市の住宅では、雪対策・防寒対策が何よりも重視されます。そうした生活ニーズとデザインの両立は難しいと多くの人が思っていた場所に2014年、機能も充分に満たしたデザイナーズ賃貸が誕生しました。

建物と設備の相乗効果で環境負荷を低減する実験的エコ住宅
建築環境設備分野の博士が施主だという『松河戸の家』は、建築と設備技術の両面からアプローチしたユニークで新しい実験的エコテクノロジーが導入されている。環境負荷を減らしたエコ住宅は、一歩先をゆくこれからのスタイルの一つ。どのような建築的工夫がなされ、テクノロジーが導入されているのか、笹野さんに詳しく話を伺いました。

出入り自由、誰もが使える通り土間。 美しい田園風景になじむ、切妻屋根の家
建築家の林田さんが自邸を建てるため選んだ土地は、一面に田んぼが広がる農村地帯にある。田んぼを眺めつつ生活できる平屋は、切妻屋根も美しくしっくりと風景になじんでいる。それだけではない。出入り自由、誰もが使えるパブリックスペースとして通り土間を設けるなど、本当の意味で地域に根付いているのだ。

趣味のトレーニングルーム完備!健康を考えた「自然素材の家」
「子どもが健康的に育つ家を建てたい」という施主Tさんの要望を実現したのは、自然素材にこだわった木の家づくりを得意とする「設計工房 楽 GAKU」の岩間幸司さん。国産の檜を贅沢に使いながらもコストを抑えることに成功した、岩間さんの家づくりの秘訣に迫る!

心地よい「居場所」を随所に配置した家
家づくりにおいて「居場所づくり」を大切にする「JuDesign建築設計室」の高橋さん。それも一箇所ではなく、家の中のいろんなところに居場所を作るという。例えば階段の踊り場を少し広めに作り、椅子を置いてみたり。その場所ごとに景色の見え方や感じ方が違い、その時の気分によって過ごし方を変えられるため、一つの住まいにたくさんの魅力を詰め込めるのだ。

レイヤーの壁で生まれるモダンな表情。自然が暮らしに寄り添う、多摩川沿いの家
独創的で住み心地のよい住宅設計で知られる建築家の伊藤寛さん。S邸ではプライバシーを守るための工夫をきっかけに、屋外の心地よさをふんだんに取り入れた住空間や洗練された外観デザインも実現。平屋住宅の至るところに自然を取り込むテクニックも必見だ。





