
快適性、機能性、デザイン性が三位一体
夫婦も鳥たちもずっと巣ごもりしていたい家

江ヶ崎 雅代
えがさき まさよ
e do design 一級建築士事務所
茨城県 土浦市
住宅だけでなく店舗やオフィス、幼保施設や宿泊施設等、様々な建築&空間づくりを行っています。 用途や規模も様々、空間の雰囲気やテイストも様々です。 クライアントと密にコミュニケーションをとりながら、使い手の記憶に残るような素敵な空間を目指して、きめ細やかなデザインを積み上げていきます。
過去作品の高いデザイン性に魅了され
都内から土浦の建築家に家づくりを依頼
江ケ崎さんはこれまで、シンプルでありながらもディテールにこだわりをもった上質な空間の建物を手掛けてきた。また、女性建築家として、また働くママとして「こども」「子育て」をキーワードに、子育て世代にとっての暮らしやすさも追及してきた建築家だ。
そんな江ケ崎さんのもとに、あるとき1通のメールが届く。当時都内に在住していたTさんご夫妻から「自邸の設計をお願いしたい」との連絡だった。
「東京にお住まいの方が、土浦の私にご依頼をということに驚きました」と江ケ崎さんは振り返る。
東京には7万人を超える一級建築士が登録をしているといわれる。戸建住宅を手掛けることができる二級建築士ともなるとその数倍はいるだろう。その全てが個人住宅を請け負っているわけではないが、数多の建築士がいることは間違いない。ある意味、選び放題ともいえる状況のなか、江ケ崎さんが選ばれたのだ。
また、前述のように江ケ崎さんは「子育てしやすい」家づくりに定評がある。しかし、Tさんご夫妻はその部分に魅力を感じたのではなく、ネット上で江ケ崎さんが手掛けた過去の作品を見て、その「シンプルで開放感のある家」というデザイン部分に惹かれのだ。
「子育てとは関係なく、純粋にデザイン面をご評価いただいたことが、とても嬉しかったことを覚えています」「打合せのために、何度も土浦までお越しいただいたことも、ありがたかったです」と江ケ崎さん。
江ケ崎さんのデザインには、東京と茨城という距離を厭わないほど「この人に家づくりを頼みたい」と思わせるほどの大きな力がある。
10枚におよぶ資料で要望を説明
「想いに応える」気持ちで練られたプラン
その資料に書かれていた内容は多岐に渡る。今度建てる予定の土地の状況はもとより、例えば「海外で暮らしていた時期がある」などの自分達のプロフィール。「鳥たちと暮らしている」「スローな暮らしがしたい」といった自分達のライフスタイル。現在住んでいる家の不満点や、新しい家に希望することなどが記載され、イメージ写真も貼り付けてある「自分達のことを理解してほしい」という想いがあふれる資料だった。
家づくりにおいて、新居に求める要望は挙げられても、自ら自分達のことを語れる施主はそう多くはない。そのため建築家は、それぞれの方法で施主が「どんなライフスタイルを送られているのか?」「真に望んでいることは何なのか?」ということを探り・掴んでいくのだ。
「今回は、資料までご用意いただいてご説明いただけたことで、ある程度分かったところからスタートできたことが、とてもありがたかったです。お2人の想いに応えねばと思いながら設計しました」と江ケ崎さん。
実はTさんご夫妻の家づくりは、今回が初めてではない。これまで住んでいた都内の家も、注文住宅だったという。一度でも家づくりを経験したことのある人は、家に対する知識や見識が向上する。そして次の家へ想いや条件といったハードルがぐんと上がるのだ。
では、Tさんご夫妻の想いとはどんなものだったのだろう。
それをひとことで現すと「自邸で鳥たちと共に過ごす時間を豊かにしたい」というもの。
この想いに対し、江ケ崎さんは「緑や自然を感じられる」「プライバシーの確保」というコンセプトに至り「日向ぼっこができるようなコートハウス」というプランを考え出した。
このプランにTさんご夫妻も「ここでの暮らしがイメージできる!」と、このプランを大変気に入り、大幅な変更なく家づくりがスタートしたという。
上質な空間の中に居場所がたくさん
夫婦も鳥もずっと巣ごもりしていたい
白亜の邸宅と呼ぶに相応しい、堂々たる佇まいのT邸。白く輝く外壁は、Tさんご夫妻と江ケ崎さんが一緒に選んだタイルを採用した。塗り壁など他の素材に比べ、イニシャルコストはかかるものの塗り替えといった定期的なメンテナンスが不要なため、老後の出費を抑えられる。2台分のカーポート前、コンクリートの打ち放しの壁を設け、道路から丸見えにならないようプライバシーにも配慮した。
玄関を入ると、外観のイメージとリンクする、白い塗り壁と光沢感のあるタイルの床の空間が広がる。視線の先には坪庭があり、光と視線の抜けをもたらすとともに、植えられた樹々たちが目を楽しませてくれる。壁や床は、室内を飛び交う鳥たちが汚しても、サッと拭けるような素材を選択したという。
歩を進めていくと広がるのが、明るく広々としたLDK。様々な箇所に設けられた開口から光が入り込み白壁に反射、室内をやわらかく照らす。
キッチンはアクセントカラーの黒いセラミックの天板を採用。背面にパントリー、サイドに大容量の収納を設けることで、モノを極力出さず「見せずに収納」しているため、室内がすっきりとしている。すっきりとした空間という点では、エアコンも天井埋め込み式を採用し、余計な出っ張りもなくしている。
そしてこの家の一番のポイントともいえるのが、白壁に囲まれながらも広々とした中庭だ。Tさんご夫妻が選んだという様々な樹々が植えられ、四季の移ろいを楽しませてくれるとともに、夏には木陰もつくってくれるという。過ごしやすい季節には、テーブルや椅子などを置き、お茶などを楽しむアウトドアリビングにもなる。寒い季節であっても、この中庭に面した場所に座り、日向ぼっこしたくなるような、豊かな空間だ。植えられた樹木には、地域に住んでいる鳥たちが訪れ、窓越しにペットの鳥たちと交流するということもあるかもしれない。家の中にこんなに豊かな空間が広がっているなんて、外からは想像もつかない。
1階LDKの奥、中庭に面した場所には、インコの部屋も設けたという。また2階への階段下スペースを利用し、掘りごたつのある和室も設けた。天井が低い空間は、暗くなりがちだが、地窓や階段上からの光が入り込むのでしっかりと明るさはある。あえての籠る感じが、開放的なリビングとはまた違った心地良さをもつ空間だ。
2階には、寝室や大容量のWIC、在宅での仕事も可能な書斎もあり、フクロウの部屋も設けたという。この部屋には窓台や枝で作った止まり木があり、フクロウは窓から遠くの景色や庭の樹々を見るのがお気に入りなのだという。
この家の出来栄えにTさんご夫妻も大満足のご様子で「住んでみて想像以上の家だった」「プライバシーが確保された空間で、光や風といった自然を感じられて快適」とのコメントを寄せてくれた。
江ケ崎さんがつくったこの家は、Tさんご夫妻も、鳥たちにとっても、ずっとここで過ごしていたい「巣ごもりしていたい」場になった。
インターネットで見たデザインを気に入ってTさんご夫妻に選ばれた江ケ崎さんは、デザイン面だけでなく、快適性、機能性の三位一体で、見事に期待に応えてみせた。
基本データ
| 作品名 | ‘’nest’’ 中庭のある家 |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県柏市 |
| 敷地面積 | 283㎡ |
| 延床面積 | 170.37㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+鳥たち |
| 施主 | T邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

「持続可能な暮らし」を理想とした 「自然と共にある」建築家の自邸
建築家自身がプランニングした「自邸」には、建築家の思想が詰まっている。「持続可能な暮らし」をテーマに、太陽光発電&高断熱・高気密な住宅での「自然と共にある生活」を実現した「石橋邸」の家づくりを紐解いていこう。

日中の生活空間に暗い場所をつくらない 居場所の全てに光が届く「明るい家」
世田谷の住宅街にあったご実家を建て替えることにしたTさまファミリー。望んでいたのはカーテンをパーッと開けて、太陽の光をたっぷり採り込めるような「明るい家」。このリクエストに、柔軟かつ合理的な発想で応えた菅家建築計画工房のプランとは?

「こと」をテーマに空間をデザイン それぞれの「世界観」をカタチに
「北方の家」の設計を手掛けたのは、「たてこと空間研究室」の代表を務める佐藤悠馬さん。建築・空間つくりを通して「こと」をテーマに、お施主さまの「世界観」を具現化した設計を得意とする佐藤さんとって、「建築」とは、「家づくり」とは何かをうかがってみました。

緑豊かな八ヶ岳の自然の中に佇む 家族が集うファミリーハウス
高知県に暮らす施主のIさんご夫妻。ずっと憧れていた山の暮らしを実現すべく、設計を依頼したのは、施主とじっくり対話し、自然環境とマッチした家をつくることに定評のある建築設計SOOの服部さん。土地探しから関わり、つくりあげた八ヶ岳のファミリーハウスに迫る。

ここまで開放的な平屋だから、自然満喫と落ち着く空間を両立!
窓いっぱいに広がる高尾の自然の景色、家のなかを通りぬける気持ちのよい風。存分に自然を味わえる家は、建築家の望月さんが家族と暮らすならと考えて設計した理想の家でした。

風格漂う佇まいと住み心地のよい上質空間。 災害から家族を守る、強く美しい家
地震や津波が気になる地域で、建て替えを依頼された建築家の齋藤文子さん。施主さまの思いをくみ取って設計したのは、万全の災害対策を施した家。本物志向の素材や先代から受け継いだものもセンスよく取り入れ、家族を守る強く美しい住まいをつくり上げた。

歴史ある建物を残し、庭の景色も楽しむ これからの時を新築戸建と共に
広い敷地に築100年を超す母屋と離れをもち、立派な日本庭園を有しているT邸。宝ともいえるこれらを残しつつ、現代に合った暮らしをしたいという家族の一大プロジェクトを任されたのは、その豊富な経験と手腕で、テレビの出演や多くの受賞経験を持つ匠、並木秀浩さん。「庭の景色を活かす」「旧宅を残す」という難問を解決するため、並木さんがとった方法は、新旧2つの庭を立体的に繋ぐというコンセプトでした。

個性的な住戸が集うコーポラティブハウス。全住戸に庭付き一戸建ての豊かさを
奥野公章さん設計の『荻窪ロウハウス』は、集合住宅でありながら自分好みの住まいをつくることができるコーポラティブハウス。驚くことに全住戸が庭付き一戸建て感覚で住めるという。住戸の事例とともに、工夫を凝らした奥野さんの建築の魅力を紹介しよう。

完成してからがはじまり 時間をかけてつくりこむ家
家が完成するとはどういう状態だろう。工事が終わったとき? 引っ越しを終えたとき? それとも、住む人が思い描いた暮らしができるようになったとき? もしかしたら、家には完成という言葉はそぐわないのかもしれない。そう思わせる建築家が、N.A.O代表の加藤直樹さん。加藤さんが設計したHOUSE Kに迫ります。






