
街並みに寄り添い、よい距離感を保つ。
暮らしも人間関係も良好にする家づくり
快適な田舎暮らしのための
プライバシーが守れる、オープンな家。
水谷元建築都市設計室の水谷元さんは、能古島における高齢化と人口流出に対する対策を担う「能古島みらいづくり協議会」の副会長を務めている。今回紹介する「島の家001」の施主、Hさま夫妻とは協議会の活動を通して知り合ったという。
「協議会の活動の一環で、移住希望者を募ったときに応募して来られたのがきっかけです。ご夫妻はすぐにでも持ち家での定住を決めたいとのことでしたが、やはり理想と現実というのがありますから、まずは2年間、借家で暮らしてみようということになりました」と水谷さん。
2年ののち、ご夫妻はあらためて持ち家での定住の決意が固まったという。地域の人たちと良好な関係を築いていきたいからこそ、自分たちのプライベートな時間やプライバシーが守れる空間をしっかり確保することが大切だと考えた。
土地も購入でき、いよいよ自分たちの家を能古島につくることになったご夫妻。水谷さんはこれらの話を踏まえ、「地域の人たちとの距離感をコントロールし、プライベートな時間や空間を守ることができる家」をテーマに設計を開始した。
まず、道路や隣家からはできるだけ建物を離して計画。さらに、家の中の生活が街路から見えるような開口部は極力減らした。しかし単に減らせばいいというわけではなく、内部と外部を繋ぐ接点である開口部を効果的なものにするため、どう開けるか、どこに開けるかを大切に考えたという水谷さん。
道路に面した南側には玄関がある。ガラスの引き戸でつくられた玄関はオープンな雰囲気があり、親しみやすさを与えている。それでいて、玄関とLDKを繋ぐ入り口は90度折れた位置にあり、外からは生活空間が見えないようになっている。
道路に面した南側と東側は閉じた印象にした一方で、LDKには西向きの大きな窓を設けた。庭と繋がるこの窓は幅が3mもあるが、庭は水路に面しており隣家からの視線は届かない。また植栽もあるので、窓を開け放っていても人の目を気にせず過ごせる。玄関側の道路から庭に直接アクセスすることができ、地域の人や友人たちを招きやすいように工夫した。縁側のようにちょっと腰掛けて話をするなど、気軽な交流に役立っている。
メリハリある居住スペースと、大きな窓が
シーンに合わせた居心地をつくる
高い天井部分にあるLDKとロフトは、ご夫妻が一番長い時間を過ごす場所であり、また友人を大勢招待する機会も多いため、できるだけ広く計画した。方形屋根のフォルムを生かした傘のような天井が、大らかに空間を包み込んでゆったりと過ごせる。
庭に面した大きな窓を通して、庭とLDKがひとつの空間になるのも魅力的だ。友人たちとバーベキューをするときも、庭にいる人、室内にいる人、外から誘われるように来た人が一緒になって同じように楽しめるとのこと。
高い天井のおかげで、ロフトにもゆとりが生まれた。部屋の中心は高さがあり、ご主人が書斎として使用したり、奥さまはそこにジムの器具を置き、運動しているのだとか。さらに、宿泊する友人たちの寝室がわりにもなるなど、幅広い用途で活用されている。
LDKの脇、天井が低いエリアに薪ストーブを置いた一角がある。天井の低さのおかげでこもり感も感じられ、ご夫妻は静かな雰囲気の中で、薪ストーブの火を眺めながら安らぎのひと時を過ごすという。寝室も天井が低いエリアに設けており、またリビングとはキッチンを挟んだ裏側に配置されていることから、プライバシーを確保しながら静かに、落ち着いて就寝できる。
コンパクトながら天井の高さなどによって居心地もさまざまな、豊かな表情をもつ家となった「島の家001」。静かに、ときには賑やかに、メリハリがある生活はまさに理想の暮らしといえるだろう。
地域の人たちに温かく受け入れられるよう
景観に寄り添い、貢献できる家にする
では、家や建物がその場所に建つ意味とは何だろう。
1つは、その場所や地域の歴史や町並みを尊重することだという。例えば、道路に向かう部分の外壁には焼杉を用いた。海に囲まれたこの島では、焼杉は塩害などから家を守るために伝統的に使用されてきた素材。現在でも焼杉を使用した家が数多く残っており、地域の景観に寄り添う形だ。
また、家の高さやフォルムも近隣の家々とのバランスを考えたものになっている。特に家の顔である玄関がある南側は軒が低く抑えられ、昔ながらの家屋と同じような雰囲気がどことなく感じられる。
庭は、園芸家に相談しながら計画。解体された家屋がこの敷地に建っていた時から地域に親しまれていた柿の木や梅の木は残し、新しく植栽したものは能古島の植生に適したものから選んだ。道路から玄関までのアプローチに使用した飛び石も、解体された家屋で使われていた石を再利用した。ただ寄り添うだけではなく、その土地の記憶を思い起こすものを残すことで、地域の人たちはより親しみを「島の家001」やHさま夫妻に感じるに違いない。
2つ目は、地域に新しい息吹を与え、新しい未来を示唆すること。
「島の家001」を新築するにあたり庭は美しく整えられ、夜にかけて植栽がライトアップされるようになった。水谷さんはその理由を、「街灯が少なく夜道が暗かったため、仕事から帰宅する人たちがほっと安心するような街路空間をつくりたいと考えた」と話す。その思いはまっすぐ届き、「通勤の帰り道に家や庭を眺めるのが楽しみ」と地域の人たちに喜ばれているそうだ。
親しみやすさと距離感、田舎の風景に馴染むフォルムと都会的な暮らしやすさのバランスが絶妙な「島の家001」。水谷さんは独立前、まちづくりや都市計画を手掛ける事務所にもお勤めだったという。その水谷さんだからこそ、地域の人たちや風景を大事にしながら、新たにそこに暮らす人にとって最良の環境を整えた家がつくることができたのだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 島の家 001 |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県福岡市 |
| 敷地面積 | 423.32㎡㎡ |
| 延床面積 | 87.4㎡㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
撮影:ブリッツスタジオ 石井紀久
設計者情報
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